テンノオト   作:オオミヤ

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第3話

「アマネさん!アマネさん!!」

 

凛が必死になってアマネを揺さぶっている。怪物は無事に倒されたが、アマネの方も気を失ってしまった。

 

「お嬢、医療班が到着しました」

 

東弥が凛に知らせる。見れば、四人の医療班とともに担架が来ていた。医療班は的確な指示でアマネを担架に乗せた。周りでもすでにさまざまな班が作業に追われている。

医療班がアマネを連れて行こうとすると、医療班のうちの一人の袖を凛が掴んだ。

 

「アマネさんを、お願いします。‥‥‥お願いします」

 

固く握られた手から凛の気持ちを汲み取ったのか、その人は、

 

「必ず」

 

と目線を合わせて、自身を持って言った。

連れて行かれるアマネを心配そうに見つめる凛を見て、東弥は、

 

「そんなに大事なんですか?あの人が」

 

となにげなく聞いた。凛は訝しげに東弥を見ると、

 

「はい。世界で一番です」

 

と、惜しげも無く答える。

 

「何がそこまで、あなたをーー」

 

「あー、いいかい?」

 

不意に優しげな声が聞こえてくる。振り返ると、眼鏡をかけた、人畜無害そうな男が立っていた。

 

「隊長、遅いですよ」

 

東弥がため息混じりに言う。

 

「いやあ、こっちに来ないなと思ってたらそっちにきたって言うからびっくりだよ。探知機のルートではたしかに僕たちのルートを通るはずだったんだけど」

 

でも、とちらりと怪物の死骸を見る。

 

「無事倒せてよかった。さっき運ばれて言った対象にも外傷はなさそうだったし、とりあえず最低限の任務は達成かな」

 

「ちょっと変なこと言わないでくださいよ。お嬢の逆鱗に触れるんで」

 

「触れませんよ。でもそれにしても遅かったですね、国立さん。何かそっちでもトラブルが?」

 

東弥の所属する3番隊、第2班班長の『国立一』はガリガリと頭を掻きながら困ったように言った。

 

「それが持ってきた通信機器がみんな壊れちゃって。復旧に手間取ってたんだ」

 

「偶然、な訳ないですよね。でも作戦にしてはお粗末ですよ。なにせ来たのがたった1体しか‥‥‥」

 

「囮‥‥‥?」

 

3人は同時に青ざめた。

 

「してやられた!」

 

考えるよりも先に凛、東弥は動き出していた。

 

「全員聞いてくれ!対象が危険だ!」

 

一は指揮を取り始める。

 

「通信復旧まだか!?」

 

「もう少しです!」

 

「くそっ‥‥‥救急車は?対象を乗せた救急車からの連絡は?」

 

「あ、ああ!?そんな、ありません!」

 

一は小さく舌打ちをすると。耳にはめた小型通信機で凛と東弥のチャンネルに合わせた。

「二人とも聞こえる?救急車からの連絡が途絶えた!おそらく襲撃されたと考えた方が妥当だろう。急いでそこへ‥‥‥」

 

『もう向かってます!』

 

 

 

 

 

凛は家から引っ張り出したバイクで夜中の道路を猛スピードで走っていた。だいぶ遠くには先ほどと形状が似た怪物が三体走っているのが見える。

 

「これ、追いつけるんですか?」

 

「わかんないけど行くしかないでしょ!」

 

後ろに乗った東弥をいなし、さらにスピードをあげる。法定速度なんぞ知ったことではない、といったように、人通りのない車道を走る。もちろん協会によって交通規制されているので、どれだけスピードを上げても困るのは後ろに乗った東弥くらいしかいない。

200km近い速度はだんだん怪物たちとの距離を縮ませた。

 

「東弥さん、準備!」

 

「無理無理はやいひゃやいひゃいあい」

 

向かい風のせいでうまく口が開かない。

 

「準備!」

 

「あい!」

 

東弥は腰から抜いたナイフで左手を突き刺した。すると、その刺した後から血がひとりでに動き固まり、血の色が抜け、鈍色に光る刀身が現れた。

これが異世界から人間を守る組織、『境界協会』の武器錬成技術、『血司武器』だ。この技術を使うことで、実際に武器を携帯することなく、即時的な戦闘展開を可能にさせた。もちろん、凛の銃も同じだ。

 

「もうじき追いつきます!最初にするのは、どれがアマネさんを運んでいるか見ることです!このスピードで誰がアマネさんを運んでいるかわからず戦ったら、確実にアマネさんに危険が及びます!」

 

「もす!」

 

「そのためにまずあいつらを一旦抜きます。なのでそれまで牽制していてください!ただし。最中に決して足を止めさせないでください!足が止まって、もしアマネさんを持っていたら確実に落として、このスピードでアマネさんが車道を転がります!最悪死にます!」

 

「んもす!」

 

怪物が眼前に迫る。

 

「突っ込みます!」

 

凛はエンジンを最大限回転させ、さらに加速。怪物たちを追い去った。

 

ーー見えた!

