奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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誤字修正、244様、kuzuchi様ありがとうございます!


第九十一話 さらば福岡

『喜べ一郎!前に教育したマニーたちを覚えているか?あの5人組の米兵』

「ああ、懐かしいな。どうした、連絡でも来たのか?」

『来年3月一杯で除隊して、うちに来てくれることになった!』

「マジで!?」

 

福岡に戻って数週間。毎日ダンジョンに潜る日々を過ごしていた俺に、久方ぶりの朗報が恭二からもたらされた。

マニー達は以前米軍がヤマギシに救助を申し出た件で助けた兵士で、一昨年行っていた自衛隊・米軍共同の教官育成に参加した軍曹達だ。

別れ際に恭二といつかヤマギシで雇うと約束をしていたらしいが、まさか本当に来てくれるとは思わなかった。

 

何でも彼らはダンジョンに関わる人員の教育に功ありとして新しく創設されたダンジョン出征勲章やパープルハート勲章、シルバースター勲章など、いくつも勲章を獲得し、胸に沢山のバッジをつけて名誉除隊証を受け取る事ができるそうだ。

日本語はまだ未修得だそうだが、全員翻訳魔法を覚えているしこちらでの生活も問題ないだろうし、何よりも彼らは現在でレベル20。ゴーレムの相手も難なくこなせる逸材たちだ。

 

それに教官としての経歴も長いため、2種免許冒険者の育成も任せる事ができる。これ以上ないほどに嬉しい朗報だった。

この事を聞いたケイティがヤマギシのアメリカ支部を作ってそちらで面倒をみてはどうかと提案してきたそうだが、本部の人員不足が深刻な状況なのでそれはできないと断られて非常に残念がっていたらしい。

 

そう。人員不足なのだ。

そろそろ年末になるというのにまるで衰えない女性の波。一応年末年始期間は行わないと事前告知をしてあるが、そんな事はしったこっちゃないとばかりに臨時冒険者達は毎日毎日ダンジョンに詰め掛けている。

また、臨時冒険者の中にはその後1種免許を取得し本当に冒険者になった人も多数居るため、教育に専念しているヤマギシチームのメンバーは殆ど休みなしで教導教導また教導といった毎日を過ごしていた。

 

まぁ、11月を超えて12月前には2種持ちの冒険者もかなり増えた為、臨時冒険者は2種免許保持者に任せて教官免許持ちは2種免許保持者を増やす事に専念できた。国内に位置する全てのダンジョンにある程度2種免許もちを所属させる事ができた為、ヤマギシチームもそれぞれが年末には奥多摩に戻る事ができるだろう。

教官免許保持者も増やしたいのだが、あれこそしっかりとした環境で教育しないといけないからな。

 

暴行事件のせいで来年の日本枠は削られそうなんだけどな。

ケイティマジ怖いわ。世界冒険者協会名義で日本冒険者協会に送られた文章はもう、筆舌に尽くし難いほどの怒りで満ち溢れていたらしい。

曰く、世界中で冒険者が受け入れられそうなこのタイミングでこの不祥事、どう始末をつけるのか。そもそもどういった選考基準で候補者を選んでいるのか開示の要求。開示できないのなら次回以降の教官教育は全て世界冒険者協会が主導で行う。ヤマギシ側との折衝も全てコチラが行う。

 

完全に日本冒険者協会が信用できないといった内容で、協会側もこの言い草にはかなり頭に来たようなのだが、次に世界冒険者協会側がとった行動で一気に顔を赤から青に染める事になった。

なんと米国大統領から日本の総理大臣にこの件に関しての質問が飛んだそうなのだ。しかも公の場で。

それだけ米国側がダンジョンという新しいフロンティアになりえる存在を重視しているという事らしいのだが(ケイティからの又聞き)この事態に日本冒険者協会は事件発生時の比ではない位の大騒ぎになったらしい。

 

ヤマギシ?勿論蚊帳の外で日々臨時冒険者の相手をしてましたよ。教官候補の選定は完全に日本協会に任せてあり、俺たちは彼らの選定結果を信じて冒険者を教育した。

不純な動機で参加した人物や元々参加したいと思って居なかった人物を1月も教育させられるなんて思っても居なかった。

だから、真一さんを筆頭に全員がこの件で日本冒険者協会の肩を持つ気はないのだ。

 

・・・不愉快な話題を考えるのはやめよう。

ケイティと言えば、彼女が奥多摩で訓練していた40人の医師から、4人の人材がうちをベースに活動してくれる事が決まった。

本人たちの強い希望はもちろんの事、ウチでの育成の効果が冒険者協会に認められての措置だった。

日本の川口医師を筆頭に、イギリス人、フランス人、ロシア人の例の「落ちこぼれ」組が来てくれる事になっていて、その内の1人は九州の要である大宰府ダンジョンに配属される事になるそうだ。

彼と入れ替わる形で俺は大宰府を去る。

数ヶ月も家を離れるのはこれが初めてだったから、色々と思い出もできた。

後博多のご飯がとても美味しくて離れるのが辛い・・・・・・

 

「うちの家族も寂しがるとよ・・・・・・」

「何、飛行機で来れば2時間位で会えるさ。なんせ国内だからな」

 

最近ではすっかり福岡のアイドル扱いが定着した昭夫君が残念だ、とばかりにそう言ってくれた。

彼のご家族には何度かご馳走になっている。弟4名、妹2名という両親も合わせれば野球が出来そうな大家族だった。

弟達に変身を教えたのは良い思い出だ。彼らも将来冒険者になると言ってくれていたし、いつか昭夫君が育てた彼らを奥多摩で教育する事もあるかもしれない。

また、彼の動画はあれ以降も何度か撮っているが、どれも好調な伸びを見せている。特に仕事か何かで初代様が福岡に来た時撮ったダブルライダーは、凄まじい反響だった。

他の大宰府ダンジョン所属の2種冒険者と、変身を使って怪人役をした甲斐があったというものだ。

思い出を振り返りつつ、俺は送迎のために用意された車に乗る。

窓の向こうで手を振る昭夫君に手を振り返し、俺は大宰府ダンジョンを後にした。




福岡のご飯:福岡のご飯は本当に美味しい。福岡に居た頃に2年で10kg太りました。

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