奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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誤字修正、244様、アンヘル☆様、kuzuchi様ありがとうございました!


第九十九話 警官教育・下地作り

 今回のキャンプでは前回と違う点が幾つかある。

 その中でも一番大きいものは、基本的に彼らはモンスターを相手にするのではなく、冒険者を対象にする、という所だろう。彼らが今モンスター相手に戦っているのはあくまでも魔力を溜め、魔法を取得する為だ。魔力が溜まれば身体能力も向上し、魔法を取得すればそれだけ冒険者の魔法にも対抗が可能になる。

 

 というわけで、彼らにはまずオークを取っ組み合いで倒せる力を身につけて貰う所から始めた。勿論バリアをかけてあるし、危険になれば誰かがヘルプに入る。

といっても、流石に普段の状態でオークに勝つのは至難の技だ。まず、体格も違えば腕力も違う。下地を整える必要があった。

 

「というわけで、11層に張り付いてます。いってらっしゃーい」

「まぁ、車も放置してたら消えるみたいだしなぁ。頑張ってきてくれ」

 

 1人1人にアメリカが開発しなおしてくれたRPGを渡し、SUV5台を使って第一陣のアメリカグループはゴーレム狩りに旅立っていった。それらを手を振って見送り、俺と一花は待機要員の為に用意されたキャンピングカーに入る。1人2匹を狩り、その魔石を吸収する。これで魔力的にはオークを上回るし、それだけ魔力があればストレングスやバリア、アンチマジックの習得も大分楽になるだろう。

 彼らの移動用の車の確保のために、俺達ヤマギシチームは2名がこの11層に張り付く事になっている。まあ、魔力アップ訓練は最初の1週間しか行わないから、毎日4時間、昼に交代の形でのんびりやっている。ゴーレム狩りはロケットランチャーがあれば2種冒険者でも十分可能だからな。

 

「でも、良いのか? ゴーレムの魔石って今、全然需要が足りてないんだろ?」

「変わりに、最初の1週間以降は持ちきれる範囲でドロップした魔石を協会に渡す契約らしいよ」

 

 俺の問いに一花がそう答える。成る程。そういう形で協会は警察と話をつけてあるのか。下手に現金を貰うより確かにそちらの方がありがたいな。

 俺が納得したのを感じたのか、一花は手元のリモコンを操作して、キャンピングカーに備え付けてあるテレビで映画を見始めた。俺が以前撮影に協力したミギーが出る例の映画だ。放映中は多忙のせいで足を運べなかったから、せめてDVDは買うと連絡先を交換した俳優陣に言っていたら何故か発売前のDVDを制作会社から送ってきた。しかもノーカット版で、様々な撮影時の映像付だ。

 

「ねぇ、お兄ちゃん」

「何だいシスター」

「そろそろミギー、喋らない?」

「喋ったらヤバイんじゃないか? 色々」

 

 そんだけシンクロしてるって事になるしな。最終的に自己封印しそうだし、封印せずに敵対ルートに入っても不味いんだけど。その言葉にうーうー唸って、一花はため息をついてリモコンを操作する。諦めたようだ。

 

 時刻は11時過ぎ。そろそろ交代の時間だ。アメリカ勢も戻ってくるだろうし、交代の準備をしよう。と言っても、キャンピングカーの鍵の受け渡しと偶に邪魔しに来るゴーレムの魔石を纏めておくだけなんだがな。

 

 

 

 ある程度の下地が出来たら、今度は一花の出番だった。ウィルの言葉ではないが、一花の指導力というか、カリスマ性はやはり魔力に起因するらしい。今回、時間短縮もそうだが魔法の習熟に関しては一花が総監督となって、他のヤマギシメンバーや教官免許保持者がそれをサポートする、という形式を取る。

 効果は、目で見て分かるほどに出た。

 

『教官殿! イタリアチーム全員がバリアの獲得に成功しました!』

「うんうん。順調だね! じゃあ、全員並んでテストをしようか。アメリカチームはストレングスをもう覚えてたね? 全員で殴ったげて!」

『OK、ボス!』

 

 2~30代の大柄なお兄さん方が目を輝かせて一花を慕う様子は正直ちょっと思う所があるが、それはまあ副次的な事として。まだ開始から2日たっていないにも関わらず、全体の半数がストレングスとバリア、そしてアンチマジックを習得している。

 

 彼らは母国で魔法の才能アリとみなされて送り込まれた冒険者の代表達とは違う。あくまでも今回の教育のために自ら志願して来た警察官達で、魔法のセンスなどは選抜理由に入っておらず、体力と対人能力の高さを見込まれて送られてきた人々だ。

 そんな彼らが、たった数日でこの進歩を遂げた。

 

「イチカ! 最高デ~す!」

「うきゃ、ちょ、ケイティ胸! 痛いから!」

 

 力いっぱい抱きしめられた一花が悲鳴を上げている。この件で一番喜んでいるのは恐らくケイティだろう。彼女自身必要だと思っているとは言え、今回の警官教育で割を食ったのは彼女が主導する医師達のキャンプなのだ。

 

 この調子でいけば、予定を前倒しできる確率はかなりある。それだけ医師キャンプへの準備が進むと、以前にも増して張り切っている。そして、同門の弟子が増えたウィルもかなり喜んでいる一人だ。

 彼が主催しているマスターイチカ同門会の会員が一気に200名近く増えたからな。この調子でいけば遠からず全警官が加入してくれると張り切っている。

 

「その張り切りを教育の方に振り分けて欲しいと思うのは俺だけか?」

「頑張ってるじゃないか。マスターの邪魔をしないように」

 

 冒険者同士の戦いがどうなるのか、というテストケースとして組み手を行いながら相談を交わす。俺とウィルのバトルだと、どうしても被害が大きくなるからかなり遠くに引いたカメラからの映像になるが、少しでも彼らの参考になれば良いのだが。

 

 後日、あんなのに突っ込まなければいけないのかと自信をなくした様子で語る警官を一花が叱咤激励しているシーンを目撃した。いや、恭二相手だとあの比じゃないんだが……




一花「頑張れ♪ 頑張れ♪」
警官達「うおぉぉぉお!」

という感じで傍から見たら危ない様子に見えるやり取りがそこらで行われている模様。

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