その世界は”最悪”   作:杜甫kuresu

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『ココどこだ。エディは分かるか?』
「おいおい、冗談はお前だけにしてくれよ」


エンカウント

「あー落ち着こう、落ち着こうぜ、なあ? 別に俺達はお嬢さん方を取って食おうってんじゃないんだ、マジで」

 

 パーカー姿の男が手を上げて気さくに笑う。勿論、構えられた少女達の銃は下ろされなかった。

 彼はエディ・ブロックと言い、誕生日は第三次世界大戦以前と答えた。だがそれにしては若すぎる、2062年だと言うのに彼は老人どころか味のある成人男性の顔つきをしていて、とても40,50代ではない。

 

 寂れたビルの屋上。昼間とは言え冷風が吹くからか、エディは少しだけ身震いする。

 そして、「また」一人で喋りだす。

 

「いや、待て。食うな、女を食うとかお前の趣味は最悪だ、食って良いのは悪いやつだけ。言ったろ?――――――オーケー、そうしてくれ」

「誰と喋っているのかしら、エディさん?」

 

 単身で前に出たのはKar98k、S09地区基地の小隊の現リーダーに当たる。たった一つしか無い小隊で選ばれたリーダーらしいのだが、エディから見ても彼女は統率者としてのパワーを秘めていると感じる。

 じっと値踏みするような鮮血色の瞳に、エディは苦笑いをして首を振って誤魔化そうとする。

 

「コッチの話だよ、ははは…………とにかく俺達は敵意なし。お嬢さんも危険はない。お望みなら全裸で言ってもいいんだが、それだけじゃ信じてもらえないかい?」

 

 Karは答えの代わりに、端に転がる「それ」を一瞥して拒否を示す。

 其処に有ったのは無残に端子をむき出しにされた鉄血兵。首から上のパーツがまるまる無いのは奇妙であるが、Karの知識に照らし合わせるならそれは前衛型のGuardと呼ばれる鉄血だ。

 

 それだけじゃない。そんな風に腕がちぎれたり、足が滅茶苦茶に折れ曲がってたり、とにかく酷い状態で機能停止に追い込まれた鉄血の残骸が相当数有る。

 彼女達の指揮官いわく「はぐれた人形の反応はない」筈なのに、だ。

 

 状況証拠としてエディが実行犯になってしまう。どうやって警戒しないでいるという話だった。

 

「私は貴方が此方に敵対しているとは思っていませんの、態度は完全降伏ですもの。そもそも私達人形は人間に危害を加えられる訳でも有りません」

「に、人形? まあ、ともかく信用してもらえた――――――」

 

――ですが。

 Karが静かに脳天に向けてその騎兵銃を構えた。エディは銃に詳しい覚えはないが、少なくともそれは今発砲できそうだということだけはよく分かる。

 

「おい待て、いや出来の良い銃だな。俺は銃なんてさっぱりだが値打ち物なのは分かるぞ、それを俺みたいな一般市民の返り血で染めちゃ銃が可哀相ってもんだろ?」

「お褒め頂きありがとうございます」

 

 冷や汗が止まらない、苦笑いも張り付いてくる。エディはどちらかと言えばKarを心配していたのだがそれを知る由もない。

 

「ですが。今、()()()()()()()()()()()()()()()()()――――――意味することはお分かりでしょうか?」

 

 何か答えようとしたのも束の間、エディは突然手を降ろしたり上げたりしながら誰かと口論を始める。

 

「わ、分からないなあ――――――あ、待て。ダメだダメ、せめてアッチが撃ってきてからだって! 俺達は警戒されても仕方ないからな、待て! 良いか、待つんだ。お前、もしも出てきてみろ後で三日ぐらい飯抜くからな!」

 

 誰かを叱りつけるような口調だが、彼の周りにはそんな親しくかつ加虐可能な味方などいない。

 その様子を見ていたKarは彼が狂人か何かだと思ったんだろう、わざとらしく彼の耳のすぐ横に弾頭を掠めてみせる。すぐさま槓桿を引くと次弾装填を終えてしまった。

 

