テンノオト   作:オオミヤ

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第7話

「この世界とあの世界は、とてもよく似た別の世界だ。向こうの世界にもきっとこちらと似たような宇宙があって、こちらと似たような方法で生き物が生まれる惑星が出来て、我々と似たように進化したのだろう。我々に取っての『人間』が向こうに取っての『ノウナ』だ」

 

「はい。それは聞いたことがあります」

 

「まだ大まかなことしか分かっていないが、私たち人間と異界人の間には、相違点がある。それは『結晶』の存在だ」

 

「『結晶』‥‥‥?」

 

「異界人には、身体のどこかに結晶がある。ちなみに、それは異界の自然にも発生しているもので、おそらく我々人間よりも自然に近い生態をしているのだろう‥‥‥その結晶の役割は、モノを収納すること。厳密に言えば、異界人が生まれつき持っている、もしくは備わっている武器を細かい粒子化させることだ」

 

「武器?」

 

「おそらく異界人は生来戦闘的なもので、必ず戦う手段を有している。主なパターンは二つ。一つはその名の通り武器の形をしているもの。例えば剣や弓矢、槍なんかがそうだ。二つ目が、なにかしらを身体に纏うものだ。例えば今日君をさらったエイのような巨大生物もそうだろう。たまに今日の襲撃のような傀儡兵を召喚できる個体も確認されている。一般的に出来ることが多い個体ほど危険だ」

 

「‥‥‥」

 

「その能力を応用して、人間に組み込んだのが『血司システム』つまり、人間の体内に結晶と同じ成分を組み込んで戦士を作るというものだ。ナイフを刺して血液を出すというのはなかなかにエグいシステムだが、人間には異界人の結晶のような外部機関がないから、仕方がないと言えばそれまでだが‥‥‥」

 

久世は牛乳を飲んで口を湿らす。

 

「さて、では肝心の戦争の経緯だが‥‥‥そもそもこの我々の人間の世界と異界がいつから繋がっているか、はっきりしたことは分かっていない。判明しているのは、お互いの世界が確実に繋がっているという事実だ。そしてこれから話す内容を理解するには、二つのことを頭に入れなければならない。それは、お互いの世界が相互干渉の関係にあるということと、異界では私たちよりも時間の進みがはるかに遅いということだ」

 

「‥‥‥」

 

「この世界と向こうの世界の関係は、すなわち『そこに存在している人間の数』だ。これはすこしのバランスの歪みを許さない天秤のような関係‥‥‥つまり単純な話、一方の世界の人口が増えれば、もう一方の世界の人口は激減する」

 

「‥‥‥え?」

 

「ずっと昔、人間が経済革命産業革命を起こす前、つまり人間の総数が少なかった頃、異界では多くの現在の数十万倍のノウナが生き、世界全体が栄華を極めていたようだ。しかし人間の数が増えていくにつれ、少しずつ世界の理が異界を苦しめて行った。いつしか戦争が始まり疫病が流行り人口はどんどん減少していき‥‥‥向こうでの10年前くらいまで、異界は血で血を洗う、群雄割拠の大戦争が世界中で起こっていたらしい」

 

確か異界に人間が攻撃を仕掛けたのは向こうでの5年前とソラは言っていた。

 

「そこで初めて彼らは気づいた。なにかおかしいと。いくら考えても、今までの歴史から見て問題にならなかったことが問題になり戦争が起こった。今まではそうならなかったことで病気になった。ここで彼らは初めて『神』の存在に気づいた」

 

「かみ‥‥‥?」

 

「馬鹿げて聞こえるかもしれないが、向こうでは実在しているらしい。といっても宗教的な神ではなく、お互いの世界をつないでいる門番、管理者という存在らしいが。‥‥‥彼らは世界の仕組みを知り、行動を起こした。『向こうの世界を攻撃すれば、この世界はまた平和になる』と」

 

「え、じゃあ‥‥‥」

 

「先に攻撃を仕掛けたのは、異界側だ。それは人間側に大きなダメージを負わせるに十分だった。この時の記録では一時的に人類総人口のうち2000万名以上が殺害されている」

