あべこべ・フリート(仮)   作:仙儒

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追撃されてピンチ!

 実力の差を知った。

 

 伊達に将校服を着ているわけではないことも。

 

 そのことに驚き、興奮しているのもつかの間。バタンと将校服の男が倒れた。

 

 静まり返る艦橋の中、一番初めに動いたのは私と艦長だった。うつ伏せに倒れた男の人を仰向けにする。頭に巻いていた包帯が赤く汚れ、顔を伝って流れている。

 

「大変! さっきの戦いで傷が開いたんだ!」

 

 男の人の手が弱々しく上がり、近寄れとジェスチャーがあり、顔を近づける。決して、やましい意味があるわけではない。無いったらない。

 

「艦長、怪我人の収容を。誰か怪我をしているかもしれない」

 

「手当が必要なのはあなただ! 待っていてください! 今すぐに医務室に運びますので!」

 

 私がそう言うと男は首を横に振る。

 

「俺は…、大丈夫だ。最後でいい」

 

「その心がけは殊勝だが、それは聞けない相談だ」

 

 速球に手当てが必要なのはあなただ! 私がそう叫ぼうとしたとき、養護教諭の鏑木さんが救急箱と担架を持ってきた。艦長を見ると「少し付き合ってくれ、それと…、」そこで言葉を区切り、

 

「副長と航海長以外で担架を頼む」

 

 そう言うと、包帯を手早く取替え、応急処置に入る。

 なぜ、私が外されたのか不満があったが、養護教諭の鏑木さんが艦長を呼んだ以上、艦長のいない間は副長である自分が指揮を引き継がなければならない。もっと話をしてみたかったし、名前も聞きたかった。が、致し方がない。次の合流ポイントまで時間がある。その間に様子見として、会いに行けばいいか。

 

 他のメンバーは…、ジャンケンで誰が一緒に連れていくかを決めているみたいだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 倒れてから担架で運ばれている間に魔力を回復魔法に九割回して、残りの一割で攻撃してきた艦(確か、さるしまって言ったっけ?)の情報を集めている。

 

 ハイスクール・フリートの内容は殆ど覚えていないからだ。覚えていたとしても情報は大切だ。自分が関わることで大きく変化してしまう局面もあり得るからだ。まぁ、余り覚えすぎていて、それ通りに進めようと神経をすり減らし続けるよりは気は楽だが、あって困ることはない。

 

 医務室につき、ベッドに移されてからも情報を集め続ける。

 

 ちみっこが艦長と何か話しているが、話の内容にまで気をまわしてる余裕は無かった。

 

 話し終わったのを見計らって、艦長を呼ぶ。

 

「な、何ですか?」

 

 緊張しているのか、少し声が上ずっているが、今はそれよりも優先することがある。長方形のスティックを渡す。

 

「? なにこれ?」

 

「まぁ、持っていればわかる」

 

 そういう。

 

「あの、これに見覚えありませんか?」

 

 そう言って差し出されたのは気を失う前に助けた少女に渡した軍帽と俺の懐中時計だ。懐中時計はともかくとして、軍帽を渡したのは年端もいかない少女だった。もしかして、姉妹の方だろうか?

 

「…、確かにそれは俺の軍帽だが?」

 

「やっぱり!!」

 

 俺が返事をした後直ぐに頬を染めて、目をキラキラさせる。

 

「あの、私あの時助けてもらった岬明乃って言います! ずっと言いたかったの。9年前はありがとうございました!」

 

 はぁ? 俺9年間も寝てたの? 嘘だ~。

 

 しかし、目の前の少女が嘘を言っているようには見えない。つまり、本気(マジ)だ。

 だとすると……、

 

「そうか、大きく美人になったな…、俺も老いる訳だ」

 

 どこかの神父のセリフが自然と出てしまった。

 

「えへへ、美人だなんて、そんな~」

 

 そんなやり取りをしていると、ちみっこが「おっほん!」とわざとらしい咳ばらいをし、

 

「艦長。それ以上は患者の傷に触る」

 

 艦長は「そ、そうだよね~」と言って名残惜しそうな顔をして医務室を出ていこうとする。

 

「ああ、艦長。さっきの話はあくまでも私達だけの秘密に頼む。他言無用だ」

 

「え? あ、うん。わかった。あとは宜しくみなみさん!」

 

 そう言うと、今度こそ若き艦長は医務室を出ていく。

 

「ところで、何やら人が押し寄せてきてるようだが、対応しなくていいのか?」

 

 ここは医務室。さっきの戦闘で怪我人たちもいるだろう。

 

 そういう意味では俺のせいで申し訳ないことをしたな。

 

「ちょっと待ってろ」

 

 そう言うとちみっこはカーテンを閉めて個室にする。

 

 そのあと、「わぁ!」という声と共に何人かが倒れた音が聞こえた。こういう時の野次馬根性ってどこに行ってもどの時代でも変わらないよな。そのことに少し安堵する。特に艦長くらいの年頃ともなれば、噂話が好きで好きでたまらない筈だ。

 影でどんな噂をばらまかれるのやら。知りたいような、知りたくないような? こう、怖いもの見たさってやつ?

