友人の渋谷さんと淡々と高校生活を送るお話   作:どうだ私は頭がおかしいだろ

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世界平和について語り合って、自己紹介して、クレープ食べて、アイドルにスカウトされるお話

 

「きゃあああ!」

 

春一番が吹き荒れると、前を歩いていた女子生徒のスカートがめくり上がった。突然のことで理性が間に合わなかった俺は、露になったピンク色の布地に目をくぎ付けにされた。

ちょっと背伸びしすぎじゃないか? 勝負下着か?

心で呟いた。そんなこと口に出したら変態認定一級を取得するのは確定だからな。

女子生徒はスカートを押さえながら振り向いた。そして俺がいたことを確認すると顔を真っ赤にして目を尖らせた。そのまま機嫌の悪さを隠すことなく、足早に歩いていった。

なんだあれ? スカートが捲れたのも、俺が見てしまったのも不可抗力だろう。それなのに性犯罪者を見るような蔑みを受けた。

なんたる理不尽。これが原因で俺がスカートを覗き見たなんて噂が学校に流れたらやりきれんぞ。

俺が世の中の不条理に憤慨していると、とんと背後から頭を軽くチョップされた。

振り向くと、あきれた目をしている綺麗な顔が視界に映った。

同級生の渋谷凛だ。

 

 

「何やってんの? また朝からセクハラ?」

「おい渋谷凛。その表現のしかたは多大な誤解を生むことになる。正確には『また朝からセクハラ』ではなく、『またセクハラしてるの?』だ。いつも朝とは限らん」

「結局セクハラはしてるんだ」

「まあな。それと最後に『屑が』と捨て台詞を付けた方が俺の好みだ」

「あんたの性癖なんて考慮してないって」

()()()()()ということは俺のことを理解した上での言葉と言うことか。求めることには応じない。考えによっては、かなり高レベルな放置プレイだな!」

「……」

 

渋谷の目があきれから、ドン引きに変化した。Mよりだが、マゾではない俺は傷ついた。

 

「まぁ、今のは半分冗談として」

「半分本気なんだね」

 

さらに引かれた気がするが、無視する。

 

「スカートの長さは時代の流れを表していると思わないか?」

「いきなり何の話!?」

「考えてみろスカートは明治時代からはかれている歴史ある制服だが、あの頃のスカートは膝を隠すどころかくるぶし辺りまであることも珍しくなかった」

「あ、ああうん。そうなんだ」

「さらに進んで昭和時代はテレビドラマが表すように、ヨーヨーを持って不良を成敗していた」

「スケバン刑事のこと? というかスカート関係ないでしょ」

「しかし、平成はどうだ! ほとんどが膝から上までスカートをあげて、それでも長いと短くするしまつ。そして中身を見られれば獲物を見つけた獣のように追い詰めて、吊し上げる。もうすぐ新たな元号に入るというのに、日本は大丈夫なのか?」

「ええっと、ごめん。この会話にどんな意味があるのかわからないから、教えてくれない?」

「特にないぞ」

「ないんだ……」

 

 

渋谷は、あきれを通り越して脱力した声でいった。

 

「当たり前だ。お前、何の権力もない男子高校生と女子高校生が世界平和について語り合ったところで、机上の空論にもならないだろ」

「終始スカートについて語ってた(主に一方的に)、今の会話のどこに世界平和の要素があったのかわからないんだけど」

「いずれわかるさ、いずれな」

「要するに何も考えてないんだね」

「……うん」

 

あっさりと肯定した。俺は、男の中の男。認めるときは潔くだ。

 

「まあ、いいけどさ」

 

そう言い捨てて、渋谷は俺より少し前に出る。俺の顔をちらりと見て。

 

「誤魔化すのはいいけど。誤魔化したいなら、まずはそのにやけた顔をどうにかしなよ」

 

そう言われて、携帯を使って顔を確認するとだらしなく緩んでいた。

どうやらパンツを見たせいで、俺は無意識の内に破顔していたらしい。

そりゃ軽蔑されるわ。

 

俺は恥ずかしくなって赤面した。

 

 

 

授業終了のチャイムが鳴った。教師はまだ話続けているが、多くの生徒は片付けを始めた。みんな時間にしっかりしている。さすがは日本人。電車が1分遅れただけで謝って、海外からドン引きされるだけはある。

