奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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誤字修正。244様、所長様ありがとうございました!


第百十三話 アンチグラヴィティの逆

『まぁ、命懸けだし仕方ない事だよ。休憩は誰にだって必要だしね』

 

 一人でしみじみとラーメンを食べていた俺に、たまたま居たウィルと昭夫君を交えて先程の話をする。予想以上に深刻な内容だったのか昭夫君は二の句が継げないようだが、こういった話とは縁が遠そうなウィルはあっけらかんとした態度でそう言ってラーメンを啜り始めた。

 

「……軽くね?」

『余り深刻に言ってもね。それにまぁ彼は帰ってくるって言ったんだろ? なら帰ってくるさ』

「成る程、信頼し、してるんですね?」

『まぁ、何だかんだ彼以上のリーダーは居ないし信じたいって感じかな?』

 

 イチローもキョージもリーダーとして見ると論外だからね、とサラリと毒づくウィルに肘打ちを入れてラーメンを啜る。

 実際、他のメンツでリーダーなんてやるのは厳しい。初めて潜る階層なら特にだ。一番適正がありそうなのは一花かケイティだが、その二人は恐らく俺と恭二に頼りすぎてしまう。ウィル? 真っ先に敵に飛び込む奴がリーダーやるのは間違ってるだろ。

 

『まぁ、暫く骨休めでもしようよ。新発見の連続で世界も驚く気力を失ってる。今追加が来ても消化しきれないよ』

「フロートはすごか魔法たい!」

「まあ、それはそうだけどな。あと昭夫君、素が出てるよ」

 

 ここ数日はどデカい新発見の連発でニュース等もフロートとエアコントロール一色になっている。フロートはともかくエアコントロール自体は大分前から存在するんだがな。

 

『今までエアコンとしてしか使ってなかったから、そんな事が出来るなんて少しも思わなかったからね』

「いっつも使ってるけん、げふん。意識して、ませんでした。全然使いこなしてなかっ、たんですね」

「まぁ、エアコントロールしながら高速移動なんて俺位しかしないだろうからなぁ。初代様はキックの時に使ってたみたいだから多分気づいてたみたいだけど」

 

 あれって驚く事かな? とか普通に呟かれてた時はちょっとびっくりした。実際に使わないと意識しないってのは確かにあるだろう。昭夫君みたいに普段からエアコン代わりに使っている人にとって、温度調整以外にこの魔法の使用方法が存在するなんて考えなかっただろうし。あ、花粉症予防に使ってたってのは居たな。あれで気付くべきだったのかもしれない。

 ラーメンを食べ終えて3人で何となく総合ビルをぶらぶらしていると、冒険者協会支部から両脇に美少女を侍らせたハーレム野郎が降りてきた。あっちいけ、と手でしっしと追い払うも仲間に混ざりたそうにこちらを見てくるのでしょうがなく1階の休憩室に移動する。

 

「折角の休みなんだから都心に出てこいよ。二人連れて」

「都心で遊ぶよりダンジョンに潜りたい」

「ダンジョンガチ勢怖すぎ」

 

 恭二の怖い所は多分100%本音でこれを言ってる事だろうな。隣にこんだけ可愛い女の子を連れて最初に出てくる言葉がダンジョンな辺りヤバすぎる。

 

『人数的には丁度良いけどね。僕もサソリにはリベンジしたいし』

「お前、一応あんとき死にかけた一人だよね?」

『あの程度の失敗は目じゃないよ。僕の20年間の日陰者扱いに比べたらあの程度は軽いものさ』

 

 サラっと重い事を軽い口調で話すんじゃない。昭夫君も沙織ちゃんも引いてるじゃねぇか。ケイティは共感する所があるのかうんうんと頷いてるし、恭二はそんな事はどうでも良いからダンジョンいこうぜってオーラが出てる。お前最近本当に隙あらばダンジョンって言葉にするの止めろよ。真一さんからも結構ガチで心配されてるんだぞ?

 

「とっとと最下層まで行きたいのに世間が邪魔するんだよ……俺にダンジョンを潜らせてくれるならアメリカでも」

「ダメ! キョーちゃんは奥多摩の冒険者なの!」

「キョーちゃん! テキサスはイツでもOKヨ!」

 

 恭二の不用意な発言に普段は仲の良い二人が全面戦争になってしまった。こういう場面だと恭二は役に立たないし、ウィル、頼む!

 

『いや、キョージがアメリカに来てくれるなら大歓迎だけど、多分今よりダンジョンに潜れなくなるよ? 他の国はまるで人員が足りてないんだから』

「俺は奥多摩の一冒険者だから」

 

 ウィルの言葉にあっさりと変わり身を決め込む恭二に、俺と昭夫君のローキックが入った。

 

 

 

『アンチグラヴィティはこうか。ありがとうキョージ』

「そうだよな。アンチグラヴィティが出来るって事はお前なら逆も出来るって事だからな」

 

 ダンジョン11層の荒野地帯。入ってすぐに俺たちは近場のゴーレムを片付けて安全地帯を作り上げると、そこに陣取ってひたすら魔法の練習をした。もちろん、目下の目標であるアンチグラヴィティの練習だ。サソリの代役は恭二がやってくれている。

 

「グラヴィティ!」

『んー、そこはベ○ン! って言って欲しかったかな』

「じゃあベ○ン」

『良いね! 気分が乗ってきたよ!』

 

 地面に縫い付けられたウィルの言葉に恭二がさらに重圧をあげたらしく、ミシミシと音が聞こえてくる。アンチグラヴィティの上からグラヴィティを重ねがけすると突破されるみたいだな。

 

「突破って言うより対消滅だな。火が水で消えるみたいに魔法の効果が互いに消えてる」

「なるほど。最悪、キャンセルじゃなくグラヴィティをぶつけても良いのか」

「いや、それはそうだけど俺以外にこの魔法使える奴出てくるかが分からん。難しいぞこれ」

 

 そう言って恭二がグラヴィティを解除すると、ウィルがひょいっと立ち上がった。屈伸運動をしている所を見ると血が大分下がってしまったのかもしれない。グラヴィティに関してはセンスが抜群に高いケイティでも一発では使えないみたいだし、暫くは恭二のオリジナルスペル扱いになりそうだな、これは。

 

「対消滅……メドロ」

「流石にやらねぇよ」

 

 沙織ちゃんが一言呟こうとする前に恭二が止める。一花、お前沙織ちゃんにも読ませたのかダイ大。名作だけどさ。


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