 

「‥‥‥は?」

 

「しかもたちの悪いことに、異界人の行ったことは全て、普通の人間には認知されず、記録にも記憶にも残らない。だから結局これは新種の病原菌の仕業ということに落ち着いた。そこで徐々に平和を取り戻して行った異界。そしてそれに呼応して戦争が人間界で起こり始め、大量殺戮兵器が生み出され、たくさんの命が失われ‥‥‥そうしてバランスが取れて行った。人類の方も‥‥‥今から20年前に、私たちの親友が殺されるまで、そのことに気づきもしなかった」

 

久世の顔が歪んだ。礼司もなにかを耐えるように俯いている。

 

「彼の名は荻魁斗‥‥‥君の母、つまり柚子さんの兄だ。義理の兄妹だったが」

 

「‥‥‥」

 

「魁斗は普通の人間ではなかった。向こうの世界から時たま漂流してくる異界人だった。しかし彼は、私たちを守るためにかつての同胞と戦い‥‥‥散った。そこから見つけ出したわずかな手がかりからここまで大きくなったのがこの境界協会だ」

 

「じゃ、じゃあ、まだこの世界に異界から迷い込んだノウナがいるってことですか‥‥‥?」

 

「断言はできない。だが確実に居るとは思う。‥‥‥そして組織の体裁を整えた我々はまずさまざまな施術を終え、適性が有る者を異界へ調査へ向かわせた。その時の隊長が‥‥‥」

 

「俺だったわけだ」

 

礼司が後を引き継ぐ。

 

「そこで、俺たちは今後最も重要なノウナに遭遇、接触した。それが『#¥※$&〆』という‥‥‥うまく言語化できないが‥‥‥異界のある国の王女というノウナで、我々の言葉が理解できた唯一の異界人だった。彼女に協力を頼み、上手く人間界へ同行が叶ったが、その際に異界の国側に俺たちが王女を連れ去ったと誤解されてしまい、しかも調査隊の中に俺たちの敵が紛れ込んでいて‥‥‥」

 

「敵‥‥‥?」

 

「俺たちとは違う目的で異界に進出しようとしている連中さ。そいつらが手に入れた能力でさんざっぱら暴れた結果、完全に人間に対し敵対され、大規模な戦争が起き、今は休戦状態になっている、というわけだ」

 

「さらに、敵は他の国でも攻撃を仕掛けていて、調査によると、対人間のための連合まで作られているそうだ」

 

「その、姫って子はどうなったの‥‥‥?」

 

「‥‥‥敵対者に殺された」

 

「そっか‥‥‥」

 

「俺たちは、たしかに選択を間違えてしまったのかも知れない。事実、この事態に対し、全く解決策が見つからない。だからもし本当にアマネが、本当に、異界の言葉を話せるというなら、これ以上に重要で、使えることはない。でも俺は、俺は‥‥‥」

 

礼司が苦しそうに顔を歪ませる。

 

「俺は家族が、危ない目にあって欲しくない‥‥‥!たとえその結果何も変わらなかったとしても、俺は、アマネには何にも縛られず自由に生きていてほしい。こんなことに巻き込みたくなかった!」

 

「礼司‥‥‥」

 

「アマネ、今決めなくてもいい。お前が本当になんとかしようとしてくれるというなら、協力は惜しまない。だから、今わかっている全てをお前に話している。けれど、お父さんの気持ちは、いつだってお前のことを一番に考えていることを忘れないでいてくれ」

 

「‥‥‥分かった」

 

「俺は、アマネの決心を尊重する」

 

「うん」

 

久世が腕時計をちらりと見る。

 

「もう午前1時だ‥‥‥そろそろ帰ったほうがいい。もちろん遅らせるよ。それとこれからは正式に雫山凛くんを護衛につけるから、安心してくれ‥‥‥きっちり考えてから答えを出してくれ。後悔しないように」

 

「‥‥‥はい」

 

「では、解散だ。1週間後、答えを聞こう。ではその時に」

 

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