4話統合
誤字修正。ハクオロ様、244様、kuzuchi様ありがとうございます
第二十五話
「オリャァ!」
「・・・・・・」
バァン!
山岸さんがバットでゴブリンを殴り飛ばし、じいちゃんが銃でメイジを撃つ。
遠近でバランスを取りながら二人は順調に階層を下っていた。
もちろんモンスターを倒して出てきた魔石やドロップは二人の取り分として俺がカバンに入れて預かっている。
といってもすぐに容量が一杯になったためこれも報告しないといけないだろう。
それと、ナイフや剣といった物を詰め込む必要がある以上防刃素材のバッグでないといけないので、これも報告が必要だな。
そのままオーガも処理をして戦闘終了。
大分二人ともこなれてきたのでボス部屋に突入する事になった。
ここは安藤さんも参加する。最初のうちは何度か手助けをしていたが、流石は山岸家の人間と言うべきか、山岸さんのセンスがかなり良くてすぐにストレングスとバリアーを覚えて一人立ちしたため、手持ちぶさたになっていたらしい。
真一さんが一度死にかけたという事もあり、一度オークとは戦ってみたいそうだ。
「事前にバリアーとアンチマジックは必ずかけ直してください」
「了解だ。バリアー!」
「一花、頼む」
「はーい!おじいちゃんも練習してね?」
まだアンチマジックは扱えない山岸さんと両方出来ないじいちゃんに一花が魔法をかける。
安藤さんは事前に二つとも覚えていたらしく自分でかけ直していた。
準備が整ったら突入だ。
安藤さんと山岸さんが手近のオーガに切り込み、じいちゃんがメイジを処理している。
役割分担が上手いこと機能してるな。
そして、安藤さんが早い。瞬く間にオーガを斬り倒してオークと相対している。
「グガアァァ!」
「・・・・・・ふっ」
安藤さんはオークのこん棒を半歩動いて避けると、こん棒を持つ手をまず切り飛ばした。
オークは怯まずに逆の手で殴りかかろうとするが、その前に刀で喉を裂かれて煙になった。
「お見事!いやぁ流石は先生、見事な太刀筋ですな」
「ありがとうございます。山岸さんもこの短期間で驚くほど上達されてましたね。剣道の経験が?」
「昔、学校で触った位ですねぇ」
山岸さんと安藤さんが話す傍ら、じいちゃんは腰を鳴らして柔軟を行っていた。
心なしかダンジョンに入る前より大分力強い動きだ。
「一郎、この後はまた体力検査だったな?」
「ああ。その予定」
「そうか」
そう言ってじいちゃんは銃を抱えて黙りこんだ。
帰りも特に問題なく山岸家にたどり着き、その後近くの広場を使って筋力の確認、マラソンによる持久力の確認を行ったのだが、結果は予期していた通りというか予想以上というか。
軒並み大幅な上昇を見せ、しかもじいちゃんに至っては健康な40代並の体力を取り戻している、という結果になった。
この後にダンジョンに潜った下原夫妻やうちの親父達も大体同じような結果になる。
それぞれダンジョンに入る前と入った後の身体能力の変化のデータと、下原のおばさんの提案で外見の変化も写真で残したところ、ほぼ若返りと言っても良い結果になった。
この事実を知った委員会はこの情報を一先ず箝口令を敷いて規制する。
下手に漏れると何の準備もなしに潜る人間が出かねないとの判断からだ。
以前のショートカットの存在と同じく、まだ早すぎる情報って事だな。母さん達のアンチエイジングっぷりを見たら間違いなくダンジョンに無謀な挑戦をする奴が出てくるだろう。
一先ず法律的にダンジョンへの立ち入りをどうするか。早くその辺りは決めとくべきだろう。
「銃は一定の効果をあげたという事でよろしいのですね?」
先日のじいちゃんの成果を報告した際に委員会でそう尋ねられた。
質問の相手は自衛隊の幹部の方で、軍事的な分野を担当している。
この人は先日米軍にもたらされた被害について最も熱心に尋ねてきて、自衛隊ならどうなるのかをシミュレーションしたり、冒険者という存在が軍事的にどのような役割を果たすのかを研究している。
