奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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誤字修正。KUKA様、244様ありがとうございます!


第百十五話 5人組、入社

 遂にマニーさん達がやってきてくれた。社長が小躍りして空港まで自分で車を飛ばしていこうとしたので周囲で取り押さえて(仕事から逃げる口実だった為)恭二と俺、それに御神苗さんで車を出して迎えに行く。実践畑の俺たちは他の人よりも暇があるからしょうがない。という形で社長に敬礼をすると書類の束を投げつけられたので急いで逃亡する。

 

『マニーさん、お久しぶりです!』

『うん……? ああ、キョージさんとイチローさん!』

 

 空港に彼らを迎えに行く前に変身をしてから入り、到着口の前で待つ。便は到着していた為、ほどなく彼らとは合流できた。最初は怪訝な顔をしていたが、マニーさんは俺の変装の姿は見たことがあるからすぐに気づいてくれたようだ。彼らは5名にそれぞれの妻子と結構な大所帯だが、これでもまだ一部だけで、他の親族も呼んでいるため数ヶ月にかけて日本に渡ってくるそうだ。

 車に戻った後に変身を解くと、子供達に『MS!』『すっごーいMSだ!』とわちゃわちゃにされて危うく事故る所だった。マジック・スパイディをもじってMSと言うのが俺の米国での一番新しいあだ名なんだそうな。順番逆じゃなくて良かったわ。

 

『ありがとう、イチローさん。家族と一緒に住める住宅まで用意してもらって』

『そこは、社長にお礼を言ってください』

 

 隣に座ったカルロスさんにそう言って、米国での話を尋ねたりあの訓練キャンプの思い出を語ったりと話に花を咲かせながら奥多摩へと戻る。彼らを引き合わせて、本日の俺の仕事は終了となったわけだが。

 

「一郎。手伝え」

「そりゃないっすよ社長」

 

 朝の件を根に持っていたらしい社長のドサ周り(顔合わせ)に付き合わされる羽目になり、結局夜まで良く分からない偉そうな人たちと毒にも薬にもならない話をする羽目になった。飯は美味かったけど全然食べた気にならず、深夜まで開けてくれているコンビニ横のラーメン屋でラーメンセットを社長と啜って互いに愚痴を言い合いながら家に帰る。こんな仕事毎日やってりゃそらストレス溜まるだろうな。今度ダンジョンに付き合ってあげよう。

 

 

 

『なぁ、イチロー。ハリウッドから矢の様に出演依頼が来るんだけどどうすれば良いかな』

「俺が聞きたいわ」

 

 警官教育も終わったしそろそろ帰るかなぁとウィルが言い出したのが先週。元々警官教育の為に長期出張のような形で国を出ている為、帰るというのはまぁ当然の話なんだが、これをどこからか嗅ぎ付けたのか世界冒険者協会宛やらウィルの個人ツブヤイター等に恐ろしい数の出演依頼やら今後の予定伺いやらが来ているらしい。

 

 俺と同じ沼に嵌るがいい、と最初は歓迎していたのだが何故か俺とセットの話が多くて楽しめなくなったのでマジレスという形で対処する。後は何故か一花が誘われてるっぽいがあいつは無理だろう。

 なんせどの依頼も魔力を持っている役者を起用した新しい時代の映画、というコンセプトで行われている。美容法として魔力吸収が市民権を得始めている昨今、当然ショービジネスの世界では魔力持ちが割と幅を利かせているらしい……身体能力まで上がるのだから当然といえば当然だが。そして、そこにもし一定の魔力もちに効果が抜群のイチカを放り込んだらどうなるか。

 

『効果覿面だね。その手があったか、流石はイチロー』

「やめろください」

 

 瞬く間にショービジネスの世界がマスターイチカ一門に侵略されてしまうだろう。マスターイチカ一門を増やす事に余念の無いこの男は勿論冗談だと笑って誤魔化そうとするが、絶対に本気だった。こいつ普段は飄々としてる癖に一花が絡むと途端に狂信者みたいになるからなぁ。頭の中でかつての冒険者訓練の際、仲間のマスターイチカ一門の冒険者たちと共に『マスターを称える会』とか言ってひたすら一花の発言録を朗読するだけの会をやっていた姿が思い浮かぶ。一花が怖がって止めなければ定例で行うつもりだったらしい。

 

 この話の一番恐ろしい所は、参加者全員がもう一度やりたいと言っていたのを一花の願いの一言ですっぱり諦めた事だろう。あの時、生半可な言葉はこいつらに言うなと一花と話し合ったのは嫌な思い出である。本人たちは半分ネタのつもりでやってるらしいがどこまで本気なのかが読めなくて怖すぎる。一花じゃなくても怖がるわ。

 

『まぁ、どちらにしても近々向こうに帰らないといけないからね。実家からもお見合いがどうたらこうたら煩いんだ』

「あー。名家あるあるね、わかるわ」

『君の方が普通は厳しいはずなんだがねぇ。ブラスコとヤマギシ社長に感謝したほうがいいよ?』

「なんで?」

 

 問い返すと肩をすくめるようにウィルは笑って親指を立てる。何か罠でも仕掛けられているのかと周囲を見渡すがいつもどおりのダンジョンの風景であり、特に何かがあるわけではない。笑い出すウィルに首をかしげ、まぁ良いかと俺は特訓を続ける。

 今現在何をやっているかと言うと、ベ○ンをかけてもらって、それを魔力を循環させる事でどれ位耐えられるかの実験だ。ほら、DBでもあるだろ? 重力室トレーニング。

 流石に普通にやったら血が下に行ってそのままお陀仏なので、現在魔力を体中に循環させて無理やり血流を起こせないかと試しているのだ。

 

『意外と耐えてるのが凄いね』

「口とかは大丈夫なんだが、やっぱり循環させるってのが辛いわ」

『僕はまるでイメージできなかったけどね。やっぱり君と僕じゃ魔力の捉え方が違うのかもしれないな』

 

 過剰重力の影響下で腕立て伏せをしてみるが、やはり何かをしながらだとかなり辛いな。因みに先ほど同じ事をやろうとしたウィルは開始2秒で「あ、これ死ぬ」と英語で呟いて倒れ伏したのでこの1時間過剰重力の影響下で動いているのは俺だけだ。何と言うか、右腕が再生するときを思い浮かべながら魔力を動かすと上手くいくんだよなぁ。

 

 ウィルはグラヴィティの維持と救急の時のアンチグラヴィティ要員をしてもらい、ジャンさんの撮影の下俺たちはその後2時間ほど撮影を続け、限界が来た俺が倒れ伏した時に終了となった。全力で魔力を扱う以上消費がでかいと思ったが予想よりも長かったな。恭二用の魔力計測器が完成したら俺も測らせてもらおう。

 


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