奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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第百二十ニ話 ジャンさんがニューヨークに来た

『やぁ、イッチ。元気そうで何よりだ』

『ジャンさん。ようこそニューヨークへ?』

『ありがとう。懐かしい空気だ』

 

 人が一人、丸々入りそうな荷物を抱えたヤマギシ撮影班の一人、ジャンさんはノシッ、ノシッ、と音を立てながらこちらに歩いてくる。

 

 彼が何故ここに居るのかというと、東京の方の映画会社からマーブル側に情報提供というか、紹介があったのが原因だ。「今現在、最も魔法を映像に活かす技術」を持つ人物として。

 

 シャーロットさん経由で依頼されたジャンさんはこの仕事を快諾。映像編集の一人としてヤマギシ所属のまま今回の映画に協力する為に帰国してきたのだ。

 

『まさかただの報道スタッフがハリウッドの映像編集をやる事になるとは思わなかったよ』

 

 スタンさんが用意してくれたクルマに乗り込み、日本の話を色々していた時。ポツリとジャンさんがそう呟いた。色々お願いしたり無茶ぶりしている自覚はあったので愛想笑いで誤魔化そうとするが、そんな俺の様子がツボだったのか、ジャンさんは大笑いしながら俺の頭をぐしゃぐしゃに撫でてくる。

 

 暫く談笑を楽しんでいると、車がとある建物の中に入り込み、そこで停車。シャッターが閉まるのを待ってから俺達は車の外に出て2台目に乗り換える。俺狙いのパパラッチが変な所で映画の情報を入手しないとも限らない為、映画関連の相手に会う時は大分慎重になっているんだ。

 

 少し時間を置いてからまた車は発進。そこから更に時間を置いて俺達が乗り換えた車が発進し、今度は真っ直ぐに目的のマーブル社へと向かった。

 

 

 スタンさんとジャンさんを引き合わせた後、俺たちはジャンさんの為に借り上げたアパートの一室へと向かった。今回の仕事は長丁場になりそうなのでスタジオ近くで移動の便が良い場所を選んで借りたのだが、結構広いし家具もある程度すでに設置されているしで結構住みやすそうな場所だった。やたらとデカイ荷物を室内に置き荷解きを手伝うと、ほとんど全てPCの部品で撮影機材というより完全に編集用の機材だな。

 

『まぁ、撮影に関しても負けるつもりはないけど今回は完全に編集でって言われてるしね。足りない分はこっちで買えば良いから』

「これで最低限ってすごいですね」

 

 ジャンさんが背負っていた荷物、女性一人分くらいの高さがあったからな。恐らくウェイトロスの魔法とストレングスを使ってたんだろうが間違いなく数百キロはあった筈だ。

 

『こっちに支部でもあれば楽なんだけどね。今からでもテキサスに拠点を移さない?』

「そこはスタンさんかシャーロットさんと交渉してください」

 

 俺の言葉にジャンさんは苦笑を浮かべて肩をすくめた。まぁ、シャーロットさんのここ最近の様子を聞く限り難しいだろうなぁ。暇があればニューヨークへ行きたいと呟いてるらしいし。下手なことを言ったらニューヨーク支部を作るとか名目作ってこっちに来そうだし。シャーロットさんが抜けると海外での渉外担当がうちの父親だけになってただでさえ忙しい父親が余計に家に帰ってこなくなりそうだった。そうなるとまぁうちの母が止まらなくなるんだよね。社長の胃袋の為にも父さんには適度に帰ってきてもらわないと。

 

『そういえばPV見たよ。随分と奥多摩で撮影した動画が使われてたけど撮れ高なくなったんじゃない?』

『来週か再来週には一度帰国予定だよ。こっちでの本格的な撮影は秋以降になりそう』

『なるほどねぇ。向こうで撮る時はまぁ、他のメンバーがいるから大丈夫だろうけど頼むからカメラが追えない速度では動かないでくれよ?』

 

 困るのはこっちなんだからな、と眉を寄せるジャンさんに出来るだけ頑張ります、とだけ答える。流石に高速移動中はそこまで気も回せないし、カメラの位置取りで対応する位しか手がないからなぁ。これがジャンさんか他の撮影班のメンバーならこっちの動きを見ながらカメラワークまで変えてくれるんだが流石に一般人の反射神経だと厳しいだろう。場合によっては他の撮影班の力を借りることになるかもしれないな。

 

 

『という訳で帰ります』

『よし、ちょっとこっち来てくれ』

 

 俺は恭二とは違うので帰る時は挨拶ぐらいするぜ、とウィルの居るホテルに顔を出して挨拶をすると、ぐっと肩を掴まれて部屋に引きずり込まれる。俺にそっちの趣味はないと言ったら割とガチ目で腹を殴られたのでまじめに聞く態勢を取ることにした。

 

『それがソファーに寝そべるって事なのかい』

『こないだみたいにまじめに受け止めすぎても迷惑かと思って』

 

 今から思えばあくまでも打診しただけの話に過剰反応しすぎた気がするので少しだけ反省の意味を込めてふかふかのソファに寝転がる。どっちにしろ俺は帰らないといけないのはウィルも分かっているのだ。恐らく愚痴を吐きたいだけだろうしそれはこちらも承知している。これくらいの態度で居れば気負いもなく話せるだろう。

 ため息をついたウィルは自分もごろり、とソファに寝転がると、天井を向いてあー、だとかうー、だとか言いながら逡巡し、深く息を吸ってから、吐き出した。

 

『なぁ、イチロー。君、今彼女いるっけ』

『お前俺にケンカを売ってるのか?』

『OK、落ち着け。確認だけだよ。これから作る予定もないな?』

 

 返事の代わりにウェブを打ち込んだらアンチマジックではじかれた。戦争だろうが。思ってるだけならまだしも……それを言っちまったら戦争しかないだろうが……ッ!

 

『わかった。なぁ、性格はともかく可愛い女の子と知り合いになりたいか?』

『出来れば性格も良い方がいいけど、まあ』

『OK! じゃあ近いうちにまた日本で会おうぜ! 楽しみにしててくれよ!』

 

 話はすんだ、とばかりにヒザをパンッと叩いてウィルは立ち上がり、俺も起き上がってもう一発ウェブを打ち込む。ちっ、まだアンチマジックしてやがる。明らかに何か悪い方向へ転がった話をそのままにするつもりは無いんだよ。

 

『うちの妹が日本で待ってるぜ。じゃあな!』

『……はっ?』

 

 俺があっけにとられた隙をついて、ウィルは窓から飛び降りた。慌てて窓に駆け寄ると、どこかに身を隠したのかもう姿が見えなくなっている。というかここ20階なんだが。

 

 状況がつかめずに混乱する俺に追い打ちをかけるように携帯電話が鳴り響く。着信は母さん。厄介事の予感を感じながら俺は着信を取り、そして予想通りの厄介事にウィルをボコる事を心に誓うのだった。見合いとかどうしろっつうんだよ。




割とウィルは何とかしようとしてたんですが感情的な問題なのでしかたないですよね。
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