いつも夢に見るのは、決まった一場面だ。
連れ去られるテンと、それを必死に追いかける私。でも結局何もできずに、テンは揺らぎの中に消えて行った。私が膝をつき泣き叫んで初めて、現実でも泣き叫んでいたことに気づく。ひどく枯れた喉、真っ青な顔に鮮明な跡を残す涙。
もう何年も前のことだ、なんて割り切ることなんてできない。
あれから私は変わった。全てを変えた。長かった髪は短く切り、女としての幸せは捨てた。ただ武芸を磨いて戦場へ出る。つい最近まであった戦乱でおおきな武功を挙げ、遂には全兵士の憧れ、近衛兵の所属になった。
王族の警護を務める最後の砦、その副長だ。久しぶりにあった幼馴染は美しくなっていて、その絹のように滑らかな銀の髪の匂いを嗅いだ時、ああ、テンもこんな風になっていたんだろうかと思いをはせずにはいられない。
人間の侵攻があった。私はやっと復讐の機会が訪れたと思った。命令を無視し戦場に躍り出て、多くの人間を殺した。
特に感じることはなかったが、なぜか虚しかった。
あれだけ望んだ戦場。なのに殺しても殺しても私の目の前からテンは遠ざかっていく。どれだけ走っても走っても、そんな私を嘲るように遠ざかっていく。
人間だったものに囲まれ、私は空を仰いだ。
曇天だ。
次第に雨が降り始め、私についた血を洗い流していった。
テンは私にいつも微笑んでいる。消えた時と同じ笑みで、何も言わずただ笑っている。雨は私の想いまでは洗い流してくれなかった。
少し休め。そんなことを隊長から言われた。ソラが私のことを心配しているらしいとも。ああ、そう。私はそれだけしか言わなかった。
ソラはもう随分と私の記憶の中とは違っていた。最後に会ってもう何年がたったか。私が近衛になってからも姫として立派にやっているようだ。
そんなことを私は透明な壁の向こうからのぞいている気分だった。結局忠告は無視した。
テンの幻影を追い続け、私は随分と磨耗してしまった。
なんて客観的に思うが、結局ああ、そう、とどうでもよくなってしまう。
ソラと目を合わせられない。
私は変わってしまった。
変わり果ててしまった。
テンとはもう再会できないだろう。
それでいい。
私は追いかけ続け、擦り切れて、ボロボロになって、ついに立てなくなって。
死にたい。
道の途中で死にたい。
想いの半ばで死にたい。
貴女を思い続け死にたい。
そうすれば、私の目の前に写る幻影はただ優しく笑ってくれるだろう。
テン。
私は貴女を‥‥‥。