「5階までは間違いなく有効と言えます。ですが、前提として訓練を施された人間しか扱えない、誤射の可能性、またどうしても威力の面において大規模な魔法に劣るなど、運用する場合の注意点は多くあります」
「銃が通用しないモンスターも存在するのですか?」
「はい。10階層のレイスは銃弾では倒せないでしょう。また、それより前の階層でも重火器では掃討しきれずにモンスターがリポップ・・・ええと、再度出現する速度が殲滅速度を上回った結果米軍が全滅しかけた事を考えると、銃器だけではダンジョンの深い階層には通用しないと考えられます」
その言葉に幹部の方は成る程と頷いて、手元のメモに何か書き始めた。
今回、じいちゃんは徹底して遠距離から敵の頭を狙ったり前衛の動きをサポートしたりと後衛の役割を全うしていた。
事前によく話していたからという事もあるだろうが、米軍の小銃でも倒しきれない相手を猟銃では仕留めきれないと判断していたのだと思う。
「では次の質問ですが、米軍から提供された装備について」
今度は日本の大手スポーツメーカーの方が手を上げる。
会議は数時間に渡って続けられた。
第二十六話
「第1回ヤマギシ会議を開催します!」
「わー!」
「どんどんぱふぱふー」
山岸さんの掛け声に沙織と一花が合いの手を入れる。
軽いノリで始まった経営会議に真一さんとシャーロットさんは苦笑している。
「まず、旧店舗の修復・改修は完了した。新店舗の用地は隣接区画の移転について政府がやってくれたんで円満解決。あとは建物の撤去とか整地とかだ。で、地上5階建てで地下二階のビルになる予定だ」
山岸さんがそう言うと、シャーロットさんが資料を配り始める。
一階を店舗、二階から上をオフィス、最上階を自宅にする予定。地下は倉庫と駐車場になるのか。
「コンビニのほうは、休業補償してるみんながまた来てくれる事になってる。後は真一と恭二と沙織ちゃんが抜ける分を募集しないとな」
「工費はどのくらいなんだ?」
「総工費は3億だ」
奥多摩ではそうそう聞かない金額に真一さんが苦笑を浮かべた。
「義援金のお陰で何とかな。ありがたい事だよ本当に」
そう言って山岸さんは感慨深そうにビルの資料を見る。
「ビルの2階と3階は賃貸に出す。日本とアメリカの政府筋の組織が入るそうだ。四階は全フロアウチの会社で使う。シャーロットさんの部署のために超高速回線を引いてある」
「ありがとうございます。どうしても普通のインターネット回線だと時間がかかるので。助かります」
シャーロットさんがそう言って頭を下げる。
政府筋ね。まぁ間違いなくダンジョン関係の組織なんだろうが。
「1階のコンビニの隣はラーメン屋さんが入ってくれる」
「そりゃありがたいっすね。近場に飲食店があるのは助かります」
「美味い店だと良いんだがな」
恭二と二人でまだ見ぬラーメン屋に思いを馳せる。
近場にあるラーメン屋というのは俺達健康的な十代男子には特別なものだ。ふと腹が減ったときに食べるラーメンは格別だからな。
「で、次の話なんだが。お前ら冒険者部門の方はどうなんだ?CCNからの情報料以外だと一郎の動画収入位だが、・・・あ、後こないだのスタント代金もか。採算は取れそうなのか?」
「現状だと厳しい。今の所動画収入が予想より多いから何とかなってるが、それが途絶えた時や更に部門の出費が増えてしまった場合は赤字になる可能性が高い」
現状、冒険者部門の収入はCCNから入ってくるお金や俺が当初から行っていた動画からの収入が主な物だ。これらのお金で装備の更新やスタッフの人件費を賄っているが、探索自体での収入はほぼ無いに等しい。
「ドロップ品に貴金属やらが含まれてれば一気に変わるんだがな」
「まぁ、少しずつ先に進めるしかないからね」
真一さんの言葉を一花が引き継いで答える。
現状10層までしか人類は到達していない。ここから何層下る事になるのかは分からないが、出てくるモンスターの傾向的にまだまだ続きそうな気はする。
「ここからダンジョンがどこまで続いていくかはわからないが、何か価値があるものが出れば冒険者の数は間違いなく急増する。そこまで行けば最先端に立つ俺達の経験と知識の価値は一気に上がる」
