ゴッドファーザーに憧れた男達   作:Don・Corleone

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原作の八幡の捻デレって明稜帝 梧桐勢十郎に通じるものがあると思う。


案件二 謝罪

雪ノ下雪乃がただ一人の部員にして部長を務める奉仕部の部室は映画研究部と同じく特別棟にある。

 

その奉仕部の前に立つ一人の少女がいた。緩くウェーブを当てられた肩までの明るめに脱色された茶髪、短めのスカート、着崩した制服、胸元にはネックレスと所謂今時の女子高生というやつである。

 

彼女は奉仕部のドアを弱々しくノックをする。

 

「どうぞ」

 

「し、失礼しまーす」

 

雪の下雪乃は読んでいた本に栞を挟み、身を滑り込ませるようにして部室に入ってきた来訪者を見上げる。雪ノ下雪乃は部屋に入って来た彼女を見て少し驚いた様子を見せる。

 

「あら、貴女は確か由比ヶ浜結衣さんよね? 」

 

雪ノ下雪乃が彼女の名前を言うと彼女はまるでなにか悪いことをして叱られたかのように体をビクッと震わせる。

 

「う、うん。久しぶり雪ノ下さん」

 

この通り、彼女らはお互いに面識はあるが親しい間柄ではない。彼女らの出会いには映画研究部のある男が大きく関係していた。

 

 

それは彼女らの総武高校入学式の日の事だった。いつも母親に起こしてもらう由比ヶ浜結衣は入学式のためか珍しく自分から早起きをしたので、愛犬であるミニチュアダックスフントのサブレと散歩に出かけていた。

 

途中までは順調だったのだが今まで彼女のサブレに対する躾不足が祟ってサブレは散歩中に彼女が持っていたリードを振り切って勝手に走り出してしまった。勿論、彼女は追いかけるが小型犬とはいえ犬の足になど中々追いつけるものではない。

そうこうしているうちに飼い主に似てあまり頭の出来がよくないサブレは危険も知らずに車道に飛び出してしまった。

 

なんとも間が悪いことにそこには丁度リムジンがやってくるところだった。サブレは小型犬であるため運転手からは視認することもできず、サブレはこのまま轢かれるばかりかというところに一人の男がやってきた。

着流しに雪駄という平成の時代には珍しい格好で走ってきたその男は何の躊躇いもなく車道に飛び出して犬を抱えこむと、そのままやってきたリムジンに轢かれてしまった。

 

男の登場はあまりに急なことだったので運転手は急ブレーキをかけることもできず男は五メートル程吹っ飛んだ。由比ヶ浜結衣はその衝撃的な光景を見て大きな悲鳴を上げ、リムジンの運転手と搭乗していた雪ノ下雪乃は顔を蒼ざめた。慌てて車から降りた二人は吹っ飛んだまま動かない男のもとに向かい、運転手が声を掛けようとしたところでその男はゆっくりと立ち上がった。

 

背が高く眼光の鋭いその男は立ち上がると、まず自分が庇った犬の様子を確認して何ともないことを確認すると自分の体を確認し始めた。五メートルも吹っ飛ばされたのになんともなかったらしく、とうとうその男は着物と雪駄の心配までし始めた。

そこでようやく自分に近づいて来た運転手と雪ノ下雪乃に気が付いたらしいその男は二人に向かって恨み言の一つでも言うかと思えばまるっきり予想外のことを言い出した。

 

「車は大丈夫ですか? 」

 

たった今、車に轢かれたばかりの男は自分に近づいてきた二人を見て何故か自分を轢いた車の心配する事を口にした。

 

人を轢いてしまい、もしや死なせてしまったかと大きく動揺していた運転手はピンピンしているその男とその言動によってさらに動揺させられてしまった。

 

彼はリムジンのフロント部分を確認すると不幸中の幸いなのかどうかわからないが、車には特に凹んだ箇所も見受けられなかった。

 

「特に何ともないようです……」

 

「それは良かった。急に飛び出してしまい本当に申し訳ありませんでした」

 

男が深々と頭を下げると運転手も慌てて轢いてしまったお詫びを述べた。立場が普通とは逆転していることに雪ノ下雪乃は大きな違和感を覚えた。

 

「左腕は平気なんですか? 」

 

