奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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誤字修正。あまにた様、244様、kuzuchi様ありがとうございました!


第九十二話 ブラス家との再会

「今年も、バカンス、オーケー?」

 

満面の笑みで誘ってくるケイティ。この誘いに乗って今年もヤマギシ上層部はクリスマスから年明けまでの長期休暇をヴァージン諸島で過ごす事になった。

何せ日本は色々うるさくて碌に休めないからな。

 

「お腹の子に影響しそうだから、私達は留守番するわ」

「皆楽しんできてね」

「山岸さん、こちらは心配しないでのんびりしてきて下さい」

 

妊娠中の母さん達を気遣って、父さんと下原の小父さんは奥多摩に残るそうなので、安心して留守を任せることが出来る。俺達はブラス家の保有するプライベートジェットに乗ってヴァージン諸島へと旅立った。

 

 

『やぁ、ヤマギシさん。今年も歓迎します』

『今年もお世話になります』

 

社長とブラス老が握手を交わす。テキサスの眉毛一家は、今年は全員揃ってバカンスに来ていた。

暫くみない内にブラス老から老の文字が抜けそうになってるのを見るに、大分ダンジョンに潜っているみたいだな。昨年は明らかに60を超えてる見た目だったのに、40代だと言われても通じそうな外見だ。

ジュニア氏が大きく変わってないせいで、年の離れた兄弟にしか見えない。 

 

社長と握手を交わしたあと、ブラス老は俺達一人一人に握手を交わし、礼を述べた。

 

『今年は凄い年になりましたな』

 

ひとまず荷物を起き、過ごしやすい服装に着替えてブラス家の面々と合流。

夕食まで少し間があるから、とお茶を頂いていた俺達に

、ブラス老がそう切り出した。

 

『我々のダンジョンにも、民間各所からダンジョンにチャレンジしたいという申し出があります。しかし、現状この広大なアメリカに2種免許以上の冒険者は僅かに数十名。大変に苦慮しているところです』

『我々も同じ状況です。事前に通達して年末年始はダンジョンアタックを行わないとしていたお陰で我々もここに来られましたが、戻ったらまた2種免許保持者の教育を行わなければならないでしょう。せめて一日に一つのダンジョンで数百名は利用出来なけれ何時まで経ってもこの状況は終わりません』

『我々も同じ認識を持っています。日本の冒険者協会は残念でしたが、現場の最前線に居るヤマギシが同じ認識を持ってくれて居て安心です』

 

サラリと毒を吐かれるが、まぁ俺達も佐伯事件の事後のグダグダには思う所あるから黙って頷いた。

ブラスコとしては、この未曾有の大チャンスを振出しに戻しかねない佐伯事件を非常に重要視しているそうだ。

 

これまでも行われていたダンジョン探索前の身体チェックや持ち込み物の規制を更に本格的に行い、またダンジョン内部に入る際の人数の制限、緊急時等を除きダンジョン内では最低3人以上のパーティーを組んだり、ヘルメットには必ずアクティブビデオカメラを付けたヘルメットを使用。

 

内部に入る際に受付からカメラのSDカードを受取り、外に出る際は必ず提出し、ダンジョン内部での探索内容もレポートとして提出する等、内部で好き勝手出来ないように法整備を行うそうだ。

 

ブラス老の視点で見ると、日本でもこれらはある程度行われているのだが、これまでは人員不足もあり徹底しておらず、違反した場合の罰則等も到底満足の行く出来とは言えないのだそうだ。

 

『そして何より・・・』

 

ブラス老は間を置いて空になったコップを持ち、右手でリンゴを持った。

それ程力が入っていないような表情でブラス老が右手で握り締めると、リンゴがメキメキと音を立てて潰れて果汁がコップに注がれる。

 

『70過ぎの老人がこれ程までの力を手に入れるのだ。恐らく普通の牢獄では現役の冒険者を束縛出来ない。違うかね?』

『いえ、仰る通りです。そして、それに近い事を出来る人間が現在急速に増えている』

『被害に遭いやすい女性から進んでいるのは幸いと言うべきか。しかし女性にも勿論犯罪を犯す者はいる』

『ストレングスを使える者と使えない者では、力比べはまず使える者が勝ちます。そして、バリアはそこそこの銃火器も無効に出来る。勿論、限界はありますがね』

 

真一さんの言葉にブラス老は頷いた。

現在、彼の元にはダンジョン関係の様々な陳情が届いているらしい。

恐らくジャクソンも同じ状況だろうとブラス老は語った。

 

『警察関係の人間は恐れている。自分たちは重武装なのに対し犯罪者は身一つ、それでも拘束すらできないという悪夢のような状況をね。これまでも心配の声は上がっていた。だが、現実として冒険者の中から犯罪者が出た以上、もはや猶予はないと』

『成る程。お話は分かりました。日本でも奥多摩では機動隊員の訓練を行っています。それを更に拡大して、と言う事ですね』

 

ブラス老の言葉に真一さんはそう答えて、社長を見る。

社長はちらりと恭二を見て、深く頷いた。

 

『今の状況で、動けるのは奥多摩だけでしょうな・・・人員が丁度戻ってきてタイミングも良い。ただ、受け入れの準備の為に時間がかかりますし、予定されていた医療関係者の教育が割りを食う形になりますが』

『それはご心配なさらず。前回の参加者が数名協力を申し出てくれていますので、規模を縮小して行う予定です』

 

社長の言葉にケイティがそう答える。

リザレクションキャンプの卒業生は全員が2種免許持ちと同等の実力を備えている。勿論佐伯さんや足立さんのように多少鈍ってる可能性はあるが、10層までなら問題なく対応できるはずだ。

最終的にリザレクションを覚える所はケイティと念のためにあと1人レジストが使える人間が居れば対応できるしな。

 

『後は、世界中がこの事・・・明らかな冒険者とそれ以外との力の差に気づく前に一つ手を打つべきだろう・・・幸いな事に、この場には世界有数の発言力を持った人物が居る事だしな』

『・・・・・・あ、そういう手使うんだ!おじいちゃん凄い!』

 

ブラス老がそう言って俺を見ると、一花も何かに気づいたように声を上げて俺を見る。

釣られるようにこちらを見る周囲からの視線に晒されて、俺はそっと自分を指差して小首をかしげた。

また何かやらされるのか・・・・・・俺最近めっちゃショックなことあってようやく立ち直・・・・・・いや。一番ショックなのはそりゃ一花だけどさ。

あ、はい。頑張ります・・・・・・ぐすん。


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