奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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このお話はフィクションです。
実在の人物っぽい内容や他作品のヒーロー名を言ってますがあくまで勝手に使ってるだけなのでご了承ください。
ただ、故人の色々な逸話を聞くと実際にこんな状況が起きたらマジでこういう事言いそうだな、と思いお話にしてあります。

誤字修正。244様、kubiwatuki様、仔犬様、kuzuchi様ありがとうございます!


第十七話〜第二十話

第十七話

 

 

ダンジョン第8層を探索。大鬼が雑魚として出現するようになった。

ドロップ品で槍が溜まるのは良い事なのだが、重い。

 

特にオークジェネラルの大剣がやばい。持てなくはないが、収納が無ければ回収は考えられない重さだ。

恭二が居なかったらドロップ品を捌き切れなかったろうな。

 

 

「そういえば沙織ちゃん達もよくそれ持てるね。ストレングス使ってないよね?」

 

「うん。ちょっと重いけど大丈夫」

 

「身体強化、結構でかい効果があるみたいだな」

 

 

ダンジョンに潜る前の沙織ちゃんなら槍の方で限界だろう。一花についてはまだ成長が足りてないのか大剣は重過ぎるみたいだが。潜った回数も関係しているのか?

 

さて、そうやって色々検証しながら進んだ8層も危なげなくボス部屋にたどりつく事が出来た。

そうだろうなとは思っていたが大鬼が2体にオークジェネラルが4体か。そして・・・

 

 

「キモッ」

 

「何だあれ。ゾンビか?」

 

 

所々が腐ったような外見の大きな猿のような化け物が雄たけびを上げている。

真一さんが気持ち悪そうにサンダーボルトを唱えると沙織ちゃんも続けてサンダーボルトを放つ。

二人の魔法でオークジェネラルと大鬼が沈む中、ゾンビっぽい何かは大きく後ろに跳んで魔法を回避した。

 

 

「早い!お兄ちゃん、マシンガン!」

 

「了解。マシンガンアーム!ファイアボール装填!」

 

 

右腕を変形させてマシンガンアームに変え、マガジン内にファイアボールを装填。

弾をバラけさせて、推定グール?を近づかせないよう牽制する。

 

 

「恭二、頼む!」

 

「OK、ファイアボール5連射!」

 

 

恭二がファイアボールを唱えると、空中に5つの火の玉が浮かび上がる。

時間差で飛んでくる5つの火の玉に、流石に動きの早いグールも避けきれずに3発目が命中。

そのまま煙となって消えた。

ドロップ品は角だろうか。何かに使えるのかね?

 

 

「ふぅ、まさか避けられるとはな」

 

 

サンダーボルトを避けられたのがショックだったのか、真一さんがそう呟いた。

確かに、ここまでは無類の強さを発揮していた魔法だけに通じなかったのはショックだろう。

 

というかあいつ、もしかして俺1人だと結構ヤバイ敵じゃないか?

マシンガンも結構避けられたし。

 

 

「恭ちゃん、今日はもう帰ろう」

 

「撤退に賛成。ちょっと作戦立てたほうが良いよね」

 

 

顔を青ざめた沙織ちゃんの言葉に一花が賛成と手を挙げる。

 

 

「動きが素早かったですね・・・もし近づかれていたら不味かったかもしれません」

 

「そうだな・・・よし、一先ず8層まで攻略できたし撤退しよう」

 

「了解です」

 

 

真一さんがそう判断を下し、俺達は帰路についた。

 

 

 

「新しい魔法が必要だな」

 

 

帰り道で恭二がそう呟いた。

曰く、ファイアボールは非常に使いやすい魔法だが命中しなければ意味が無い。

 

恭二のように一度に連射する手もあるが、それだと魔力の無駄も多いし、どの位魔法が使えるかが目で見て判断できない現状では多用するべきじゃない。

 

今まではサンダーボルトで範囲をカバーしていたが、そのサンダーボルトでも捉えきれない相手が出てきた以上新しい魔法の開発は急務だ。

 

 

「もっと広範囲を一気に攻撃できるようなものがいいな」

 

