『仮面ライダー1号。あんたに、頼みがある』
聞き覚えのある声だった。彼の仲間が育てた子供で、年を取りかつてのように動けなくなった仲間の変わりに、世界中に散る他の仲間達への援護や支援を行ってくれている青年だ。
『結城君。その、右腕は……』
『少しドジりました。義父さんに笑われちまうな……いや。これが、俺の運命だったんでしょうね』
失った右腕から血を垂らしながら、青年……結城一路は吼えた。
『頼む、仮面ライダー! 俺にカセットアームを……義父さんの腕を、移植してくれ! 義父の後を、俺が継ぐ!』
『し、しかし』
戸惑う1号ライダー。結城一路はふらつきながら彼に詰め寄り、叫ぶ。
『俺を、ライダーマンにしてくれ!』
「等という予告編が世間を席巻してるんですが」
「お兄ちゃん、何時の間に年取ったの?」
「私は一切関知しておりません」
公開された映画の予告編に映っている『どう見ても20代にしか見えない俺』と隣に座る俺を見比べながら、恭二と一花はそう尋ねてくる。いや、普通に変身したんだけど。監督さんから10年後位の予想図的なイラストを渡されたから、其の通りに変身を行っただけだ。どっかで見たような。そう、何と言うか月刊マガジンとかで見かけたような絵柄だったのは気のせいだと思う。
今回の映画は「復活」と「受け継がれる魂」というメッセージが込められている。復活は、1号ライダーの現役復帰。更に力を増した、40年以上にわたる研鑽の重みを乗せた1号の戦いぶりと、後継者達の存在。魂は消えず、受け継がれていく姿を全てカメラに収めたいと監督は語っていた。俺の演じる結城一路は結城博士に引き取られた孤児という設定で、昭夫君の演じる滝一也の優等生っぽさとはまた違う、若干アウトローめいた印象を人に与えるような口調と、設定年齢28歳という1号以外の主人公ライダーでは最年長という立場から1号を補佐するような動きを主にしている。
「何かまとめサイトとかでうちの両親が他所で作った子供とか言われてるんだけど」
「それ母さんに言うなよ。ブチ切れるぞ」
「もう切れててサイトの運営にめっちゃ文句言ってるよ」
手遅れだったか。あの母さんに目をつけられるなんて可哀想に……この事態を放置してたらこっちにまで飛び火が来そうだな。ちょっと監督に連絡を入れて公式に見解を出してもらわないと命が危ないかもしれない。
必要に駆られて東京の映画会社から公式見解を出してもらった翌日。ウィルが微妙な顔を浮かべて俺の部屋を訪ねてきた。何故かケイティまで背後に居り、その後ろにはキラキラとした顔でシャーロットさんが立っている。
『おめでとう』
「おめでとうゴザいます!」
「おめでとう一郎君!」
俺はシンジ君かな?
何が言いたいのか良く分からなかったのでとりあえず部屋の中に通し、思い思いの場所に座ってもらう。どういう話なのかを聞こうとしたら、シャーロットさんは英文の書かれた文章を俺に手渡してきた。多少は読めるが文字が多くて判別が出来ない。ただ、名前の部分になるだろう部分に書かれているスタン・M・リードというサインから大体の事情は察する事ができた。シャーロットさんが喜んでいる理由も。
『スタン氏からは日本の映画に出るならこちらも大丈夫だよね? って電話が来てた。何故か僕に』
「ウィルも一緒ダカら、怖くないデス。宣伝、お願いシマす!」
「いつかこんな日が来ると思ってました。勿論特設サイトの準備は出来ています。ヤマギシのHPに所属人員のページを作ったのでそちらで大きく喧伝しています!」
「しないでいいです……」
いつか来るとは思ってたが遂に来たか。頭を抱える俺にシャーロットさんはテンションが上がっているのかドンドンと俺の前にコミックの山を積み上げていく。何かと聞くと、予習しておくべき作品の日本語翻訳されたものらしい。何故ここにあるのかと問うと、いつか来る機会の為に布教用に用意していたとの事。そういえば貴方重度のスパイダーマン好きだったね。最近、慣れたと思って全然騒いでなかったのは機会を伺っていただけ、と。
『マジック・スパイディってそのままの名前みたいだね。ええと、突如起きたダンジョン災害で親友を守る為に右腕を失い、魔法を身に付けた少年。姿を隠す為にたまたまつけたアメリカのヒーローのマスクを被り、偽者のスパイダーマンとして日夜ダンジョンの脅威から街を守る為活動を開始する……』
「まさかの単独主演!?」
『あ、いや。この活動に目をつけてアメリカに招聘されるって書かれてるね。復讐者たちの話の一部で、最初は敵対するけど後で和解するポジみたいだよ。僕と君のコンビがスパイディと鉄男に真っ向勝負を仕掛けるらしい。狂ってるけど最高だ!』
ウィルの言葉にげんなりとしてしまった俺の横で、シャーロットさんがコミックの中から一冊の本を俺に手渡してきた。マジック・スパイディと書かれた表紙に、恐らくこれが原案なんだろうなぁとページを開く。個人としてもヤマギシとしてもスパイディの名前にはお世話になっているし、断れる話じゃない。
「あの。基本冒険者としての仕事を優先に」
「勿論分かってます。スタン氏は原作者である前に貴方のファンだと仰っていました。ただ、大事な作品の時に手を貸してくれるだけで良い、と」
「あの。余計プレッシャーが」
ニコニコと笑顔でそう言うシャーロットさんの無自覚なプレッシャーに押しつぶされそうになりながらマジック・スパイディを開く。
正直めちゃめちゃ面白かったです。ただ、面白い分これ演じるのは本当に怖いんですが……声は一花が協力する? 違う、そうじゃない。