奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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前話の続きです。

誤字修正。244様、アンセルム様、KUKA様ありがとうございました!


第百十話 嵐のような男

『ううむ、興味深い』

『スタンさん、ゴブリンも刃物を持ってるんでそんな近づいたら』

『うぉ! はは、こいつめ!』

 

 初めて見る明らかなモンスターである大コウモリやゴブリンに近づきすぎて危ない目にあったり、オークを観察しようと彼がふらふら近づく前にオークをウェブで拘束すると細部が見れないと文句を言われたり、スタンさんを連れたダンジョン探索は非情に順調に進んだ。順調に、進んだのだ。

 そして、必ず見たいといっていた11層に彼を連れて行く。

 

『素晴らしい』

 

 ゴーレムの歩く姿を見てただ一言、彼はそう言った。手に持ったカメラでパシャパシャと撮り、興奮した様子で早口で何事かをまくし立てながら色々な角度でゴーレムを撮影する。あんまり近づかれる前に対処したいんだが、ちょっと声をかけるのが憚られる光景だ。

 

『あー、スタンさん。何か倒し方にリクエストがあれば』

『ウェブで! あ、いや。ロケットランチャーもやはり捨てがたいな! メガマンのナパームショットも捨てがたい! ううむ、これほどの難問が唐突に襲ってくるとは全くダンジョンは素晴らしいな!』

 

 咄嗟にウェブと叫んだ後も考え直したように様々な武器や技名を呟いてはあーでもないこーでもないとスタンさんは悩み続ける。そろそろゴーレムの攻撃範囲だから危ないんだが。しょうがないので、最初に叫ばれたウェブでゴーレムの足を縫いつけ、バランスを崩して倒れこんだゴーレムを更にウェブで縛り付ける。

 

『イィヤッホゥ! やっぱりウェブは最高だ!』

『恭二、ロケラン』

「あいよ」

 

 回収係兼万が一の護衛役に連れてきた恭二からアメリカ製のRPGを受け取り、スタンさんを手招きする。何でもアメリカで1種冒険者の資格を取ってきたらしいので、折角だからゴーレム退治を体験してもらおう。目に見えて戸惑うスタンさんにRPGを手渡した。

 

『これを、私が?』

『ええ。冒険者なら使用許可を出せるので』

 

 おっかなびっくりといった様子でRPGを構えるスタンさんに念のためにストレングスをかけ、動きを封じられたゴーレムに向かって引き金を引いてもらう。真っ直ぐ飛んでいった対戦車榴弾は直撃したゴーレムをバラバラに吹き飛ばす。その光景にスタンさんは先ほどまでの戸惑いなど感じられない声で叫び声を上げた。

 

『ハッハー! これは最高の気分だね! 陸軍を退役して70年経つが、まさかこんな所でこんな兵器を使うとは思わなかったよ!』

『陸軍に居たんですね』

『ああ。戦時中にね。ずっとマニュアルや漫画を書かされていたよ。この年になってまさかね……人生とは何があるのか分からないもんだ。そしてそれが楽しい』

 

 スタンさんは手元のRPGを恭二に返すと、テクテクとゴーレムが居た場所に歩み寄り魔石を拾い上げる。今回倒した魔物の魔石は吸収してくれて構わないと伝えている為、そのまま吸収しているのだろ。ゴーレムは10層までのモンスターとは格が違う魔力量を持つから、かなり実感のある魔力アップになるはずだ。

 

『うぅむ、やはりゴーレムの魔石は違うね。以前誕生日プレゼントで渡された時を思い出すよ。あれ以来若い頃に戻ったように体が動いてくれるんだ』

『初めて会った時も十分若かったですがね』

『気分はいつだって20代のつもりだよ。だが、どんなに気張っても90を超えたら体が動かなかった。今は気分も体調も同じ年齢に戻ったよ』

 

 顔に皺は刻まれているが、確かに彼の歩みは90代の男性には見えない。もっと若い……下手をすれば30代に見られてもおかしくない程にしっかりとした足取りだった。

 

 

 

 スタンさんは奥多摩に1泊して帰る事になった。日本での用事は大丈夫なのかと尋ねた所、本当に俺の顔を見るのが主の目的で、東京の方の映画会社に寄ったのはあくまでも挨拶と、あとは少しだけ今後のビジネス展開について相談したい事があったそうだ。

 

『実は君が来る前に、日本版スパイダーマンを復活させられないかと相談したんだ』

『そっちもですか』

『スパイダーバースもあるからね。まぁ、はっきりと断られてしまった。代わりにスパイダーバースでのレオパルドンの使用許可はもらえたけど』

『そっちをですか!?』

 

 映画に出るのかレオパルドン。めちゃめちゃ見たいぞレオパルドン。漫画のスパイダーバースではちらっとだけ出て仲間を逃がす為に破壊されるという素晴らしいポジションだったが映画だとどうなるんだろう。むしろ実写で出来るのか?

 

『君と一花君が協力してくれるなら実写化も可能だと思ってるよ。スパイダーシリーズ初の3Dアニメも悪くないんだけどね、僕は』

『先の話は止しておきましょう』

『うん。という訳で次の復讐者たちはよろしく頼むよ。全世界が君を待っている』

 

 いや、待たれてもねぇ。と内心思ってしまうのだが、協力すると言った手前頷く以外の行動が取れない。余り映画などに拘束されたくないと事前に話しているから、そこを考慮してくれる事を祈るしかないか。俺が口をもごもごとしている様子がおかしかったのか、スタンさんは笑って俺の肩を叩く。

 

『勿論、ライダーの方と被れば調整は行うとも。私はあちらも楽しみにしているんだ』

『いや、ええ……あれどれ位本気だったんですか?』

『作り直すという意味でならまず無理だろうね。例の漫画のアニメ化が出来れば御の字という位じゃないかな? ただ、新規の為の入り口を作ってほしいというのは本音だよ。特に若い外国人が入りやすいような、ね。あれだけの拘りを持って作られた作品だと難しいかもしれないが。パワーレンジャーのようにこっちに合わせて輸入してしまうのも良いかもしれないな。その際は初代の彼に師匠の役を担ってもらって……』

 

 ぽんぽんと何でもないことのように新しい構想をどんどん並べ立てていくスタンさんに、俺は相槌を打つ事しか出来なかった。この人、若さを取り戻した途端にこれか。アメリカの方では連続で新企画や映画の企画が出てるらしいが絶対この人がやらかしてるんだろうな。間違いない。

 

 空港まで見送り、別れ際に『また近々会うと思う』と不吉な予言を残して嵐のようにスタンさんは去っていった。たった二日案内をしただけなのにサソリと戦った時よりも重くなった体を引きずって俺は奥多摩に戻る。今日はもう、休もう。

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