「ゲームで言う全体魔法みたいな奴か?」

 

「そうそう。大きな魔法を使うとき、もし自分を中心に魔法を発動したら、周囲の仲間まで巻き込むかもしれないし。敵の近くで発動するように設定して、決められたエリアの敵を巻き込むような魔法が欲しい。一応、案もあるんだ」

 

 

第1層の入り口付近まで戻ってきた俺達は、大部屋の手前に陣取る。

 

 

「フレイムインフェルノとかどうだろう」

 

「それ、火炎地獄って意味?」

 

「そうそう。ファイアストームとも迷ったんだけどね。ちょっと使ってみる」

 

 

一花の問いかけに肯定を返して、恭二が大部屋の中に向かって魔法を発動する。

 

 

「フレイムインフェルノ!」

 

 

ボゥン!と軽い衝撃音と共に、5M先くらいに四角い炎の箱が出来上がり、天井辺りまで燃え盛ってから消えた。

 

 

「良い感じだな。範囲も広いし上も対処できる」

 

「イメージ通りに発動できたよ」

 

「なら俺も試してみるか。フレイムインフェルノ!」

 

 

恭二の言葉に真一さんも詠唱を行い、結果は見事に成功。

続けて沙織ちゃん、シャーロットさん、一花と皆成功していく。

さて、問題は俺だな。

 

 

「フレイムインフェルノ!」

 

 

外に出すイメージの魔法が極端に苦手な俺はさてどうなるかと思ったが、やはり部屋の中では発動せず右腕にセットされてしまうようだ。

ロックバスターを構えて、先ほどまで目標にされていたエリアに向かってフレイムバスターを放つ。

 

ボゥン!

 

 

「発動したね」

 

「発動しましたね」

 

「どうみてもグレネードだけどね!」

 

 

着弾した場所を中心に爆発したインフェルノバスターを見て、各自が思い思いに感想を述べてくれる。

いや、まあうん。範囲攻撃は持ってなかったから良いんだけどさ。

なんか納得いかないのは何故だろうか。

 

 

 

さて、ダンジョンも新階層まで到達。

新しい魔法も解決し、装備についても解決の目処が立ったと良い事が続く中、俺にとっては極めて微妙なニュースが舞い込んでくることになった。

 

と言っても気分的な問題で、一花からすると大変喜ばしいニュースらしい。

それはというと、アメリカから届いた一通の手紙だった。

 

 

「貴方の戦いと冒険心に敬意を評し、正式なスパイダーマンの一員と認めます。だって!」

 

「スパイダーマンって一杯居るんだな。やったぜ・・・嘘やろ工藤」

 

「残念、現実だよ!」

 

 

アメリカの某大手漫画出版社から届いた手紙をシャーロットさんに読んで貰う。

読む内に興奮して英語で叫び始めたシャーロットさんの言葉を翻訳で確認すると、どうも原作者が例のスパイダーマンVSオークを見て非常に感激したらしく、是非会ってみたい。

 

そして出来れば漫画の方にも出演して欲しい、という事らしい。

 

漫画に関しては秒速で断ろうとしたがシャーロットさんに力づくで止められた。

一花に助けを求めるも「それを断るなんてとんでもない」と言われてなくなく了承させられることになる。

 

恭二と真一さんは完全に見てみぬ振りを決め込み沙織ちゃんは理解できてない。

孤軍だと言うことに気づいていなかった俺の負けか。

ちくしょう。

 

 

 

 

第十八話

 

 

山岸さんの家で昼ご飯を頂きながらCCNの番組を見る。

冒険が終わった後はその日の反省を振り返るのだが、夕方まで冒険した時はいつしかそのままご飯を頂くようになり、気づいたら冒険後にご飯を食べてから会議をするようになった。

 

CCNの番組を見るのも、最近ようやくCCNの契約をしたとの事なのでシャーロットさんの仕事がどんな物なのかを見るといった物なのだが。

 

 

「ダンジョン内の放送だと冷静なのにスパイダーマンの話をしてると凄くキャラが変わって面白いね!」

 