ーー左側だ!

 

「東弥さん!」

 

凛の声に応じ、東弥はバイクから大きく跳躍した。

 

「おおお!」

 

東弥はあえて真ん中の怪物に迫った。狙いを定め、その頭を上から貫く。そしてバランスを保ち頭の上に乗ると、そのまま喉を掻き切った。怪物が倒れる前に飛び、着地する。そして刀を投げ、右側の怪物の頭に突き刺す。怪物は糸が切れたように倒れた。

一方、左側の怪物もあっけなく倒れていた。東弥に邪魔をされ、少しスピードをゆるめたところで凛に頭を撃ち抜かれたのだ。アマネは投げ出されたが凛は難なくキャッチした。

 

「これは‥‥‥」

 

しかし凛は絶句した。凛の腕の中にいたのはアマネではなく、ただの、アマネによく似た人形だった。

 

「これも囮‥‥‥?なら本命は--」

 

「本命は、おそらく空」

 

近くで野太い声が聞こえる。

 

「大火隊長‥‥‥!」

 

凛の所属する2番隊、第3班班長兼副隊長『畠山大火』がバイクに乗って現場に到着していた。大火はオールバックにミリタリージャケットを着こなし、筋骨隆々な肉体を覆っている。

 

「遅いですよ!何しにきたんですか!」

 

凛は大火に詰め寄る。

 

「すまん。本部の通信機も現場の危機も全てジャックされてしまってな。状況が詳しく掴めない上に、ここに来るまでに少々やりあって遅れてしまった」

 

「そんなに‥‥‥」

 

大火は葉巻に火を付ける。

 

「奴ら、本気で奪いに来ているぞ‥‥‥私達の姫をな」

 

「‥‥‥アマネさん」

 

 

 

 

 

 

 

「ここは‥‥‥」

 

はるか上空、雲の上。アマネはそこを飛んでいた。もちろん一人で、ではなく、例えるとすればエイを人を乗せることが出来るくらい大きくした生き物に、先ほどアマネを襲ったトカゲのような怪物を幾分かスマートにした者と同乗していた。

 

「気づいたか」

 

トカゲの怪物が喋った。そのトカゲの怪物は肩に剣を掛けている。

 

「えっと、私‥‥‥!?」

 

話そうとすると、突然頭が割れるように痛み出した。息をするのも苦しくなる。

 

様々な光景が断片的に蘇る。二つの月、揺れる銀髪、眼下に広がる世界、浮遊感。

 

「うう‥‥‥!」

 

頭から裂けて二つに割れそうだ。そんな様子を見かけてか、トカゲがアマネの頭に手を乗せる。びくりと肩を震わせたアマネを気遣うように、

 

「じっとしていろ。すぐ終わる」

 

そう言い、アマネの頭を撫でた。すると、あれだけひどかった痛みが嘘のように引いていった。

 

「おそらく無理に記憶を操作したために齟齬が生じたんだろう。それを頭が無理やり修正しようとして、結果として頭痛が起きたんだ」

 

自分をさらった人物とは思えないほどの親切さに、アマネは混乱してしまった。

 

「貴方は‥‥‥?」

 

「ああ。このままでは失礼だな」

 

その言葉とともに、トカゲのようだった身体が光に包まれる。そして、その淡い光が薄く爆ぜた。

 

「え!?」

 

その爆ぜた中から人の影が出てくる。灰色の髪を短く刈り込んだ頭に、彫りの深い顔立ちをしており、その風貌は見たものに硬い印象を抱かせる。

 

「マスケという。よろしく頼む」

 

「え?ひ、ひと?でも、え?」

 

混乱しているアマネの様子に、マスケは苦笑する。

 

「俺たちはニンゲンではなく、ノウナという存在だ。お前は数日前に我々の世界に迷い込んだんだ。覚えているな?」

 

その言葉に答えるようにして、今までの違和感が少し解消された。

ビルの合間に入ったと思ったら、謎の森林に突然居た記憶が蘇る。

 

