奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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今週もよろしくお願いします。

誤字修正。244様、あんころ(餅)様ありがとうございます!


第百十九話 歓迎会

『初めまして、タコスの宣伝を行う為に来ました、イチロー・スズキです。野球選手じゃありません』

『ここにいる誰もが知ってる情報をありがとう』

 

 ちょっと冗談めかして言うとドっと場が沸いてくれる。優しい人達っぽくてよかった。

 

『イチロー君、この場に居る面々は皆共犯者ばかりだ』

 

 スタンさんはそう言って傍らに立つ俳優と肩を組む。社長だ、社長が居ると思わずテンション上がりそうになったがよくよく考えたらここに居る面子が何かしらの役の人だから当たり前か。落ち着くために深く息を吸って右手を差し出し握手を交わす。

 

 彼らは次回の映画の事情、『実は復讐者たちのストーリーであるのに、全米に対してMSの制作だと誤認させる』為に協力してくれている俳優達だ。キャップ、社長、ロンゲといったビッグ3は元より、過去作に登場したヒーローたちを演じた俳優がズラリと並んだ光景はため息しか出てこない。

 

『今回のプロジェクトは本当にごく一部の存在と俳優しか知らされていない。ここにいるメンバーも皆、別の仕事を請けているように情報が出回っているんだ』

『俺は何故か北極海にロケに行ってることになってるぞ』

『あー、うん。君の事務所はもう少しウソの技術を磨くのをお勧めするよ』

 

 茶化すようにキャップの俳優がそう言うとスタンさんは心底残念そうにそう答え、その様子にくすくすと笑いが漏れる。『俺はアマゾンだった』『私は日本よ。本当に京都に行きたいわ』と言った声も漏れ聞こえるがそれ本当に隠すつもりがあるのだろうか。

 

『今回は復讐者たちAチームの撮影班とBチーム、いわばMSの主軸のストーリーを撮影するBチームに分かれる。途中で勿論合流するが最初はアメリカと日本で別れての事になるので顔を合わせる機会が少なくなりそうだからね。皆も新しい仲間と話したいことがあるだろうし、是非交流を深めてくれ。あ、乾杯』

『遅いよ編集長! 乾杯!』

『乾杯!』

 

 スタンさんの掛け声に合わせて周囲では杯を掲げて一気に飲み干したり、隣に立つ人物と話し合いながら杯を交わしたりと言った風景が広がる。そして一斉にこちらに視線が向いた。思わず後ずさりそうになるのに、隣にやってきたイケメン俳優が苦笑を浮かべる。

 

『おい、皆。僕の後輩が怯えているじゃないか。特に女性陣、視線がその、怖すぎる』

 

 ブルブルと震えるような仕草で両腕を抱く仕草に苦笑が広がる。

 

『あら。女はダンジョンに興味津々なのよ、スパイディ』

『1人で10層までいけたって呟いてなかった?』

『ゴーレムはまだ狩ったことが無いわ』

 

 この間の映画で本家スパイディを演じていた俳優さんとブラック・ウィドウ役の女優さんを皮切りにぞくぞくと周囲に人が集まってくる。というか皆、こっちに来るんだけど。あの、そんな話しかけられてもあ、こっちも話しかけられたら。

 

 結局2時間近く話しっぱなしで最後には一発芸代わりに天井を歩いたり歩かせたりしていたら全員天井に来たり、ウェブに喜んで包まれるキャップの姿を一斉に写真撮影をしたりと騒ぎながら会合は終わりを告げた。一番騒いでたのがスタンさんだったのがまぁ、うん。お察しだったが。

 

 

 

『いいなぁ、僕も行きたかったよ』

「来りゃよかったじゃん」

『実家が忙しかったんだよ。全く』

 

 先日終わった会合の後、スタンさんから色々引っ張りまわされているある日。数日振りにウィルが連絡を寄越して来たのでホテルの自室で待っていると、やたらと身奇麗に整えた紳士が部屋にやってきて最初の数分は誰か分からず合言葉を尋ねてみたりギャグのようなやり取りをして本人かを確認する事になった。

 

『でも、こんなやり取りが楽しいよ。実家では本当に気が休まらなかったから』

「大変だね。でもなんで? 前まで自宅の部屋が唯一の楽園だったんだろ」

『楽園は消えてしまった。あそこにあるのは富と権力と名声に目が眩んだ俗物達の姿だけだ』

「つまり?」

『僕の大事な大事なコレクションは全部物置に放り込まれていて机には大量の見合い写真だ。この数日僕は毎日父親と大喧嘩だよ』

 

 本当に気落ちしているウィルの様子に肩を叩く。流石に可哀想になったのでまたうちに来るか尋ねたら暫くはどうしても居なければいけないとの事。大学の卒業式に出なければいけないからだそうだ。それが終わり次第また日本に来るとは割とガチ目のトーンで言っていたので、余程腹に据えかねているのだろう。オタクの私財を雑に扱うって宣戦布告と変わらんからなぁ。

 

『一応言っとくけど君だって無関係じゃないんだからね』

「そこで俺の名前が出る理由が分からんのだが」

『うちの親は何とかマスターと僕を見合いさせられないか再三ヤマギシに問い合わせてるんだけど待て待て待て』

 

 何も言わずに立ち上がった俺を羽交い絞めするようにウィルが止めに入る。大丈夫、お前には手を出さないよ。違う? ハハッ

 

『当たり前だ。マスターと僕なんてそんな恐れ多い事、考える事すら出来るわけないだろうが』

「……お、おう。相変わらずだな。頭冷えたわ」

 

 何故か俺に対して怒りを露にするウィルにちょっと引いて俺は席に戻る。ヤマギシ経由って事は母さんにも伝わってるだろうしあちらから何も言われないなら、まぁ、手は打ってるって事だろう。変な所から話が来るよりはまだマシだし。しかし、一花に見合い話か……時間が立つのが早いな。そういえば今年で俺も20だしそろそろ彼女が欲しい所だが。暫くは無理かな。


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