そう言いつつ、俺も先生の声を待たずに片付け始めているがな。俺も日本人だから。残当だよ。

間もなくして先生が授業の終わりを告げた。学級委員の号令に合わせて会釈する。

さあ、帰ろう。1秒でも早く、電光石火で。なぜそんなに急ぐかというと、今日は駅前のクレープ屋が月一の割引セールをやっているのだ。

金がなく、甘党な高校生には夢のような日だ。

そんなわけで、忙しなく荷物を鞄につめていると、横から声をかけられた。

 

「ねぇ、紅葉」

「申し遅れた。俺の名前は、銀杏 紅葉(いちょう もみじ)という」

「知ってるけど?」

「お前には言ってない」

「何なの!?」

 

自己紹介は必要だろ。誰に? そりゃあ、おめぇ……誰だろ?

 

「まあいいや。何だ渋谷、何か用か?」

「今の会話なかったことにするんだね……。気にしないけどさ」

 

気にしないのか。お前、俺のテンポに慣れすぎだろ。

 

「クレープ食べに行くんでしょ? 私も行くから、一緒に行こう」

「……お前俺のこと理解しすぎだろ」

 

知られ過ぎて、俺氏驚愕だよ。

 

 

 

 

 

そんなわけで俺と渋谷は駅前に来ていた。セール日とだけあって、店の前には何十人も並んだ列ができていた。

少々辟易とする行列である。隣を見れば顔をひきつらせた渋谷がいた。こいつ意外に顔に出るよな。

 

「どうする渋谷? 長くなりそうだが、店の方は大丈夫なのか?」

 

渋谷の家は花屋をやっていて、彼女は店を手伝っているのだ。なので、寄り道する場合店のスケジュールを気にしないといけない。

 

「……うん。今日は暇なら手伝ってって言われたから、時間には余裕はある」

「さすがは自営業。時間には寛容だな」

クレープ食べるのは暇じゃないのかって? 何言っているんだ、クレープ食べるのは立派な理由だろう。

 

「渋谷がいてくれるなら安心だ……いざ行かん。戦場へ!」

 

俺たちは最後尾に並んだ。

 

 

ーーーーーーー

 

ーーーーー

ーーー

 

「はい、ダブルチョコバナナクレープとキャラメルチョコストロベリークレープですね。本日はお客様感謝dayなので全品三割引になります」

「すいませーん。カップル割引もお願いしまーす」

「はい。カップル割引でさらに二割引させていただきます。……こちら商品になります」

お姉さんは俺たちの仲を疑う素振りも見せずにレジをうつ。

俺はお姉さんからクレープを受け取り、ダブルチョコバナナクレープを渋谷に渡した。ほのかに目を輝かせた渋谷は、ギャップを感じて中々可愛いなと思いました。

 

 

「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております!」

 

お姉さんの元気な声を背に受けて、俺たちは店を離れる。

しばらく歩いたところのベンチを見つけた。腰を掛ける。

「はぁ」

 

隣の渋谷がなぜかため息をついていた。さっきまでうきうきだったのにどうしたのか?

 

「どした?」

「いや、なんか、今さら罪悪感が湧いてきたっていうか……私たち恋人でもないのにカップル割引してもらっちゃったし」

 

なるほど。曲がったことが嫌いな渋谷は、良心の呵責に耐えているわけか。

 

「ははは。大丈夫、大丈夫。カップルって調べてみると男女一組って書いてあるだけで、恋人同士なんて一切書いてないから。要するに問題なーし」

「屁理屈ばっかり」

「じゃあ、今から事情話してお金払ってくるか?」

「……ううん。いいよ。もう終わったことだし」

 

そう言って、クレープを一口かじった。

頑固そうに見えて、けっこう融通が効くな。

しかし、俺が提案したとはいえ、渋谷には無理させたな。次からはカップル割引作戦はやめよう。正直が一番大事って、死んだ曾じいちゃんが言ってたらしい。俺が産まれる前には死んでたから真偽は知らん。

それにしてもキャラメルって油っぽくて喉が乾く。飲み物でも買ってくるか。ついでに渋谷へのお詫びも兼ねておごろう。

 

「渋谷、飲み物買ってくるけど、何飲む?」

「え? 急にどうしたの?」

「いや、キャラメルが意外に喉を乾かしてさ、水ほしくて。ついでに渋谷の分も買ってこようかなって」

「ありがとう。じゃあ、ミネラルウォーターをお願い」

「オッケー」

「あ、お金」

 

俺は制止する。

 

「いいっておごるよ。さっき無理させたお詫びのつもりだから」

「でも……」

「これで()()()()()()。それでいいだろ?」

「……うん。そうだね、わかった」

 

折れてくれた渋谷を尻目に、俺は自販機に向かった。

 

 

 

 

俺が飲み物を買ってベンチに帰ってくると、渋谷がスーツ姿の男に絡まれていた。

男の方は熱心?に何かを語りかけているようで、渋谷は頷きながら戸惑いの表情を浮かべていた。

え、何あの状況? 援交要求現場にしか見えないんですけど。

おっさん、まだ明るいぞ! しかも交番も近くにあるし! たーいほされちゃうよ!