「お恥ずかしいです。ファンとしてはやはり熱が入ってしまって」

 

 

そう、先日まさかの公式に認定された件をCCN側が大々的に放送しているのだ。

今現在、TV画面の中ではスパイダーマンのコスチュームを着た俺がオークをスタンプで倒すシーンが放送されている。

 

その様子を見ていたまま話すシャーロットさんの報道はファンだからこその熱意に溢れたものであり、反響も凄いのだという。

 

 

「実はこの度、ダンジョンとスパイディ専属のキャスターになりまして」

 

「おお、それは僕らにとってありがたいですね。他の人だとどうしても一緒に潜る時大変だから」

 

「はい。ボス直々に電話で任命されました」

 

 

日本のキャスターは別の新人さんに任されることになるらしい。

というのも、CCN本社経由で軍用品のアクションカメラを入手し、カメラクルーをわざわざ入れなくても良いようになったらしい。

 

これは軍用品らしく高性能、高機能で耐衝撃、耐水没性能を誇る。ダンジョン内部の撮影した映像の提出を条件に最新の物を米軍から入手したそうだ。

 

 

「カメラクルーも、動画編集の為にジャンが残るけど他のメンバーはここを離れることになりました」

 

「そうですか・・・折角仲良くなったのに残念です」

 

 

ここまで苦楽を共にしてきた仲間の離脱に悲しい思いもあるが、彼らも仕事だからな。

旅立ちを祝福しないと。

 

 

「それと、横田基地の大佐から『サンプルのため石と敵の武器を譲って欲しい』と言ってました。協力費を弾むので、可能な限り多くの石が欲しい、とのことです」

 

「藤島さんからも大剣と槍が欲しいって言われてたな」

 

「ああ、じゃあ今から行こうか」

 

 

シャーロットさんの言葉に思い出したように真一さんが語る。

近場の藤島さんから会いに行こう、という話になりシャーロットさんが車を出すようだ。

 

俺は今回武器の使用もしてないし収納も使えないからお役ごめんだな。

・・・待て、何故俺の腕を掴む。

心象が違う?いやいや今更心象もないだろう。シャーロットさん、反対側まで固めないでください。

 

結局連行されることになった。

 

 

 

「これは凄い」

 

 

大剣と槍を見た藤島さんの感想である。

その反応も尤もだ。魔法が無かったら俺達だってこんなもの持った2m越えの怪物と対峙なんてしたくない。

 

藤島さんが重そうに大剣を構えるのを見ながら、ふと作業小屋のドアが開いているので中を見ると、でっかく引き伸ばされた俺との握手の写真が飾られているのを見てそっとドアを閉めた。

見なかったことにしよう。

 

藤島さんに一振りずつ大剣と槍を預けて横田基地へ向かう。

事前に連絡を入れていたためかスムーズに中に入れてもらえた。

中に入れてもらえたのだが・・・・・・

 

 

『ようスパイディ!敵はうちの基地に居ないぜ?』

 

『ああ、ごめん。ちょっとまって。感動してしまって。涙が』

 

『あ、あの。サインと、撮影を!』

 

 

前回とは比ではない位の人の波が押し寄せてくる。

予想していたのか恭二達は離れた所で事務の人とお話し中だ。

あ、手をひらひらされてる。チクショウめ!

ごめんなさい、気の利いた台詞は言えなくて。

 

あ、公式サイトの方でも本家より口数が少ないってなってるから大丈夫?それマジ?

マジだった。何で向こうさんが俺のキャラを把握してるんですかねぇ(震え声)

 

結局この基地の一部機能が麻痺するような事態は大佐が一喝するまで続くことになった。

『来賓に対する云々』と厳つい顔で叫ぶ大佐さんだが、そのポケットに入ってるカメラが全てを裏切ってますよ?

