1歩後ろに下がったリラはゴブリンの様子を伺う。ゴブリン達の中には何匹か逃げ腰になっている者も居るが油断なく武器を構えて、此方の様子を伺っている。
リラは其の中でリムルとリラの2人から目を離す事なく、見つめている1体がリーダーだと判断する。
リムルは何度か頷いて更に1歩前に出る。
リムル「初めまして、で良いのかな? 俺の名はリムル。後ろに居るのはリラという」
リムルが話し掛けるとゴブリンがザワめきだす。そして何体かが武器を投げ捨てて平服し始める。
ゴブリン「グガッ、強キ者ヨ! アナタ様ノお力ハ十分ニワカリマシタ!! 声ヲ沈メテ下サイ!!」
リムル「すまんな。まだ調整が上手く出来なくて」
少しビビりながらリーダーのゴブリンが返答し、リムルはビビらせてしまった事を謝罪する。
ゴブリン「オソレオオイ。我々ニ謝罪ナド、不要デス!」
リムル「で、俺達に何か用か? この先には別に用事なんかないよ?」
ゴブリン「左様デシタカ。コノ先ニ、我々ノ村ガ在ルノデス。強力ナ魔物ノ気配ガシタノデ、警戒ニ来タ次第デス」
リムル「強い魔物の気配? そんなもの俺には感じられないけど・・・? リラは感じたが?」
話を降られた為リラは少し考えたが思い浮かばず首を左右に振る。
ゴブリン「グガッ、グガガッ。ゴ冗談ヲ! ソノヨウナお姿ヲサレテイテモ、我々ハ騙サレマセンゾ!」
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それから暫くゴブリンと会話をし、話の流れで泊めてくれる事に成り、リラとリムルは村にお邪魔する事となった。そして2人は道すがら色々な話を聞いた。
最近彼等の信仰する神がいなくなった事。神の消失と同時に魔物が活発に活動を開始した事。森の中に力ある人間の冒険者の侵入が増えた事。
そして着いた村はリラのゴブリンの住処のイメージ通りにこ汚い感じだった。2人はリーダーに1つの建物に案内される。
腐ったような藁の屋根。ベニヤ板を重ねただけのような壁。本で見たスラムの様な建物だな、とリラは考えていた。
ゴブリン「お待たせ致しました。お客人」
そう言いながら、1匹のゴブリンが入って来る。
入ってきたのは少し年老いたゴブリン。リラは村の村長と判断する。そして村長を支えながら先程まで2人を案内したリーダーが付き添っていた。
リムル「ああ、いやいや。それ程待っていません。お気遣いなく!」
村長「大したもてなしも出来ませんで、申し訳ない。私は、この村の村長をさせて頂いております」
そう言って、目の前にお茶っぽいものを出す。リラはやっぱり村長か、と考えてお茶を啜った。一応毒の可能性も考え、少し啜るがお茶の様な味で毒も入っていなかった。リラはコップを置き村長の顔を真っ直ぐに見る。
リラ「あの、済みません村長」
村長「は、はい! 何で御座いましょう?」
リラ「・・・単刀直入に聞きます。自分達を村まで招待したという事は何か用事があったのですか?」
友好的なだけの招待ではない事を案内されている時に察していたリラは疑問に思った事を訊ねる。
村長は少し身体を震わせたが、覚悟を決めた様子でこちらを伺い、そして話し始める。
村長「実は、最近、魔物の動きが活発になっているのはご存知でしょう?」
リラは其の言葉に道案内のときに時に聞きました、と返す。
村長「我らが神が、この地の平穏を守護して下さっていたのですが、ひと月程前にお姿をお隠しになられたのです・・・。その為、近隣の魔物がこの地にちょっかいをかけ始めまして・・・我々も黙ってはいられないので、応戦したのですが、戦力的に厳しく・・・」
話を聞き、リラは消えた時期から彼等の神がヴェルドラだと仮定する。そして2人は何を頼みたいのかを悟る。
リムル「助けて貰いたいって事か」
リラ「御話は良く分かりましたが自分達では期待されているような働きは出来ないと思うのですが?」
村長「ははは、ご謙遜を! 貴方方の妖気を見れば直ぐに実力は分かります! いずれ名のある方達なのでしょう?」
妖気という言葉を聞いてリラは即座に『万物感知』の視点を自分とリムルに切り替える。観察の結果リラとリムルの身体を何やら禍々しいオーラの様なモノが漂うように覆っていた。
リムル「ふ、ふふふ。流石は村長、わかるか?」
村長「勿論でございますとも! そのお姿でさえ、漂う風格までは隠せておりませぬ!」
リムル「そうか、分かってしまったか。お前達はなかなか見所があるようだな!」
少し偉そうに話すリムルを見て恥ずかしかったのかな、と考えながら魔素を操る要領で妖気を引っ込むように念じる方法で消せないか試す。すると妖気が小さく成っていった。
村長「おお・・・。我々を試されていたのですね! 助かります。その妖気に怯える者も多かったもので・・・」
リムル「そうだな。俺達の妖気を見ても怯えずに話しかけて来るとは、見所があるぞ!」
リラは何の見所かと突っ込みたくなったが話の邪魔に成ると考え、茶を再度啜る。
村長「はは! 有難うございます。本当のお姿をお隠しの理由はお尋ねしませぬ。ただお願いがあるのです。何とかお聞き届けて貰えませぬでしょうか?」
リムル「内容によるな。言ってみろ」
リムルは尊大な態度を崩さずに、村長に尋ねた。リラも背筋を伸ばし、村長の話を聞く。
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村長の話を聞き、其の内容を頭の中で纏めると東の地から、新参の魔物が押し寄せて来て応戦したが守護者的存在であった
リラ「此の村には何人住んで居るのですか? その内、戦える者は?」
村長「はい、この村は100匹くらい住んでます。戦えるのは、雌も合わせて60匹くらいです」
リムル「ふむ。新参の魔物の数と種族は分かるか?」
村長「はい。狼の魔物で、牙狼族です。本来、1匹に対し、我々10匹で対応しても勝てるかどうか・・・それが、100匹程・・・」
リラ「其の情報は誰が入手した物ですか?」
村長「・・・この情報は、その戦士達が、命がけで入手したものです・・・」
リラ「・・・そう、でしたか」
更に2人は話を聞く。名持ちのゴブリンは村長の息子でゴブリンリーダーの兄だったらしい。話を聞いて2人はどうするか考える。村長は何も言わず決断を待つ。横目で村長の顔を見ると其の目には涙が浮かんでいる様に2人には見えた。暫くリラとリムルは見詰め合い、そして互いに頷く。
リムル「村長、1つ確認したい」
リラ「此の村を、貴方達を助けるとして何を差し出しますか?」
2人共村長を真っ直ぐ見詰めながら訊ねる。村長は自分の胸に手を置いて答える。
村長「我々の忠誠を捧げます! 我らに守護をお与え下さい。さすれば、我らは貴方様達に忠誠を誓いましょう!!!」
忠誠を捧げる。其の言葉からゴブリンの覚悟が伺え、リラとリムルは目を合わせて頷いて村長の方を見る。
リムル「いいだろう! その願いリムル・テンペストと」
リラ「リラ・テンペストが聞き届けます!」
此の日。2人はゴブリン達の主、守護者となったのだった。
次回:戦闘準備