『ハッハー! ご機嫌だぜ!』
「おー、いいよ! 感じでてるねー」
とりあえず現状の実力を確認、という名目でマニーさん達が落ち着いた頃合を見計らってダンジョンに入った。マニーさん達のチーム5人にデビッドを含めた6名のチームで1層から順繰り下に下りていく。10層以下から始めたのは、純粋にチームに異物(デビッド)を入れてもきっちり機能するかという確認と、他者が彼らのチームに紛れても実力を発揮できるかという確認をするためだ。
結果から言うと完全にその心配は杞憂で、前・後に綺麗に分かれたチームはきっちり各々の役割を果たし何事も無く10層まで到達。昼の休憩に一度戻ってからまた11層にワープし、RPG無双を経て15層へ。そこに行くまでの全てをカメラに収めて、この日は一旦終了と言う事になった。鉱山エリアは撮影機材にも少し悪いし色々あってR指定の映像になる事が決定しているからね。
そう、今回の主目的は連携の確認と、彼ら新人組の活躍する姿をカメラに収めて宣材を取る事だ。コレに関しては彼らがウチに来てくれると決まった時点でシャーロットさんが必ず必要になると主張していたもので、最優先で用意しなければいけないものだとされていた。
「彼らがヤマギシチームに所属する事は、大きな意味があります。人種的な意味で」
「黒人、ヒスパニック系、白人、アジア系が区別無ク参加する。凄く大キな政治的意味、持ちます」
シャーロットさんの言葉にケイティが頷いた。ウィルやデビッドも肯定っぽいし、色んな人種が居るアメリカ組はこの辺シビアなのかもしれない。というか別にヤマギシ自体は優秀な冒険者は(犯罪者はお断りだが)基本的に所属したいと言って来れば迎え入れる用意があるんだが、相手側が気後れするのとそもそも冒険者自体がどこも人手不足で引く手あまたなのでこちらに寄ってこないんだよな。給金の形態とかも公表してないし。
ある程度の宣材を取れたのでこいつを動画班にお願いして編集、アップロードしてもらう。今回、新人チームのイメージはアメリカナイズに豪快&豪快なイメージでまとめてもらった。ヤマギシチームはどちらかというと魔法的な派手さがメインで、そこに一風変わった芸風の俺という形だから純粋にパワー・イズ・ジャスティスな見た目をしてるマニーたちにはそれを生かした特徴をつけたかったのだ。
『ヤマギシに所属する以上、そういった目で見られるのは避けられないと思っていた。それに、もう少し身長があれば俺はNBAでスター選手になってたんだ』
「NBAじゃないけどこっちではスター選手並の注目度になるとおもうよ。報酬もね」
『ありがたい。これからはガンガンこき使ってくれ!』
感慨深そうに自分たちの動画を見るマニーさんにそう言うと、彼は嬉しそうに笑った。
さて、正式加入したマニーさん達のお陰でヤマギシチームは忙しくて身動きの取れないシャーロットさんと、研究に暫く専念するという真一さん、そしてそろそろアメリカに戻るというウィルの代わりになる人員を補充する事が出来た。新層への挑戦は今現在のフロート熱が冷めたらという事で恭二も納得している。人員的に久しぶりに余裕が出来た形になる。
「という訳で、テキサスに一度戻りたいデス」
ケイティが冒険者部での会議中にそう発言した。勝手に戻ればいいのでは、と思うかもしれないが、何時の間にやらケイティはブラスコからヤマギシへの出向社員という形でチームに所属していたのでこの報告が必要なのだ。
「ウルフクリークにも、病院作りたいデス」
彼女が今回戻る理由がコレだ。奥多摩での病院建設が本格的に動き出した為、テキサスの方もそろそろ動かしたいのだとか。あっちは敷地的な束縛もほぼないし法律的にも日本ほど横槍が入れられる事はない。話が決まればすぐに動けるだろう。これには現状医師のブートキャンプがほぼ順調に進んでいるのもあるらしい。ある程度纏まった数の卒業生がそろそろ出るので、今のうちに受け皿を確保しておきたいのだとか。
これは日本も同じ課題が出るだろうし、ヤマギシとしても事前にテキサスのほうで問題点の洗い出しを行ってくれるならありがたい。それにこの事業はヤマギシとブラスコの共同経営の会社が行う事になるので、無関係ではないしな。
賛成多数でこの議題は可決され、ついでとばかりにアメリカに用事がある俺とケイティたってのお願いで恭二が補佐に選出され、それならばと俺たちの日程に合わせて帰るというウィルのプライベートジェットに同乗させてもらって俺たちは再びテキサスの土を踏んだ。
久しぶりに会うブラス家の面々は、何と言うか。全体的に若返っていた。ブラス老はもう老という文字が失礼になりそうな外見になっているし、ジュニア氏はジョシュさんのお兄さんと言われた方が納得できる見た目になっている。
奥さん方は、元から綺麗だったのに若さが戻った事で美しさに拍車がかかっており、ケイティやジェイと並ぶと美人3姉妹とその母(実は祖母)という不思議な構図になる。世代が一つ無くなっててこれは皆必死に魔石を求めるだろうなぁ、と今更ながらに実感した。
そして、ヤマギシから持ち出した資料を元にケイティはプレゼンを家族に対して行った。たとえ身内といえど、ブラス嬢の提案をほいほいとは聞かない姿勢はすごいと思う。ただ、事あるごとににやり、と笑ったりしてる感じケイティの成長を楽しんでいるんだろうなぁという空気を感じた。質問はかなり厳しい目線の物が多かったが。
『リザレクションを使った医療と、その医療を広めるためのメディカルセンターは必ず必要になる』
ケイティのその発言は受け入れられ、ウルフクリークにも巨大な病院群が作られる事になった。まぁ、元々ヤマギシ・ブラスコ(共同経営の会社の名前)が周辺の開発を担当していたから、そこにこの案件が加わる形になったんだが。
後から始動したプロジェクトだが、その資金力と重要性から米国からの支援もかなり厚いらしく(ケイティのプレゼンを聞いた翌日にはブラス老が動いていた)完成はかなり早くなるだろうとの事なので、場合によっては世界初の魔法医療センターの名前はこちらに取られるかもしれない。日本政府のお尻を叩く必要があるかもな。