 

あ、はい。司令室でですねわかりました。

え、お孫さんに一言メッセージ?お名前は?ダニエル君ですね分かりました。ちょっと変身しますね。

出来れば肩を組んで欲しい?良いですよ。

 

 

 

日本語しか出来なくてごめんね、と日本のスパイダーマンより、とポーズを交えてビデオに話しかける。

翻訳の魔法はどうも直接対峙していないといけないらしい。

映画とかだと完全に英語しか聞こえないので若干不便である。

 

ビデオを撮り終わった後に大佐から少し時間が欲しいと言われ、待っていると基地の広報官という人が出てきて大佐と握手をしている写真が取りたいと言われ了承する。

横田基地のホームページの一面に載せるらしい。

凄く・・・・・・恥ずかしいです。

 

 

『それだけ貴方の持つ影響力が大きくなったという事です。少なくともアメリカは貴方を害するという選択肢をもはや持たないでしょう』

 

『それは、恐縮です。何分特殊な右腕ですので』

 

『人は自分と違うものを怖がるものですからな。しかしそれは大部分において知らない故の悲劇です。貴方を知らない人間はもはや数えるほどでしょう』

 

 

その言葉通りなら嬉しい話です。演じているだけの身としてはヒーローそのものみたいに見られるのはやはり違和感がすごくて。

 

 

『貴方の実力に対しても我々は評価をしているのですがね。山岸恭二さんという魔法のエキスパートを除けば貴方は随一のポテンシャルを持った冒険者だ。我々も貴方方の持つ情報を頼りにしている面があります』

 

『色々とお世話になっているので、お役に立てているなら何よりです』

 

 

米軍には資金面・装備面共に大分お世話になっている。

何かしらこちらから返すことが出来ていれば良いのだが。

 

 

『そういえば我々も近くダンジョンに入る事になりましてな。専門家の意見を聞かせてもらうかもしれません。その時はよろしくお願いします』

 

『わかりました』

 

 

その後も少し談笑をして大佐の部屋から出た。

米軍のダンジョンアタックか。事故が無ければ良いんだがな。

 

 

 

 

第十九話

 

 

さて、ダンジョンである。

今日は9層を突破を目標に、あのグールへの対策を立てて準備をしている。

 

 

「取り敢えず開幕フレイムインフェルノで。撃ちもらしは恭二と一郎が頼む」

 

「了解でっす」

 

「オーケー」

 

 

事前に立てた作戦では今回、開幕のフレイムインフェルノを使うのはシャーロットさんだ。

これはダンジョンに潜った回数が少ないシャーロットさんと一花の魔法でも問題なく倒せるかの確認と、シャーロットさんは前回グールに対して少し怯えが見えた為、克服の為にも先制を任せてみよう、という事になった。

 

8層までは特に問題なく抜ける事ができた。

一度しっかり攻略してしまえば、それ以降は手間取る事もない。

このダンジョンを作った奴が誰かは知らないが、努力した分だけ進みやすくなる所は評価してもいいかもしれん。

 

 

「フレイムインフェルノ!」

 

 

さて、件の8層ボス部屋であるが、結論から言うと問題なく突破する事ができた。

グールは魔法の発動に合わせて後方に飛び避けようとするが、範囲から抜けきれず炎の直撃を受けて消し炭になった。

 

恭二の見立ては間違ってなかったって事だな。

魔法を使ったシャーロットさんも「やりました!」と満足気だ。

 

 

「よし、余裕もあるしこのまま9層に入ろう。前に俺と一花ちゃん、後方に恭二、右は沙織ちゃんで左はシャーロットさんが対応する。一郎、どこかがピンチになったら援護を入れてくれ。出来るな?」

 

「任せてください」

 

 

ロックバスターにフレイムインフェルノを装填して俺は真一さんの問いに答えた。

9層はそれまでの階層と同様に開けた部屋や四つ角での襲撃が多かった。

まず真一さんか一花が敵を感知した通路にフレイムインフェルノを撃ち込み進路を確保。

 

そのまま進路先の警戒を行い、残りのメンバーが周囲を警戒。

もし追加が出たときは各自で対応し手が足りないところに俺が入る方式だ。

 

