「それ自体が報酬なんだ。そうだな、ヴェノムの食べっぷりって素敵! って気に入った女に言われたら気分いいだろ?」
『当たり前だ』
「そういう感じのものさ、喜んどけ」
『なら良いことだ。エディ、今日はたらふく食うぞ』
「それ、いつもとあんまり変わらないよな…………」
「ええ、じゃあマジでKarは俗に言うアンドロイドってやつなのか!?」
「それが近い表現です。皆さんは人形と呼びますから、エディさんもそうした方がよろしいかと」
エディは口を開けてKarの精緻な横顔を見ながら惚けていた。
――第三次世界大戦、ゾンビ、AI反乱だって!? ゲームとか映画じゃないんだからよ、神様は加減を知るべきだぜ。
納得できない、という様子で引き止める。
「嘘だろ、いや確かに鉄血からは明らかに生き物じゃない感触がした。でも食感なんて俺は詳しくない、肌はスベスベで顔は美人さんで胸は有るんだろ? 俺達の想像できるアンドロイドじゃねぇ…………」
『…………こりゃホンモノじゃねえのか、エディ』
ヴェノムが不躾に胸を揉みしだく。Karがヴェノムを睨むと胸を隠して後ずさった。
「何をしていらっしゃるのかしら!?」
『そういや人間はこういうのニガテだったか。大丈夫だ、指揮官の分は残してやってるだろ?』
顔を真赤にしたKarがかなり取り乱した様子でヴェノムに怒る。
「だ、だからしょういうのでは」
「今噛んだ」
ヴェノムとエディが見合わせてニヤニヤする、そこそこ悪趣味な連中らしいとKarは誤解を始めてしまった。
――うーん。尚更だよな。
しばらくするとエディの顔が大変困ったような思案にふけったものになる。視線はKarの顔に一直線に向いていて、腕を組み始めると足踏みする。
段々イライラしてきたのか、足を乱暴に床に叩きつけると頭を掻いて手を振り回す。
「いや無理だろ! Karをアンドロイド扱いとか出来る気しないぞ!?」
『アンドロイドだろうが人間だろうがカーは面白い、だからどうでも良い』
「お二人とも結論だけは一致しているんですね」
妙な息の合い方にクスッとKarが微笑む。
エディが其れを見るなりこれ見よがしに指差す。
「ほら今の! 今のめっちゃ人間臭くて可愛いし! もうアンドロイドだろうがあんまり関係ないんじゃないか!?」
「か、可愛い? それは、まあ有難うございます…………」
『おいおい、カーは浮気性だな』
「そういう訳ではありません! 何ですか、素直に受け取っただけですのに!」
「う~ん、ヴェノムの口に合わないかもなコレ。海苔の佃煮の話したしな」
『ウマくないが腹は膨れる、無いよりマシ』
エディの皿は綺麗に食べ終えられていたが、顔を出しているヴェノムだけがむしゃむしゃと半永久的に食事を続けていた。
彼らは食堂に案内されるなり、真っ先に信じられない量の注文をした。指揮官に許可は取ってあったとは言え、本当に頼んでしまったのにKarは呆気にとられっぱなしだ。
ヴェノムを放置すると、向かい側で同じく食べ終えていたKarに話しかける。
「でもこんなに食って悪いな、土地も汚染? されてるんだっけか」
「それはお気になさらず。他の子達は分かりませんが、私は貴方達に助けてもらった身ですもの。拒否するほど恩知らずではありません」
そう言ってもらえると助かる、と横でひたすら食べているヴェノムに苦笑いする。
「それで、Kar98kってのは銃の名前で? 銃と君は結び付きが有る、これで合ってるか?」
「ええ。鉄血は軍用ですが、私達は元が民間用です。結びつき――――烙印システムでもなければ戦えない身なんです」
――よく分からないテクノロジーなんだな。
考えてもさっぱり元手の理論に見当がつかず、エディは軽く流すと次の話題へ。
「というと、君も民間用?」
「その通り、人形は2062年現在では親しまれたものです。労働力、相談相手、友人、恋人だって人形が出来る時代ですのよ」
「じゃあKarは指揮官の恋愛用人形ってわけか」
違います、と目の色を変えて訂正を求める。やっぱりな、とエディは何かを察したように笑うだけだ。
