奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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第百八話 初見殺し再び

 32層に突入した結果を言うとただ一つ。コカトリスは弱い。以上だ。

 31層と違って今回はスピードクリアを目指している為まっすぐにボス部屋へと向かっているのだが、途中で遭遇したコカトリスは全てフレイムインフェルノ一発で倒してしまった。ナイフ投げの意味がなくて前衛に回った一花が暇そうにしている。何せほとんど拘束→恭二のインフェルノで終了してしまっているからな。2、3戦した位から後続のメンバーは身構えることすらなく周辺のマッピングや石やコケの採集を行っている。コカトリスは感知にもバンバン引っかかるし、厄介さで言えば明らかにバジリスク以下なんだよなぁ。

 

「あっと言う間に着いちゃったな、ボス部屋」

「拍子抜けって奴だが、皆。そろそろ気合を入れなおせよ」

 

 気の抜けた言葉を聞いた為か、真一さんが周囲のメンバーを見回して注意を促す。その言葉に頷く仲間達の様子をみながら、真一さんは深く息を吸って、吐き出した。真一さん自身も32層は本当に何もしてなかったからな。深呼吸で気分を入れ替えているのだろう。

 

「とりあえず私はお役御免だから後ろに回りたいかなーって」

「……恭ちゃん、私も後ろに行きたいなー」

「いや、どうしたんだ急に?」

 

 こそっとボス部屋を覗いて来たらしい一花と沙織ちゃんが揃って不参加を申し込んできた。若干顔色も青くなってるし、またゴースト系の敵だろうか。恭二と目があったので二人でそろっとボス部屋へ近づき中の様子を見る。

 

「サソリだ」

「サソリだな。でけぇ……あれで刺されたら一撃で死ぬんじゃね」

「バリアは効くと思うけど、接近戦は避けた方が無難だろうな」

 

 二人してそう頷き合って仲間達の所まで戻る。コカトリス2体を従えた巨大なサソリ、という単語で女性陣が軒並み拒否反応を示していたので、メンバーは俺、恭二、ウィルを前衛に真一さん、御神苗さん、デビッドが後衛として前衛をサポートする形を取る。今回はここで終わる予定だし、33層を進む時までには慣れてくれと言っておいたが……

 

「どうするかね。一先ずフレイムインフェルノでコカトリスは片付けるとして、問題はあのサソリだな」

「先に天井に張り付いて注意を引き付けるから、その隙に何が効くか試してくれ」

「オッケー」

「第二陣は万一の事があったら支援を頼む。全員、バリアとアンチマジック、そしてレジストはしっかりかけろよ」

 

 指示通りに各自が準備を行う。俺はそれにプラスしてウェイトロスをかけておく。空中をぶんぶん飛び回るのにこいつが解けたら不味いからな。後は、あのサソリの能力しだいなのだが、サソリの化け物ってなるとパッと思いつくものが無い。尻尾からビームとか毒液発射なんかだと非常に困るな。早めに拘束してしまおう。

 

「よし、行くぞ!フレイムインフェルノ!」

「おう!」

「フレイムインフェルノ!」

 

 真一さんの号令にまず恭二のフレイムインフェルノが飛び、コカトリスを焼き尽くす。残ったサソリの注意を惹き付ける為に俺はまっすぐ飛び出してウェブを数発サソリに浴びせ、そして天井にウェブを飛ばす。空中へ移動しようとジャンプした瞬間、何故か体が急に重くなり、天井に張り付いていたウェブがくっ付いていた岩ごと地面に落ちてしまった。中途半端にジャンプしてしまっていた俺は地面に着地すると、俺の拘束を振り解こうともがくサソリから急いで距離を取って後方を振り返る。

 

「何だ!? おい恭二、今何が……」

 

 後方を振り返って何が起きたのかを確認しようとすると、そこには地面に押し付けられるように倒れ伏す仲間達の姿があった。何かしらのドームのような物が部屋を覆っており、その中に居た俺とサソリ以外の仲間達が全て封じられている。

