奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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誤字修正。KUKA様、所長様ありがとうございます!


第百二十話 ニューヨークにおける彼

『良いねぇ。うん、実に良い』

『ミスター、正直生きた心地がしないので早めに終わらせたいんですが』

 

 ご満悦でカメラを眺めるスタンさんに社長役の俳優が顔を引きつらせてそう発言した。単に上空200M位で宙吊りになってるだけなので命に別状はないんだがな。念の為に途中でフロートを掛けたウェブも張り巡らせてあるし。

 

 何をしているのかというと、大体お察しの通り復讐者達の撮影だ。今は上空での戦いで隙をついて社長を捕らえたシーン。宣伝第二弾の落ちに使うみたいだからこの部分は早めに撮りたいらしく、俺がアメリカに居る間に、という事で早めに撮影となった。

 

 第二弾という事は第一弾もある訳で、こちらは既に全世界に向けて発信されている。まさかの社長との激突で締められた第一弾では素晴らしい反響を呼んでいるらしく、早速どちらが勝つのか、本家のスパイディとの関係は、といった憶測が飛び交う事になった。

 

 また、MSとしてのストーリーとしては、漫画版から若干変わっており親友を助ける為ではなく妹を助ける為に変更されたそうだ。これは恭ニのキャラが強過ぎる為と、やはり少女を助ける為に家族が奮闘する、という分かりやすく感情移入できる要素を優先した為だそうだ。恭ニの奴を巻き込めると思ってたんだがなぁ。

 

 このストーリーの変更でまず変わったのはウィルの登場タイミング。MSでのウィルは家族との折り合いが悪く日本へ逃避するように旅行に出掛けそこでダンジョン騒動に巻き込まれたという設定で物語の中に現れた。

 

 しかしこの話では最初から留学をしており、ダンジョン近くの大学で語学を学びながら、MS主人公の家族が経営するキャンプ場でバイトをしていたりと最初から知り合いであるとされている。これに関しては時間短縮の為らしいからしょうがないが、漫画版読み込んできたのが一気に無駄になった気がして少しモニョる。

 

 いや、面白かったし読んだ事自体に文句は無いんだ。ただ、シャーロットさん監修で台詞を一つ一つ言えるようになるまで鍛えられた時間が無駄だった時の虚無感は半端じゃなかった。コレに関してはウィルも被害者だった為一緒に落ち込んでいると、そのシーンを何故か撮影される。NG集っぽいので使うらしい。

 

『幾らなんでも全部の台詞を覚えてくるとか信じられない』

『その信じられない事を強要してくる人がヤマギシの渉外担当の1人です』

『怖い。戸締りしとこう』

 

 最近日本の雰囲気を知る為と称して暇があればネットサーフィンを行っているスタンさんは時たま物凄く間違ってる方面に力を入れていて現代日本の一員としては修正を図っているのだが、新しい事はどんどん取り入れる割に一度良いと思ったら頑固に使い続ける所があって難航している。ネットスラングは用法用量を守ってくださいと何度も言ってるでしょう。都合の悪いときだけ90代の老人に戻らないで下さい。

 

 

 

 ふと気づいたら恭二の奴が日本に帰っていた。何が起きたのか全く分からないと思う、俺も意味が分からなかった。催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなものじゃないもっと恐ろしい何かを味わったぜ。

 

『ごめん、楽しそうだったから声かけるのも何だかなって』

「おまえ、ころちゅ」

『ニンジンくえよ』

「食っとるわ!」

 

 そう言って携帯電話を切る。帰りの日にちがズレるのは知ってたがせめて声くらい掛けろと思うのは間違っているだろうか。いや、絶対間違ってない。この復讐は必ず果たすと心に決める。

 

『あー、それで、スパイディ』

『あ、すみません。自分はMSの方です』

『ああ、うん。そっちじゃなくて、そろそろ引渡しを、ね』

 

 そう言って黒人の警官はウェブで絡め取られた数名の男たちを指差した。恭二と電話で話をしていたら目の前で引ったくりを見かけたので咄嗟にウェブで拘束してしまったのだ。そう言えばそのままにしてたけどコレ俺どうなるんだろう? 暴行に値するのかな。とりあえず両手を前に出して弁護士を呼んでくれと言えばいいんだろうか。

 

『あのな。冗談でもそれは止めてくれ。ニューヨーク市警がデモ隊に破壊されちまう』

『いやいやまさか』

『まさかもないぜ。周囲見てくれよ』

 

 言われて周りを見渡すと、凄い数の民衆が真剣な表情でこちらを眺めているのを見ているのに気づく。何名か棒切れっぽいのを持ってるように見えるのは気のせいだと思いたい。気のせいじゃないよなぁ。

 

『今、アンタの生徒だったアンダーソン警部補がこっちに向かってる。犯人はコチラで搬送するから、この拘束を解いて大人しく俺と待っててくれ』

『……あー、その。ごめんなさい?』

『むしろ礼を言わせてくれ。俺とここに居る仲間は二次元に入らないであんたと協力できたんだから。ありがとう、ヒーロー』

 

 そう言って握手を求めてくる警官、ダニーさんという名前の巡査さんと握手を交わすと、周囲を割れんばかりの拍手が埋め尽くした。どうやらこれで正解だったらしい。犯人達も暫く放置してしまった為急いで拘束を解き、手荒にして申し訳ないと一言詫びると、『あんたに捕まえられたんなら箔がつくよ』と苦笑を返された。あんまり悪い事するなよ、と声をかけてパトカーに乗った連中を見送ると、何故か連中パトカーの中から大きな声で『ありがとう、スパイディ!』『ニューヨークへようこそ!』と叫び始めた。あ、中の警官に殴られた。

 

『毎回ああいう感じなんですか?』

『んな訳ないだろ。あんたが特別なんだよ……連中は留置所の中でデカい顔が出来るだろうさ。なんせ本物のヒーローに手ずから捕まった初めての人間だからな』

「……いやー、冗談キツイわ」

 

 入れ違うように現場に入ってきたパトカーから見覚えのある白人男性が出てくるのを尻目に、俺は周囲の溢れんばかりのスパイディコールにマスクの下の顔を引きつらせて立ち尽くした。本当に冗談キツイわ。マジで。

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