ゴッドファーザーに憧れた男達   作:Don・Corleone

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ひたすら主人公達の残念さが述べられる話です。


案件三 悩み

比企谷八幡の妹である比企谷小町は彼と彼の親友達をよく知る者の一人である。

 

彼らは小学校からの付き合いであり、長い時間を共にしてきた。時間を共有する場所の一つとして両親が共働きで帰るのが遅い比企谷家はとても都合が良かった。

 

とはいえ流石の彼らも何もせずに他人の家に長居するのは気が咎めたらしく、比企谷家の掃除や洗濯といった家事、場合によっては料理もしていた。そして当時まだ小さかった彼女の面倒もよく見てくれた。

 

面倒をよく見たとはいっても、よく遊んでやったかというとそれは微妙である。なにせ彼らは小さい女の子が何をして遊んだら楽しいのかなんてわからなかったのでおままごとに付き合ったり絵本を読むぐらいのことしかしてやることができなかった。それに彼らは比企谷家にただ遊ぶために来ていた訳ではなく勉強・格闘諸々をこなすことが一番の目的だった。彼女と遊んであげられるのは家事とそれらの合間であった訳だが最初は良くても夜になるともう疲労困憊で彼女が遊ぶことを催促しても身体が言うことを聞かずそれどころではなかった。そんな彼らが自分達の休息を取りながら彼女を楽しませる手段として使ったのがアニメであった。

 

彼らは小公女セーラ、赤毛のアン、アルプスの少女ハイジ、セーラームーン、カードキャプターさくら、ふたりはプリキュア、おジャ魔女どれみなんかをよく休憩中に彼女と一緒になって視聴していた。

 

初めは単純に女の子向けのアニメとしてこれらを選んだのであろうが他のアニメはともかくカードキャプターさくらに関しては楠見謙吾と材木座義輝は明らかに彼女以上にはまり込んでいて、一時期本来の目的を疎かにするほど熱心に視聴していた。

 

ある時、彼らは彼女への誕生日プレゼントとしてカードキャプターさくらのDVDBOXを選んだのだが結局それを誰よりも観ていたのは彼らであった。

 

材木座義輝と楠見謙吾のカードキャプターさくら視聴時の興奮具合は凄まじく、材木座義輝は大道寺知世が出ている間はずっと挙動不審で顔を赤らめていて、女子を碌に相手しない楠見謙吾は木之本桜だけには骨抜きにされ、締まりのない顔を晒しながら彼女と一緒になってはにゃ〜だとかほえ〜だとか呟いていた。

 

彼女が成長して女児向けアニメを見ることがなくなっても彼ら二人は比企谷家でカードキャプターさくらを繰り返し繰り返し見てますますその虜となっていった。

 

余談だが材木座義輝はカードキャプターさくらの一期OPとEDをそれぞれ電話とメールの着信音に設定していて、楠見謙吾にいたっては木之本桜が劇中でカードを使用するときの呪文がカードによって違うことを利用して彼が連絡先を知っている一人一人にそれぞれの呪文を設定し着信音としている。

彼ら二人のカードキャプターさくらへの狂いっぷりはかなりヤバイと彼女は思っていたが、長い付き合いではあったし彼らは彼女にとって第二の兄のような存在であったため、彼女は彼らを特段気持ち悪いとは思わなかったが兄にそうなってほしくはなかった。

 

彼女にとって幸いなことに比企谷八幡はアニメは見るだけで大して執着することはなく、それは朽木勲も同様に見えた。

 

 

中学生にもなると男女共に色気づく年頃である。誰それがカッコいい、誰それが可愛い、あの人はあの子が好きらしい、あの二人は付き合っているらしいなどの会話が盛んに行われるようになる。

 

そんな中で比企谷八幡、材木座義輝、朽木勲、楠見謙吾は文武両道で中々の人気があった。比企谷小町と彼女の友人である朽木由香はそんな兄達を自慢に思っていた。だが、その幸せは長くは続かなかった。

