友人の渋谷さんと淡々と高校生活を送るお話 作:どうだ私は頭がおかしいだろ
「きゃああああ!」
まあ、待ってほしい。単純な読者なら、また風の悪戯で俺が不可抗力でパンツ見たと思ってしまうのだろう。
しかし、それは間違いだ。
何、信じられない?
やれやれ、君たちは俺のことを何も理解していない。一度だけ起きるから偶然なのであって、二度三度起こってしまえばそれはもう確信犯だろう。
一度美味しい思いしたから、女子生徒がいたら少し距離をとって歩いて風が吹くのを待つくらいしなければそんなことは起きないだろう。まぁ、俺はやってないがな。ほ、本当だぞ! 嘘なんかついてないんだからね!
どうやら俺が以前犯した過ちを反省しない男だと思っているらしい。そんな能無しなわけない。そんなやつは性交の時にゴムをつけられない男と相場で決まっているんだ。
では、今の悲鳴は何かって? それはーー
階段から落ちてきた(二段目くらい)女子を助けて下敷きになっているだけだ。
ふむ、柔らかい。
「いつまで胸揉んでんのよ!」
「サバトっ!?」
怒りのままに繰り出されたビンタを受け、俺は吹っ飛ばされ、そのまま地に伏した。
倒れてきた女の子は、俺に惚れることなく、ただただ軽蔑の眼差しを送りながら、身を守るように身体を抱いていた。
危ないところを助けたのに感謝もされずに、犯罪者扱いとかどんなクソゲーだよ。しかし、これ幸いにと彼女の胸をがっつり揉みしだいたのも事実。何も言えん。
ただ一つだけ言わせてほしい。
俺は、すがるように手を震わせながら。
「十分大きいから、パットをつける必要ないと思うぞ」
「ゴッドブロー!」
相手は死ぬぅぅぅぅ!
再度吹っ飛ばされた俺は、壁に叩きつけられて、そのまま地面のタイルをなめた。
「十回死んで九回生き返れ!」
せめて一回で安らかに眠らせて。
そんな俺の願いは届かず、女の子は地面を踏み鳴らしながら去っていった。
頬を腫らしてゾンビのようになった俺に一人の女子生徒が近づいてきた。
「生きてる?」
「……何とか」
覗きこんだ綺麗な顔に弱々しく返事した。わざわざパンツを見られないために、角度まで計算してくるとか。サービス精神が足りない。
そんなことを考えていたら、女子生徒は一度死んだ方がいいんじゃないのと言わんばかりの蔑んだ目をむけてきた。ドMではないけど、美人に蔑まれるのは悪い気はしないよね。
そんな彼女は、同級生でアイドルスカウトされ中の渋谷凛だ。
「大丈夫、顔気持ち悪いよ?」
「お前はオブラートを知っているか? もう少し言葉を包めよ。優しく包んでくれよ。死にたくなるだろ」
「一度死んだら、その変態も治るんじゃない?」
「治らないよ。言うだろ、バカと変態と召喚獣は死んでも治らないって」
「ふぅん」
<悲報>俺氏、ボケたのに拾ってもらえなくて傷つく。
まあ、分かりにくいボケだから仕方ないんだけどさ……。
「ところで話がぬるりと変わるけど今度花見しない?」
「ぬるりとどころか、突拍子もなく変わったね……どこでやるの?」
「渋谷ん家の店で」
「バカなの? うちは花屋だけど、桜なんてないから」
「品揃え悪いなぁ」
「普通ないから」
まあ、ないわな。
「それは冗談として、お前の家の近くに公園あっただろ? そこでお弁当持っていってやろうかなって」
「いつ?」
「今週の土曜日」
「今週……って、それ明日じゃん」
今日は金曜日。学生が待望する休みの前日である。
「急すぎるでしょ……。まぁ、明日はお店午前中で終わるから、午後からならいいよ」
「うっしゃ、決まりー! 料理の鉄人が腕をふるってやろう」
「はいはいあんたのお母さんね」
「当たり前だろ」
お前普通の男子高校生が料理できると思うのか? 洗濯の柔軟剤の使い方も怪しいからな。
「でも今度誘うときはもうちょっと早く言ってよ。今回は偶然予定合わせられたけど、次はどうなるかわからないんだから」
「大丈夫だ。そのときはソロ花見するからな」
「……寂しそうだね」
「たしかに」
想像したら悲惨すぎて笑いも起きない。今度からは、もう少し早めに誘おう……。
俺は、身体を起こす。