Karはあんまり二人がからかうものだからそっぽを向いてへそを曲げてしまう。エディが悪かったと笑い混じりに頭を下げる。
「でも好きだろ? バレバレだぞ」
反論ができず机と見つめ合うKarの紅玉の瞳を見る。
「俺ならこんな強くて気立ての良い女、アンを知らなきゃ是非ともと思うがなあ。アイツは勿体無いと言うか目利きがないよ、どうやらルビーと石ころの見分けがついてないらしい」
実質べた褒めという感じの軽口を叩くとKarが固まってしまう、思ったよりも初心でエディには少しばかり扱いにくい。
――それも含めてアイツは目利きがない、と思う訳だが。
何だか小さくなった背中が可哀想に思えてきて、エディはわしゃわしゃと軍帽越しに頭を撫でてやる。
「まあ粘り強く行こうぜ。君は魅力的だ、鞍替え手前のエディ・ブロックが保証してやる。諦めなきゃアイツだってルビーの光り方が違うことぐらい分かるようになるさ」
艷やかな銀髪が乱暴な手付きで少し乱れる。それでも綺麗な髪なのだから、エディは長く伸ばしているKarの判断は正解だと思う。
手をそっと払われると、上ずった声の調子でKarがヴェノムを見る。その顔は火照ったように赤い。
「…………へ、変な話をしてしまいましたね! ヴェノムさん、もうそろそろ身体に悪いのではなくて!?」
『俺はまだ食いた「つ、次の場所に向かいましょう! ほら、エディさんも食器を片付けてこなくてはいけませんよ!? 私は先に出ておきますから!」
そう言うとそそくさとKarは立ち上がるが、すぐに足をテーブルで打つ。涙目で堪えた後扉に向かうが途中で軽くすっ転ぶ。それでも歩く様には何が何でも外に出ようという意気込みを感じてしまわざるを得ない。
エディはコートの靡く後ろ姿を眺め終えると苦笑いを深くする。
「…………とはいえ、あそこまで来ると手出しには躊躇うだろうなあ」
――アッチも気がないとは違うみたいなんだが。
エディ達を他所に会話をしていた二人の様子を思い出す。Karもかなり上機嫌にニコニコと喋っていたが、指揮官もアレでかなりデレデレしていた気がするのだ。
指揮官を見ているとエディは「あの男」が頭をよぎるが、Karが見る目のない女には見えない。それに、Karが横に立っていれば抑えも利いて丁度良さげにもエディは見えていた。
『何の話だ、エディ』
「指揮官とKarをくっつけてやろうぜって話だ」
『面白そうだから手伝ってやる、何を食えばいい?』
食っても仕方ねえよとエディとヴェノムが顔を見合わせて笑う。
ヴェノムは意味があまりわかってなかったようだが、取り敢えずKarが置きっぱなしにした食器も一緒に片付けに向かった。
「ふーん、人間と違いは無いんだな。じゃあ区別しなくて良いな、めんどくせえだろ? お前人形、俺人間って。『タイムマシン』の未来人でもなけりゃターミネーターと喋ってるわけでもない」
「指揮官さんと同じことを仰るのね…………まあご自由に。世界でも論争が絶えないくらいで、正解も特にございませんので」
エディとKarが部屋の案内で廊下を歩いている途中、そんな長話に飽きてきていたヴェノムは後ろを向いてニヤリとした。
『おいエディ、ヘンなの居るぞ』
「何でも良いから取り敢えず食うなよ」
その言葉の通り、ヴェノムはしゅるしゅるとエディの背中から手を伸ばすと、遥か彼方の曲がり角に有る人影を引っ張って連れてきてしまう。
――その少女は長い黒髪に桜桃色の瞳、赤いマフラーで隠した口元でどうにも庇護欲を唆る和風の学生服の少女だった。
『お前、声出さないのか。ちっちゃいくせにエライやつだ』
「ちっちゃくありません! Karちゃんはどうしてこの人達を信用してるんですか…………」
エディはその顔にああ、と手をたたく。
確か一〇〇式と呼ばれていた女の子だ。Karと一緒に自分に銃を突きつけてきていたから、恐らく人形だということまで分かる。
――まーこっちが普通だ。むしろKar達が柔軟すぎるって言うべきかね。
ヴェノムが値踏みするように緩く絡め取った一〇〇式の周りをぐるぐるとする。
「ジロジロ見ないでください」
