「いやー、流石に壮観だね!」
『世界各国の警官隊、総勢240名か。奥多摩のキャパはここが限界だろうね』
一花の言葉にウィルが頷いた。
現在俺たちは銀座にある日本冒険者協会のビルで、世界各国から集まった警官達のキャンプの開催式に参加している。
といっても今回の仕切りは日本冒険者協会ではなく、世界冒険者協会が行っている。
「お、ケイティが挨拶に行ったな」
「うん。いやー、やっぱり着飾ると凄い美人だね。恭二兄」
「お、そうだな」
日本冒険者協会の手を離れたこの行事を何故日本冒険者協会のビルで行っているかと言うと、少し複雑な政治の力学というものが働いているらしい。
まず最初の問題として、今回の参加者の中には日本の機動隊も含まれているのが上げられる。奥多摩には数十名規模ですでにダンジョン免許持ちの機動隊員が居る。しかし、自国で正式に行われる警官の教育に、自国の警官が入らないのは流石にどうなのか、という意見が政府の中で出た。
また、日本冒険者協会としても今回の件で世界冒険者協会に完全に呑まれた状態になってしまった為、教官の教育を全て世界冒険者協会が扱うようになるのでは、という危機感があったらしい。ヤマギシにもあの手この手で声かけがあったそうだ。
俺たちとしても別に日本冒険者協会自体に含みがあるわけではない。例の人物という例外はあったが、準備委員会の頃から日本に冒険者と言う存在を誕生させようと協力してやってきたのだ。一部が暴走したからと言ってばっさりと関係を断ち切る程度の付き合いではないと思っている。
というわけでケイティにも話を通し、日本側からも30名の参加となり、8カ国合わせて240名の人間がこの狭い奥多摩で2~3ヶ月の研修を行う事になった。期間がずれ込んでいるのは、教官免許を取得次第、順次帰っていくというスタンスで行う為だ。
「それだけ、切羽詰っているって事か」
「デース」
俺の呟きに、挨拶から戻ってきたケイティが頷いた。
今俺たちは来賓席のかなり前の方に席を置かれている。チームヤマギシと書かれた縦看板の横に座ってくれと言われた為ここに居るんだが、ちらちらと警官達がこちらを見ているのを感じる。中には挨拶をしている各国大使をガン無視してこちらに熱い視線を送ってくる年配の男性も居て少し怖い。
会場に入るときも、『お会いできて光栄です!』だの『さ、サインをお願いします!』だのと入り口手前で10人以上の男性にもみくちゃにされるという経験したくない思いをした。正直勘弁して欲しい。
「いや、残当でしょ。あの人たちは皆、お兄ちゃんみたいになる為に来たんだよ?」
「俺ぇ?」
「そ。戦車並みの相手に生身で立ち向かうってさ。そんなのヒーロー位でしょ。そう思わないと立ち向かう勇気なんて持てないよ」
・・・・・・最近、クレイゴーレム相手にハンマーを持って何分で解体できるか競争したりしてるんだが。もしかしてこれは異常なことなのだろうか。真一さんやウィルもノッリノリで参加してるんだが。
尋ねるのが怖くて俺は口をつぐんだ。この事は男だけの秘密にしておこう。
式典が終わった後に十数台のバスを借り切って警官隊は奥多摩へと移動していく。俺達はヤマギシ仕様のSUVに乗って先に奥多摩へ出発する。
最近、この派手な車に乗るのにも慣れて来た自分がいる。通りすがりの学生が手を振ってくるのに手を振り返したりとかな。
「そういえば、警官さん達の住む所はどうするんですか?」
「ああ。ダンジョン上の寮はアメリカが。他の国は近隣の旅館に頼んで部屋を確保してある。日本の警官隊は最近作った機動隊の駐屯所に仮設ベッドを作るそうだ」
「日本だけ可哀想だな・・・・・・」
「その分、オフの日には出かけやすいし帰りやすいからな。彼らは」
今回は人数が人数だけに各国が毎日潜ると言う事は出来ない。基本的には1日6カ国の警官がもぐり、残りの2カ国はオフ。また、日曜日は完全に休養日としている。前回のキャンプの際にも、毎日毎日ダンジョンに潜り続けるのはやはり疲労が溜まるし、疲労が溜まっていると判断ミスが頻発した。これを教訓として、今回の訓練ではダンジョン内に入るONと、休養に当てるOFFは意識して取らせるようにする予定だ。
また、日曜を休養日にしたのは教官を務める人間の疲労も考慮した為だ。教官の誤りで全滅、なんて事になったら目も当てられないしな。
奥多摩に到着した後はヤマギシのビルに戻ってスーツからユニフォームに着替える。今日はダンジョンに潜る予定は無いが、この後に装備の授与式とキャンプの開幕宣言を行う必要がある。俺達がユニフォームを着る事でキャンプ中の制服はこのユニフォームだと印象付ける為、でもあるらしい。
何故か平然とヤマギシのユニフォームを着ているケイティとウィルには誰も触れずに、俺達は授与式の会場となるビルの前で警官隊のバスを迎え入れた。
これから数ヶ月、忙しくなるだろうが。彼らがダンジョン内で生きるか死ぬかは今日からの数ヶ月にかかっている。
先頭のバスから降りてきたアメリカチームの代表と握手を交わしながら、俺は気合を入れなおした。