――更にトーンダウンしたKarの忠告。

 

「つまり貴方は人間ではありません」

「え、ウソ!? お前のせいだぞ、人間じゃないとかまで言われてるし!? 散々だ!」

 

 一人で喧しく騒ぐエディに冷ややかな命令。

 

「次は頭を狙います。お静かに」

「悪かった、お嬢さんのためにも俺は静かにさせてもらう――――――()()()

 

 一瞬、彼の後ろに黒いなにかが蠢いたように見える。

 暫くエディが沈黙していたのを確認した後、Karは彼の後ろに回り込んで銃を頭に突きつけながら歩くよう促す。

 

「普段ならばいざ知らず、此処は戦場ですので。ごめんなさい、このまま歩いていただけますか?」

「まあそうなるよな。好きなだけ警戒しといてくれ、何にもしなけりゃ後で可愛いお嬢さんから涙目の謝罪も聞けるんだしな、俺はハッピーかもしれないぞ」

「そうですね。そうなることを私も願います――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Karが答えてる最中、突然其れは起きた。一瞬のことだ。

 

 まず鉄血兵が一斉に扉から突入してきた。決して二体三体などと笑い過ごせる量ではなく、およそ二十。瞬く間に彼女達は取り囲まれた。

――そして次に、エディは。いや、「ソイツ」が其処に居た。

 

 黒い歪な塊に包まれていくエディをKarは至近距離で見た。それは例えば液体のようで、固体のようで、しかし気体のように何処からともなく彼の身体を覆っていく。

 あっという間に彼を包み込んだその黒い何かは、最後にエディの顔を覆った。見えた顔は大きく裂けた歯並びの悪い凶悪さそのものの口、そして何処を見ているのかすら分からない白目だけの大きな眼に似ている何か。

 

『おい、コイツラは食って良いのか? 限界だ』

 

 明らかにエディとは違う声。ソイツは確かに言った。

 アレを。鉄血を。あろうことか、「食って良いのか」と。Karはあまりの異様さに少しばかり目を見開いてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ~、食っても良い。良いが、何というか遠慮を覚えろ」

 

 ソイツはすぐさま疾走りだした。いや、疾走っている前振りを見せたのだがそれは走るというより跳躍か。

 構えていたGuardに黒い巨躯が降り注ぐ。あまりに異様な動きに気圧された鉄血達はソイツに銃口を一心に集めて止めにかかった。

 

――しかし無反応。弾丸が身体に吸い込まれるように消えていくと、時折煙を上げるだけ。

 弾丸の暴風雨などそよ風のように、悠長な態度でソイツは語りかける。

 

『じゃあ食う。美味そうだな、まずお前』

 

 長くぬめりけの有る舌がGuardの頬を撫でる。唾液が頬に残るとその表情が恐怖に変わるが、ソイツはそのまま大口を開けて頭を丸呑みすると食い千切ってしまった。

 見た目通りの残虐、かつ野蛮。バイザーを吐き捨て、抵抗する力を失った屍体を片手で引きずり出すと大立ち回りが火蓋を切る。

 

 Jeagerのライフルから放たれた弾だけをソイツは手で受け止めると、全く同じ方向に投げ返して撃ち殺す。正確かつ大雑把、道理の通っていない反撃に鉄血が小さくどよめく。

 

『不味そうだ、俺に投げるな』

「不味そうと言うか食うなよ、今の頭の感触だけでももう思い出したくないったらありゃしねえ!」

 

 余裕綽々に会話をするソイツラを誰も止められない。

 

 突然にその体が崩れる。身体を自在に変形する姿は異様どころで済ませられない様相だったが、そんな事を考えている間に伸ばされた新しい腕で何体かが引き寄せられていってしまう。

 尚抵抗を辞めない鉄血をお構いなしに乱暴に殴り飛ばし、脚を持って振り回すと最後には頭をガブリ。時折うええ、と呻くようなエディの声。

 