真一さんの号令に従い、俺達は9層の中を進む。

予想通り各方位からの攻撃があったがフレイムインフェルノの連打で対応し、たまに出る撃ち漏らしは俺が射撃でけりを付ける。

いくら素早い奴でも爆裂するフレイムバスターの連射は避けきれないだろう。

 

 

「一郎、うるさい」

 

「すまん、ちょっと楽しくなって」

 

 

恭二に睨まれたので連射はやめておこう。爆裂音で余計に敵が集まってる感じもするしな。

その後も詰まることなく俺達はボス部屋の前にたどり着いた。

 

さて、グールが来たとなると次も似たようなものか・・・と思っていたら案の定。

グールや大鬼に囲まれて西洋風のヘルメット、サーベル風の幅広刀に円形の盾を持った骨が偉そうに立っている。

 

 

「スケルトンか」

 

「これまた分かりやすい奴だね。大鬼より強いんだ」

 

「勘弁してよぉ」

 

 

真一さんの呟きに一花が反応を返す。沙織ちゃんはホラーが苦手なのかげんなりとした表情だ。

 

 

「兄貴、俺がやる」

 

「わかった、頼むぞ」

 

「フレイムインフェルノ!」

 

 

恭二はそう言って一歩前に進み出る。身構えるモンスター達のど真ん中に炎の柱が立ち、部屋を赤く染め上げた。

さて結果は・・・・・・流石はボスか。

 

 

「これで止めだ!」

 

 

念のため装填したままのフレイムバスターをぶつけると生き残ったスケルトンも煙になって消滅した。

ドロップ品はサーベル。真一さんは槍が好きらしいし、最近刀の扱いが上手くなってきた恭二に渡すと嬉しそうにぶんぶんと振り回していた。

大剣は何か違ったらしい。

 

 

「さて、次に行こうか」

 

「嫌だよ恭ちゃん・・・次はゾンビが出そうだよぉ」

 

「さお姉駄目だよ!そういう事言うとほんとに出て来るんだから!」

 

 

ぐずる沙織ちゃんの腰を一花がどんどんと押して前に進んでいく。

フラグって奴か。でも本当に傾向的にそうなりそうなんだよなぁ。

 

 

「ゾンビが出るなら銃かチェーンソーが欲しいです・・・」

 

「良いんですかそれで」

 

 

ゾンビ映画の本場はちょっと格が違うわ。グールの時はあんなにビビってたのにもう克服したらしい。

 

 

 

「敵はやっぱ、グール4にスケルトン2だ」

 

 

10層に降りた俺達を迎え撃ったのは予想通りの布陣だった。

開幕にインフェルノを連打して殲滅し、ドロップを回収する。

 

 

「今までのダンジョンと造りが違うな」

 

「ああ。降りる最中、土や岩の壁からいきなり石作りの壁に切り替わってた」

 

 

ドロップ品を回収しながら、恭二がそう呟いたので俺も相槌を返す。

今までは土や岩の中を進む、それこそ鉱山の中と言ったダンジョンだった。

それが9層から10層に降りている最中にいきなり石造りの階段に切り替わったのだ。

 

米軍はこのダンジョンは異界に繋がっていると言っていたが、もしかしたらこのダンジョン自体それぞれ別の異界を繋げて出来ているのだろうか。

それなら、俺達は今新しい異界に入ったという事か?

モンスターは同じだが。

 

 

「この扉、先が見えなくてめんどくさい」

 

「いっそぶっ壊すか?」

 

「いやいや」

 

 

この階層に来て変わったことがもう一つある。

各部屋の仕切りにボロボロのドアがつけられており、今までのように先の見通しが出来なくなっているのだ。

 

恭二がいらいらしたように壁をファイアボールでぶっ飛ばしているが、グールやらスケルトンやらが扉を開けたらコンニチワ、と襲い掛かってくるかもしれない現状その気持ちもわかる。

 

ホラーでも扉を開ける時って必ず仕掛けてくるしな!

