『おいエディ、あの硬いのがついてない鉄血ってヤツ居ないのか。飽きたと思ったがまた食いたくなってきた』
「話を聞けよ!」
「じゃあ改めて。俺はエディ・ブロック、一応記者だった。今はこの海苔の佃煮みたいなやつとハッピーな共生生活を送ってるしがない一般ピープルってわけさ」
取り敢えず事なきを得たエディは、やはり最初と同じ妙に皮肉のきいた長台詞を言ってのけた。
ヴェノムがひょろひょろとした手を作るとエディの両頬を押さえつける。
『ノリノツクダニってなんだエディ! 俺を馬鹿にしたのか!?』
「ジャパンの食い物、俺が美味そうに食ってる記憶ない?」
『…………俺も食いたい。美味そうだから許す』
会話も中々に支離滅裂だったが、エディは彼との付き合い方を心得ているようだった。他の人形達も二人の奇妙な紹介をチラチラと見る。
Karがこめかみを指で押さえながら、聞いたばかりの驚くべき新事実を復唱する。
「えぇっと…………要するに、ヴェノムさんはエディさんの寄生虫に近いものですか?」
ヴェノムが大口を開けてKarの前まで顔を飛ばすと、まるで犬のように口を開けて吠えた。
『寄生虫って言うな! 食っちまうぞ!』
「落ち着けよヴェノム! 俺達だって常に最高の言葉選びとか出来ないだろ? Karだって一緒さ、一週間後にまだ言うようだったら考えれば良いだろ、な?」
ヴェノムがエディの落ち着いた説得に渋々という感じで身体に戻っていく。
――本当に便利な身体ですのね。
紹介に入るまでの小芝居でもエディ達は滅茶苦茶だった。
急に腕が真っ黒になってエディ自身を軽くビンタしたり、顔を出したヴェノムが手を作ったり剣を作ったり。まるで感情そのものが形を持っているようだ。
「ちなみにさっき言ったシンビオート…………ああ、Karは意味覚えてるかい?」
「要するにエイリアン、ですね?」
「まあそう。その中ではコイツは正直弱いらしい、ついでに俺も社会的に弱い、だから過信は禁物だぜ」
エディの事実だけを説明したそれに文句が有ったのか、ヴェノムがKarをエディを正面から息のかかるまで突き合わせるとニヤリと嘯く。
『
「うーん、多分な」
軽い返事にヴェノムはちょっとばかり不満げだったが、二人を引き離す。Karは目を白黒させて顔を僅かに赤くしている。
「今の鉄血さんだっけ? あの可愛こちゃんぐらいなら勝負にならないぐらいには強いぞ、一応」
エディが笑いながら黒い握り拳でシャドーボクシングをしてみせる。
「弱点は教えない。悪いがKar達を信用してやるって言えるほど自信家じゃなくてな」
『はっ! 変なことすりゃ俺に食われるだけだ』
「だからそういう事を言うな! 力はともかく、俺達は助けてもらってる身でも有るんだぞ!」
『…………分かった』
しゅるしゅるとヴェノムが消えていく。戦闘以外ではある程度エディの言うことに理を感じているようだ。
――身体だけでもなく、精神も良い共生関係。と言うべきなのかしら。
話を黙って聞いていたKarが彼らの長話に返答をよこす。
「構いませんわ。ですがヴェノムさん、私を食べても美味しくはないと思いますよ?」
『それだ。お前は細い、足だけはいい感じの肉付きで美味そうだが』
「――――――!? 気にしてるんですから言わないでください!」
ハハハ、とヴェノムが楽しそうに笑う。Karが少しだけ耳を赤くして太腿を手で覆うと、ゆっくりと黒い爪の長い人差し指のようなものがKarの鼻の先にまで伸ばされる。
『食いごたえの有る女にならないと、”シキカンサン”が他の女に取られるぞ?』
「~~~~ッ!? 指揮官さんはそ、そういうのじゃないですから!?」
顔を真赤にしてヴェノムの指をブンブンと振り払うKar。当人はそれを水のように受け流してケタケタ笑っている。
ちょっと変な顔をしたエディがピントのズレた質問。
「ってかお前の食いごたえって、異性としての魅力も入るのか?」
『だって美味そうじゃないと目につかねえだろ』
「そういう考え方か。ある意味事実だな」
――お前の中では興味を引くの自体がまず「美味そうかそうじゃないか」だからそういう感じなのね。
要するにヴェノムに正確な恋愛感情が有るかは怪しいということだ。
とはいえ真理では有る。噛みしめる価値の有る女こそ愛されるものだ、それは病みつきでも美味でも変わりはない。
Karが怒っているのを飄々とからかうヴェノムだったが、少し止まったと思うと指をしーっとKarの口に押し当てる。
『オヤツが来たぞ』
すぐさま身体が黒く覆われる、あっという間にエディより一回り大きい巨躯の完成だ。