 

原因は朽木勲が楠見謙吾や材木座義輝と同じ領域に至ってしまったことである。

 

彼には妹が二人いる。当時幼稚園児であった下の妹を可愛がっていた彼はかつて比企谷小町にしたのと同じように女児向けアニメをその子と一緒に観ることにした。

 

色々なアニメを彼は観せたらしいがその子はふたりはプリキュアを特に気に入ったらしく、彼やたまにやってくる彼の友人達にプリキュアごっこをするようせがんだ。ふたりはプリキュアはそれまでの変身美少女ものとは違って魔法をメインにした戦闘ではなく肉弾戦が主である。当然プリキュアごっこもそれに準じて行われる。

 

これが不味かった。何度もプリキュアごっこをせがむ妹に彼も興が乗ってしまい、彼は小学生にもなっていない女の子に拳で殴るのは手を痛めるからと正しい掌底での攻撃の仕方、蹴りも脛を鍛えていないと痛いから前蹴り、金的蹴り、足払いでの相手の転ばし方など妙な気遣いをした攻撃方法を教えていた。

 

その子と一緒に、繰り返しふたりはプリキュアを観て、プリキュアごっこという体の格闘指導をしているうちにその子はいつのまにかか小学生に上がっていた。その子が近所の子供の女ボスとなった一方で、彼はふたりはプリキュアに取り憑かれ中でもキュアホワイト雪城ほのかの魅力から逃れられなくなっていた。

こうして四人中三人がアニメキャラの魅力に堕ちた彼らであったがそれを知る者は極限られていたので、それでも女性人気はあった。

楠見謙吾は美少年であったため特に人気は高かったが持ち前の口の悪さを存分に発揮して近づいてくる女達を撃退し、そのうち彼に関わろうとする者すらいなくなったが、他の三人はそこまでしなかったのでそれなりに告白なんかもされている。材木座義輝と朽木勲の告白の断り文句が他に好きな人がいるからであるということを風の噂に聞いた比企谷小町はとても複雑な気持ちだった。

 

他にも彼女は彼ら四人がよく比企谷家にお邪魔しているということを知った彼女の友人達が自宅に訪れようとするのを夢を壊さないように必死に止めたりと大変苦労した。

 

友人達からは人気のある兄とその友人達とよく会えるなんてと羨ましがられたりするがそんなことは全くなかった。他人の家で毎日のようにカードキャプターさくらとふたりはプリキュアを視聴する男達。意中の子が出ると途端に挙動不審になる男達。天変地異が起こっても彼らとの間で恋愛感情が生まれるはずなどなかった。

 

朽木由香から彼女の兄である朽木勲の恐ろしい行動などを愚痴として耳にタコができるほど聞いた比企谷小町はそんな友人達を持ちながら未だアニメキャラには嵌らずオードリーヘップバーンに熱を上げていた兄はそれはそれで心配であったものの彼らのようにならなくてよかったと心から安堵していた。

 

 

安心をしたのもつかの間で、比企谷小町の兄である比企谷八幡にもアニメの魔の手は着実に近づいていた。

 

彼が他の三人と同じ領域に至ってしまったきっかけは朽木勲が彼に氷菓を勧めたことだった。とんでもないことをしてくれたと後になった彼女は朽木勲を大いに恨んだ。今でも彼女は朽木勲に対して少し冷たい。

 

彼女も彼と一緒に夕食時に見ていたのだが、第一話でメインヒロインの千反田えるが登場した時、彼女は彼の近くから何か音が聞こえたような気がした。今思うとそれは彼が千反田えるに恋に落ちた音だったのだろう。それ以来、彼が氷菓を視聴している時は何を言っても反応することがなく、それに集中していた。

 