 

「怪我人以外はとっとと散れ」

 

 わーお、意外と辛辣。

 しかし、年頃の乙女達は食い下がる。

 

「えー、いいじゃん、いいじゃん! 私達も男の人見てみたい! 同じ空気を吸いたい!!」

 

 おい、変態がここにいるぞ! 普通この位の少女たちであれば、好きな男以外皆、「キモイ」とか「くさそう」とか何かと見下される筈なんだけど……、いや、別に見下されたいとか、見下されて興奮するほど上級紳士じゃないけどさ。

 

「みなみさん独り占めは良くないと思いまーす!」

 

「そうだそうだ!!」

 

 わいわいきゃきゃーと騒がしい。女三人寄れば姦しいとは言ったものだ。声からして三人以上は確実にいるけど。まぁ、嫌いではないけどさ、こういう雰囲気も。前の世界では医務室と言えば、うめき声が木霊する地獄だったし。

 

「あほか、第一、怪我が酷いんだ。面会何て許可できない」

 

「そう言ってみなみさん襲うつもりなんでしょ!!」

 

「な、ば、ばかか! 養護教諭として、当然の判断をしてるんだ。その襲う(ごにょごにょ)何てするわけないだろ!!」

 

「その反応、怪しいー」

 

 襲う? 襲われるの間違いじゃなくて? おれはロリコンではないので襲う気は更々ないのだが、反転してるのか? ジャスティス! 情報をおくれめんつ。

 

 はいはい、ふむふむ、成程。念話で話した結果、この世界は前に居た世界よりも更に男が希少で男1に対して女9らしい。男を見れること自体が奇跡に近いみたい。それでこの騒ぎか……、前の世界で慣れていたつもりだけど、先が思いやられるな。

 身分証明は多分ジャスティスがやってくれてると思うけど、この先どうするか。前の世界ではネウロイと言う人類共通の敵がいて、人類の破滅がかかっていたが、この世界は割かし平和だったと思うのだけど…、戦争とかも起きてないし。

 

 あれ? でも確か、戦争をしない象徴として艦長を女性が務めるんじゃなかったっけ? 男がほぼいない以上、戦争も女がやるものなんじゃ…、前の世界はそうだったし。

 

 …深く考えるのはよそう。カガリに「お前、頭ハツカネズミになってないか?」 とどやされそうだ。アスランの記憶の中のものであって、俺はカガリにあったこと無いけどな! 

 

 無駄なことを考える余裕ができたのは魔力コントロールを全部ジャスティスが代わってくれたから。だったら最初からやってくれよと思ったら、身分証明から現在の状況までの情報の収集、整理を行ってくれていたらしい。

 空間転移も空白の9年間も予期せぬ事態であったとかなんだとか。取り合えず今はのんびりと眠りにつきたい。なぜか酷く疲れた。俺自身の魔力の枯渇も影響しているのかもしれない。なぜ魔力タンクと言われた俺の魔力が枯渇してんのかわからないけど。ジャスティスの予想だと時空転移による影響ではないか? とのこと。ジャスティスに魔力生成能力があって助かった。

 

 

 瞼が段々と落ちてくる。こんだけうるさい状況下で今まさに眠ろうとしている俺は神経が図太いのか、それとも……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 艦橋へ戻った私の心は実に晴れやかだった。

 

 ブルーマーメイドになれば(この道を進んだなら)いつかまた、彼に会えると信じて生きてきた。

 

 お父さん以外の初めて会う優しい男の人。ずっと、ずーっと憧れていたお兄さん。そんな人に美人になったと褒めてもらえたのだ。浮かれない方がおかしい。

 

「艦長さん、艦橋に戻ってきてからずっとこんな感じですね」

 

 ココちゃんがそう言ってくる。私、そんなに顔に出てるかな?

 

「全く、艦長なのだからもっとビシッとしてほしいものだ」

 

「こちらはご機嫌斜め見たいですね…」

 

 シロちゃんを見て苦笑いするココちゃん。

 

「そりゃ、しょうがないよ。男の人に会えるだけでも奇跡なのに。しかも、血の上からでもわかるあのイケメンっぷり。あんな御伽噺から出てきたような男の人と触れ合えたんだもん」

 

「かもしれませんね」

 

 メイちゃんの言葉にココちゃんが同意する。

 

 しかし、楽しい時間は長くは続かない。

 

 

 ピピピッ、ピピピッ!

 

 

 音が艦橋に響く。

 

 音源を探したら、スカートのポケットに入れていた長方形のスティックが点滅している。

 

「これ…」

 

 そう呟いて長方形のスティックをポケットから出したら、空中にディスプレイで映像が流れる。どういった技術でできているのか全く理解できない。SF作品から抜け出してきたような道具に戸惑うが、流れている内容に更に言葉を失う。

 

『さるしまの自沈を確認しました。電報を受信。発さるしま、海上保安局当て。「学生艦晴風反乱、我晴風の攻撃にて大破」繰り返します…』

 

 それに艦橋内が静まり返る。その間も女性の声で説明が続く。それを三回繰り返した後、ディスプレイは消失した。

 

「これって、何かの冗談だよね?」

 

 最初に口を開いたのはメイちゃんだった。

 

「そ、そうですよ! 流石にそんなこと…」

 

 そう言っている途中に通信が入り、それに出たココちゃんの顔色が変わる。

 

「……、どうやら本当みたいです」

 

「え? 何で? 先に撃ってきたのはあっちじゃん! 何であたし達が反乱したことになるわけ?」

 

「わ、私に言われても困るよ」

 

 メイちゃんが文句を言った先にはリンちゃんがいて、リンちゃんが半ベソかきながら必死に訴えている。

 

「でも、さっきのでは”自沈”って言ってたよね。何で自沈までしてこんな電報を?」

 

 私が小さく呟くとココちゃんが一人演劇を始める。

 

 陰謀…、陰謀か…。確かに自沈してこんな電報を打電するくらいだから、何かが起こってるとみて間違いはないだろう。




サラッと口説くアスラン。

普通は9年前はとかじゃなくて、あの時はって言うとかそう言うのは良いから…。

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