『ココは俺好みのヤツが一杯だな、お前も面白そうだ』
「貴方に気に入られても一〇〇式は嬉しくないです、敵だったら容赦できないですからね…………」
一〇〇式の目が明確に敵意を帯びて燃えている。Karも困ったように頬に手を当てて乾いた笑いをしているだけで手立ては思いつかないようだ。
だがら、エディは一〇〇式の前に立つ。
「じゃあ一発顔を殴ってみると良い」
「エディさん!?」
『おいエディ、何考えてる』
「ヴェノム、お前は手を出すな。細かいことは俺の仕事、だろ?」
少しばかり不満そうな大口がエディの中に消えていく。
一〇〇式がたじろいて視線を逸らすのを煽るようにエディが手を広げてガタガタ笑う。
「おいおい、俺はヴェノムを引っ込めてるんだぜ? 要するに一般人だ、人形あるあるの人間に危害は加えれないも俺には通用しない。じゃあ出来るだろ? やらなきゃ逆に殺すことも出来るんだぜ、俺たちは――――」
言葉の途中で思いっきり殴られる。明らかに歯の折れた音にエディの頭がグラグラとして視界が明滅していく。
とはいえ仮にもシンビオートが寄生した身体だ、それが数メートル吹っ飛ばす凄まじいパンチでも一応頬を擦って起き上がれる程度である。
「イッテエ! 一〇〇式のパンチ強いなオイ、カールトン・ドレイクが今俺に手を振ってきてやがったぞ。アイツの笑顔を思い出すだけでこう、殴りたくなるんだよなチクショウ!」
『何したいんだお前』
「いや今抵抗しなかったからさ、これじゃ信用に足らない? 腕折ってもいいんだぞ、治るし」
ほれほれと飄々と起き上がって腕を差し出すエディ。巫山戯ているようだが言葉自体は大真面目なものらしい。
一〇〇式がエディを見て怯えたように慄く。瞳は強がりが失せて化物でも見るように揺れ始めた。
――やっぱりか。
此処ぞとばかりに一〇〇式の頭を撫でる。当然頭は逃げていったが、ちょっとだけ強引に。
「俺は怖いやつじゃない。一〇〇式が殴れば痛いし、吹っ飛ぶし、歯も折れちまった!」
エディがカラカラ笑う。
「まあ治るけどな、俺たちは出会い方が――――あ~、最悪過ぎただけさ」
一〇〇式は黙りこくって返事をしないが、エディの手を払う様子もない。
――ヤバイ、泣かせちゃったかな俺。
ちょっと不安になってきたエディが前かがみになって俯いた一〇〇式の顔を見る。
「いや悪かったよ、俺の顔硬すぎだったか? 別に俺を殴ったのは気にすることじゃないぞ、殴られるのは大好きだ。ご覧の通り相方がインファイトばっかするからな、ヘンタイじゃなきゃ無理そうだろ?」
『エディはフォローがヘタだ。そんなことだからアンの尻尾も掴めねえ』
「ちょっと黙ってろよ海苔の佃煮!」
『やっぱりバカにしてるな、エディ!?』
エディが飛び出てきた太い黒腕に軽くしばかれる。エディがムッとした顔で手を引っ張り出してヴェノムの顔を往復ビンタ仕返した。
一人で喧嘩が始まる。
「実際海苔の佃煮だろうがお前!」
『俺はあんなウマいだけの飯じゃねえぞ!』
「あーそうさ、むしろ迷惑ばっかりで困ってるんだよ俺はさ!」
『何だと!? 俺がいなきゃ何度死んでたと思ってやがる!』
口論がうるさくなってきた二人の頭をKarが一方的に抑えつける。
「どうして二人で喧嘩が始まるのですか、しっかりなさってください」
『「だってコイツが!」』
「どっちも悪いです。はい、おしまい」
まあKarで押し止められる時点で本気ではないのだろうが、それにしても睨み合うと威嚇しあっている。
複雑な表情をマフラーで隠してしまった一〇〇式の方を見て、エディが遅すぎる愛想笑いをして誤魔化そうとする。
「こんな感じだからさ、君を取って食べたりはしない。な、ヴェノム」
『ウマそうでは有る』
「バカ! これだから海苔の佃煮は!」
ヴェノムとまた喧嘩が始まるのではないか、とKarが懸念し始めた時に一〇〇式がボソリと
「ごめんなさい」
とだけ言うと凄い勢いで走って逃げてしまった。
Karが取って付けたように笑いながら軍帽を被り直すと、エディに補足説明を入れる。
