誤字修正。244様、あんころ(餅)様ありがとうございます!
『本郷さん、後は任せました』
『止めろ、結城君! 引き返すんだ!』
『その頼みは、聞けませんね』
加速し続ける輸送機の中、通信機ごしに漏れる声。尊敬している男の悲痛な叫びは、心に痛いのか。溢れ出す血液を左腕で押し止め、結城一路は通信機の電源を切った。積めるだけ積んだ火薬の山の中、蹌踉めきながら立ち上がる。
『さて……本郷さんじゃないのは悪いが、地獄までの案内は頼んだ。慣れてんだろ?』
『ふん、ライダー共を1人、道連れに出来るのなら本望よ……いや、不服か。自身の力で貴様らを倒す事こそ我が望みだったのだ』
全身をロープアームで雁字搦めにされた男は、自嘲の笑みを浮かべた。
『若造、名を名乗れ』
『……結城、一路』
『ふっ……結城丈二の……小僧。生きて戻れれば本郷に伝えよ。地獄大使は、再びお前の前に立つと。必ず、だ』
『……てめぇで伝えろよ、爺さん』
地獄大使と呼ばれた男が苦しげに呻くと、体が揺らめくように掻き消える。ロープをすり抜ける様に拘束から抜け出した地獄大使の拳が一路……ライダーマンを捉えた。
『大怨霊……いや、大首領。ライダーマン、結城一路の最後を見な!』
手に持った爆弾を叩き付け高らかに笑い声を上げながら結城一路の姿が爆炎の中に掻き消える。
「え、死んだの?」
「その後しれっと復活するんじゃない?」
「一応出番は終わりなんだなぁ」
ジャンの編集作業を見ながらコメントを残す恭二と一花にそう返す。ラスボス手前で退場が今回の俺の役所らしい。
この後、滝ライダーこと滝一也も敵の兵隊を引き受けて1号ライダーと現在放映中のライダーに道を譲り、先へと進んだライダーたちが大怨霊を引き剥がされた敵の親玉を叩くのだそうだ。そのシーンの撮影が終われば今回の撮影は終了、クランクアップだ。と初代様が嬉しそうに語っていた。
「結局この大怨霊って何だった訳?」
「元々は大昔に封印された妖怪みたいなものらしいんだけど、蓋を開けてみたらショッカーの大首領が力を奪って成り代わってたんだって。初代ライダーからの敵なんだけど、正体がわからないんだよね。ただ、エネルギーの塊だとか
「ほー。ラスボスとの関係は?」
「封印されてた力を手に入れようとした側とそれを取り込んで操ろうとした側」
現行ライダーが幽霊を扱ってる為、最初はそのストーリーに合わせる予定だったんだが、予想以上に魔法が多岐にわたって扱える事に気付いた撮影陣が予定を変更。
物体のない代物も魔法で表現出来る=大首領だろうと何故か監督が言い出して、それに初代様が乗っかり何故か地獄大使役の俳優さんまでやりたがった為予定を変更。
今回の流れを大まかに言うと、まず大怨霊=首領は黒幕ではない。あくまで本筋の敵がその力を取り込む為に求めていたもので、地獄大使もその為に復活させられた被害者のような物だ。
何者かに蘇らされた地獄大使が己を利用しようとした黒幕を裏切り大怨霊を奪取。1号と決着をつける為に、己の精神が大首領に食い荒らされるのを覚悟した上で自身に憑依させ、1号との最後の戦いに挑む。
あと一歩まで1号を追い詰めるも大怨霊を抑え切れずに暴走し1号に敗北、大怨霊としての本性を顕にしようとした所で注連縄を用いたロープアームに捕らえられ、最後は結城一路の機転により遥か上空で爆発に巻き込まれる。
そしてこの爆発を見送った1号は、震える声で「ありがとう、ライダーマン2号」とだけ言葉を絞り出し、黒幕との戦いに向かうのだ。
「ちなみにこの黒幕、現行ライダーの方での敵なんだけど、地獄大使がカッコ良すぎてどうやって盛り上げるかで今撮影陣は悩んでるんだって」
「ああ、うん」
面白い場面を撮ろうとして面白すぎて困るというのも変な話だ。
俺の分の撮影も終わりコミックもあらかた消化したある日。川口医師に呼ばれて医師ブートキャンプに顔を出すと、
「やぁ、ヒーロー。いつも君のダンジョン講座を見てるよ」
「あ、どうも」
川口医師の恩師だという大学教授の砂川先生は、俺と一花が動画に上げているダンジョンについての勉強動画みたいな物を見てくれているらしい。
10層までは楽に行けるので誰かに説明する為の資料作りも兼ねているもので、ダンジョンの事をTVやネットでしか知らない人達に元々好評を貰っていたシリーズなのだが、臨時冒険者制度が始まってからは予習を兼ねて皆が見るのか一時期はパート1が世界一再生された動画になっていたらしい。
何でも今度作る魔法医療を扱う病院に来る気らしく、ヤマギシの幹部に顔見せを行っているそうだ。俺は冒険者部と広報部の掛け持ちになっており厳密に言うと平社員なんだが、名物社員枠で声をかけたらしい。
「妹は高校卒業したら教育部門の長になるらしい」
「うわー身内人事。お兄ちゃんは?」
「平です」
下手に役職持たせると扱い辛いらしい。代わりに給料は成果給って事でいっぱい貰えてるがね。
「まぁ、病院が出来たら君も理事の一人になるだろうし肩書なんて責任負わされるだけだ。給料が同じなら無い方が良い」
「教授も大変なんですねぇ」
そろそろ定年なのに休みも講演やらなにやらで潰され、学内では下らない派閥争いで自由に研究が出来ない。ため息をつく教授と肩を叩き合い、俺達は硬い握手を交わした。
「バカばっか」
止めてください妹様。その冷たい目、俺に効く。
砂川教授:定年間近のとある大学の教授。老いてなお研究意欲と行動力が衰えず大学教授の座を捨ててヤマギシの病院に務める事を決意。マスターイチカ一門