第八十八話 西伊豆問題
マスターイチカぱねぇ。
「フレイムインフェルノ!」
「ヒール!」
つい2、3日前までライトボールやファイアボール位をギリギリ覚えた、という魔法が苦手だという人物にたった3日で必要最低限の魔法を全て教え込みやがった。
勿論一花式ブートキャンプは封印した上で、だ。あれは本人に相当な覚悟が無ければ出来ないからな。
「相手が魔法をどういうイメージで使おうとしてるかをちゃんと把握しなきゃ駄目だよ。自分はこうだからこう教えた、だとイメージが掴めるまでに時間がかかっちゃう」
「む、難しかね・・・」
「大丈夫!要は相手と仲良くなって、何を考えてるのか分かろうってことだから!昭夫くんならヨユーだよ!」
自身の教育法を出来るだけ昭夫に伝えようと一花はここ数日、自分の教育の時は時間が合えば昭夫くんにも見てもらっているらしい。
現在教官免許持ちの専業冒険者は東京に固まっている。そんな中、唯一西日本で教官免許保持者がいる太宰府ダンジョンはある意味西日本の冒険者の受け皿になる事を期待されているし、俺達ヤマギシチームも昭夫くんとそのパーティーには期待している。
何せ彼らが一線級の冒険者になり、一線級の教官になってくれれば奥多摩に集中している育成の負担が軽減されるからだ。
今回見て感じる限り皆熱意もあるし、冒険者という職業についても真剣に考えてくれている。こんな人たちなら、支援し甲斐があるというもんだ。
まぁ、どこもそうなら良かったんだがなぁ。
西伊豆のダンジョンにヘルプに行っていた御神苗さんとデビッドから、悲鳴のようなヘルプ要請が入ってきた。
西伊豆ダンジョンはまるで人が育っておらず、毎日4回のアタックは無理。人員の追加を求むという物だ。
しかも、育ってないのは2種免許持ちどころか、1種冒険者も、という惨状。
西伊豆の佐伯さん達は、本当に自身の事しかしていなかったらしい。身内の人間を冒険者にしてやる、と言ってダンジョン内部に連れ込み、魔石を取ってそれを換金といった毎日を過ごしていたらしく、合宿の時よりも技能も動きも衰えていたそうだ。
その上、お寺の敷地内にあるダンジョンを檀家だから、という理由で私物化。現地の冒険者協会の人間の言う事には表面上従うそうだが、あれやこれやと理由をつけて協力を拒否する事も多いらしい。
しかも、今現在行っている臨時冒険者のダンジョンアタックについては、数回行ったあと日当が安すぎると文句をつけて、協会の要請も無視して魔石狩りを行っているらしい。
『彼らがここまで愚かだとは思わなかった』
同じチームの一員だった御神苗さんは、電話口でそう言って暫く黙り込んだ。
勿論こんな事が許される筈も無い。彼らは少なくとも一時期は日本代表の冒険者教官候補だったのだから。
現在、魔石需要がバブルのように跳ね上がっているせいで日本冒険者協会は完全にキャパシティを越えてしまっている為何の対応も取れていないが、この状況が終われば彼らは冒険者として活動する事は出来なくなるだろう。
「じゃ、お馬鹿さん達のお仕置きに行ってくるね!」
「おう、気を付けて。御神苗さんとデビッドによろしくな」
現地の人員が全く当てにできない以上、余裕のある所から補充を入れるしかない。
京都に応援に行っていた恭二と沙織ちゃんからは恭二が、福岡からは一花が応援要員として西伊豆に行く事になった。
現地冒険者に問題があるため本当は俺がいく方が良いんだが、育成の技術だと明らかに一花が群を抜いているからな。
向こうの教育をしっかりしないと他に影響が出かねない現状、最も適正のある一花が抜擢されたそうだ。
それと、奥多摩の方からは俺達の剣の師匠である安藤さんが応援に行ってくれるそうだ。
現地には安藤さんの流派の道場があるらしいから、そちらの門下生を1種冒険者にして人員の補充も行ってくれるらしい。
この人員不足の中、本当にありがたい。育成の際の助力と言い、本当に安藤さんには足を向けて眠れんな。
戻るときのお土産は奮発しないといけないな。昭夫君に何が良いか聞いてみるか。
空港まで一花を送った後、俺とジャンさんはそのまま少し回り道をして昭夫君を迎えに行く。
彼は元々バイク通勤をしているのだが、最近その姿をカメラで収めようとカメコの人たちが多くてバイクでの移動が困難になっているらしい。
原因は勿論先日取った動画・・・・・・も原因だが、一番の理由は昭夫君のうっかりである。
昭夫くん、普段の臨時冒険者のダンジョンアタックの際に、特別仕様のボディスーツとメットを使ってしまったのだ。
ヘルメットを被った瞬間に現れるドクロのマークにその時の女性陣は騒然。「あ、間違えたと!」と顔を赤らめながらメットを外す昭夫くんに更に騒然。
結果、つぶやきでメット姿の昭夫くんがネット上に流れ、しかもタイミング悪く初代様が「我が弟子が友の後継者に」とかなんとかつぶやいてダブルライダーの画像を呟いてたからあっと言う間に拡散される事態が起こった。
奥多摩から何人か見知った顔が大宰府に流れて来てたのには少し笑ってしまったが。行動力すげぇなおっさん達。
事ここに至ってはと予定を前倒しで昭夫君のアイドル化計画をジャンさんは進めているし、何だかんだ昭夫君も女性の扱いには慣れてきたのか、前ほどひどい上がり方はしないようになってきている。2種免許持ちがもう少し増えれば大宰府ダンジョンは一先ず安定するだろう。
そう思っていた数日後。西伊豆ダンジョンに応援に行った恭二から電話が入ってくる。
それは一花とデビッドが、現地の冒険者にダンジョン内で襲われたという連絡だった。
昭夫くん:間の悪さに関しては遠坂さん家並かも知れない
初代様:ある意味神掛かっている。出来れば一郎共々本当にライダーの後輩にならないかなぁと思っているが無理強いするつもりはない模様。