流石にその男も無傷ではなく犬を抱えていた左腕を大きく擦りむいていた、

 

「ええ、確かに少し擦りむきましたが大したことはありません」

 

ようやく落ち着いた運転手はその男のもとに向かうと一枚の名刺を差し出した。

 

「本当に申し訳ございません。病院にお送りしましょう」

その男は名刺だけ受け取りその申し出を断る。

 

「お気遣いはありがたいのですが、此方から飛び出しておいてご迷惑を掛けるわけにはいきません。今のところ問題ないので一人で病院には行きます。お急ぎなのでしょう」

 

その男はその後も引き下がる二人を何かあったらきちんと報告し賠償を受けると約束してようやく納得させた。

 

由比ヶ浜結衣のもとに向かったその男は彼女に犬を手渡す。あまりのことに思考停止していた彼女は犬を手渡されやっと我に返った。

 

「あ、ありがとうございます。本当にごめんなさい。左腕は本当に平気なんですか? 」

 

「見た目は派手だが大した傷じゃありません。そんなことよりも犬の躾とリードをしっかり持つことに気を付けてください」

 

「は、はい。本当にすみませんでした」

 

ちょっとしたパニック状態に陥っている彼女に彼は自分の体は問題ないことを告げて彼女の不備を咎めると、彼女ら呼び止められるのも聞かずに日課の散歩がまだ残っていると言い残してあっという間にその場から立ち去ってしまった。残された三人は予測もしていなかった彼の行動にただただ呆然とするだけだった。

 

その後、雪ノ下雪乃はその男と入学式で出会い、同じ総武高校の新入生であることを知った。当然、事故の件の示談、賠償を考えていた彼女ではあったが結局この男は診察代すらも受け取らなかった。

 

この男こそ後の映画研究部部長比企ヶ谷八幡であった。

 

 

「あの時は本当に驚いたわ」

 

「本当にね」

 

雪ノ下雪乃はしみじみそう呟くと由比ヶ浜結衣は頷く。

 

「……と、いけないわ、本題に入りましょう。由比ヶ浜さん貴女の依頼は何かしら? 」

 

雪ノ下雪乃のそう尋ねられると由比ヶ浜結衣は気まずそうに顔を伏せる。

 

「……実はね、もう一年ぐらい前なのにあたしまだ比企谷君にあのことでちゃんとしたお礼が言えてないの。でも今年は同じクラスになったし、いい加減お礼をしなきゃと思ってここに来たの」

 

由比ヶ浜結衣が一年生の時、あるグループが入学当初から名が通っていた映画研究部の部員達と交流を深めようしたことがあったのだが結果は悲惨の一言である。

 

そのグループは映画研究部の誰にも相手にされず、勇敢にも楠見謙吾にしつこく話しかけた女子は泣かされてしまうということもあった。この一件以降、彼らはあらゆる生徒から一歩も二歩も距離を置かれる不可触(アンタッチャブル)な存在となった。

 

由比ヶ浜結衣は一年の頃からクラスの中でも目立つグループに属していて、どこかグループのメンバーに過剰に気を遣ってしまう八方美人的な部分があった。彼女は当然そんな存在となってしまた比企谷八幡に話しかけることは出来ず現在に至ってしまった。

 

「あら、そうなの。では奉仕部としては比企谷君へのお礼の手助けをすればいいということかしら? 」

 

「う、うん。今更過ぎるからただお礼を言うだけなのもアレだし、クッキーとか何かお菓子を作ってお礼の時に渡そうと思ったんだけど、あたし料理とかしたことないるし自信なくて……。雪ノ下さんは料理が上手だって雪ノ下さんと家庭科の調理実習で同じ班だった子が言ってたから教えてもらおうと思ったの」

 

「わかりました、由比ヶ浜さん。あなたの依頼をお受けします」

 

「ほ、本当? ありがとう」

 

奉仕部に来てからずっと緊張していた由比ヶ浜結衣はそれを聞いてようやくホッとした様子を見せる。

 

「由比ヶ浜さん、早速だけど今日時間あるかしら? 」

 

「え、まあ暇だけど」

 

「それでは由比ヶ浜さん、行きましょうか」

 

読みさしの本を鞄にしまい、雪ノ下雪乃は立ち上がる。

 

