“勝つ”ために   作:アグナ

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大切なのは疑問を持ち続けることだ。
神聖な好奇心を失ってはならない。

“アインシュタイン”



疑問と再会

 どの学校も入学式はさして変わらないらしく、校長の話、在校生代表と壇上に立って話す人物らの言葉を注意して聴講したが、勝理が疑問を覚えているこの学校に関する話は出なかった。

 

 入学式の無難な挨拶を聞き終わった勝理は、その足で疑問を解消するヒントを探してショッピングモールへと訪れていた。

 

「広いな」

 

 思わず漏れた感心の声。ショッピングモールは校舎敷地内に作られたとは思えないほどに広かった。店もスーパーなどの無難なものからブティックやら電気ガス水道等のトラブルに対応する専門店まで、多く点在している。

 

「ケヤキモール……か。確か映画やカラオケなどもあるのだったか、娯楽施設まで完備とは、まさに至れりつくせりということか」

 

 目を向ければ歓談しながらブティックに入っていく三人組の女子生徒やカフェテリアで雑談する男女など、上級生同級生限らず多くの生徒が歩き回っている。

 

「ここまで来るといっそ清々しいな」

 

 お金は学校側から無料で支給され、敷地内には大型のショッピングモール、存分にパフォーマンスを発揮できるよう揃えられた最新のスポーツ関連機器。

 

 実に清々しいほど―――――。

 

「疑問に思ってくれと言わんばかりだ」

 

 少しの観察力と洞察力があれば気付ける。いいや、寧ろ気付いてくれと言わんばかりの怪しさだ。

 

「各箇所に見られる意図が介在する説明の不備……これが事実ならば既に試験は始まっているということか?」

 

 Sポイントは生徒の評価と教師は言った。もっと正確に言えば『入学を果たした時点での君達の価値』であると。

 

「であるならば……ポイントが鍵か」

 

 勝理はポケットから学校から支給されている携帯端末を取り出す。手早く操作して表示させた画面には10万ポイントの文字が無機質に映っている。

 

「………? 『cl』? 何の単位だ?」

 

 予めプリセットされている学校専用のアプリから閲覧できる『残高照会』の画面。保有する学校から支給された10万円……即ち10万『pr』と表示されている項目と供に1000『cl』という別のポイントも表記されている。

 

「試してみるか」

 

 言って、勝理は適当に目に付いたカフェへと足を向わせる。そして、そのままカフェオレを注文すると生徒証を電子機器に翳して支払を済ませた。すぐさま、カフェオレ片手に携帯端末を確認。『pr』の方は数百円単位での差し引きが行なわれているがもう一つの『pr』の方に関しては何ら変動は無い。

 

「ふむ……」

 

 学校から支給された10万ポイント。入学時点での生徒らの評価。そして個人のポイント利用では変動しないもう一つのポイント。

 

「確信に至るには早いな」

 

 手札は揃えた疑問に対する自分なりの解答は得た。ならば答え合わせをする必要があるだろう。無難な選択として教師に直接聞くが早いだろうが……。

 

 ―――その時だった。

 

 カツン、と音が響いた。

 

「―――驚きました。貴方もこの学校に入学していたのですね」

 

「……お前は」

 

「お久し振りです、三鷹さん。最後にお会いしたのは五年前の懇親会でしたか。ともあれ、お互いにご入学おめでとうございます」

 

「坂柳有栖か、確かに。久し振りだな」

 

 彼女が勝理を知るように勝利もまた彼女とは知己であった。銀髪で色白、体が弱いため携える杖が相まって、一見して儚さを感じる可憐な少女だ。しかし、口元に浮かぶ冷笑にも似た笑みが儚い少女と言う印象を拭い去るほど強く映る。

 

「入学記念のお祝い代わりにお茶でもしませんか。幸い、貴方が片手に持っているそれは飲みきられていないようですし、お互い、交わしたい会話もあるでしょう?」

 

 坂柳は勝理が手に持つカフェオレに目を向け、次いでもう片手、学校支給の携帯端末を見てニコリと笑う。……やはりというべきか、学校の不自然さに目を向けた生徒は己だけではなかったらしい。

 