他の人形達もすぐさま銃を構える。それはヴェノムの戯言ではないようだ。
足を踏み込みながらエディが尋ねる。
「オッケー、ところでKar。俺達みたいなのに何をしてもらえたら助かる?」
「頭を食べないで頂ければと、敵の戦意より私達の戦意が先に削げ落ちます」
『…………無理だ、腹が減ってる。カーも来い』
そう言って伸ばした右腕でKarを抱きかかえると、ヴェノムは地を砕きながら空を飛ぶ。
突然始まる視界のメリーゴーランドにKarは何故か慣れてしまっていた、身体にかかるGを受け流しながら冷ややかな態度で窘める。
「前もって仰ってくださる? 何をするにも準備は必要ですのよ?」
『そういうもんか。細かいのは全部エディに言え、俺は苦手だ』
適当に一番背丈の高い木の天辺に着地すると、ヴェノムが真っ直ぐと敵のいる方向に顔を向ける。
Karが他の人形と通信しているのをヴェノムは待っているようだ、エディが少し驚いた様子になる。
「ヴェノム、随分とKarを気に入ったんだな。いつもなら「口煩い女だ」とか文句言うレベルだろ」
『面白いヤツは好きだ』
「全く、貴方の品定めに一喜一憂する自分が悲しいものですね!」
そりゃ大変だな、とケタケタ笑うヴェノムにKarは溜息も出ない。
素早く敵の数を高所から把握すると、Karはヴェノムの手を引っ張る。触った所が粘り気の有る液体のようになってしまってちょっと気持ち悪い。
「一旦下ろしてはくれませんか? 貴方達は何とも無いでしょうけど、私は銃弾が当たれば壊れてしまうデリケートな身体ですので」
『そんなことか、俺が守ってやる』
「下の子達は守れないでしょう? ですから、お願いします」
ヴェノムは敵に向かって唾を散らしながら雄叫びを上げる、居場所に気づいた鉄血達が動揺しながらも銃を構えだすのを見るとヴェノムが首を傾げた。
『なあエディ、どうやったら面白くなる?』
「変な荷物はちゃんと持ち主に返して、思う存分暴れるのが正解。お前、同僚と殴り合いながら楽しくお食事できるか?」
『なるほどな』
ヴェノムがKarごと腕を凄まじい勢いで伸ばすと元いた地面に叩きつける。普通ならKarの体が粉々になりかねない速度だったが、地面にへばり付いた体の一部が衝撃は受け止めているようだ。
Karが咄嗟に何かを取り出すと黒い腕にねじこむ。
ゴムのように引っ張り戻した腕に入っていたのはヘッドセット、のようだ。
『カーは食い物のセンスがない』
「食い物じゃねえよ、ちょっと俺の耳につけてくれ」
エディが顔を出してヘッドセットをつけると、耳元からKarの声。
「使う機会があるとは思いもよりませんでしたが、非常時用の通信機です」
「こりゃ良い。これから始まる頭まるかじりパーティはマジでくそったれでな、君の綺麗な声で副音声でも当ててもらわなきゃ俺が死ぬ」
『分かってねえ、アレが美味いんだろうが』
また馬鹿というか倫理の欠片もない会話を始める二人を放置して、Karは指示を出していく。
「お二人は銃弾が利かないという認識で構いませんね?」
『こんなオモチャで? 俺を? 見りゃ分かんだろ』
体中に波紋を立てながら一斉射に平気な顔をしている。
Karも遠方から其れを見て溜息をつくと、切り替えたように怜悧な口調で指示を出す。
「では単純、前に出てお好きなように暴れてください。私達が細かい残りや作業を引き受けますから」
ヴェノムが口を大きく開けると上機嫌にエディに喋る。両手で大きく喜びを見せる姿は見た目の邪悪さに似合わない。
『おい聞いたかエディ! カーがめんどくせえことは全部やってくれるらしいぞ、お前もゆっくり食えるな!』
「絶ッ対に、自分からは食わねえぞ俺は。まあ――――――やるか」
二人の息が揃った。
両手を離れた木の幹に伸ばすと、まるでバンジーのように跳ねた。純黒の弾丸が鉄血達に襲いかかる。口径少なく見積もって1mの常識はずれのキャノンだ。
葉を。枝を。木を。そして鉄血達の身体をぐちゃぐちゃにしながら地面にヴェノム達が転がっていく。起き上がるとすぐさま攻撃開始の合図だ。
『全部頭にヘンなのがひっついてやがる、エディに食わせるのはアレ取ってやるよ』
「アホなこと言ってないでちゃっちゃとやるぞ」
四足で飛びかかる。
前衛、後衛、意味がない。ヴェノムの手に届けばソイツは死ぬ、例えば四肢をもがれて。時に頭を食われて。偶に武器代わりに乱暴に振り回されて。
後ろから撃ってくれば背中から手が伸びてソイツを引っ張り回す。三体以上来たなら腹から手が伸びてくる。多少強力な弾丸を用意しようがヴェノムが大雑把に張る身体で作った壁には無力。