「だから遠慮しろよ! 吐きそうだ!」

『ちょっと硬いが美味いだろ。エディも後でゆっくり食え、分けてやる』

「要るか!?」

 

 やたらとコミカルな会話に反して動きは豪快。寄せた鉄血を殺し終えると、また床を崩す勢いで跳躍。

 着地地点から適当に一体を見繕って武器代わり。銃弾は吸い込んで吐き出す身体、あまりにも圧倒的――――――鉄血たちも流石に気圧される。

 

 しかし虐殺は止まない。一体の頭を握りつぶしながら、脇から伸びた触手が他の二体をぶつけて頭から破砕させると投げ捨てる。その触手に射撃を加えてもやはり効果はなく、それは軟体動物のような仕組みをしながら尋常でない強靭さを帯びているのが分かる。

 

――ならば、今度は標的を変えるのみ。

 Jeagerの一体がKarに向かって狙撃。完全にソイツに気を取られていると油断していたKarの目と鼻の先にまで銃弾が突き付けられる。

 

『俺が居て良かったな』

 

 黒い腕がKarのブーツに絡みついたかと思うと、凄まじい勢いでソイツの方に引き寄せられていく。

 正体は、ソイツの背中から伸びた長い長い腕だった。もう滅茶苦茶だ、理屈が存在しない。恐らくソイツは自分の都合のいい形になれるのだ、それは例えどんな不可能でも関係ない。

 

 兵士が想定しない、いや想定しない最悪の敵のパターンだろう。生命の想像の限界の動き。

 

「きゃっ!?」

 

 しかしあまりの力にブーツがすっぽ抜けてしまった。宙に投げられたKarを他所にエディが怒る。

 

「バカ! ブーツ脱げてるじゃねえか!」

『お前、足が細すぎる。もっと食え』

 

 そう言いながら今度はサッシュベルトあたりに腕が絡みつく。浮いていた身体がまた急速にソイツに引き寄せられていく。

 

「いやぁ!?」

『お前の足、ちょっと美味そうだな…………でも気に入ったから食えない…………』

 

 ソイツはそんな支離滅裂で残念そうな一言を添えてすぐ側に引き付ける。

 

「わ、私はどうすれば良いのかしら!?」

「あぁ~、撃ちまくれば良いぞ? 多分ヴェノムが守ってくれるさ」

 

 エディの声がちょっとだけ笑いながら答える。彼もソイツの行動に困っているようだった。

 ヴェノム。それがこの暴れている何かの名前らしい、Karはぐちゃぐちゃになった思考で辛うじてその結論だけを出す。

 

 言葉通り弾丸を受け止める盾を身体で作り出すヴェノムに任せて、半ばやけっぱちのKarが狙撃を開始。だが少しばかりぎこちない動作だ、ヴェノムが首を傾げる。

 

『どうした?』

「お前の盾が撃ちにくいんだろ、きったねえカタチにするから」

『ならそう言や良いのに、照れてるのか?』

 

 そう言ってヴェノムは腕をしゅるしゅると分解したかと思うと、銃に合わせた窪みのついた其れらしい形の盾を作って地面に突き刺す。

 

『これならどうだ?』

「ええ! さっきの変なカタチよりはよっぽど!」

『じゃあお前にやる』

 

 盾を残して、また腕を伸ばす――――――。

 哀れな獲物に明らかに硬い頭部で頭突きを見舞うと吐き捨てるように

 

『飽きてきた、同じ味ばっか』

 

 と断言。酷いものだ。

 豪快、柔軟、残虐、支離滅裂。ヴェノムは其れ以上に表現が出来ない。

 

 腕を振るえば全てを破砕するし、脚が伸びればまたたく間に目前に居る。身体は意味不明な理屈で変形しては時に腕に、盾に、ワイヤー代わりに。

 世界広しと言えども前例のない運動、鉄血達は為す術もなく一体一体、味を貧相なボキャブラリーで酷評されながら噛み砕かれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ~、うん。見ての通り味方だ」

『そうだぞ、取り敢えず今はお前ら食わないぞ』

「今以外も食うなよお前!?」

 

