あべこべ・フリート(仮)   作:仙儒

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初航海でピンチ!

「ミケちゃんいつもその軍帽と懐中時計持ってるね」

 

「うん、私の大切な宝物なんだ! モカちゃんにも見せてあげるね!」

 

 そう言ってモカちゃんに懐中時計を渡す。

 

 表には太陽を思わせる彫刻が、裏には錨と桜の徽章が。そして、中にはウロボロス(何かの動物?)の彫刻があしらわれている。一つの懐中時計に三つのシンボルマークが刻まれているという中々に凝った造りをしている。

 

 モカこと、知名 もえかはこのシンボルマークに見覚えがあった。

 

「これって、昔の軍隊のマークだよね? ミケちゃん」

 

「え? そうなのモカちゃん! じゃぁ、これもわかる?」

 

 将校軍帽をモカちゃんに見せる。

 

 そこには、

 

 将大ラザ・ンラスアと書いてある。ここにも錨と桜の徽章がある。

 

「ん~…、もしかして縦読みなのかな?」

 

「縦読み?」

 

「そう、左から読むんじゃなくて右から読むの。そうすると……、アスラン・ザラ大将?」

 

「ねぇ、モカちゃん。大将って偉いのかな?」

 

「えぇー! ミケちゃん知らないの!? 昔の軍では二番目に偉いんだよ!」

 

「そ、そんなに偉い人なんだ…、知らなかった」

 

 そんな会話が続いた後、モカちゃんが首をかしげる。

 

「でも、軍があったのはブルーマーメイドができる前なんだ…偽物だとは思えないけど、どこで手に入れたの?」

 

 そういうもえかに明乃は大事に胸に抱え込むと

 

「私とお父さんとお母さんを助けてくれたお兄さんが、大切な物だから預かっていてくれって」

 

 そういう。

 

「お兄さんて、お、男の人! ミケちゃん男の人から貰ったの?」

 

「うん! 凄い優しくて格好良くてね! でも…、戻ってこなかったの……」

 

 最初こそ興奮気味で話していたが、段々と声が小さくなり、明乃の顔に影が差す。

 

 もえかは、一度だけ明乃から海難事故にあったことがあると聞いたことがある。そして、それはもえかも知っていた大きな事故だった。

 

 確か、将校服を着た男の人がブルーマーメイドの指揮を執り、大惨事だったにもかかわらず行方不明者がその男の人以外に居ないという内容だった筈だ。

 ただ、この話には続きがあり、実は事故にあった船の船玉なのではないかと噂になっていた。

 

 このことを告げたときのミケちゃんは今でも忘れられない。優しい性格のミケちゃんの表情が一転して無表情になり、一方的な大喧嘩にまで発展した。以後、この話はもえかにとってはタブーになっている。

 

「その時計もそうなの?」

 

 何か暗い雰囲気を脱するために話題を時計へと変える。

 

「ううん、お兄ちゃんが救命ボートから離れる際に落としていった物なんだ」

 

 暗い雰囲気は変わらない。

 

 そんな時、目の前の海にブルーマーメイドの象徴たる旗艦大和がこちらに向かってきてるのが目に入った。

 

「ミケちゃんあれ! ブルーマーメイドが帰ってきたよ! ほら、こっちに向かって手振ってくれてる!」

 

 その言葉に影が差していたミケちゃんの顔に輝きが戻る。

 

「モカちゃん! 私たち、絶対にブルーマーメイドになろうね! 約束だよ!」

 

 そう言って小指を差し出してくる明乃。もえかは「うん!」と元気に返事を返し、同じく小指を立て、明乃の小指に絡ませる。

 

「海に生き!」

 

「海を守り!」

 

「海を往く!」

 

 そこまで言うとお互いにクスクスと笑い出す。そうして、こちらに向かって手を振ってくれているブルーマーメイドに手を振る。

 

「ブルーマーメイドになれば、いつか、きっと――――――」

 

 明乃の小さな呟きはもえかの耳に届くことは無く、ただ、潮風にさらわれていくようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 9年後。

 

 

 

 

 

 

 

 またあの時の夢。

 

 私、宗谷ましろは9年前のあの日の夢を見る。自分が初めてついていると思った日。

 