「後はやっぱり法整備の後だけど、ダンジョンに潜る時の護衛とか魔法のレクチャーとかは需要があると思うよ。やっぱりあのアンチエイジングは凄いから!叔父さんも10歳位若返った気がするって言ってたでしょ?」
「ああ。ダンジョンに潜るだけでも効果があるんだし、新しい健康法になり得るのか」
真一さんがこれからの展望を語り、一花が補足を入れる。最近の委員会等でもよく見る光景だ。
最近、委員会の会議に出る際は真一さんは代表として、その脇にはシャーロットさんと一花がつく事になっている。シャーロットさんの元キャスターとしての知識は当たり前として、一花のサブカル的な視点からの意見は意外と役に立つ事が多いらしい。
俺?置物というか、基本居るだけになってます。
実際戦ったとかの話なら俺か恭二にお鉢が回ってくるんだがな。後は魔法についての意見か。
「そういえば自衛隊も今後、迷宮捜索に入るんだっけ?」
「ああ。そう言えば委員会でも言われたっけ。人材教育のお願い。米軍は仕切り直しだっけ?」
「ああ。前回の失敗を踏まえ、暫くは再編成に充てるそうだ」
委員会に参加している自衛官の方からは、同行ないし人材育成の相談が来ている。
現状、米軍が失敗したため、ダンジョンの7層より下に潜れる人間は俺達しか居ない。
なら俺達にそこから先に対応出来る冒険者の育成を頼めば良い。という事だろう。
「事情は分かったし必要だとも思うが先に進みたい」
「お前なぁ」
恭二の本音に山岸さんが呆れたように声を上げる。
そんなん俺達皆そう思っとるわ。
実際、10層に到達してから数週間、軽く潜る以外は先に進めてないせいで皆フラストレーションが溜まっている。
その状態で余計な人材育成はやりたくない。
「頼んだぞスパイダーマン」
「いやいやここは魔法博士の出番でしょ」
「お前らいい加減にしろ。収入にもなるしこの仕事は受けとくからな!」
恭二と押し付け合いをしていたら山岸さんに叱られてしまった。お金は大事だからね。仕方ないね。
そしてこの一言で今日の議題は全て終了し、今日の会議はお開きとなった。
新人の育成は全体でやる事に決まってしまった。
全部貧乏が悪い。
第二十七話
俺達は現在、週に1、2度の割合で政府が立ち上げたダンジョン対策の委員会に顔を出している。
委員会のメンバーは各分野の専門家で構成されており、都合や新しい議題が出る度に小まめに増減を繰り返しているのだが、何故か俺達と相性の悪い分野という物がある。
この日もとある分野の専門家で、随分な態度の人が質問をしてきた。
「ダンジョンに潜るメリットは? 金をかけて時間をかけて人命までかけて、なにか得られるものはありましたか?」
「まず単純にダンジョンに入るだけで多少の体力の増強効果が見込めます。これは複数回、色々な分野の方に試して頂いてデータも取れています。またモンスターと実際に戦い、これを退治しますとこの体力増強効果が更にアップするという事も確認が取れています。手元の資料の内ダンジョン探索前・後で分かれている年代別のデータを詳しく読んで頂ければこれらは確認できると思います」
「たかが健康法でここまで大げさな委員会を作っているのですか」
お、こいつおかしいな。と思い他の委員の方を見ると他の方々も「なんだこいつ」といった目で件の人物を見ている。俺の認識がおかしい訳ではなかったらしい。
「貴方にとって人によっては二倍近くまで身体能力が上がる事象がたかが健康法というのならそうなんでしょうね。そちらのスポーツ分野の担当の方はスポーツ史が変わると仰られていましたし人によって価値観は違うのでそこに文句はつけません。ただ、現状肌年齢が50代から20代後半まで若返ったという報告も上がっている為、少なくともお金や時間をかける価値はあると私は思っています。人命については仰る通り。出来るだけ人が命を失わずにダンジョンに潜れるように対策をする為の委員会で、分科会だと思っておりますが貴方には別の物に見えたのでしょうね」
「そんな馬鹿な!こんな非科学的な!」