「お前はそこで我が國、クオンの姫君であらせられるソラ様の怪我を治した。そして宮殿に招かれたが、そこでニンゲンに奪還された」

 

あの妙に既視感があった青年、花袋。自分を連れ戻しに来た人物だ。だから再開したあの時、とっさに名前が出て来た。

 

「思い出したか?」

 

マスケが確認する。

 

「‥‥‥うん。全部思い出した。私、記憶なくしてたんだね」

 

「過去にも我々の世界に迷い込んだニンゲンは何人かいたが、それらは全員殺されていた」

 

「え?」

 

一瞬で心臓が冷える。

 

「お前と、もう一人だけが、殺されずに済んでいる。もう一人の方はその後何処にいるか掴めなくなってしまったが」

 

「じゃ、じゃあなんで私、生きてるの‥‥‥?」

 

「さあな、ニンゲンの考えていることも、話している言葉も分からん。しかしなぜかお前の言葉はわかる」

 

ソラの言葉を思い出す。

 

「なんで、私を連れ戻しに?」

 

質問すると、マスケは困ったように眉を上げた。

 

「お前が居なくなって我が國は大いに荒れた。ニンゲンの侵入を許し、姫君をたぶらかしたとな。ニンゲンの世界への侵攻も進言されたが、姫君が釈明をしたのだ。そこで皇直属である我々近衛兵がお前を連れ戻し、ニンゲンたちの意思を確かめる」

 

「‥‥‥」

 

アマネは俯く。人間とノウナの微妙なバランスを再び崩してしまった原因となってしまった。

 

「‥‥‥のは表向きの理由で、本心は、お前を姫に会わせたい」

 

「‥‥‥ソラに?」

 

「お前が居なくなって数日、姫の塞ぎようといったら目も当てられん。相当心に来ているようなのでな。我々は心配でたまらなかったのだ。そこで調査のためニンゲン界への出征許可が降りた、というわけだ」

 

「じゃあ、私どうなるの‥‥‥?」

 

「上層部の、例えばウチの師大将などは血眼になっているだろうが、お前はどうにもさせない。姫にとって大事な客人は、我々にとっても大事だからな」

 

「戦ってたあのトカゲみたいな、あの人たちは??」

 

「あの人たち?ああ、傀儡兵のことか。あれは俺の分身に過ぎないから特に問題もない」

 

「じゃあ、少なくとも貴方達には殺されないの?」

 

マスケは当然、というように首を縦に降る。

 

「ああ。お前に傷一つあったとしたら、それこそ姫に合わす顔がない」

 

アマネは安心したように胸に手を当て息を吐く。そして、マスケをまっすぐ見つめると、

 

「分かった。なら、私をここから下ろして」

 

と言った。

 

「‥‥‥なんだと?」

 

マスケは驚いたように口を開け、呆れたように手で目を覆った。そして、先程とは違う鋭い目つきでアマネを睨め付ける。

 

「話を聞いていなかったのか?俺はお前を連れて行かなければならんのだ。苦労して捕らえたのにどうしてみすみす逃がさなければならんのだ」

 

「でも私は殺されないんでしょ?ならパパとりん先輩に連絡して無事だって伝えなきゃ」

 

「何のためにこんな上空にいると思ってる。お前を奪還しようとするニンゲンが追って来れないようにするためだ」

 

「これ以上争って欲しくないの!」

アマネが声を荒げると、マスケはアマネを諭すように続ける。

 

「なら聞くが、お前はどうして自分がわざわざ記憶を消されて保護されていたのか分かっているのか?」

 

「‥‥‥分からない」

 

「お前は、あの組織にとって都合の悪い、もしくはなんらかの重要な物を持っているからだ。決して、お前が大事だとか可愛いという理由じゃない。もしここから戻ってみろ、必ず、もう一度記憶を操作されるか、最悪の場合もあり得る」

 

「そんなこと言わないでよ!りん先輩は私を守ってくれた!」

 

「それをまやかしとは言わないが、信用しない方がいい。ニンゲンは、嘘をつく生き物だ」

 

「そっちはたしかに人間に対して恨みを持ってるかもしれないけど、人間全部が嘘つきなんて言わないでよ!りん先輩は私の親友で、優しくて‥‥‥!」

 

「なら、お前はそれまでそいつが我々と戦っていることを知っていたのか?」

 

「‥‥‥!」

 

アマネは咄嗟に言い返す言葉が出てこなかった。

 