 甘酸っぱい初恋の記憶。

 

 この世界は男女比率が1:9。

 

 極端に男性が少なく、圧倒的に女性が多い。

 

 そのため、どこの国も男性保護法を敷いており、男性は働かなくても十分なお金が毎月支給される。更に、女性による犯罪事件も後を絶たないために出歩く男性はほぼいない。また、男子が生まれた家は、その子を蝶よ花よと愛でるので増長して自己中心的でわがまま放題。女を嫌悪しているのがこの世界の常識で、極端に太っていたりひょろりとしてモヤシみたいな感じの男性が普通。

 

 それでも、男子と会えるだけで幸運と言われるのは、やはり、その数の少なさのせいか。

 

 男の我がままを聞くのが女の甲斐性。何て言葉もある。

 

 無論、そんな男性だが、正義感を持ち、人々の役に立とうと行動する男性も存在する。男性全員の中の更に1%にも満たない数だが。そんな人たちがホワイトドルフィンになるのだが、やはりどこか傲慢で、女に嫌悪感を抱き、それを隠しもしない。それでもビジネスライクには形だけは何とかなっている。

 

 私も宗谷家の人間。

 

 男の人と会うことは母の仕事の都合上何度かあった。幼いながらに避けられているのは気が付いていたし、好みの差はあれど、太っていて禿げていてもひょろっとしたモヤシみたいな男性でも格好いいと思っていた。

 

 そんな男の人達とでも、大きくなったら結婚するんだ。結婚したいと思っていた。

 

 そんな中、名前も知らない彼に出会った。

 

 女性に対して、私に対して嫌悪感すら感じさせず面と向かって、私の目を見て優しく接してくれた。物語の中から出てきたような女性の理想が具現化した究極の人。

 

 あの優しい微笑と瞳を忘れたことは一度としてない。大切な人と直ぐにわかった。心臓がドクンと鳴り、木漏れ日が揺れた。同じ景色のはずなのに輝いて見えた。

 

 だから、私は後悔している。なぜ、あの時呼び止められなかったのだろう。せめて名前だけでも知りたかった。

 

 そのことで、良く真冬姉さんにからかわれたりした。姉さんたちだって思いは同じ癖に。

 

 

 っと、物思いに耽っている場合ではない。

 

 今日から私は横須賀女子海洋学校の生徒だ。母さんや姉さんたちみたいな立派なブルーマーメイドになる。ならなければいけないのだ。

 

 試験で全問正解の筈だったが、解答欄が一つずれているのに気が付いたのは試験終了直後。問題用紙を回収されていく途中でだ。

 

 はぁ、ついてない。

 

 そう思い、足を速める。一応時間に余裕をもって登校した。

 

 途中、苦手な猫にあい、見知らぬ少女からタックルを貰い、バナナの皮を踏んで海に落ちた。

 時間に余裕を持って登校して正解だった。

 

「うわ~、ついてないね」

 

「お前が言うな!」

 

 

 

 入学式が終了してそれぞれのクラスに移動する。

 航洋艦晴風の副長に任命された。姉さんたちは皆成績優秀者が乗る大型直接教育艦の艦長だったのに、何で私は……。

 

 やっぱり、ついていない。

 

 エンジントラブルが起きて、機関を停止している途中に艦長が何かを発見する。

 

 そうすると凄い速さで出て行ってしまった。

 

 艦長が真っ先に飛び出していくとは何をやってるんだ! と内心穏やかでない状況の中で見張り員の野間マチコから瓦礫に人が捕まって漂流しているとの報が入る。

 

 スキッパーが戻ってくると艦長が慌てた様子で医務室のみなみさんの所に行く。

 

 通った後の濡れた床にベッタリと血の跡ができているのがただ事ではないと物語っていた。

 

 それにしても、あの服は将校服だった。他校の成績優秀者だろうか?