そこで騒ぎ立てていた人物は警備の人につまみ出される事になった。
こんな非科学的なも何も非科学的な事象がまかり通るようになってしまったから対策委員会なんてものを立ち上げているのに何を言っているのだろうか。
場が微妙に白けてしまった為会議は一旦休憩という事になった。
「ふう、つっかれたー」
真一さんがお茶を飲みながらソファーにへたり込んでいる。
長時間の質疑応答は基本的に真一さんが受ける為、今日は喋りっぱなしだった。そら疲れるだろう。
お疲れ様でした!と真一さんの肩を揉んでいると、ドアを開けて総理が入ってきて俺と目が合う。総理は中を一望し、苦笑。
恥ずかしい所を見せてしまった。
「休憩中に申し訳ない。今日は時間をとっていただきありがとうございました」
「いえ、こちらこそ有意義なお話をさせていただけました」
真一さんが頭を下げる。若干先ほどの醜態を見られたせいか顔が赤い。
「ところで、最後の質問をされた方は……」
「その件で……申し訳ない。不快な思いをさせてしまって」
真一さんの問い掛けに総理は頭を下げた。
なんでもあの人物は医療関係の人らしい。やっぱりなぁ、と思いながら総理と真一さんの話を聞くと、何でも回復魔法の存在を医療関係者が目の敵にしているらしい。
今回参加したあの人もその思いが強かったらしく、今回の会議を使って俺達を貶められないかと考えていたようだ。
尤も、その方面にばかり意識が行っていたせいで現状のダンジョンについての知識や資料の確認をおざなりにしていて大恥をかいたようだが。
「今回はあれでしたが、皆様の分科会には産官通してすごい参加希望者があるんです」
「それはありがたいことです。俺達も日本で活動するわけでして、日本企業の協力や、法整備が進むと嬉しいです」
「出土品についてはまぁこれからでしょうが。この体力増強の効果という目に見える結果はやはり素晴らしいですな。私も30代に戻ったような気分です」
そう言って総理はぐっと右腕を挙げて力瘤を見せるようにポーズを取って笑った。
先日、体力増強の効果が間違いないと判断された後に総理から要請があり、閣僚の中の希望者がダンジョンに潜る事になったのだが。
結果は肌ツヤを取り戻した目の前に居る総理が物語ってくれているな。
「この結果を受け、まずダンジョンへの立ち入りについての法整備は急ぎ行われることになりました。やはり、その。女性は止まりませんからな」
「お願いします。僕らもそこが怖いところだと思っているので」
新聞やニュースでも一部閣僚が急に若返ったと評判になっているので、早晩この事実に気づく人もいるだろう。法整備は近日中に行われるとの事だ。
そして、これに合わせてモンスターが落とす魔石の価値も一気に上がることになる。
ダンジョンに入らなくても魔石から魔力を吸い出せば近い効果を得られるからだ。
ただ、まとまった数でないと意味が無いのでやはり一番いいのはダンジョンでモンスターと戦うことなのだが。
「ところで、奥多摩ダンジョン周辺の民間地買収の件ですが、本当に第三セクターでやらなくて良いのですか?」
「はい。お申し出はありがたいんですが、資金も自前で用意できますし。立ち退きの話し合いだけご協力いただければ、あとはウチが買い取ります」
近所には老舗旅館などもあるし、当事者同士だと感情的な部分で対立しないかが心配だからな。政府主導で立ち退きをやってもらえるならこれに越した事はない。
総理とはその後、現状米軍から装備を用意してもらっている状況の是正と、銃をわざわざ使わないでも魔法で事足りる。つまり銃刀法についてはそこまでいじらなくても良い事を話した。
銃がそれほど必要ないという部分は総理も非常に興味深げだった。
日本だとやはり銃の所持は難しいし、ネックになると思っていたらしい。
「皆さんのお陰で道筋が見えた気がします。これからもどうぞ、よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
真一さんと総理が握手を交わす。
日本政府とのわだかまりも最近は解消された気がする。