「その娘を貶めるつもりはないが、信用はするな。寝首をかかれるぞ」

 

「な、なら、貴方達は信用できるの!?」

 

「姫は信用できる」

 

脳裏にソラの笑顔が浮かんだ。

 

「でも、私‥‥‥ソラとは、りん先輩より、私‥‥‥!」

 

「こちらに来た方が安全だ。何より姫も待っている」

 

アマネは自分の身体が、まるで鋼鉄でできた縄で縛り付けられているように動けないのを感じた。今まで凛と積み重ねた時間。ソラとのたった一晩の思い出。ぐちゃぐちゃに混ざり合い、進むべき道が分からない。

 

「わ、私‥‥‥私‥‥‥」

 

「もう分かったろう?‥‥‥もうじき『門』だ。そこを通れば我々の世界に着く。お前はそこで姫の側近として暮らしてもらう。お前は姫に必要だ。我々の世界にも認められるよう便宜を図ってやる。ここで別れを告げるんだ」

 

チラリと下を見る。雲を猛スピードで過ぎて行く。ここから落ちたら間違いなく死ぬだろう。いっそ自由になるには、行動を起こして見なければならないかもしれない。

 

「いや、ダメだよ‥‥‥何があっても生きないと」

 

突然、視界の端にまばゆい光が溢れ出す。光は辺り一帯に輝いた。その眩しさにアマネは思わず目を覆った。

 

「『門』だ」

 

マスケが指差す方向には、山々を今にも飲み込むことが出来るほど巨大な穴が、月に重なるように有った。穴の向こうには、かつて見た広大な荒野が広がっていた。

 

「『ウノ・コンドラン』‥‥‥」

 

「よく知っているな。ここが死者を導く大地、ウノ・コンドラン。大地の先がまさか我々に破滅をもたらす世界だったとは、なんとも皮肉だな」

 

「ここを通ったら、私はもう戻れないの‥‥‥?」

 

「ああ。さあ、別れを告げろ。俺は一刻も早く祖国に帰りたい」

 

アマネの頬をつーっと一筋の涙が流れた。それを見たマスケは居心地悪そうにその涙を自分の指で拭った。

 

「ありがと。‥‥‥マスケさんは優しいね」

 

「‥‥‥もういいか」

 

「もうちょっとだけ。‥‥‥私、決めたことがあるんだ」

 

「なんだ」

 

「私、なんであの時貴方達の世界に行けたのか、なんで貴方達の言葉がわかるのか、分かんないけど、これってきっと運命だと思うんだよね」

 

「そういう運命なんちゃらという考えは苦手だ。だが、お前が姫と出会ったのは、なんらかの意味があるのかもしれん」

 

「だから、私、出来る限りやってみようと思う。‥‥‥マスケさん、ソラに伝えて欲しいことがあるの」

 

「‥‥‥なんのつもりだ?」

 

アマネはマスケを見つめた。二つの月の明かりに照らされたその姿は、幻想的を通り越し、威圧感を見るものに与え、マスケをたじろがせた。

 

「“ちょっと待ってて。必ずこっちから行くから”‥‥‥お願いね」

 

「それは自分で伝えればいい。何を考えている!?」

 

アマネは妖艶に微笑むと、乗っていたエイから身体を投げ出した。

 

「くそったれ!」

 

マスケはアマネをなんとか掴もうとする。しかしその手がアマネの腕にもう少しで届くところで、

 

「さわらないで」

 

その言葉が聞こえたと同時に、マスケの身体は硬直した。自分の意思ではない。まるで、いや、確実に、何かに強制されたものだった。

アマネは空を降りて行く。身体は雲を突き抜け、大地に引っ張られるように、滑らかに吸い寄せられて行く。

 

「りん先輩、受け止めて‥‥‥!」

 

心臓が熱く鳴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無事傀儡兵の残党に打ち勝った東弥を含め、大火、凛は合流していた。

 

「本部に連絡は?」

 

「凛、頼む」

 

「はい」

 

凛は腕のポケットにしまってあるスマートフォン型のデバイスを起動する。

 

「こちら雫山です。本部応答願います」

 

『本部だ。緊急事態につき、僕が指揮を執っている』

 

「れ、礼司さん!?」

 

応答したのは、協会副理事長、立松礼司だった。

 

『凛ちゃん、すまないが状況を軽くでいいから説明してくれないか?こちらは先ほど機器類が復旧したところなんだ』

 

「は、はい」

 

