奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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説明回になるため読み飛ばしちゃっても大丈夫です。


第百四話 魔法についての講義

 一度合格者が出ると後はかなり早かった。基本的に冒険者の身体能力はある一定以上からは緩やかに伸びて行く為、1対多というのは基本的に1の方が不利だ。高レベル冒険者の身体能力に慣れてくれば、後は連携さえ決まれば取り押さえる事は簡単だ。順調に1組、また1組と合格者が出てくる中、俺達はある問題に直面していた。

 

「取り押さえた後なんだけど魔法を使って逃げられたら意味が無いよね?」

「口を押さえちまえば良いんじゃないか?」

「どんな魔法かは難しいけど、一応声が出せなくても魔法は使えるよ。ただ、指向性を持たせることが出来ないからどうなるかわかんないけど」

「指向性……? いや、それ自爆するかもしれないんじゃないか?」

 

 俺の言葉に頷いて、一花は少し考えた後に右手を開き掌を上に向ける。

 

「ちょっと見ててね。ファイアーボール!」

「お前、こんな場所で……あれ?」

 

 一花の掌の上には見慣れた赤い火の玉、ではなく水のように透き通った球体が出現する。ファイアーボールのバリエーションを増やせないかとの試みで作られた失敗魔法の一つだ。これただの水の玉なんだよな。一応ウォーターボールという名前をつけられたが、使える奴は皆水鉄砲と呼んでいる。

 

「さっき、お前ファイアーボールって唱えてなかった?」

「うん。ファイアーボールを使うつもりで最後にウォーターボールに切り替えたの」

「……つまり?」

「魔法を使う上でいっちばん大事なのはささやきでもいのりでも詠唱でもなく、最後の念じる部分って事。そこまでは言ってみたら助走というか、向きの調整みたいな物なの。魔法の中身を理解してる人はこんな芸当も出来るんだ」

 

 そう言って一花はアンチマジックを唱えてウォーターボールを打ち消した。

 

「あ、でも魔法を唱えるのが無意味ってわけじゃないよ? 無言で魔法使うって1から銃身を作って銃を撃つみたいな物だからね。出来るとしたら恭二兄ちゃんかケイティちゃん……もしかしたらさお姉も、ってくらいじゃないかな」

「お前は出来ないのか?」

「一回の魔法使うのに何十分もうんうん唸ってようやくだね。でも途中で集中が途切れたら霧散しちゃうから多分無理」

 

 私センスないからねー、と自虐のように一花は言うが、つまり一花よりセンスが無い人物、大多数の冒険者にとっては関係の無い話という訳だ。いや、関係はあるか。無理に魔法を使おうとすると酷い事になる、という事なのだから。

 俺と一花の会話を聞いていた警官の1人が恐る恐る、といった具合に手を上げる。そういえば今、魔法についての講義中だった。会話形式で進めていく、という事で一花の相方役を今回任されたのだが、半分位雑談のノリだったな。講義の内容が冒険者の魔法使用についてだったので内容がズレていた訳ではないが、少し反省する。

 

『あの、今の話をお聞きしますと、取り押さえた後に犯人の自爆を警戒しなければいけない、という事でしょうか』

「うん、そうなるね。ただ、流石にそれじゃお仕事にならないだろうと言う事で、なんと今回の商品はコチラ!」

『は、はぁ?』

 

 じゃじゃーん、と自分の口で効果音をつけて、一花は講義用の机の下に置いていた袋を持ち上げた。中から出てきたのは、手錠をつけたグローブのような物だ。

 

「じゃあ、君、ちょっとこれつけてもらってもいい?」

『あ、はい。了解しました!』

 

 最前列に居た警官を指名して一花は立ち上がらせ、この拘束具のようなものをつけさせる。おっかなびっくりといった様子でグローブの中に手を入れた彼はぎょっとしたような表情を浮かべ、思わず手を引いた。

 一花は其の様子に苦笑をもらし、再度促してグローブの中に手を入れさせる。警官はおどおどとした様子でグローブの中に手を入れて、其の上から一花が手錠を嵌める。

 

「ちょっと魔法を発動させてみて。ストレングスでもいいよ」

『は、はぁ……ストレングス! うん? ストレングス!』

 

 手錠を嵌められた警官が何度か魔法を唱えようとするが、上手くいかないのだろうか。何度か試した後に諦めたように首を横に振った。

 

「えー、このグローブは魔鉄を使って魔力を常に吸い続けるようにされてます。あんまり魔法使い過ぎると内部が熱くなって来るから気をつけてね?」

『あ、はい。ええと、ストレングスはなぜ発動しなかったのでしょうか?』

「うん、とってもいい質問です。ちょっと待ってね?」

 

 一花は鍵を使って彼の手錠を外す。グローブから手を抜いた警官は、両手を不思議そうに眺めた後席についた。一花はグローブを講義机の上に見やすいように置き、こちらを注視する警官達に目を向けた。

 

「まず、魔法ってどこで発動してるかって事なんだけどね。基本的に今現在教育を受けている冒険者は口か手から魔法を発動させてるんだよね。この発動って意味が分かる人!」

 

 挙手を求めるように手を上げた一花の問いに、恐る恐る、と言った具合で数名の警官が手を上げた。

 

「うん。貴方達は魔法のセンスが高いと思うよ。分かりやすく言うとファイアーボールって掌から出てるよね。つまり、魔法を唱えてその現象が起きるのは両手を起点にしてるって事なんだよね。アンチマジック、ヒール、どれも患部や目標に掌を向けて行うように教育されてるでしょ? 少なくとも冒険者協会ではそうやって教育してるから」

『成る程。つまり、その道具は』

「うん。この魔鉄を使った拘束具は、魔法の基点に魔力が集められるのを阻害する為の道具なんだ。全身拘束が一番望ましいけど流石に難しいと思うから、一番重要な両手を封じる為に手袋みたいな形になってるけどね。後の時間は実際に試してみてね!」

 

 今日の講義はこれにて終了、と告げた一花の声に、警官達は一斉に立ち上がってグローブを見るために前の方に歩いてくる。グローブについてはそのまま次の授業でも使う為そこに置いておくように言付けて、俺と一花は講義室から出た。

 

「いやー、良い反応だったね。これはまたヒット商品を作ってしまったかも」

「真一さん、忙しそうだったのはこれが理由か?」

「うん。警官教育を始めた段階で、拘束する際どうするかは議論に上がってたんだよね」

「教育期間中に間に合ってよかったな。所で俺があれ付けたら右腕溶けるんだけどどうすればいいのかな」

「……腕の付け根を包むとか?」

 

 俺の疑問に数瞬考えた後、一花は苦笑いを浮かべながらそう答えた。人によっては発動場所が違ったりするらしいし、色々な形の物を開発してはいるそうだが。口が発動の基点になっている人はどうするんだろう。SM用具みたいになるのかな?

 とりあえず口用の道具の体験だけはしたくないな。

 

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