奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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第百十一話 警官教育修了。あとフロートの影響

 警官隊全員の教育がようやく終わった。総勢240名、計3ヶ月に渡る訓練の最後の修了式にはこれまで教育に尽力してくれた教官たちや日本の参加者だった警官も訪れ、最後の修了者たちを労っている。

 

「ようやく一山終わったなぁ」

「次の医者ブートキャンプは始まってるけどあっちは警官隊ほど付きっ切りって訳じゃないからね」

 

 恭二と一花が雑談をしている脇で、俺は大量に詰まれたコミックスの消化を行っていた。余り読むのは早いほうではないため、他の仕事をしながらだとどうしても読むのが疎かになってしまうからだ。後は、知識の蓄えというのか。何か良い魔法のネタがないのかもチェックしている。ドクター・ストレンジ……これ恭二に読ませたほうがいいかもしれんな。何と言うか、あいつならいくらか再現できそうな気がするのだ。暇な時に読んでもらうのもありかもしれない。

 

「なぁ、兄貴。フロートの方はどうなりそうなんだ?」

「開発部の先輩が言語能力を失う位驚いてた」

「まぁ、そうなりますわな」

 

 エレクトラムを使用したシールドにフロートをエンチャントする。ただそれだけの事なのだが、それを見た人間は大概が言葉を失った。何せ、ぷかぷかと板が浮いているのだ。送風機がないかとシールドの下に手を突っ込んだ人も居る。また、フロートでエンチャントしたシールドに恭二が乗ってみたら普通に浮いていたので人が乗れる事も実証されており、持ち込んだ特許庁の役人はその日のうちに慌てて査定を行い異例の速さで特許が取れた。

 

 この早さには日本政府からの特例の措置も絡んでいる。海外では「先に登録したモン勝ち」という特許システムの国もある。そんな国に貴重な魔法技術を取られる訳にはいかない、と日本政府はヤマギシからの特許取得の要請には可能な限り最短で応える様に通達を出しているらしい。えこひいきと言ってしまえばそれまでだが、魔法エネルギーや今回のフロートにはそれだけで国の力を大幅に増しかねない可能性がある。最優先で確保をしなければといけないと政府も思ってくれているのだろう。

 

 特許を取得した事を公開した後、俺たちヤマギシ宛にとんでもない数の問合せが入ってきた。なんせ浮遊、反重力だ。この言葉だけで様々な可能性を見出す人は多いらしい。

 

「とはいえ、今現在だとただ浮き上がるだけしか出来ないからなぁ」

「制御が問題だね。後ろにプロペラでもつける?」

「それが最有力だな。現状でもホバークラフトを駆逐してしまいそうな性能の船は出来ると思う」

 

 浮き上がるという事は出来ても前に進んだり止まったりという機能はこの魔法には無い。その為そういった事を行う機能をつけなければ折角の浮遊能力も活かしきれないのだ。ただ浮遊させるだけなら現状でも十分なんだがな。先に述べたホバークラフトとかを参考に色々考えているのだが、ブレーキの部分や空中での姿勢制御がやはり難しいようだ。ダンジョン内部の資材運搬機を開発できないかとバイクや車を提供してくれているとある企業が接触してきているらしく、そちらと共同で考えるのもありかもしれない。

 

 また、エネルギー開発の時に協力してくれていたIHCが宇宙開発の分野でフロートを使った新素材の開発が出来ないかと持ちかけてきている。宇宙に上がる際、一番リスクがあるのはロケットで無理やり成層圏まで持ち上げる時らしいのだが、この部分をフロートが代用してくれれば安全に宇宙まで上る事ができる、というのだ。また、航空関係ではフロートによる浮遊は大幅なコスト削減の可能性を秘めていると話題になっているらしい。何せ浮き上がる為に必要なエネルギーを丸々推進力に使えるのだ。魔法エネルギーの開発が進むと共に開発されている新しい魔法式ジェットエンジンと合わせて、気の早い人などは既存の航空技術は過去の物になるとまで言い始めているらしい。言いたい気持ちも分かるけど、古い技術と組み合わせた方が効果はあるんじゃないかと思うんだけどね。

 

 

 

「なんかお悩みみたいなんで、すっごい簡単な案ならあるけど聞きます?」

「是非!」

 

 最近、事ここに至っては自身も魔法を覚えなければいけない、とマスターイチカの門下生になった研究部所属の真一さんの先輩が、引きそうなほどの剣幕で頭を下げてくる。本当に困っているらしい。この剣幕で来られる様な大した考えじゃないんだが。

 

「ええとですね、とりあえずこれですね」

「……絨毯?」

「はい。全体にエレクトラムの塗装を吹きかけた簡易のものです。別に絨毯でなくてもいいですよ?」

 

 一瞬、魔法の絨毯でも想像したのだろうか。変な表情になった先輩さんにただ身近に合った物で代用した旨を伝えると納得したのか半信半疑なのか、微妙な表情のまま先輩さんは頷いた。

 この絨毯はあくまでも浮遊する為の材料、ようは土台のようなものだ。そこそこの大きさで平べったいものなら木の板でも良い。この浮かせた絨毯の上に、更に大きな絨毯を被せる。その絨毯の端が地面にすれる手前位が望ましいかな。

 

「成る程。上に乗せた絨毯の自重で安定性を求めるのか。ホバークラフトに近い考えかな?」

「ああ、それもあるんですがどっちかというとこちらが本命です。恭二、エアコントロールをこの上の絨毯にかけてくれ」

「ん? ああ、ちょっと待て。エアコントロール」

 

 傍で暇そうにコミックを読んでいた恭二に頼み、エアコントロールをかけてもらう。風の結界がきっちりと絨毯の周りを覆っているのを確認すると、先輩さんにこの絨毯の上に乗り込んでもらう。

 

「ふむ、ああ、やはり単独で飛ばしているよりは大分安定するが、何故エアコントロールを?」

「恭二、そのまま動かしてみてくれ」

「は? ……あ、ああ!」

「え? あれ、これ動いてる? 何で!?」

 

 恭二と先輩さんが驚きの声を上げる中、絨毯はのろのろと動き始めた。やっぱり出来たか。空気をコントロールする、文字通りこの魔法はそう言った魔法なのだ。なんせウェブを使って高速で動いていてもこの魔法を使っていれば風の影響などを一切受けることは無かったのだから。

 先輩はブレイクスルーが起きた! と慌てて飛び降りようとして転んで地面に落ち、それを気にする素振りも見せずに立ち上がって走り出した。恐らく研究室に向かうのだろう。こんな簡易式ではなくもっとしっかりとした作りの魔法の絨毯とか出来ないだろうか。乗ってみたいんだが。




先輩:原作登場キャラだが名無し。開発部門で真一さんといつも悪ふざけのようなノリで様々な発明品を開発している。今作ではマスターイチカの一門に所属する事になった。実は82話から居る。

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