全話見終わった翌日、彼は氷菓のDVDBOXを購入した。それまでアニメはレンタルで済ましていた彼にとっては異例な事であり、彼女は非常に嫌な予感がしたが気にしないことにした。

 

しかし、そんな彼女でも現実を認識せざるを得ない出来事があった。自分の部屋で疲れを癒していた彼を夕食の準備ができたので、呼びに部屋に入った時である。フィギュアやポスターが少しぐらいあっても気にしないことにしようとした彼女を出迎えたのは部屋一面に貼られている千反田えるのポスター、机の空きスペース、本棚の上を覆い尽くすように設置された千反田えるのフィギア、そして千反田えるの抱き枕を抱え、えるたそと寝言を呟きながら大変安らかな顔をしながら熟睡していた兄の姿であった。

 

あまりのことに彼女は彼を起こすこともできずに部屋から出て行き、そのままこれは何かの悪い夢に違いないと布団を被った。残念ながら現実であり、翌朝に彼の部屋を確認したところ昨晩見た通りであった。あまりのショックにそれからしばらく彼とは会話もできなかった。

 

 

こうしてめでたく比企谷八幡、材木座義輝、朽木勲、楠見謙吾の全員が二次元の美少女狂いになったわけだが、そんな彼らにも信じられないことに各々のアニメよりも優先しているものがあった。それがゴッドファーザーである。

 

小学生の時に彼らがこの映画を見て以来、彼らにとってこの映画は男としての生き方、考え方、仕草、服装の教科書であった。

 

この映画を見てから彼らは変わった。勉学に励み、武道・格闘技を始めた。また今まで目を向けることすら無かったことにも注目するようになった。

 

ゴッドファーザーを見てから彼らは日々を大変厳しいスケジュール通りに過ごしていた。現在の彼らのスケジュールは5時に起床、5時半に近くの公園に集合して筋トレ、基礎練に軽い組手。6時半に軽い朝食をとり、家を出て学校近くの喫茶店を訪れてモーニングを食べながらお仕事。8時半から14時半まで学校で自習。18時まで映画研究部としての活動。そこから21時近くまでジムや道場での稽古。それ以降は自由時間と中々にハードなものである。そんな彼らの精神安定剤が各々が嫁とするキャラクターなのかもしれない。

 

比企谷小町は彼らに辛いのに何故そこまで努力することができるのか聞いたことがある。すると彼らは一分の曇りのない顔で愛する人のことを思えばどんなに辛い事にも耐えることができる言った。これが彼らに現実の恋人なんかがいるのならばお兄ちゃん達も中々臭いことを言うんだなと笑うこともできるが、残念ながら彼女は彼らの言葉に少しも笑うことができなかった。

 

 

彼らが高校に上がる前のことである。彼らの女性との関わりといえば言わずと知れたアニメ、そしてギャルゲーやエロゲーだけであった。

 

比企谷小町は兄とその友人達にこのまま女性との交流をすることなく過ごしていると、いつかそれが祟って痛い思いをするかもしれないので、いい加減現実の女性との関係を築いたらどうかという提案をした。

 

彼らもその意見に対しては理解を示したので彼女は期待した。元々はモテる男達であるのでその気になれば彼女を作ることはそう難しいことではないだろう。だが、彼らの学校での様子は何一つ変わることはなかったので彼女は落胆した。もう彼らは手遅れかもしれないとも彼女は思った。

 

だが、実際は違った。彼らは彼女の提案を真摯に受け止めていたのである。

 

彼らが女性との関係を学びにいった場所は夜の街であった。そしてそういった場所で仲良くなったどこぞの社長に紹介されて芸者遊びまで覚えてしまった。

 

そういった場所でそれなりの経験を積み、彼女が想定していたやり方とは全く違ったが彼らは女性と関係を築くことが可能になったのである。

 

尤も彼らは夜の街以外でそんなことはしていない。そしてそれも彼らにとっては一種の社会勉強に過ぎず、彼らの本命への想いが揺らいだわけではない。

 