「構わない。俺も誰かと意見を交わしてみたいところだった」

 

 ゆえに断る理由は無く、坂柳の提案を勝理は呑んだ。

 

 

 

 

 カフェは思いの他空いている。まだ入学式を終えた段階ゆえか、同級生の姿は疎らで談笑しているのはもっぱら上級生達だ。そんな人によってはアウェイと感じる空間であるが、勝理もそして坂柳も、そういった緊張とは無縁であった。

 

「ふふ、それにしても驚きです。同じ学校に入学しているとは思いもよりませんでしたから。とはいえ、有り得ない話でも無かったですね」

 

「それはこちらの台詞だ。ここの理事長に関しては認知していたが、君も在籍しているとは」

 

「ああ、言って置きますが裏口入学などはしていませんよ? まあ、父の性格を把握しているならば言うまでもありませんが」

 

「知っている。彼は公平な人間だ。その手の不正は犯すまい」

 

 唇をそれぞれカフェオレと紅茶で濡らしながら談笑にする二人。話題はこの学校の理事長……坂柳の父に関するものだった。

 

 五年前―――丁度両者が十歳の頃。政界(・・)関係者の懇談会で二人は父の連れ添いとして懇談会に参加し、そして出会っていた。常に連絡を交わす友人とまではいかなくとも時たま連絡する程度には親しい仲だ。

 

「クラスはどこに?」

 

「Bだ」

 

「まあ、それは……本当に五年前からお変わり無いようで(・・・・・・・・)

 

「成長が無いというならば自覚はある。が、真実として変えようが無いのも事実だ。俺は俺の異常性を理解している、している以上、直せるものでもあるまい」

 

 それは努力家として凡そ模範となり得るであろう人間には似合わぬ諦めの言葉だった。常に考え、行動し、最善の努力をする男には似合わない言葉。だが、その言葉に坂柳は特に反応することも無く会話を続ける。

 

「しかし、その言葉を返してくる辺り、既に事の殆どは把握しているご様子」

 

「ポイントで生徒の評価を格付けしている……と仮定するならば直ぐに行き着くところだろう。クラス分け、つまるところAからDとはそういうことだろう」

 

「初日で気付くとは流石ですね」

 

「自慢できることでもあるまい。多少の洞察力があれば誰でも辿り着ける。現に入学前に出会った中でも一人、勘付いているものがいた」

 

 『ポイントの支給は入学を果たした時点での君達の価値』とは二つの事実を示唆する。一つはポイントが生徒一人一人に対して何らかの評価基準に直結していること、もう一つはこれら評価が変動することを意味している。

 

 また、そういった生徒に対するポイント評価が行なわれるならば配属されるクラスにも意味があるのだと考えるのは当然だろう。AからDと一見して普通のクラス分けのようではあるが、この学校が態々ポイントと言う明確な評価手段を使用している以上、AからDのクラス分けも生徒の評価が影響した成績順と考えることも出来る。

 

 ここまで会話が噛み合うとなると、どうやら考察は概ね、坂柳と同じものらしい。

 

「鍵となるのはこのポイントだろう」

 

 勝理はそう言って、坂柳にも見えるよう『cl』という単位がついた1000ポイントを開示する。

 

「何のポイントかは知らないがこれが俺たちが入学時点で学校から与えられた評価である……そう考えれば辻褄合わせはそう頭を使うものではない。そう考えれば、もしかしたら10万と言う数字は此処に掛け計算で割り出した支給額であるのかもな」

 

「さて、私もそこまでは。まあ、そのポイントが意味するところは明日明後日からの授業で判明するところでしょう。授業態度、課題、テスト、何らかの評価を測る内容をこなした後にこの数値が変動すれば……」

 

「俺たちの成績がこのポイントに集約するという証明になる訳か」

 

「そこまで単純かは知りませんが、普通に考えればそうなるのでしょうね」

 

「確認する必要があるな」

 

 もう少し確信を得たい。仮に学校が故意に伏せているならば恐らくそれに気づくか気付かないかも含めて一種の試験なのだろう。だとすれば教師が答えに辿り着いたからといって正解かどうかを教えてくれる確立はきわめて低い。

 

