奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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サブタイはどっかのゴシップ誌のタイトルです。

誤字修正。kuzuchi様ありがとうございました!


第百二十一話 スパイディ逮捕!? 驚愕の真実は!

 アンダーソンさんはつい先日まで奥多摩で対冒険者用の訓練を積んだ警官の一人だ。基本的に例の訓練を行った警官は後進の教育の為に教官の任についているのだが、ニューヨークの様な大都市では彼のように対冒険者訓練を積んだ警官の運用を行う為に数人が配備されて実地での運用実験を行っているらしい。

 

 ニューヨーク以外にも対冒険者訓練を積んだ警官は西海岸とワシントンに配備されており、彼等は後進の教育を行う他の訓練履修者が育てた後進の受け皿を作る為に奮闘しているそうだ。

 

『まさかこんな序盤で貴方レベルの相手の抑え役をやらされるとは思いませんでしたがね』

「迷惑をかけて申し訳ない」

『いやいや。貴方は誇れる事をしたのですから、頭を下げないで下さい! 所でマスターはお元気ですか?』

 

 そういや貴方も門下生でしたね。

 彼の運転するパトカーに揺られながらニューヨーク市警に入ると、待ち構えていたカメラマン達がパシャパシャとシャッターを切る。捕まってないよ、と両手首がフリーな事をアピールすると何人かが笑ってくれた。

 

『普通の手錠じゃ拘束も出来ないでしょうが』

「アンダーソンさんの腰に着いてるのだと手が溶けちゃうしね」

『その映像を見られたら私がマスターに殺され……』

 

 そこで言葉を切られると凄く怖いです。俺とアンダーソンさんはそのまま真っ直ぐ署長室に通され、中に入ったらゴテゴテと勲章を着けた壮年の男性複数人に敬礼を向けられる事になった。

 

『あくまで一協力者として行動したという事で』

『はい。こちらとしても大変恐縮ですが』

 

 ハンカチで額の汗を拭いながら署長は申し訳なさそうにそう言った。やっぱりヒーローが華麗に解決! という形で処理されると後々がとても面倒臭くなるみたいだ。

 

 俺としてもその判断には特に異論は無かったので了承し、あくまでたまたま見かけた犯罪者を現行犯で捕まえた、という形で発表して貰うことにした。あんまり変な形で騒がれても困るからね。

 

 その後署長と握手をしているシーンを広報の人がパシャリと撮り、善良な一市民との微笑ましい対談みたいな感じで公表してくれるそうだ。色々体面も気にしないといけないのは大変そうだ。良かれと思ってやった事で面倒もかけてしまったので少し気が重い。

 

『いや、貴方は正しい事をしました。それを見て騒ぎ立てる連中が悪いのですから』

『そう言ってくれるのはありがたいですね』

『さて、一働きした後は腹も空いたでしょう。本場のステーキを堪能していかれませんか?』

『是非ご一緒させて下さい!』

 

 少し落ち込んでいた俺に気を遣ってくれたのか、この後は非番だというアンダーソンさんに誘われて、俺は行き付けだというステーキ屋で本場アメリカのドデカイステーキを堪能する事になった。何というか、うん。肉塊ってこういうのを言うんだろうな。久々に肉を見たくないって気持ちになるまで食べた気がする。近場の焼肉屋さんは食べ放題無くなっちゃったからなぁ。

 

 

 

『シャーロットさんが気付いたら国外へ行こうとしてて割と焦ったよ!』

「何してんのあの人」

 

 あやうく捕まりかけた事を連絡すると帰ってきた返答がこれで思わず真顔になった。何でも前々から色々と仕事を調整してアメリカに行こうとしていたらしいがスッパ抜かれた俺の連行?シーンを見て思わず飛び出してしまった、というのが事の顛末だそうだ。

 

 勿論社長以下真一さんやうちの両親等の首脳陣が慌てて引き止めて事なきを得たらしい。俺としては迷惑をかけてしまったので申し訳ないやら恥ずかしいやら、たまらない気持ちだ。

 

「とはいえシャーロットさんも大分うちの為に頑張ってるんだし偶には休みもあげないといけないんじゃね?」

『それでニューヨークでロマンスも悪かーないけど、お兄ちゃんどうせ今から色々飛び回ってから日本に帰るんでしょ?』

「ああ、そうだけど」

『普通にすれ違うからこっちに居とけって事だよ』

 

 確かに別に抑留される訳でも無いから迎えに来てもらう必要もないしな。アンダーソンさんが一応の身元保証人になってくれたし。

 

「わかった。帰る時は迎えを宜しくって伝えといてくれ」

『それを自分で言わないからお兄ちゃんはお兄ちゃんなんだよ?』

「あの人のアレはそういうんじゃないだろ。ああ、アンダーソンさんがマスターに宜しくって言ってたぞ」

『嘘!? へー、そっちに今は居るんだ』

 

 不服そうな声で呻く一花にこちらで出会った教え子の話をすると途端に上機嫌な様子に戻る。ステーキ店でレコードを更新した話と合わせて彼とのやり取りを話すと終始笑い続けていた。ただ食べるだけの話がそんなに面白かったのだろうか。

 

 一花との会話を終えると次は父親に連絡を入れる。シャーロットさんの件で何故か迷惑をかけてしまったみたいだしな。

 

 父親の方には正確な情報が回ってきていたらしく、特に小言も貰わずに明日の飛行機で帰る旨を伝えておく。俺が居ない間に駅前に複合型の商業施設が出来たらしく、昔から奥多摩に店を出していた個人スーパーのご主人や歯医者さんや整骨院さん等が入ってくれているらしい。

 

 ヤマギシが土地を再開発した時に立ち退いてくれた人達なので、このビルの地権を応分に渡していつまでも心配なく商売が出来る様に配慮しているそうだ。俺も子供の頃から世話になった人達が多いから、彼等がそのまま奥多摩で暮らしてくれるのは素直に嬉しい。日本に帰ったら挨拶回りでもするかな。


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