遂に警官達から卒業生が出た。アメリカチームが8名、イギリスとドイツが6名、残りの参加国も4名から5名といった具合で卒業条件であるヤマギシチーム3名の捕縛をクリアし、50名程が奥多摩を去る事になった。研修開始から約2ヶ月。
想定より若干早い位に落ち着いたが、本当はもっと前にはこの半分位が卒業出来る予定だった。だが、卒業予定の警官達の自己判断で卒業を遅らせる事になったのだ。
『後に続く仲間達に自分達の経験を出来るだけ伝えたいのです』
最初の合格者は訓練を修了するかという問いにそう答えた。そして最初に実地訓練に入った50名全員が合格し、基礎講習を受けていた人間が全員実地訓練に参加できるようになった時、ようやく彼らは教育の修了を選択した。
総合ビルの1階にあるホールを借り切って行った第一回修了式にはまだ実地訓練中の仲間達も駆けつけ、先に国へ帰る仲間達を見送った。彼らはそのまま東京の世界冒険者協会のビルで式典を行って、その後一泊した後に母国へと戻っていくらしい。
「いやー、50人も居なくなるとやっぱり寂しくなるね!」
「来週にはお医者さんのブートキャンプの第一陣が来るからそれどころじゃなくなるがな」
「はや……早くない?」
「元々今くらいの時期に部屋が開くって見込んでたらしい。予想通りになって万々歳だな」
一花の疑問にそう答える。ケイティ曰く、部屋に空きが出たら即開始という予定だったそうだ。早ければ2ヶ月で開く予定だったから、ある程度都合がつけられる人だけが先行して奥多摩に来るわけだな。先行していた50名が自分達の経験をしっかりと後に続くメンバーに残してくれたお陰で、今現在の実地訓練では数回で教官を捉えることの出来るチームも居る。恐らく、後1ヶ月もしないうちに全員が合格できる気がする。
「今回の訓練も終わりが見えてきたな」
「新しいヒット商品も生まれたしね!」
魔力を封じるグローブの存在は、これから起きていくだろう魔法犯罪者の存在に頭を悩ませていた各国にとって福音とも言える存在だった。何せどれだけ魔力が強かろうがこのグローブがあればそれを封じる事ができる上、発売の際にはグローブだけではなく全身を覆うようなタイプの拘束具も開発してある。魔鉄の在庫が少し怖いが、そこはここ半年で増えた2種冒険者達に活躍してもらうとしよう。
「とりあえずは、あれだね」
「ああ。そうだな……そろそろいくか、31層攻略」
そして、ある程度訓練に目処がつき、人材の動きも押さえる事ができるようになったため、中断していた31層の攻略に着手する時間が出来た。とある用件で俺のスケジュールがかなりタイトになってしまったがこれはしょうがない。リザレクションをかけて眠気も疲れもぶっ飛ばしてやるしかないだろう。後、そろそろ恭二の目が怖いしな。
「実はもう対策を用意してある」
「おお、流石は恭二博士。で、どういった魔法なんですか?」
「ゴーグルにアンチマジックをかけたらいける」
「マジか」
マジらしい。と言っても勿論、特製のエレクトラムを蒸着させたものでないと意味が無い。ようは奴の視線は魔法と同じ、という事だ。視線を受ける際に普通のアンチマジックでは抜かれてしまう。なら、アンチマジックをかけたメガネやゴーグルならば防げるのではないか?
恭二はそう考え、実際に沙織ちゃんと御神苗さんと一緒に試しに行ったらしい。危険だから止めろよお前と真一さんがマジ切れしてた。せめて一郎を連れて行って被害担当にさせろ? それちょっと扱い酷くないですかね。
「お前なら気合で何とかなるだろ。バンシーの時みたいに」
「あれは本当になんでああなったか今でも分からないもんね!」
真一さんがさも当然のようにそう言って、それに実の妹まで乗っかってくる。俺の味方はどこかに居ないのだろうか。沙織ちゃんや恭二すらも目を逸らしてしまった。ウィルはこういう時は最初から敵だから眼中に無い。
「私はスパイディの味方ですよ」
「シャーロットさん!」
「だから、今回の動画は任せてください!」
「シャーロットさん!?」
カメラを片手に親指を立てるシャーロットさん。またシャーロットさんのスパイディ病が発症してしまった。こうなると彼女は敵ですらないもっと厄介な相手になってしまう。全部が全部善意で来られるから断りにくいのだ。
また、映画の話がある以上宣伝材料は多いほうがいい、という事なので今回は強制的にスパイダーマンになった。久しぶりに実戦での動画撮影の為、ジャンさん達撮影班も本気の装備で潜る事になるらしい。まあ、その前にまずはバジリスクに対策が出来ているか、が問題だがな。試したのは1人だけだし実証は多いほうがいいだろう。
30層までエレベーターで移動し、そのままパーティーを二つに分ける。今回は俺がメインアタッカー、ウィルがサブで、一花、ケイティ、シャーロットさんが援護する形になる。全員がきちんと特殊マスクを着用してのアタックだ。こいつでちゃんと防げていれば……
「……目があったが、なんとも無い!」
『流石はキョージだ』
バジリスクの視線にすくむ事も無く俺達は魔法を放ち、怯むバジリスクに俺はウェブを射掛けてぐるぐる巻きにしてしまう。そして、勢いをつけて脳天からスタンプ攻撃をすると、バジリスクはくぐもった悲鳴のような声を上げて煙になった。これならバジリスクは怖くない。
行くか、32層。
仲間達と頷きあって、俺達は更に奥へ向かって歩みを進めた。