「それじゃあ、そういうことで。明日よろしく」
「どこ行くの? もう授業始まるよ?」
「保健室」
腫れた頬を指差しながら言った。彼女中々の手練れのだったようで、けっこう痛い。
「あ、うん。お大事に」
何だかんだ、ちゃんと心配してくれる渋谷は優しいと思いました。
◇
日を跨いで土曜日の正午。
俺は昨日予告した通り、渋谷の家近くの公園にいた。ベンチに腰を掛けて、水筒の蓋型コップにコポコポとお茶を注いだ。湯気が空中に消えていく。
今日は春の陽気らしくまあまあ暖かいのだが、実益よりも気分を取った結果だ。俺の偏見だが、花見のお茶と言えば温かい緑茶と決まっている。
はらりはらりと落ちてきた桜の花がコップに入ってきた。衛生的でないのは理解している。しかし、これも風流でいいじゃないか。外に出たなら多少の不衛生は許容しなくてはな。
俺は構わず口をつけた。
「あっつぁ!?」
…………よく考えたら、俺猫舌でした。てへぺろ♪。
俺はコンビニに向かって駆け出した。
◇
「遅い」
俺がコンビニから帰ってくると、しかめっ面の渋谷が迎えてくれた。ごめんとしか言えん。
ここで好感度高いヒロインならベタなデレイベントなんだが、基本好感度マイナスの渋谷じゃあり得ないだろう。
「悪い悪い」
「何してたの? 覗き? もしそうなら自首した方がいいよ」
「おい流れるように人を犯罪者認定すんな。あと俺はバレるような覗きはしない。しかし、バレない覗きなどこの世に存在しない。非常に残ね……だから必然的に覗きはしないということだ!」
「今何言いかけたの?」
「何でも!」
あぶねぇ! 本音が漏れるところだった。
くっ、渋谷め。人の感情に訴えて本音を引き出そうとするとは腕を上げたな。まあ、ほぼ自爆だが。
この話題はとても危険なため、俺は話題を自然に変えた。
「それでさ、それどうしたんだ?」
俺は渋谷が持っている紐に繋がれた生物を指差して言った。
俺が目を合わせるとワンと元気に鳴いた。
そう、その生物とは犬。渋谷の愛してやまないハナコである。
「お前花咲じいさんでもやりたいの? ここ掘れわんわんみたいな」
「それやったら、最後ハナコ灰になってるんだけど。変なこと言うともぐよ?」
「やめろー! 俺は息子は……息子だけは守ってみせるぞ!」
「あんた子供いないじゃん」
「え? あ、いや……何かすいません」
そういう意味ではなかったようです。
じゃあ、どこをもぐ気だったの? それとも男の大事なところ=息子が繋がらなかったの?
聞いてみようかな、でも聞いた場合俺はどうなるか……。うん、この世には知らない方がいいこともあるよね! 真実は闇の中!
「それでどうしたんだ?」
「別に、最近忙しくてハナコを散歩に連れて行ってあげられなかったからさ。タイミングもいいから、ついでに遊ばせようかなって」
「なるほど。要するに散歩のついでに俺の花見に付き合おうってことだな」
「そうだね」
「そうなんだ……」
否定してよぉ……せめて気ぐらい使えよぉ……。お前の犬を引くほど可愛がってるとは知ってる。でも、人間にも優しくしよう。差別だめ、平等を希望。
ああ、花見する前からテンションをガンガン下げられる。
……まぁ、渋谷に気を使った対応なんてされたら、違和感で吐き気催すからいいんだけどさ。
ま、気を取り直して用意しますか。
「地面にシート広げるのとベンチに座るの、俺の膝に座るのどれがいい?」
「最後は論外として、片付けるの面倒になるしベンチでいいんじゃない?」
「膝は……」
「知ってる紅葉、最近私携帯買ったんだ」
「すんませんでした! だから通報はやめてください。また警察署に迎えに来てもらうのは家族に申し訳な……ごほっ、ごほっ」
「今何て言ったの? すごい衝撃的なこと言ってなかった」
「…………イッテネエヨ」
「何で片言!?」
「さあて、準備準備」
「ちょっと、紅葉!?」
冗談に決まってるだろう。さすがに犯罪はしない。
まぁ、焦る渋谷は中々レアなのでこれはこれでおもしろいな。
ちなみにこの後、嘘だバーカと舌を出して言ったら、ハナコのかみつく攻撃を受けました。