この調子で早く冒険に専念できると良いんだがな
第二十八話
「よし。やれ、一郎」
「アラホラサッサー」
11層のモンスター・ゴーレムをフレイムバスターでしばき倒す。
現在俺達は11層にアタックしている最中だ。11層は今までの洞窟的な見た目から一転、広い荒野のような場所になっている。
あくまで見た目が地上みたいだって言う所がミソだ。俺達が出てきた扉の両脇は見えない壁のようなもので遮られている。ダンジョン内なのは変わってないという事だ。
そしてこの階層では俺のフレイムバスターが無双する事態が発生している。ゴーレムと聞いて想像できると思うが、こいつが3、4m位の大きさでまずデカイ。その上土か岩で出来ているらしく斬撃も効果は薄そうだ。
という訳でフレイムバスター(グレネード)の出番である。
「ふははは。ゴーレムがまるでゴミの様だ」
「わ、懐かしい。それジブリだっけ」
「場面が違うぞお兄ちゃん!」
このまま進むと空中庭園っぽい所も出てきそうだな。この台詞はそこまで取って置いた方がいいか。
とりあえず一通り周ろうと動くもフィールドが広すぎる。
何度かのゴーレムの来襲を撃退するも、一旦引き返そうという事になった。
「移動手段が必要だな。あと、対応できるのが一郎だけってのは不味い」
「バズーカとか欲しいね。後は新魔法とかないかなー?」
「んー。一郎ほど効率的に出来ないからなぁ。ちょっと考えとくけど」
「兎に角、一度ニールズ大佐に確認してみよう」
記録媒体に周囲の映像やゴーレムの姿を納めて撤収。
困った時の米軍頼みである。
米軍施設内を歩いていると皆さんが敬礼をしてきて非常に恥ずかしい目にあうとはこの陸のイチローの目を持ってしても読めなかった。
『申し訳ない、規則でしてな』
苦笑するニールズ大佐に返礼を返す。何でも以前貰った勲章はどえらい物らしく、軍属の人はこの勲章の持ち主を見かけたら必ず先に敬礼をしなければいけないらしい。月に年金が1300ドルも付くしあれ結構とんでもない勲章なんだな・・・
とりあえず俺達は相談したい事の内容を説明。
大佐は11層の映像を見て、暫く無言で考え込んでいた。
『これは、本当にダンジョンの映像ですか?』
画面では扉の脇に何かがあると、こんこんと見えない壁を叩いている映像が映されている。
『ええ、このダンジョンを作った相手がいるとしたらとてもふざけてると思いますが、これは十一層です』
真一さんはそう言って、次はゴーレムの姿を映した映像を見せる。
『そしてこれがこの階層の敵です。映像では一郎が対処していますが、他の人員で対応できない相手です。対抗策として今考えているのはバズーカ等のロケットランチャーなのですが、用意できないでしょうか?』
『ふむ。バズーカならばすぐに用意できるでしょう。ただ、現状これよりも射程の長いロケットランチャーは多数存在するため私共としてはそちらの提供をお勧めしたい。無論時間は取らせませんが』
『それはありがたい。出来るだけ安価で用意できるものが欲しいのですが』
『統合参謀本部の政治判断は必要ですが、ダンジョン内の特定の敵駆逐のために必要な兵器の運用試験、という事であれば米軍にある複数種類のロケットランチャーを供与、あるいは無償提供できると思います。M-72が私はいいかと思いますが』
「M-72?」
「M-72LAW、使い捨てのロケットランチャーだよ!」
俺の疑問符に一花が回答する。良く知ってるなこいつ。
『後は、このフィールドの全容を調べるためにドローンと、出来ればジープを用意できないでしょうか。かなり広いフィールドのようなので移動手段が欲しいのです』
『成るほど、了解しました。映像情報をいただけるのでしたらどちらも用意致しましょう』
『勿論得た情報は米軍側にも提供させていただきます。よろしくお願いします』
この二つについても了承を頂けたので、今回の訪問の目的は全て達成できたことになる。
気楽な立場の俺達は肩の荷が下りた状態だが、真一さんやシャーロットさんの仕事はまだまだある。
次は予定されている人員の教育についてだ。
