奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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今週最後の投稿。来週もよろしくお願いします。

誤字修正。244様、アンヘル☆様、kuzuchi様ありがとうございました!


第百二十三話 ウィルの妹

 スタンさんに最後の挨拶を行って日本に飛ぶ。日本の撮影陣本隊は諸事情あって少し遅れて来るとの事なので、先行している日本撮影組のプロデューサー(撮影現場等調整中)に顔を通しておいて何かあった時は連絡するように頼んでおき、久方ぶりの奥多摩へと帰ってくる。

 

 駅前の工事が済んでいたり、旧小学校が工事に入っていたりと嬉しい進捗を目にして現実から逃避していると、車はヤマギシビルの前に到着。明らかに高級車だとわかる車が何台もビル前の駐車場に止められていて非常に嫌な予感しかしない。

 

 ビル前に車をつけると、すでにスタンバっていた一花からちょいちょいと手招きを受けて恐る恐るついていくと、ブラスコが借り上げているビルの一室に連れていかれる。中にはケイティとシャーロットさん、それによく見知った顔の金髪の少女と、見たことはないが誰かの面影がある金髪の少女が互いの頬を全力でひねり上げていた。

 

 あまりの光景に絶句する俺と一花を見て、二人は花が咲いたような明るい笑顔で互いの頬を引っ張りながらこちらに声をかけてくる。

 

『ハーイ、イッチお久しぶり。すぐにこいつ片付けるから待っててね』

『初めましてイチローさん、兄がお世話になってます。すぐに片付けるのはこちらのセリフですわ』

『良いからじゃれ合いはその位にしておきなさい』

 

 スパーン、と二人の頭を叩いてケイティが場を収めた。

 

 

 

『初めまして。ウィリアムの妹のダニエラ・イヴァンジェリン・ジャクソンです。家族からはイヴと呼ばれています』

 

 そう名乗りをあげ、彼女…イヴは優雅な一礼をした。ウィリアムと同じ髪質の少し色の薄い金髪は並んで座るジェイの金髪と比較してみても違いが分かる。同じ金髪でも色合いが変わると印象が違うもんだな。上品な服装に身を包んだ彼女は、抓られた右の頬が真っ赤になっていなければお上品なセレブのお嬢様にしか見えない。あれだけの醜態を晒した上でそう見えるのだから大したもんだ。

 

 一方のジェイは、こちらはどうやら大学から飛んできたらしい。テキサスでよく見かけたシャツにジーンズといった格好で、むしろ今の時期の日本では寒いのではないかという位の薄着だった。あ、流石にコートはつけてきたのか。まぁ、それは良いとしてだ。

 

『君ら何しに来たの?』

『この度は両家の縁を更に深める為に』

『イチロー、こいつの言う事は聞かないでいいよ。こいつはイチローの名前にしか興味がないんだ!』

『あんただってただのミーハーじゃない!』

 

 イヴが挨拶をしようとするとジェイがそれを妨害し、それに腹を立てたイヴがジェイを口撃。図星を突かれたのかジェイが激高して立ち上がり、それにイヴも立ち上がった所でケイティが二人の耳を引っ張って部屋の外にたたき出した。

 

『なぁ、ケイティ。当事者そっちのけで盛り上がられても困るんだけどあれどういう事?』

『……ただただ申し訳なく』

 

 口を挟む暇すらないこのやり取りに流石に辟易とした俺はこの場で最も冷静そうなケイティに話を聞く事にした。シャーロットさん? シャーロットさんが冷静な訳がないだろう?

 

 そして話を聞いてみると、うん。何というか上流階級って怖いねって言葉しか頭に思い浮かばなかった。まず、彼女。イヴァンジェリンがお見合いに来たのは本人の希望もあったが、やはりジャクソン家の意向が強く働いているのが分かった。ジャクソン家は現在のヤマギシとの繋がり程度では満足できないらしい。これは合併企業を立ち上げたブラスコの存在が強く影響しているようだ。

 

『ブラス家は現在、アメリカのセレブ業界でも頭一つ抜けそうな状況になっているのです』

 

 ケイティという奇跡の体現者の存在、新しい産業とも言えるダンジョン産業への強い影響力、生業であるエネルギー関連産業でも魔力エネルギーという新エネルギーの権益を確保し、たった1年2年でブラスコは世界有数のエネルギー会社という冠言葉を世界一へと変貌させかけているのだ。

 

『では、同時期に接触をした筈のジャクソン家はどうでしょうか』

 

 世界冒険者協会との接触が俺たちヤマギシとブラス家の接触の始まりだとするなら、それはジャクソン家も同じことだった。実際にウィルはアメリカどころか世界有数の冒険者だし、俺の動画系列でも良く露出がある為抜群の知名度を持っている。彼は世界冒険者協会のもう一つの顔と言える立場なので彼の生家であるジャクソン家の名前は更に高まった。

 

 アンチエイジング効果で一気にダンジョンの利用者が増えた為、生業の観光業に新しい風を吹き込むことも出来たし業績は上向き。これからどんどん利用者も増えるだろうし彼らもダンジョンの恩恵を十分に受けているのだが、ブラスコと見比べた時に彼らはその差に愕然としたらしい。

 

『彼らは確かに業績は上向きですが、ブラスコのように世界一だと言われかねないほどの急発展は出来ていません。そしてその理由を彼らはダンジョンからの恩恵が不足しているためだと考えたのです』

 

 ブラスコの急発展の最大要因、生業であるエネルギー関連での新エネルギーに匹敵する新しい主要産業の開拓。その為にはより強固な繋がりを。そして白羽の矢がたったのが俺であり一花だったという訳だ。

 

「はっきり言えば気に食わないし欲張りすぎじゃね?」

「大きな企業、そーいうもの。うちも私がヤマギシチームじゃなかったラ、多分同じことしたデス」

 

 その場合はケイティが恭二とお見合いでもしてたのかもしれないわけね。今とあんまり変わらんなぁ。

 ケイティは申し訳なさそうな顔をしたまま外で聞こえるバタバタとした騒ぎを鎮圧する為に部屋を後にし、部屋の中にはシャーロットさんと一花、そして俺のチームメンバーだけが残った。気まずい沈黙の中、俺は机に頬杖をついてこれからについて考える。

 しょうがなかったとはいえ、名前を売った結果の因果が回って来たという事だろうが。苦しいなぁ。一花にまで累が及んじまうとは。

 

「シャーロットさん。ままならないものですねぇ」

「そうですね……撮影は梅雨に入る前が望ましいと思います」

「あ、はい。一花、頼む」

 

 まだファンモードから抜けてないシャーロットさんの頭を一花がチョップで叩く。もう少しON/OFFしっかりして貰えませんかね。




ダニエラ・イヴァンジェリン・ジャクソン:ウィルの妹。年齢は一花より一つ上で今年高校を卒業予定の少女。少し白に近い金髪。ウィル曰く性格はともかく容姿は良い。

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