あと渋谷は、見た目は今時の女の子って感じだが、中身は恋愛もしたこともないピュア娘だぞ。あんたが人生賭けるのは止めないけど、そいつは相手が悪い。やめておけ。

……どうしよう。取り合えず、横槍いれるべきだよな。渋谷も困ってるみたいだし。

 

「おっほん、おっほん。はいすいません、そこ通してね」

「あ、紅葉」

「お知り合いですか?」

「うん、同級生」

「なるほど」

 

そう言って、スーツの男はじとりと鋭い瞳を向けてきた。

こわっ! しかも近くに来るとデカっ! 絶対何人か殺ってるよ。今からでも逃げたしたい……。

男は胸元に手をいれた。チャ、チャカですか?

 

「申し遅れました、私こういうものです」

「は、はぁ」

 

差し出された紙。何も変なところがない普通の名刺だった。

予想外の状況に戸惑いながら俺は名刺を受け取った。

そこには346プロアイドル部署所属プロデューサーと書いてあった。

 

「って、346プロ! 大企業じゃん!?」

「そうなの?」

「そうだよ。高垣楓とか日野茜とか他にも人気アイドル多数抱えてる超大手の芸能プロダクションだよ!」

「詳しいね。紅葉って、アイドル好きなの?」

「一般人なら知ってるであろう常識的な知識だよ。お前が知らなすぎなの。ゴールデンに動物番組ばかり見てるからだよ」

「別にだけじゃないし。ニュースとかも見てるよ」

「精神だけババアかお前……いっでぇ!?」

 

こいつ足踏みやがった。しかも、親指が潰されてスゴく痛い。

キッと渋谷を睨むが、つーんとそっぽ向いて知らん顔していた。こいつ……。

つうか、ついいつも通りの絡み方しちゃったけど、Pさん蚊帳の外にしちゃってる。やめて、そんなに微笑ましく見ないで。人に見られるとちょっと恥ずかしいの。

 

「仲がよろしいんですね」

「……まあ、地味に付き合い長いですからね」

 

俺は気恥ずかしくなって視線をそらした。

 

「それで、Pさんは渋谷をスカウトしたんですか?」

 

俺は話題を変えた。理由は察しろ。

 

「はい。今日はもう遅いですし、名刺だけでも受け取っていただこうかと」

「だから、私はアイドルなんて興味ないってば」

「いいじゃん名刺くらい。受け取ってあげれば」

「他人事だと思って無責任なこと言わないで」

渋谷の声が荒くなる。ちょっと怒ってますね。理由は俺だろうか、Pさんのしつこい勧誘だろうか。後者だ、後者に決まってる。

俺は、まあ落ち着けとジェスチャーする。

 

「そうじゃなくて、アイドルにスカウトなんて滅多にあることじゃない。今すぐ答えがだせる問題でもないし、後で心変わりするかもしれないんだから、時間を空けたらどうだっことだよ。別にこの場で答えを決めろってことじゃないんですよね?」

「はい、もちろんです。人生を左右することですから、時間がかかるのは当たり前のことです」

「………………」

 

渋谷は俺とPさんを交互に睨み付けながら、何かを考えている。

少し経って、渋谷は眉を緩めた。

 

「分かった名刺だけは受け取っておく。でも、もう一回言っておくけど、私アイドルには興味ないから。あまり期待はしないで」

「はい、待っています」

 

Pさんは綺麗にお辞儀して人混みに消えていった。

結局最後まで礼儀正しかったな。いくら社会人でも年下の高校生にあんな態度とれる人が何人いるやら。

あんないい人を犯罪者呼ばわりしたやつがいるとか、どんなやつだ。名を名乗れ(すっとほけ)。

人は見た目じゃない。心に留めておこう。

 

そしてーーこのあと、不機嫌な渋谷の鬱憤晴らしに付き合わされました、まる。

 

 

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