 エディはまた手を上げてヴェノムと揉めていた。今回はヴェノムが一応顔らしきものを出して会話している、どうやらKar達に話が掴めないのを配慮したようだ。しかしあのバケモノそのものの顔で会話をしてくるのでこっちの方が不安を煽っている所もある。

 

 だがKarも流石に先刻の行動を見た以上、銃を向けるのを躊躇ってしまう。

 だが他の隊員が軽く怯えてしまっているのも有って、彼女が代表する位置は変わらない。複雑な面持ちで銃を手に取っている。

 

「形はどうあれ協力者にまた銃を向けるのは、本当に申し訳ないことなのですけど…………端的に言って危険である。そう言わざるを得ません」

『分かってるやつだ。正直今も取って食える』

「要らんことを言うな! いやコイツはこういう事言うけど悪気とかないんだ、な!?」

『悪気はないぞ。事実だ』

 

――言うほどフォローになってねえよ!

 エディは吊り上がった笑いになる。

 

 Karが溜息をつく、何故って彼らの緊張感の無さは指摘できないから。さっきの蹂躙を見せられれば否応なく納得してしまう、そもそも自分達では勝負にならないのだ。

 複雑な表情で小漫才を眺めていると、ヴェノムが思い出したようにKarの方を見る。

 

『お前の名前を覚えてやる。教えろ』

「随分な言い草ですこと…………私はMauser Karabiner 98 kurzです」

『も、もーぜか…………長すぎ』

「カーでよろしくてよ、ヴェノムさん。でしたか」

 

 ヴェノムが大口を開けて笑いらしき表情を作る。

――何というか、良いモノでは無いのでしょうね。恐らく。

 

 AIとして理解できても感情がそう思えない。Karの表情がいよいよ難解を極めていく。

 そんな折、突然人形全員が通信を受け取った。誤魔化すようにKarがいち早く返答する。

 

「指揮官さん?」

『ああ、俺だ! 無事だったか。ちょっと心配したが…………怪我は在るかな?』

 

 若い男の声が人形たちの脳裏に響く。

 指揮官…………というにはまだ未熟、着任したばかりの新米だ。今回も本部の要請があって半ば無理を押して作戦に参加してる形になっている。

 

 鉄血が来ている間は短距離の電波ジャックをしていたのだろう、彼とは通信が通じなくなっていた。

 

「此方は無事です、彼ら――――エディさんとヴェノムさん? が助けてくださったので」

『そ、そうか。危険な人物じゃないんだね?』

「危険です」

 

 違う、と通信機越しに指揮官の声色が突然堅いものになる。

 

『俺が聞いたのは戦術人形としての判断じゃない。君の印象を聞いた、彼らは信用していいと思ったかい?』

 

 Karが二人の様子を見る。エディは単純に作り笑い、冷や汗は止まっていない。

 ヴェノムは本当に笑っているように見えるのだが、実際のところ何を考えているのかはある意味分からない。単純な性格にも見えるが、それと同時にこちらの予想の範疇外にいるのも事実だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ですが。

 

「私は信用して構わない、かと」

「よっしゃ! 助かる!」

『カーは賢いやつだ、やっぱり気に入った』

 

 ヴェノムがKarの横まで顔を寄せてニタァ、と一際大きく笑ってみせる。

――やっぱり危険かもしれない。

 

 そのあんまり邪悪な笑顔にちょっとだけ不安を覚えてしまうが、取り敢えず指揮官の言う通りにKarは自分の感性を信じることにした。




物書き名乗るなら推しは文章で語るべきなので書きました(圧倒的強者)。
ちょーっとヴェノム達のキャラが違うんだけどゆるして。何回も観に行くお金ないです。

アクションカッコいいぞ。ヴェノムは味があって良いやつだぞ、終盤は何か泣けるぞ。
とにかく、見ろ。
まだ見たくないってんなら続き書くから見ろ。見ろ(迫真)。

あ、出来れば映画未見の人はヴェノムとエディのイメージを教えてください。イメージが掴めてない。
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