俺達は足早にボス部屋までたどり着いた。

 

そして嫌な予感は当たるものだ。

 

 

「ありゃー。やっぱりフラグだったねさお姉」

 

「半透明の人。ゴースト、いやレイスですかね」

 

「ホラーはもう嫌だよぉ」

 

 

女性陣が言葉にするように、視線の先にはスケルトンやグールに傅かれた半透明のモンスターが陣取っている。

やっぱり言霊ってあるんだな。俺も気をつけよう。

 

 

 

 

第二十話

 

 

「全員アンチマジックをかけ直せ!」

 

「了解!」

 

 

アンチマジックをかけ直し、10層のボス部屋に突入。

得物は杖か。こいつも魔法を使うんだろうな。

初見の敵は何をしてくるかわからない分、緊張感がある。

 

 

「グール4スケルトン2にレイスか、どう行く?」

 

「開幕ぶっぱが安定だけど、問題はあれに効くかかな?」

 

「ヒールとか効きそうだな」

 

 

一先ずは真一さんと恭二でフレイムインフェルノをぶち当ててみて効果があるかの確認となった。

 

 

「フレイムインフェルノ!」

 

「フレイムインフェルノ!」

 

 

兄弟二人の重ねがけにより、激しい炎の柱が天井まで焼き尽くす。

だが、肝心のレイスは生き残ったらしい。

 

少しの間影のような体が若干薄くなっていたが、すぐに濃さを取り戻した。どうやらフレイムインフェルノでは効果が薄いみたいだ。

 

 

「ボオオオオォォ!」

 

「魔法が来るぞ!」

 

 

杖を掲げたレイスの姿を見て、恭二が叫んだ。

レイスが壊れかけて止まりそうなテープの音のような薄気味悪い声をあげると、身構える俺達の足の下から体全体を覆うように赤黒い炎が襲いかかってくる。

 

だが、体が焼かれる前に薄い膜のような物が体を包んで炎を散らした。

アンチマジック様々だ。

 

 

「ヒール!」

 

 

炎を散らした後、直ぐ様恭二がレイスに向かってヒールを唱えた。

 

 

「ゴッ!」

 

 

恭二のヒールに包まれたレイスはかなり嫌そうに身体をよじっているように見える。

成る程、やはり回復魔法は嫌か。

 

 

「ならこれだ。キュア!」

 

 

恭二の詠唱に合わせて、レイスの身体の中心あたりから、激しく白い光がわき上がった。

よし、明らかに苦しんでいる。やはり回復魔法はレイスに効果があるらしい。

 

 

「光属性か聖属性が特攻って事かな?試してみるね!サンダーボルトいっきまーす!」

 

 

一花の掛け声に合わせて稲光がレイスに襲いかかる。

キュアの一撃にのたうっていたレイスは稲光の直撃を受け、悲鳴すらあげずに紫色の粒子になって霧散し、ドロップ品の杖だけがころん、と音をたてて転がっていた。

 

 

 

「さて。初めて見るタイプのドロップ品だな」

 

「鍵・・・でしょうか?」

 

 

真一さんが拾い上げたドロップ品を眺めながらシャーロットさんがそう言った。

青緑色・・・青銅かな?の鍵がレイスの杖の下にあったのを恭二が見つけたらしい。

 

 

「鍵があるって事はどっかに使えるって事だよね!」

 

「順当に行けば扉の鍵か宝の鍵かな?」

 

「宝箱だったら良いなー」

 

 

沙織ちゃんの希望に添えるかは分からないが、家捜しと行こうか。

ボス部屋を探索すると、普段は次の階層に繋がる道がある辺りに扉があった。

 

そこを開けてみると更に二つ扉があり、右手の扉に鍵穴がある。

念のため正面を確認すると、下層への階段がある。

 

 

「ここだな」

 

「私開けてみたい!」

 

「良いけど折るなよ?って!」

 

 

沙織ちゃんが恭二から鍵を受け取り鍵穴に今拾った鍵を差し込んで回す。

あと、その際に恭二にヒジ打ちをしていたがどう見ても恭二が悪い。デリカシー無さすぎだろ。

 

 

「あ、開いたよ!」

 

「沙織ちゃん、気をつけて開けてくれ」

 

 