「行くってどこに? 」

 

当然の疑問を由比ヶ浜結衣は雪ノ下雪乃に投げかける。

 

「私の家よ」

 

「えっ、雪ノ下さん家? 」

 

「ええ、家庭科室は今から使用許可を取ってもあまり長い時間使えないから私の家の方がいいと思うの。ちょっとしたお菓子を作れるぐらいの材料は家にあるわ。……もしかして嫌だったかしら? 」

 

「う、ううん。全然平気だよ」

 

由比ヶ浜結衣は雪ノ下雪乃の提案に少し面食らったものの納得したようだった。

 

「そう、じゃあ早く行きましょう。善は急げよ」

 

 

雪ノ下雪乃は今回の依頼は簡単だと考えていたがそれは間違っていたことに気づかされた。 由比ヶ浜結衣はメニューを守らなかったり、余計なアレンジを加えようとしたりと日曜の某番組の某コーナーで活躍できる人材であった。雪ノ下雪乃は彼女の予測できない行動にかなり手こずったものの、献身的なサポートにより由比ヶ浜結衣が人に渡せるレベルのクッキーを完成させることになんとか成功した。

 

調理を終えた彼女らは雪ノ下雪乃が淹れた紅茶を飲みようやく一息つくことができた。

 

「……そういえば由比ヶ浜さん、このクッキーを彼にどうやって渡すつもりなの? 」

「う〜ん。比企谷君は休み時間はすぐにどっか行っちゃって授業が始まるまで帰ってこないから放課後に映研まで行って渡そうかな」

 

呑気にそう言う由比ヶ浜結衣であったが雪ノ下雪乃の顔は蒼ざめる。

 

「それは辞めた方がいいわ、由比ヶ浜さん」

 

彼女は紅茶のカップを置いて由比ヶ浜の説得を始める。

 

「なんで? 」

 

「比企谷君、というか映画研究部の人達は部活中かなり殺気立っているの。とても近づきがたいからそれだけはやめたほうがいいわ」

 

雪ノ下雪乃が彼らに依頼をしに始めて映画研究部部室に行った日、そこで平塚静と雪ノ下雪乃が見た彼らは皆どこからか血を流していた。由比ヶ浜結衣が額から血を流している材木座義輝などを見たら失神しかねない。

 

「じゃあ、どうしよう……」

 

「あらかじめ、彼を奉仕部の部室に呼び出しておけばいいわ」

 

「いいの? 部活があるんじゃないの? 」

 

「貴方の件が終わるまで新しい依頼を受けることはないわ。それに私もあの件では当事者ですもの」

 

「じゃあ、それでお願いします」

 

「ええ」

 

「あれ、雪ノ下さんは比企谷君に連絡することができるの? 」

 

由比ヶ浜結衣は少し驚いた様子を見せる。

 

「ええ、映画研究部とは少し縁があって彼と材木座君とは連絡先を交換したの」

 

依頼の事などで彼らとは連絡を取る必要があるのでこの連絡先交換は行われた。雪ノ下雪乃は彼らの部下・協力者以外で彼らの連絡先を知る数少ない一人となった。

 

 

翌日の放課後、雪ノ下雪乃の連絡を受けた比企谷八幡は奉仕部の前に立っていた。彼は何のために自分が奉仕部に呼び出されたか心当たりが全くなかった。彼がノックをすると雪ノ下雪乃が返事をする。

 

「どうぞ」

 

部屋に入った彼は中にいる雪ノ下雪乃、そして由比ヶ浜結衣を一瞥する。呼び出された件に由比ヶ浜結衣が関わっていることはわかったがやはり何なのかはわからない。

 

「用件は? 」

 

「それは彼女に聞いてちょうだい」

 

彼が雪ノ下雪乃にそうたずねると彼女は由比ヶ浜結衣を指し示す。彼の注意が自分に向けられると由比ヶ浜結衣は緊張した様子を見せる。

 

「俺に何か用か? 」

 

「……あたし、比企谷君に謝らなきゃいけないことがあって」

 

彼女がそう言ってもやはり彼には何のことかはわからない。彼があの時した程度の怪我は珍しいことでもないので彼は事故のことをすっかり忘れていた。

 

