流石に年齢が年齢なので引退やら何やらありますから、それが出来なくてもリスペクトを感じられる物は楽しめると思います。
誤字修正、アンヘル☆様ありがとうございました!
「死ぬかと思った」
ダンジョン探索の翌日。朝に食堂にやってきた恭ニの言葉に、あのサソリの能力を受けた人間は一斉に頭を縦に振った。俺も一応受けた側なんだが、酷い目に遭った訳ではないので頷きにくい。あいつとの一騎打ちは死ぬかと思ったが。
「だが、その甲斐はあった。そうだろう?」
「ああ! 皆見てくれ。フロート!」
恭ニが手に持ったボールに魔法をかけると、ふわりと、とボールが宙に浮いた。明らかに物理法則を無視したその動きにどよめきの声が広がる。普段は冷静なケイティすら驚きの余りガタっと椅子から立ち上がり、隣に座っていたウィルに座るよう促されていた。ウィルも手が震えているので冷静という訳ではないだろうが。
ボールは数分間空中に浮き続けて、そして効果が切れたのか地面に落ちた。
「こいつは昨日のアンチグラビティの派生の魔法だ。重力を重くする魔法があるならその逆もあると思って開発してみたんだが、普通のボールでもこれだ。こいつがしっかりとエレクトラム加工をされた素材に付与されればどうなるかはまだ分からんが、これより下って事はないだろう」
魔法の効果が切れたボールを手に持って、真一さんは俺達を見た。
「法務の方にはすでに話を通してる。知財管理部が大仕事だと張り切ってるよ」
「医療、工業問わず利用方法はいくらでも有るよ! 宇宙開発にも使えるだろうし」
「まぁ、専門的な使い方はその道の人に任せて俺達は大元で実利にありつくのが一番だろう。取り敢えずこれからの予定に支障をきたさない程度に色々開発していく予定だ。あと、ケイティとウィル。ここで君達に情報を渡した意味はわかるな?」
「もちろんデス。報告と口止メ、理解してマス」
『邪魔はしないし、援護は任せて』
国内は元より、これで国際特許についても問題はないだろう。ブラスコとジャクソンが噛んでくれた以上、テロ対策も含めて万全になりそうだ。
その後は軽く今日の打ち合わせをして食事を取り、各自が自身の仕事に向かって行った。今日は予定が無いため、昭夫君でも誘って遊びに行こうかと歩き出した俺を、ちょいちょいとウィルが手招きしてくる。
スパイダーマンスタイルでもないのに非常に嫌な予感がした俺は逃げようとしたが、振り返るとそこには満面の笑みを浮かべたシャーロットさんの姿があった。
『やぁ、久しぶりだね!』
『あ、はいお久しぶりです』
前に作ってもらった高級スーツを着せられて、俺はウィルとシャーロットさん、そして何故かめかし込んだ一花に引き摺られる様に東京の方の映画会社にやってきた。
「おお、兄ちゃんあれあれ」
「やめろください」
玄関にデカデカと飾られる自分と初代様の握手の写真がマジで恥ずかしい。これ、今度の映画用に変身したバージョンも撮ってあって週替りで展示されてるらしいんだが、この会社は本社をテーマパークにでもする気なんだろうか。
いや、そこは良い。自分も許可を出したし、割とノリノリで撮ってたのは否定しない。だからそっちは良いんだが。
『所でなんでここに居るんですかスタンさん』
『ハッハッハ! 君の顔が見たかったのと少しの野暮用だよ!』
『今度の映画の試写会に是非参加したいと言っているんだ』
何故か通訳のような形でスタンさんの隣に座る初代様がそう言葉にすると、スタンさんは大きく頷いて俺を指差した。
『それよりズルいよ、イッチ! 映画に出てくれるなら早く言って欲しかった』
『成り行きなんです。申し訳ない』
『冗談だよ。彼等のマネジメントが優れていたんだろう。もちろん、次の映画の時は宜しく頼むよ』
『あ、はい』
ニコニコとそう語るスタンさんの笑顔に、どうやら退路を完全に絶たれたことを悟る。
その後、日本のスパイダーマンの話をしたり、新しい映画の素晴らしい点などを語ったスタンさんはそろそろ会談が終わるという頃合いに一度言葉を切り、尋ねるように隣に座る初代様に言った。
『所で、現在世界的に有名になりつつある【ライダーマン】、彼の映画は存在しないのですかな』
『ライダーマン、ですか』
困惑する初代様と映画会社の重役に、笑みを浮かべながらスタンさんは話し続ける。今の状況が非常に勿体無い、と。
現在、ダンジョン関係でのニュースが絶える事はほぼないという状況で、爆発的に認知度が上がっているコンテンツがある。例えばスパイダーマン、例えばメガマン、例えば、ライダーマン。全て俺が初期から変身をしている物だ。そして、この三つの中でただ一つ。ライダーマンだけが現状を活かしきれてないのだという。
『スパイダーマンは問題ない。我々は何度だって彼の映画を作るだろう。メガマンもそう。あのシリーズはまだまだ続くし、今の追い風にのって新作を開発中だそうだ。では、ライダーマンは?』
「それについては、今回の映画が」
『そう。今回の映画が出来たからこそ真剣に検討するべきだ。あの動画の出来は素晴らしい物だった。本編もきっと素晴らしいだろうね……その素晴らしさを知る為にはかつてのドラマを知らなければいけない。その為に40年前の話をそのまま流すのも駄目だ』
そう問いかけるスタンさんに、映画会社の重役は答える事が出来ない。困惑している周囲を見渡して、スタンさんは微笑む。
『今こそかつてのライダー達の軌跡をリバイバルするべきタイミングではありませんかな?』
そう言ってスタンさんは席を立った。あの、何で俺の襟首を。ダンジョンに入りたい? この場はこのままで良いんですかスタン先生!