凛は今までの経緯を説明した。特に、現在アマネの状況が非常に悪いことを強調して伝えた。

 

『分かった、ありがとう。これから三人で救助に向かうんだね?』

 

「そのつもりだが?」

 

大火が答える。

 

『本来なら応援を待てというんだが、事態は一刻を争う。可能な限り早く向かってくれ。こちらも体制が整い次第、すぐに向かう』

 

「ちょっといいですか?」

 

東弥が凛のデバイスに近づく。

 

「報告したいことが」

 

『何だい?』

 

「先ほど、保護対象と会ったんですが、その時、妙なことを口走ったんです」

 

『妙なこと‥‥‥?』

 

「僕を指して、はなぶくろって」

 

『‥‥‥どういうことだ?』

 

「向こうの世界で彼女と会った時、少し会話をしたんです。その時、僕の腕章が見えたらしくて。僕の名字紛らわしいですからね」

 

肩にある部隊章に名字が薄く刻まれている。転送装置に押し込んだとき見えたのだろう。

 

「彼女、記憶操作が完璧に行われていません」

 

礼二の息を飲む音が聞こえた。

その瞬間、通話の向こうで爆発音と人々の悲鳴が聞こえた。

 

「どうしたんですか!?」

 

『襲撃だ。今から対処する。大火君』

 

「はい?」

 

『頼んだ』

 

大火は余裕そうに笑った。

 

「誰に言ってんのよ?」

 

その台詞に安心したのか、礼二は通話を切った。

 

「さ、行くか。もうのんびりできない。幸いにもまだ位置は特定できてる。今のうちだ。凛、デバイスのレーダーから目を離すなよ?」

 

「はい!」

 

「東弥はここに待機だ。何かあったら本部に連絡頼む」

 

大火はナイフを取り出すと、手のひらに突き刺した。おびただしい血が流れ、それが合流し形を成して一頭の馬になった。

 

「さ、乗りな」

 

「さすが覚醒体。武器は出さないんですか?」

 

乗り込みながら、東弥が茶化すように言った。

 

「スピード落ちるからな。今回は無しだ。‥‥‥準備はいいな?」

 

大火は凛の表情を確認する。凛が頷いたのを見ると、夜空を見上げて

 

「飛ばすぜ!レックス!」

 

愛馬、レックスが嘶き、大きく飛び上がった。そのまま空中へ上がって行く。丘を登るように軽やかだ。

 

「はあッ!」

 

大火が手綱をにぎりながら吼える。レックスはそれに答えるようにどんどん急上昇して行く。

 

「そのまま北方向です!」

 

「了解!」

 

凛がレーダーの指示を出す。自分たちの座標と目標との距離がどんどん狭まって行く。

このまま追いつくか、そう思った矢先、強烈な嫌な予感が凛を襲った。

 

ーーえ?

 

ゾワっと全身に鳥肌が立つ。冷や汗が身体中から溢れた。

まるで、何か大切なものがいなくなりかけたように。

 

「隊長!北北東方向へ変更してください!そしてもう少し高度を落として!」

 

「何言ってる!?目標は視認できてるんだぞ!」

 

大火の言う通り、前方にはまばゆい光を放つ空の下に、漂っている目標が小さく確認できた。

 

「まずい!門がもう開いている!」

大火はさらに手綱を引きスピードを上げる。

 

「お願いします!アマネさんが‥‥‥!」

 

そのとき、凛は視界に捕らえた。

空から急降下している、アマネの姿だ。

 

「アマネさん!!」

 

「なんだと!?」

 

大火は驚愕し、レックスの進行方向を急変更した。

 

「間に合え‥‥‥!」

 

アマネの姿が鮮明になっていく。

 

「アマネさん!!」

 

凛が叫ぶと、アマネはこちらを向いて、微笑んだ。気がした。

アマネが手を伸ばす。凛も応えて手を出来る限り伸ばした。

 

「もうすぐだ!受け止めろ!」

 

「アマネさん!!」

 

落下中のアマネとレックスがちょうど交わった瞬間、凛はアマネを抱きとめる。そのままいわゆるお姫様抱っこの形になった。大火はレックスのスピードを徐々に下げた。

 

「アマネさん‥‥‥!よかった‥‥‥!」

 

凛は涙が溢れでてくるのを止めることができなかった。

アマネは凛の頬に手を当てた。アマネの右手に、雫が静かに零れ落ちる。

 

「ありがとう。先輩‥‥‥信じてたよ」

 

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