真一さんが武器を構えて警戒している。沙織ちゃんも慎重にドアを少し開いて様子を伺っている。

そこには、ボス部屋の四分の一程度の小部屋があった。

中には薄く光る水晶球が置かれた台と、側に置かれた小さな箱。

 

 

「マジで宝箱だ」

 

「開けるの誰がやる?私は嫌!」

 

「宝箱には罠って相場だしな。よし一郎!」

 

「俺ぇ!?」

 

 

手を伸ばせないかと言われたのでやってみる。できた。

うわぁ、ダルシムみたい。

 

 

「というより甲賀忍法帖の小豆蠟斎じゃないかな?」

 

「知らねぇよ!」

 

「イチローさんはニンジャだった?」

 

 

これ以上属性は要りません。

とはいえ俺が一番安全なのも確かだし、ここは覚悟を決めよう。

壁の隅の方に全員で盾の壁をつくり、さらにアンチマジックとバリアーも重ねがけする。

そして一番端の方から、俺が右手を伸ばして箱に手を伸ばす

 

・・・・・・よし、開けたぞ。

盾を構えたまま箱に近づくと、中には羊皮紙が二枚と、今まで見たことのないようなデザインの金貨が五枚入っていた。

 

 

「お宝・・・?」

 

「金ならお宝だろうが5枚じゃなあ」

 

「まぁ何かにつかえるかもしれんし、恭二収納しといてくれ」

 

「了解」

 

 

金貨を恭二に渡し、羊皮紙を眺めているシャーロットさんに目を向ける。

シャーロットさんは紙を色々な角度から眺めていたが、こちらの視線に気付くとお手上げとばかりに肩をすくめた。

 

 

「見たこともない文字です。専門家ではないんでそれ以上はわかりませんね」

 

「俺達じゃ判断出来ないな。恭二」

 

「はいはい」

 

 

羊皮紙も恭二の収納送りにして。さて、後はこの水晶玉だけだな。

 

 

「台座から取り外せるのかな?ってやばっ!」

 

 

真一さんが慎重に水晶玉に手を触れた瞬間に真っ白な発光が起こり、足元に青白く輝く魔法陣が出現する。

そして魔法陣は強く輝いた後に、ふわりと消えていった。

 

 

「罠は不発か?」

 

「いやー、これ罠じゃないのかもね」

 

 

周囲を見渡しながら一花がそう言って、壁を触っている。

 

 

「やっぱり、さっきと壁の材質が違うよ」

 

「まさか、ワープの罠か!?」

 

「わかんないけど、多分転移室じゃないかな?外見てみようよ!」

 

 

一花に促されるように外に出ると、そこは見覚えのある場所だった。

どこかの階層の階段前。見覚えがあると言うことは9層までのどこかだろう。

もしさっきの部屋が転送室なら少し戻れば恐らく・・・

 

 

「やっぱりここ、1層だ」

 

 

何度も見た1層のボス部屋に俺達は戻ってきていた。

 

 




下原沙織:グールの気持ち悪さに暫く意気消沈。ゾンビ映画を見れば耐性がつくよ!と一花に騙され後日涙目で一花に詰め寄った。

シャーロット・オガワ:沙織と一緒にゾンビ映画を鑑賞。こちらは本当に耐性がついた模様。むしろゾンビが出なかったことに少し残念な気持ちを抱いている。

スパイダーマン:動画の閲覧回数がエグい事になっている模様。また、一郎から許可が降りた為正式にスパイダーマンのバリエーションの1人扱いとなり更に熱は加速する事になる。


CCN:シャーロットさんからスパイダーマン公式化と言われ何を言っているのかわからず問い合わせるとマジだったので泡を食ってホームページに特設コーナーを立ち上げる。

藤島さん:沙織ちゃんが普通に大剣を構えていた所を目撃し少し敗北感を味わう。

ニールズ大佐:孫にスパイダーマンからビデオレターを送り彼との仲の良さアピールに成功。今度は直接会いたいと言われ真顔になる。


鈴木一花:沙織の泡を食う姿がかわいい。


山岸真一:この転送室、ヤバいんじゃないかと思案中

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