「比企谷君、入学式の日に犬を庇って車に轢かれたでしょ。その犬があたしの飼い犬なの。一年ぐらい前のことだし本当はもっと早くお礼を言わなきゃいけなかったんだけど今まで言うことができなくて……。こんなに遅くなって本当にごめんなさい」

 

頭を下げる由比ヶ浜結衣が言うことを聞いて彼はようやく事故のことを思い出したのか合点した様子を見せる。

 

「あの時、犬を助けてくれて本当にありがとう。それでよかったらこれ……」

 

彼が彼女の手作りクッキーを受け取るとようやく緊張が解けたのか彼女は嬉しそうに微笑む。

 

「礼ならあの場で聞いたのにわざわざお菓子まで作ってもらって申し訳ない。……あの犬の飼い主は由比ヶ浜だったのか、犬は元気か? 」

 

「うん、轢かれかけたことなんかすぐ忘れちゃったみたいで元気過ぎるぐらい」

 

それからは調子を取り戻した彼女によって二人の話は盛り上がった。彼女は彼に謝罪することができ、すっかり憑き物が落ちたようであった。こうして由比ヶ浜結衣の依頼はつつがなく終了し、彼女は雪ノ下に礼を言って部屋を出て行った。

 

由比ヶ浜を見送った後、奉仕部の部室から立ち去ろうとする彼を雪ノ下雪乃は呼び止める。

 

「比企谷君、少し時間取れるかしら? 」

 

「……少しなら」

 

 

「紅茶は好きかしら? 」

 

「いや、嫌いだ」

 

雪ノ下雪乃は紅茶缶を取り出したが比企谷八幡は明確に拒否する。彼は日本茶、コーヒーは大好物であるが紅茶は苦手だった。

 

「紅茶が駄目となるとほうじ茶ぐらいしかないわね」

 

「是非、そっちにしてくれ」

 

彼の強い要望により彼女はほうじ茶を淹れると、湯呑みの一つを彼に渡して彼女は彼の正面に座る。

「私も貴方にお礼を言いたいの」

 

「何か良いことでも? 」

 

「貴方が回してくれた依頼を解決したことで少しずつ奉仕部の認知度も上がったみたいなの、だからそれ以外の依頼も最近は少し来るようになったわ。先程の由比ヶ浜さんのもそうよ。これも貴方の協力のお陰よ、ありがとう」

 

「それは良かった」

 

そう言って頭を下げる彼女に彼は口では良かったと言っているが、やはりその表情からは何を考えているかを読み取ることは出来ない。それに少し不気味さを感じながらも彼女は本題に入る。

 

「……貴方には聞きたいことがあるのだけれども」

 

「何だ? 」

 

彼は由比ヶ浜結衣から貰ったクッキー早速お茶請け代わりにしながら彼女に目を向ける。彼は食べときながらやはりほうじ茶には饅頭がいいと非常に勝手なことを考えていた。

 

「奉仕部と貴方達、どうしてここまで差がついたのかしら? 」

 

クッキーをお茶で流し込んだ彼は彼女にお茶のおかわりを求め、湯呑みが満たされると不思議そうな目を彼女に向ける。

「そんなことはお前にだってわかっているだろう」

 

「貴方の口から聞きたいのよ」

 

彼はお茶を一口飲んで大きな息を吐くという実にじじ臭い動作をすると口を開く。

 

「一つは行動力。今でこそ依頼人は向こうからくるようになったが最初の方はわざわざ此方から揉め事、厄介事に首を突っ込んでいった。そうしているうちに評判もついてきて今に至った。そして先駆者というのは成功さえすればこれ程優位な立場にあるものはない」

 

現在は情報提供者の数は多いため高校内のことは勿論それ以外の情報も多く彼らは手にすることができるようになった。だが、最初は外の情報はともかく高校内の情報は自分達と彼らの配下からだけであったので不十分であった。そこで彼らが情報を得るために取った手段は学校の至る所に盗聴器を設置するというものだった。一歩間違えれば退学だが彼らは迷うことなくそれを行った。女子更衣室にまで設置したというから徹底している。結果としてはそれが当たった。やはり女性の間にしか回らない情報というのもあるためそれを得ることができたのは大きかった。流石に現在はそんなリスクの高いことは行なっていないが必要であるならば彼らはどんなに高いリスクも取るであろう。