 

「お兄ちゃん! 後ろ……あぐっ!」

 

 駆けつけようとした一花がドームに入った瞬間、叩きつけられる様に地面に倒れ伏した。そちらに注意が向きそうになったが、ぞわりと背筋を予感が走り、気付いたら俺の体は真横に飛んでいた。拘束から抜けたサソリの太い尻尾が俺の体が先ほどまで居た場所を通り過ぎる。間一髪か。いや、それよりもこの状況は不味い。後方ではアンチマジックをケイティ達が唱えているが、効果が薄いようだ。

 

 こいつをあちらに向かわせたら不味い。今、身動きの出来ない仲間達は瞬く間に殺されかねん。つまり、こいつをここで足止めもしくは倒さなければいけないわけだ。俺が何故影響を受けていないか分からない以上、攻撃力の高い他の姿に変身をするのも不味い。スパイダーマンモードを解いた瞬間、地面に縫い付けられたら不味いのだから。

 

「時間を稼ぐ! 恭二、そっちは何とかしてくれ!」

「ぐ、ぎっ……た、たの、む!」

 

 苦しそうな恭二の声を背中に聞きながら、俺は横に飛んでサソリの尻尾攻撃を避ける。すれ違いざまにウェブを飛ばそうとしても地面に落ちてしまい飛ばす事ができない。しょうがないのでウェブをそのまま伸ばして、鞭のように振り回して相手に向かって嫌がらせのようにぶち当てる。攻撃力こそないが、多少距離が取れる上に相手の注意をこちらに引きつける事が出来たようだ。サソリはぶんぶんと振り回される糸にイライラしているのか、鋏と尻尾を使って糸を切ったり当たらない距離で尻尾を振り回したりと翻弄されている。

 

「いと、が……そう、か、ウェイトロスだ! 兄貴」

「う、ウェイ、トロス……!」

 

 俺が注意を惹き付けている間に恭二が事態を解決させたらしい。倒れ伏していた仲間達が次々と復活していく姿が横目にちらりと見えた。成る程、ウェイトロスのお陰で俺は動けていたのか。ジャンプしたときに感じた体が重くなった感覚は本当に重くなってたって事だな。

 

「サンダーボルト!」

「サンダーボルト!」

『サンダーボルト!』

 

 サソリに向かって復活した恭二と真一さん、デビッドのサンダーボルトが飛ぶ。その3本の魔法にサソリは瞬時に消し炭の灰になって煙のように消えた。ドロップ品は……毒の尻尾とかどうするんだこれ?

 

「駄目だな。このドーム、まだ消えない」

『ウェイトロス、覚えてて良かったけどこれいつまで出っ放しなんだろうね』

「多分、重力を増してるんだろうね! 魔法何でもありすぎじゃね?」

「今さらだろう。恭二、解除できないか?」

「んー、ちょっと待ってくれ。こうかな? アンチグラヴィティ!」

 

 恭二はドームの外まで出てからしげしげと外観を確認し。眉を寄せながら新しい魔法を唱えた。すると部屋中を覆っていたドームのような重力場が掻き消える。久しぶりに来た初見殺しの敵だった。コカトリスが楽だった分、衝撃が大きかった気がする。

 

 目標のボス部屋も攻略できたし、今日はもう解散しよう。真一さんは心底疲れ果てたという風にそう言って、恭二にゲートを開かせた。普段は魔力消費が、と早々使う事のないゲートだが、今日は四の五の言ってられる精神状況じゃない。ウェイトロスが使えなかった御神苗さんなんか、シャーロットさんに肩を借りてようやく歩けている有様だからな。

 

 反省会を行う空気でも無かった為、その日はそのまま解散し各自で体を休める事になった。一時とは言え影響を受けた一花も辛そうに歩いていたから、久しぶりに背負って実家の方に帰った。小学生の時以来だったため少し恥ずかしそうにしていたが、たまには兄貴らしい所も見せないとな。

 


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