 

 

 

 そんなこんなで、四時間の遅刻をしてしまった。

 

 目的の海域に到着。

 

 直後、発砲音と同時に海が爆ぜる。

 

「な、何だ!」

 

「さるしまです。さるしまから発砲を確認。次弾来ます!」

 

 見張り員の野間マチコから声が艦橋に響く。

 

 艦橋は軽いパニック状態になる。私は遅れた罰だと思い、通信機を取り遅れた理由を説明しようとする。

 

「残念ながら手遅れだ」

 

 9年前に聞いた声が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を覚まして一言。

 

「知らない天井だ」

 

 何度か言ったことがあるような気がするが、一応口にしておいた。

 

「それは、船の中だからな」

 

 声の人物が近づいてくる。

 

 手には血濡れた包帯が……、そう言えばハイスクール・フリートの世界に来たんだっけか? ってか爆発に巻き込まれて気を失ったような気がするけど、あのぐらい普通に防げたでしょ? 何で防いでくれなかったのジャスティス。幾ら俺が死なないからって扱いちょっと雑すぎやしませんかね?

 

 いや、もしかしたら、その方が都合がいいとジャスティスが判断したのかもしれない。

 

 そう言えば時間軸的に今どの辺りなの?

 

 ちみっこ保険医(でいいのか?)が居るってことは晴風の中で確定だろう? 船の中って言ってたし。船っていうか、軍艦だけど。この世界では航洋艦って言うんだっけ? 細かい設定は忘れた。

 

 ちみっこの名前も何だったか覚えてないし。

 

「すまない…、ありがとう」

 

 そういうと、ちみっこは少し驚いた顔をしている。どうしたと尋ねると何でもないと返ってくる。

 

 包帯を巻き終わった後、直ぐに立ち上がって出ていこうとしたら、ちみっこが前に立ちはだかる。

 

「艦長に挨拶と礼を言いたいんだが…」

 

「その心がけは殊勝だが、養護教諭として許可できない」

 

「もう大丈夫だ」

 

「その怪我で大丈夫なわけないだろう」

 

 確かに体は怠いがもう大丈夫だ。

 

 そう思い進もうとしたらズキリと鈍い痛みが走り、立ち眩みする。体勢を崩したのを見て、ちみっこが「だから言っただろう」と言う。

 

 次の瞬間、艦内が激しく揺れる。その衝撃でちみっこを押し倒す形で倒れてしまう。

 

「な、ななな、にゃ!」

 

 言葉にならない悲鳴(でいいのか?)をあげ、手と足をバタバタさせている。

 

「ああ、すまない…怪我してないか?」

 

 顔をあげるとちみっこの顔がある。あと数センチで唇と唇がくっつく距離だ。完熟トマトのように真っ赤になり、潤んだ瞳でこちらを見ている。

 成程、こんなちっこいのに俺みたいなのが乗っかったら苦しくもなるし、世間体的にもよろしくないだろう。

 

 それに隙もできた。医務室の扉を開けて、艦橋へと向かう。今の揺れ方からして、何らかの戦闘行動に入ったのだろう。爆発音も聞こえたし。ソニックムーブを使い一息に艦橋へと足を踏み入れる。

 艦内構造は扶桑の晴風と全く同じだったので、迷うことは無かった。

 

 艦橋内は軽いパニックに陥っていた。

 

 アスランの良すぎる目は既に砲撃を仕掛けてきている相手の艦長の顔を捉えていた。

 

 目が逝ってる。完全に表情が死に、攻撃的意思をだけを感じさせるものだった。

 

「残念ながら手遅れだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 医務室を後にした私は、着替えるために艦長室へと戻っていた。

 

 血と髪の毛で顔は見えなかったが、男の人だった。

 

 それを見たときは助けることで頭がいっぱいで、気にしなかったが、今になって気になり始めた。

 

 お父さん以外の男の人に触れるのはこれで二回目だ。

 

 私自身は何の実感もないが、周りは私を強運の持ち主という。男の人が少ない世界で、父親がいること自体が珍しい。その中でも優しいお父さんは女性の憧れを具現化したような存在であるらしい。親友であるモカちゃんにもよく羨ましがられた。

 

 確かにお父さん以外の男の人に会うのは、あの嵐の中の水難事故以来無い。

 

 だからだろうか? こんなに気になるのは。こんなに心臓がドキドキするのは。それとも、将校服があの時助けてくれたお兄さんに重なったからだろうか?