 だが、上級生。既にこの特異な学校で一年以上過ごしている先輩にならば、確認が取れるのではないか、例え明言はされなくとも確信に繋がる反応を得られるのではないかと勝理は当然の思考をする。

 

「無駄だと思いますよ?」

 

「何?」

 

 ―――その思考を坂柳は斬って捨てた。視線を向けて無言の問いを投げればさして隠す様子も無く呆気なく坂柳は理由を語る。

 

「何人かの上級生方に話を聞いてみましたが、素気無く断られてしまいました。まあ仮にこれが試験ならば当然といえば当然ですが……もしかしたら上級生にも私たちと同じような明言されずとも課せられた何かがあるのかもしれませんね」

 

「そうか」

 

 既に試した選択肢だとはいえ、あくまで坂柳が試した所ではの話。後で自ら足を運んで見る必要があるだろうが、確かにこれが予想通り一種の試験ならば少なくとも試験中に答えを教えるようなことは無いと考えるのが正しいか。

 

 どうあれ、自分なりの答えを出せたところで良しとするべきだろう。こうして行動の指針が出来ただけでも有り難い。事の真実は坂柳の言う通り明日明後日の授業を通して見極めていけばいいのだから。

 

「しかし、貴方がB……ですか。早速一つ、楽しみが出来ました。私はAクラス。貴方と競い合ってみるのも悪くはありません」

 

「さて、そちらと違ってAクラスではなくBに所属する身。評価基準で競い合うというならば既に俺は負けているが」

 

「スタート時点の結果で全てが決まるなどと甘い見通しはしていませんし、それに貴方の弱点は致命的になり得ない。貴方が天才的なのは疑う余地もありません」

 

「俺は努力しているだけだ。物覚えは余り良い方では無いのでな」

 

「努力、努力ですか……ふ、ふふふ」

 

 勝理の言葉に初めて坂柳が声を冷笑では無い純粋な笑顔を浮かべる。その、何処か『毒』を孕んだような悪魔的な笑みで坂柳は、

 

「楽しみです。ええ、本当に。貴方が何処まで独り往けるのか(・・・・・・・)

 

「無論、何処までも。俺はあの男とは別の道を往くのみ」

 

「清く正しく美しく、ですか? 示すことで糾せると?」

 

「ああ」

 

 己の正しさに欠片の疑いも持たぬ強い返事。それを聞いて坂柳はまた笑い、

 

「やはり楽しみですね。貴方と競い合える日が」

 

「お互い高めあうためならば望むところだ。全力で競い合おう」

 

「そうですね……有意義な時間でした。では、私はこれで」

 

 一通りの会話を終えた坂柳は目的は果たしたとばかりに席を立つ。その杖を頼って立ち上がる坂柳を見て、三鷹は声を投げる。

 

「手はいるか?」

 

「エスコートならば不要ですよ。そのお気遣いには感謝しますが」

 

「そうか、ではまた会おう、坂柳」

 

「ええ、ではまた」

 

 カツンと、杖を鳴らして立ち上がった坂柳は自分の後片付けをして店内を後にしていく。その様子を見送った勝理もまた自分の片付けをして店内を後にしたのだった。

 

「しかし、坂柳か……」

 

 ふと、昔を思い出した懇談会の時、父が坂柳の父と歓談している時だ。遠くにボディガードを多くつれた強面の男が居た。その男は父や坂柳の父と無愛想ながら多少の会話を交わしていたが、あの男は確か……。

 

「綾小路……いや、偶然だろう」

 

 何となく、運命的なものを感じた勝理だが、すぐさま下らない感傷だと忘れて情報集めのために歩を進めるのであった。




『残高照会』……二巻冒頭で書かれていた時、あれ? これ違和感に気付かねえ? と思ったのは作者だけなのだろうか。普通、『pl』の近くに『cl』と書かれた謎の1000ポイントがあれば入学してすぐの時点でもポイントの秘密に気づきそうですが。

……Dクラスは携帯に疎かったんだろうか。それとも単純に入学一ヶ月以降じゃないと見ることが出来ない画面だったのか。

そんなことを考えながら書いた三話だった まる




後、有栖ちゃんかわいい。(関係ない)
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