 

「ただいま」

 

「あ、お兄ちゃん。おかえり〜」

 

「小町、ただいま。える、ただいま」

 

この比企谷八幡という男、妹に趣味全開の部屋を見られてから遠慮をすることがなくなった。今も比企谷小町に向けて言った後に虚空を見上げて彼にしか見えない千反田えるにも声を掛けた。彼にいたってはとうとう幻覚まで見るようになったようだ。

 

「ゴミいちゃん、目も頭も腐ってるみたいだけど本当に病院行かなくて平気なの? 小町も一緒に行くからさ」

 

比企谷小町は半分本気半分冗談のつもりで兄にそう言う。

 

「失礼だな、俺は正気だぞ」

 

先程の彼の様子を見て、人は果たして彼が正気であると思うだろうか?

 

「小町はゴミいちゃんの正気を疑うよ……」

 

妹の言葉を聞き流し、荷物をそこらに放り投げて彼はリビングに向かうとソファーに倒れこむ。そしてピクリとも動かない。

 

「お兄ちゃん達、やってることがハード過ぎるんだよ。映研じゃ映画なんか撮らないで筋トレとか組手ばっかやってるんでしょ? それで学校が終わったら道場とか格闘技のジムに行ってこんな時間まで帰ってこないし。そんな疲れた状態でいるからアニメとかにどハマりしちゃうんだって」

 

彼女はクドクドと兄にお説教をするが彼は何の反応も示さない。

 

「お兄ちゃん、聞いてる? 」

 

疲れている彼は妹の説教を睡眠音楽としてぐっすり寝ていた。えると呟くのはご愛嬌である。

 

「はあ〜。十時になったら起こしてあげよう」

 

 

妹に叩き起こされた比企谷八幡は遅めの夕食を食べながら名作大脱走を見ていた。彼らの常軌を逸した行動に癇癪を起こした彼の妹によってリビングではアニメを見ることを禁止されたため彼はリビングではニュースか映画しか見ない。

 

彼は映画研究部というだけあって映画は好きである。しかし、殆どの作品は一度だけ見て終わるなので彼が繰り返し見る映画のレパートリーは少ない。

 

彼のレパートリーはゴッドファーザーPart.1、十二人の怒れる男、大脱走、天国と地獄である。いずれも名作であることに疑いはないのだがどれもかなり古い作品である。

 

比企谷小町は彼が寝てしまったため途中で終わってしまった話の続きをすることにした。

 

「ねぇ、お兄ちゃん」

 

映画は終盤を迎えていてスティーブ・マックイーンがバイクで柵を超えるところだった。

 

「何だ? 」

 

「お兄ちゃん達がアニメのキャラに嵌るのってゴッドファーザー的にどうなの? 」

 

彼らはゴッドファーザー的であることを追求しようとするバカさ加減から分かるようにゴッドファーザー的でないことを極力しないようにしている。比企谷小町は彼の弱点を突き、彼の生活を改めさせる策を講じていたようだがその策は彼には効かなかった。

 

「何を行っているんだ? 俺達にとって彼女らはもはや家族同然。"家族を大切にしない奴は男じゃない"ドン・コルレオーネはそう言っている。だから俺達の行動には何の問題もないわけだ」

 

「小町的にゴミいちゃんのその言葉はとてもポイントが低いよ……」

 

当たり前のことを言うような彼に彼女はそれなら肉親である私の言うことも大切にしてよと心の中で呟くが言いたいことが多すぎて僅かな言葉しか出てこない。

 

兄と兄の友人達に三次元の彼女を作らせる。彼女の立てた計画は絶望的で彼女の心は折れそうだった。

 

兄である比企谷八幡はそんな妹の考えなど露知らずに映画が終わったら早く千反田えるの抱き枕と一緒に寝ようと考えていた。




彼らの高い能力は多大な犠牲を払って得たものなのです。

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