ジュラの森を駆ける複数の影。その影の正体は牙狼族であり、其の先頭に牙狼族のボスは居た。其のボスの視線の前方に村が見えてきた。
以前と違い柵で覆われているが問題無いとボスは判断する。唯一ボスが気に成ったのは開口部に居る一匹のスライムと其の背後の村の中に居る人間の姿をした存在である。
ボスは頭を左右に振り、配下に柵を壊す様に命令を下す。十数匹の牙狼が命令に従い、柵へと攻撃を開始。しかし、柵に攻撃を仕掛けた部隊が跳ね返される。中には血飛沫を上げて地面に転がり、落とし穴に落ち悲鳴を上げる者も居た。ボスは攻撃中止を命じ、スライム達の方へ視線を向ける。視線を向けたのと同時にスライムが語り掛ける。
?「此のまま引き返すなら何もしない。立ち去れ!!!」
スライムの声を聞きボスは少し下を向いた後、体を震わせる。其れは自分達よりも下の種族であるスライムの言葉への怒りである。ボスはスライムの言葉に咆哮で返す。
ボス(小賢しい!!!捻り潰してやれ!!!)
咆哮を合図に四方八方から柵へと攻撃を始める。ボスの視線の先で人の姿をした者が目を閉じながら手を挙げ、其のまま振り下ろす。其の直後、自分の思い描いていたものと全く違う展開をボスは見た。
──柵に設置された小さな隙間から矢が一斉に放たれる。何匹かの牙狼が矢を受けて、悲鳴を上げる。
──隙間をこじ開けようと仕掛ける部隊は石斧装備のゴブリンに首を刎ねられる。
──柵を飛び越える為に仲間の背を踏み、宙に飛ぶ部隊が、一瞬で首を刎ねられ、胴体を切断される。
次々と配下の牙狼族が倒されていく光景を見て牙狼族のボスは狼狽する。配下の方を見れば配下が戸惑っているのが分かった。
ボス(此のままでは不味い!)
集団で真価を発揮する牙狼族にとってボスへの不信は致命的な結果を招く要因になりうるのである。
ボス(自分の力を誇示せねば!!)
ボスはそう決断し、突撃を開始した。
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突撃してくるボスを見てリラは流石はボスなだけはあるな、と考えていた。動きから目を離していなくても普通なら消えた様に映る程の速度。配下の牙狼族よりも速い。しかし、リムルとリラにはスローモーションの様に見えていた。
リムル目掛けて襲い掛かるボス。其の動きが一瞬で止まる。開口部に設置した『粘糸』に捕らえられた為である。
ボスの力であれば断ち切る事も可能であり、長時間の拘束は不可能。だが、目的は一瞬だけでもボスの動きを止める事である。
其れだけでリムルには十分な時間であった。
リムルは容赦なく"水刃"を放ちボスの首を刎ねる。刎ねられた首が重力に従い、地に落ちた。其れが牙狼族のボスの最後だった。
静寂が支配する中、リムルは一歩前に出て牙狼族に声を掛ける。
リムル「聞け、牙狼族よ!お前達のボスは死んだ!!! お前らに選択させてやる。服従か、死か!」
次回:名付けと進化と戦争後