陣形はすぐ崩れる、ヴェノムは必ずその中央に来るからだ。拒否すれば一緒に引きずり回し、阻止しようものなら頭を持って近場の木に投げつける。
『まだまだ食えるぞ、最高だ』
「俺は最悪だ!」
一部隊が瞬く間に壊滅、Kar達の差し挟める余地など無かった。
また木を真っ直ぐに駆け上ると次の部隊を見つける。すぐにKarに報告してまた戦闘だ。
『お前に言われてからじっとしてるのは正直つまらなかったが、こりゃ良いぞ! 幾ら殺してもカーは俺たちに何も言わねえしな!』
「代わりに俺の精神がどんどん削れてるんだ、お前ちったあ俺に気を遣え…………つっても、これで遣ってるつもりなんだろうな。はあ」
エディは諦めて縦横無尽に暴れるヴェノムに付き合う他無かった。
「えーっと、貴方が――――――失礼、貴方達がエディとヴェノムだね?」
『おいエディ、コイツも食ったらダメか?』
「ダメだバカ。いやあすいませんね、コイツとりあえず食おうとする悪い癖が有って」
エディが慣れてしまった愛想笑いとともに横で涎をすすったヴェノムをパチンと軽く叩く。
――まあそうなるよな。
当然四方八方に銃口を向けられて四面楚歌の状態。それでも会おうと言ってくれただけ彼が誠実なのは、勿論エディも理解しているつもりだ。
「失礼を許して欲しい。未知と脅威と不可解が合わさってるとなると、流石に人類なら警戒してしまうんだ」
本当に申し訳無さそうな顔をする指揮官にエディは出来るだけ気さくに笑う。
「分かるよその気持ち。俺も最初にコイツが喋りかけてきた時は頭がイカれたかと思ったし、バキバキに折れた右脚を治されちまった時は自分の顔を殴って目を覚ましたくなったよ」
『やっていいぞ、治してやる』
「今はしねえよ」
ヴェノムがケケケと笑うと、銃口がガチャリと一斉にヴェノムに向けられる。新しい家に来た犬のように周りに吠えた。
エディは手を上げ直す。
「あんまりこういうやり方は良くないと思うんだが…………そうだな、ヴェノム。全員捕まえてくれ」
『お、殺すか?』
片手間でエディの体中から黒い腕が生えてくるなり、構えていた少女達を纏めて捕まえると縄のような形になって無力化してしまう。
指揮官の頬に冷や汗が流れる。横に居たKarだけが目の色を変えて銃を構えた。
「ぶっちゃけアンタラじゃ勝負にならないと思うぜ? 危害は加えないって言葉を都合よく受け取っておいたほうがお互い有益だ、俺は懐かしきマイホームに帰りたいだけなんだ。マジで」
『何だ。食って良いのかと思った』
「お前はソッチのほうが楽しいかもしれないが、俺はアンにも会いたいんでな」
指揮官が二人の様子をじっと見つめる。Karの様な威圧混じりのものではないものの、滑り込むように相手につけ込んでくるような、一言で言うと厄介な性格の見える視線。
しばらくその観察は続いていたが、彼らにとってはどうでも良いことだ。彼らは嘘など一度たりともついていない。
――視線が少し前の柔らかいものに戻ると、ニコニコと手を差し出す。
「そうみたいだ。タイムスリップしたというのはちょっと信じられないけど、今なら俺は殺せたはずだからね。今は信用するよ――――――ようこそ、S09地区へ」
エディも安心したように笑うと手を取るが、ヴェノムが伸ばした腕に絡みつく。酷い感触だったはずだ。
「俺は指揮官、と言ってもまだ素人だが…………二人にも何か手助けを出来ないかは検討させてもらうよ、Karを助けてくれた恩もある。図々しいだろうがこれからも戦ってもらえると助かるよ」
「そうだな、どうせ腹が減るだろうし仕方ない。戦いもさせてもらうよ、俺はエディ――――」
エディの笑顔が黒く塗りつぶされた。
黒い塊に飲み込まれたエディの代わりに笑っていたのは不揃いで鋭い歯の並ぶ大口。濁った灰色の目がじっと指揮官を見つめる。
握られた手も一回り大きくなっていて威圧感は有るのだが、指揮官は笑顔をまるで崩さない。警戒心そのものが見えてこなかった。
『”俺たち”はヴェノムだ。食い物が有るなら寄越せ――――――腹が減った』
今言った食い物が鉄血の頭でないというのに気づくのに、指揮官は数秒ほどかかってしまった。
ヴェノムはマジでアクションが反則で映像だからこそなんだよ。俺では表現しきれない、マジで劇場で見てこいとしか。言語化出来ない動きする。
エディはすぐ溺死する贋作兄ちゃんと同じ声なので(吹き替えは)、喋り方よりはいい男です。青年とかじゃない。
そもそも銃弾が全く効かないから、ドルフロだと無双に近い。弱点は有るからそこを使っていきたい。
というかあんまり文字媒体に向いてねえんだろうなあ…………やれるだけやる。
飽きたら終わるので気楽に読んで欲しい。