『俺たちはただ魔法について講義するだけで、訓練や滞在期間の管理なんかは自前でやっていただけるならお受けします。翻訳の魔法があるので言語については問題ありませんが、俺たちとの窓口になれる常駐の担当者とかを置いていただけるとありがたいです』
まず真一さんは俺達のダンジョン探索が阻害されないよう基本的な雑務はあくまでも米軍側が持つように条件をつけた。
『それと、自衛隊側からも同じ要望が届いているのですが、別々に行うのは負担が大きいので合同でお願いしたいです』
『なるほど、分かりました。LAWの件と合わせて上に提案しておきます』
『それと、現在時点で魔法の才能があると分かっている人が居れば、その人を先に派遣して俺達と探索してみてはどうでしょうか。そしてその後その人が教官になって各地の隊員に教える』
『ふむ・・・成るほど。予め教員を育てておくという事ですね』
大佐は興味深そうに頷いて、副官の人にメモを取るように伝える。
『少し検討させていただきたい。所で、奥多摩にはその。四十人ほどの生徒が三ヶ月ほど宿泊できる施設はありますかな?』
『一応観光施設があるのでそれくらいの人数ならまぁ・・・たとえばいま補強工事してるダンジョンの入り口の建屋の上にワンルームの個室とか作ったら、便利でしょうか?』
『おお、それはありがたいですな。やはり移動の際、軍人が歩いているとどうしても日本では、難しいものがありますので』
『さすがに設計から建築まである程度時間がかかるでしょうから、その間は通ってもらう必要があるでしょうね』
と言った形で今回の米軍との交渉は纏まった。
この後真一さんは防衛省とも同じようなやり取りを行い、日米で合わせて40人の人員の受け入
れと、この人員が宿泊する施設をダンジョン上に建設。その建設の間は日米で1人、教員役になる予定の人員を派遣して俺たちのパーティで鍛える、という内容を検討してもらうことになった。
と言ってもこのすぐ後に官邸から直接連絡があり、工賃についても日本政府が負担するためもっと大きな宿泊施設を用意して欲しいと頼まれることになった。
何でもすでに政府としてはダンジョンを歩くための教員の育成を検討していたらしく、今回の話は前例として非常に有用。出来ればもっと人員を一気に入れて欲しいと言われた。
ただ、こちらの負担も考えると流石に人員だけ一気にこられても面倒が見切れないのでその辺りは段階的に増やしていくという事で見てもらい、また建物が政府出資という形になってもヤマギシとしては何かとやり難い為、資金援助をしてもらったという形にして当初より少し大きな建物を作り、後に規模が拡大した際すぐ拡張できるように用意していく、という方針になったらしい。
政府・自衛隊・米軍からそこそこの資金を引っ張ってきて装備も用意してもらった真一さんスゴイ有能。帰ってこの報告を聞いた社長が「俺もう引退してダンジョンに専念しようかな」と言い出したので皆でヨイショするのが一番大変だったのはまた別の話である。
山岸恭二:書類の多さに学校を辞めたことを早くも後悔してきている。
下原沙織:以下同文
山岸さん:最初の体力測定でダンジョンに潜りたいと言ったことを後悔していたが、実際潜った後の体の調子に愕然としている。
鈴木爺:猟師に復帰する事を決めた。
医療関係者:魔法でちょちょいと治るとかふざけてんのか、と息巻いていたが全然別方面で医療に関係のある効果が実証されていて大恥をかく。以後この人物は会議には参加できなくなり、引き継いだ医療関係者が肩身の狭い思いをするようになる。
総理:最近後退していた生え際が急速に戻ってきたと実感。また殆どの女性議員を味方につけることに成功しダンジョン関連の法案をどんどん整備していく。
山岸真一:最近頭の回転が明らかに早くなってきていると感じている。魔力の発達が脳の働きにも影響が出るのか、検査を受けようとも思うが医療関係が信用できず足踏み。
ニールズ大佐:今度孫が来日する際に是非会って貰えないかと一郎に頼み了承を貰う。完全勝利したお爺ちゃんUC