 

 多分後者だ。

 

 私はアスラン・ザラ大将と錨と桜の徽章が刺しゅうされている将校軍帽と懐中時計を持って艦橋に戻る。

 

 もうすぐ目的海域だ。

 

 

 

 

 海域について早々にさるしまから砲撃があった。

 

 遅れた理由は先に打電してある筈! 段々正確になっていく砲撃の中で、副長のシロちゃんは遅れた罰だから砲撃に耐えきるしかないと言うが、流石にこのままだと怪我人が出る。

 そう言うとシロちゃんはもう一度無線で報告をし、砲撃をやめてもらうように具申すると言って無線を繋ごうとしたとき、懐かしい声が響いた。

 

「残念ながら手遅れだ」

 

 血で汚れた将校服姿で頭には包帯を巻いている。

 

「え? お、男の人!!」

 

 艦橋内は別の意味で色めき立つが、男の人は、お兄さんは気にすることなく。

 

「艦長、あの艦はこちらが沈むまで攻撃をやめないがどうする?」

 

「……、その根拠はどこから来るものなんですか」

 

 口を開いたのはシロちゃんだった。声が若干震えている。

 

「今も続く砲撃じゃぁ、納得してくれないか?」

 

 冷静に周りを見つつ、少し困ったような顔で言う。

 

「これは罰です、悪いですが部外者の意見h「君は艦に乗ってどの位経つ?」?」

 

 急な質問に首を傾げるシロちゃん。しかし、直ぐに「これが初めてです」と答える。

 

「そうか。俺は初めて乗ったあの日から、幾百の昼と夜を超え。幾千の屍と鉄火の嵐を超え、幾万の涙を超えて来た。だからわかる。これは罰なんかじゃない、本気で”攻撃”してきているんだ」

 

 言っている意味はわからなかったが、言葉に重みがあった。どうにかしないといけないと心の底から思った。

 

「シロちゃん、やっぱりさるしまに攻撃しよう。お兄さんの言う通りだよ」

 

「艦長! ええい、どうなっても知らないからな!」

 

 そう言いながら武器のロックキーを解除してくれる。

 

「え! 撃てるの!! 撃っちゃっていいの!!」

 

 メイちゃんがキラキラした顔で興奮気味に発言する。

 

「見たところ、あの艦に主砲は一門。ゼロ距離射撃(水平射撃で的に当たる距離)で主砲のみを潰す。いいな? 艦長」

 

 お兄さんの声に「え? はい」と気の抜けた返事をしてしまう。

 

「機関一杯、最大戦速! ”Z旗”を掲げよ!」

 

「Z…旗?」

 

 全員の頭に?が浮かぶ。

 

「戦闘旗のことだ。海軍であるなら相手が寝ているのなら、枕を蹴って相手を叩き起こしてから攻撃する」

 

 勉強したことがある。Z旗。確かロシアとの戦争のときに掲げられた旗だ。旗の意味までは覚えていないけど。何でこんな古いものばかりを言うのだろうか? それに今”海軍”って。

 

 ブルーマーメイドが設立されて約百年。その時に海軍は解体されたはずだ。勉強が苦手な私でもそれはわかる。

 

「艦長、シャキッとしろ! 今のを各機関に通達するんだ!」

 

 考え事をしていたらお兄さんから活を入れられる。

 私はハッとなり、直ぐに機関長のマロンちゃんに呼びかけてOKを貰い、野間マチコことマッチちゃんに”手旗信号”で攻撃準備に入ったことを知らせる。

 

 そこから先はお兄さんの指示通りに動いていた。

 

 砲弾は一番砲を一発だけでいいと言うお兄さん。流石にそれは無理があるんじゃないかと思ったが、「撃て!」と言う号令と共に一番砲が放たれ、その砲弾は寸分たがわず、さるしまの主砲だけを貫いた。

 

「本当に、一発だけで…」

 

 誰かが無意識に呟いた言葉が聞こえた。

 

「やった、やったよ! 私達!」

 

 艦橋内が色めき立つ。

 

 それと同時にバタンと、誰かが倒れる音がした。お兄さんが倒れていた。




Z旗は正確には戦闘旗ではありません。

日本海海戦で旗艦の三笠に揚げられた旗で、その時は「皇国の興廃この一挙、各員奮励努力せよ」と言うもので、以後海軍では第二次世界大戦中の重要な作戦時に掲げられたそうです。
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