「怒らないで頂けると助かります。一〇〇式ちゃんの言う通り、正直私の方が奇妙なのですし」
「怒っちゃいないさ。ただ化物から海苔の佃煮に降格しとかないと…………明日一〇〇式がお漏らししてるかもしれない」
「それは分かりませんけどね」
Karが困ったように彼に返事をすると、彼らはまた部屋に向かって足を向け直す。
「此処が貴方達に割り振られた部屋番号ですね」
「結構広そうだな、俺たちのボロアパートとそんな変わらない」
玄関から部屋を一望してエディは軽く頷く。
キッチンや冷蔵庫と言った類こそ無いがスペースだけはしっかりと確保されている部屋だった。エディの懐かしきマイホームとやらより一回り小さいぐらいで済んでいる。
しかし、一通り見て回ってからエディは青ざめた顔をする。
「待て、バスルームは?」
「ありませんよ、大浴場を共用です」
「女と!?」
「どうしようもありませんわ。私達は平気ですから、どうか気楽になさって?」
冗談じゃないな、とエディは軽く頭を掻く。
ヴェノムはウロチョロとKarにちょっかいをかけてばかりでそこら辺の事情には興味が無いようだ、KarもKarで上手く流し始めた辺りは何だか姉弟のような所がある。
「ちなみに私は隣の部屋ですから、困ったら気軽に訪ねてきてくださいね」
「は!? Karの隣だって!?」
エディが半狂乱に叫ぶのに、気圧されながらKarが頷く。
「え、ええ…………嫌、だったかしら」
熱っぽい視線が足元へ逃げていく、瞳だけでまるで落ち込み具合がエディに伝わるような、釘付けにする仕草にエディがどぎまぎしてしまう。
急いで訂正する。
「あー君が嫌いとかじゃない。そうじゃなくて、それは指揮官がそうしろって?」
「そうですけど」
「アイツも馬鹿なのか!? おいヴェノム、例の奴は急ぐぞ。コイツラヤバい」
『俺は好きに使え。面白けりゃ付き合ってやる』
エディがわあわあと喚くのに慣れてしまったKarは、まあ良いかとすぐに扉をくぐってしまう。
「それではごゆっくり。疲れたでしょうし」
「え、ああ。そうさせてもらうよ…………ん? 何だヴェノム。顔出して喋れよ」
エディが突然に一人で喋りだす。
どうやらヴェノムが何かを言っているようだが、顔を見せていないからKarには聞き取れない。
自分は邪魔と判断したのだろうか、Karは音を立てないようにゆっくりと扉を締め始める。
「…………余計なお世話だ、と言いたい所だが~…………分かった! 言えば良いんだろ言えば!」
「ちょっと待ってくれKar」
扉を締める本当に寸前、ピタリとKarの手が止まる。
急ぎ足で扉から顔を出したエディは照れくさそうな、困ったような複雑な顔つきで頭を掻く。
「どうかしましたか?」
「いや、えーっと………………遅れたんだがあの時信用してくれたこと、まだ礼を言ってなかっただろ?」
「え?」
ヴェノムがチラリと顔を出してケケッ、と笑う。
『コイツ、ずっとそれを言いそこねてた。前もこうだったんだぞ』
「色んな理由が有ったんだろうし、俺に感謝される筋合いなんて無いかもしれないが…………君が信用する、と言ってくれたから穏便に事が進んだのは本当だ。ありがとう」
それだけだ、と言うと今度はエディの方から扉を閉めようとする。
Karは特段それを止めようとはしなかったが、一際柔らかく微笑んで
「此方こそ、助けてくださって有難うございます」
と答えるのを最後に、扉は完全に閉じられた。
――そういう顔は指揮官にだけしておけ。
なんとも言えない複雑な顔つきでエディはベッドに飛び込んだ。
違和感に気づいたんですけど、ヴェノムが日本の公式ツイッターアカウントのキャラ混じってる感がありますね。本体はこんなに愛嬌全開じゃないわ。
あの気色悪いようなカッコいいようなフォルムは文章に落とすと安っぽい、やっぱり劇場に行ってもらいたい小説なんだよなあ…………。
ヴェノムの再生力および戦闘力は基本的に反則。原作を重視したからこそ起きる現象。
ヴェノムを見てるとですね、本能と理性は犬と飼い主の関係なんだなあって再確認します。
今回は説明回だったからあんまり暴れてないね。