静寂が場を支配する中リラは牙狼達を見ていた。ボスが死んだのが未だ信じられないのか、其れともショックだったのか牙狼達が動く気配はない。
リラ(さて・・・どうなる?)
古今東西ボスを討たれた側の行動は降伏か退却、そして仇討ちによる全面戦争の3つである。リラは牙狼達を見ながら全面戦争に成った場合を考えていた。
相手が死兵と化して突っ込んで来た場合、質と数で牙狼族側が若干だが勝る。リムルと自分は無事だとしてもゴブリン達も無傷で勝てる訳が無い事をリラは分かっていた。
リラ(・・・出来ればもう争いたくないけど)
注意深く牙狼達を観察するリラ。そんな中リムルがゆっくりと前に進み出していた。
リラが万が一に備えて構える。リムルは歩調を変えずに進み、牙狼族のボスの死体の前に辿り着いた。
そして全員が視線を集中させる中、リムルは牙狼族のボスを『捕食』した。そして暫く間が空いた後、リムルを黒い霧が包む。
リラ(・・・何を?)
リムルに視線を固定する。霧が晴れると其処には1体の牙狼が立っていた。直ぐにリムルが擬態したのだと理解。リラが見守る中、牙狼に擬態したリムルは音声で
リムル「――今回だけは見逃してやろう。我に従えぬと言うならば此の場より立ち去れ!!!」
咆哮後に続けて牙狼達に宣言するリムル。リラは逃げる口実を与えたのだと理解した。リムルは逃げ出すと予想している様に見えた。しかし牙狼達は立ち去らず、一斉に伏せの姿勢を取り、宣言する。
牙狼族(我等一同、貴方様に従います!!!)
リムルの予想を裏切り、牙狼達は服従を選択。此処にゴブリン村の戦いは終結した。
終結後、リラとリムルは戦後処理を明日行う事を告げてゴブリンには焚き火の傍で就寝、牙狼族は村の周辺で待機する様に命令を出して解散させた。その後、2人は明日話す事を話し合った。
□■□■□■
翌朝。ゴブリンと牙狼両方の全員が揃っている事を確認し、全員を整列させて昨日リムルとの話し合いで決めた内容を告げる。
リラ「先ず君達には二人一組となって一緒に過ごして貰います」
リラが告げた途端、ゴブリンと牙狼達が隣に座る者同士、視線を交わし話し合い、二人一組になっていく。組むのが終わった後、リムルが話始める。
リムル「うむ。では次にだが――」
そう一区切りして村長の方を向き、話を続ける。
リムル「村長、お前等を呼ぶのに不便だ。昨日リラと話し合って決めたんだが名前を付けようと思うのだが・・・良いか?」
リムルががそう告げた途端、周囲の視線がリムルとリラに集中する。
村長「よ、宜しいの・・・ですか?」
恐縮と興奮が入り雑じった声音で村長は2人の方を交互に見ながら問いかける。
リムル「お、おう。問題ないなら、名前をつけようと思う。なぁ、リラ」
リラ「え、えぇ」
リムルの確認にリラが頷くのと同時にゴブリン達から歓声が上がる。リラとリムルは互いに不思議がりながらまぁ良いか、と結論付けた。
□■□■□■
リラ「では1列に並んで下さい」
ゴブリンを並ばせるリラ。話し合いの結果リラが名前を付けるのは20体のゴブリンである。昨日リムルに半分くらい名前を付ける様に言われたが、リムルがトップで自分はリムルの次くらいの地位に成るのだからリムルの方が多い方が良いとリラが話した結果である。
リラ「じゃあ先ずは君からだね」
ゴブリン「は、はい!!!」
先頭に居るゴブリンの前にリラが立つとゴブリンは背筋をピンと伸ばしてリラの顔を見つめる。リラは1度咳払いをし、名付けを開始した。
リラ「・・・君の名は――」
□■□■□■
淡々と名を付け、最後に立っている雌のゴブリンの前に立つ。雌ゴブリンは前を向き、リラは名を付ける。
リラ「君の名は”アロー”だ」
アロー「は、はい!素晴らしい名を頂き感謝します!!」
最後のゴブリンに"アロー”と名を付ける。此の名を付けたのは此のゴブリンは弓矢担当で其の中で1番戦績が良かったからである。
そして名を付け終わった瞬間リラは強烈な疲労感に襲われる。
リラ(な、何?)
混乱しながら前のめりに倒れる。目を閉じていくのを感じながらリラは自身を鑑定する。
《 体内の魔素残量が一定値を割り込んだ結果低位活動状態へと移行しています。完全回復の予想時刻は三日後 》
暗闇の中、意識が残っているためリラは内容を確認する。
リラ(魔素? 残量?)
魔素の使いすぎという内容からリラは魔素とはMPの様な物で其れを消費したのかと理解する。そして魔素を消費した理由を考える。そして暫く考え、ある可能性に気付く。
リラ(・・・名付は魔素を消費する?)
リラはゴブリン達に名前付けている時少しずつ何かが抜け落ちる様な感覚がしていたのを思い出す。
リラ(特に最後の”アロー”の名を与えた時には今迄より抜ける感覚はあった・・・)
そして魔物に名前を付けるのには、魔素を消費するのではないだろうかという仮定が出来上がる。
リラ(まぁ――)
考えた結果多分そうなんだろうな、と考えながらリラはやってしまった事だからどうでも良いか、と結論付けたのだった。
□■□■□■
そして、3日後、リラは目を開き、体に異常が無いか確かめる。リラは異常が無い事と倒れる前よりも魔力と魔素の総量が上がった気がしたがリラはそんな事よりと考えながらリムルを探す。
手元に何かが触れた為視線を向けると其処にリムルは居た。そしてリムルとリラが起き出した事に気付き、作業していたゴブリン達と外に出ていた牙狼達も中に入ってくる。
そして2人はゴブリンと牙狼の変化に驚く。
リムル「お前ら・・・なんか、でかくなってない?」
リムルの言葉にリラも頷く。リラの記憶ではゴブリン達の体長は150cm程度。しかし、今は180cm位ある様に見え、2人の目の前に控えたゴブリンは特に変化があり、2m超えの様に見える。
牙狼達も、焦げ茶色だった体毛が漆黒に変色しており、艶やかな艶と光沢を放ち、体長も3m近くになっている。其の中でも先頭に音もなく歩いてきた個体は、異様な妖気と風格を漂わせ、その体長は約5m程。
2人が混乱している中、先頭の牙狼が前に出て2人に話し掛ける。
?「主達よ!御快復、心よりお慶び仕ります!!!」
流暢な人語で語り掛ける牙狼。リラが少し困惑する中、リムルが驚いた様に確認する。
リムル「・・・まさか、お前"ランガ"なのか!?」
ランガ「はい!!」
この三日間で、一体何が起こったのかに戸惑う2人を他所に、魔物達は喜びの雄たけびを上げ始めていた。