 

「もう一つは? 」

 

「人の数だ。俺達は四人で奉仕部はお前一人。単純計算でお前が一つ片付けるまでに此方は四つ片付けられる」

 

実際には彼らには配下と協力者もいる、その数は総武高校内の配下だけでも二十人ほどいるのでの彼らと彼女の差は四倍どころではない。

「もう一つ聞いていいかしら? 」

 

返事をすることはないが彼は席を立つことなくお茶を飲んでいるので彼女は肯定と捉える。

 

「貴方は単に映画研究部の部長というわけではなく彼らのまとめ役よね。どうしてその役を貴方がすることになったのか後学のために聞いておきたいの」

 

彼女はそれがとても気になっていた。比企谷八幡、朽木勲、楠見謙吾、材木座義輝いずれも人の下に付くタイプではない。しかしそんな彼らでも比企谷八幡をトップに据えて行動している。単なる友人関係であるならばそんなことはしない、だが彼にそんなことをしている理由を聞いても彼が答えることはないだろう。だから彼女は一歩離れた質問をしてみた。

 

「……互いに能力は高いがそれでも長を立てたほうが色々と効率が良いということで誰か一人を上に立つ者として選ぶことにした。それだけの事だ」

 

「その一人は貴方のようだけれども、それをどうやって決めたのかしら? 」

 

「……まあ隠すことでもないか。長の座は誰がやっても大した問題はなかっただろうが誰もその座を譲る気は無かった。そんなことで下手に揉めたら本末転倒なので朽木はクジを提案したが味気ないと楠見が却下して、材木座の中学卒業の日に屋上で四つ巴の勝負という案に決まった」

 

「随分と野蛮ね」

 

彼女はその光景を想像して顔をしかめた。それは初めて映画研究部を訪れたときの彼らの状況を遥かに上回るものであっただろう。

 

「まあ、そう言うな。俺達も一度はお互いに全力で戦ってみたかったんだ」

 

彼らは出会った当初から友好的な関係を築いたため彼ら同士で軽い小競り合いはあっても本気の殴り合いというのはそれまでしたことがなかった。

 

「聞くところによると貴方達は毎日のように組手をしているみたいじゃない」

 

「幼い頃から今に至るまで軽いものから本気の組手まで数えきれないほどやっているが真剣勝負は一度もしたことがなかった」

 

「何か組手と違うところがあるの? 」

 

「普段の組手は頭と急所は寸止めでやるがその時は目突きを禁止する以外特に制限は設けなかった」

 

「……本当に野蛮だったのね」

 

「荒っぽいやり方ではあるがこのやり方が一番単純でわかりやすい」

 

人間は様々な分野で争うがその勝敗の基準が曖昧なことは決して少なくない。その点殴り合いというのは最後に立っているものが勝者であると非常に単純で明確である。

 

「それで貴方が勝ったということなのね」

 

「……ああ、今思い出しても恐ろしい。アレに比べれば車に轢かれたなんて可愛いものだ」

 

彼らの真剣勝負は中学生のものが今のところ最初で最後である。因みに材木座義輝の顔の傷もその時彼によってつけられたものである。

最初はてっきり彼らの中では比較的常識的な比企谷八幡が選ばれたのだろうと彼女は考えていたが、リーダー決めるのに決闘という方法を使ったのは聞いてみれば実に彼ららしいと思えてきた。

「……話し過ぎたな」

 

話は終わったとばかりに彼は立ち上がり奉仕部を後にしようとするが彼女はその背中に問いかける。

 

「最後にもう一つだけ」

 

彼は返事することなく立ち止まった。

 

「貴方は前に私と違って慈善事業で人助けをしているわけではないと言ったわね。じゃあ貴方達は何のためにそんなことをしているの」

 

「……話し過ぎたと言ったはずだ。お茶、ご馳走様」

 

彼は彼女の質問にまともに応えることなく部屋を出ていった。

 

別に答えられないような大層な理由があったわけではない。むしろ大した理由ではないから答えられないのである。彼らが人助けをやっているのはゴッドファーザーでそういうことをやっていたからやっている、ただそれだけのことである。




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次の話は八幡の妹の小町に焦点を当てた話になります。
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