あべこべ・フリート(仮)   作:仙儒

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潜水艦のことはなかったことに……、絶滅危惧種の男の乗った艦を攻撃できるわけないでしょ!


乙女のピンチ!

 目が覚めたら、周りに誰もいない。

 

 ジャスティスに聞いてみたら艦内部にある教室みたいな場所で会議中とのこと。

 

 うろ覚えだけど、確かトイレットペーパーを買いに行く行かないの話をしているんだったと思う。俺も力になれればいいんだが、生憎とこの世界の金は持ってないんだよな~。

 身分証明書もそうだけど何とかならないかね? それとも、この航海が終わればこの世界からは用済みかな?

 

 前の世界のことを考えるとそうも思えないんだよな~。

 

 そんなことを考えていたら、ジャスティスが俺が寝ている間に全て済ませてくれたらしい。すると黒いカードと通帳、小切手、印鑑が出てきた。通帳を見てみる。……0が一杯だったとだけ言っておこう。黒いカードと小切手以外をしまうと俺も教室に行こうとするが立てない。正確には足元がおぼつかない。情けないことに一人ではまだ歩けないらしい。

 

 しょうがないので、転移魔法で教室に転移する。

 

 転移した先では晴風乗組員の少女たちがギャアギャアと騒いでいる。まだ、話はまとまらないらしい。一番右端の席に腰かけて話の行く末を見守る。

 

 しばらく見守っていたら募金活動が始まった。やっぱり、個性的な子ばかりだよな。あ、あの小さい子「宵越しの金は持たねーんでい!」だって。江戸っ子か。初めて見たというか、聞いたというか……。

 で、順番が回ってきたんで、艦長帽の中に黒いカードを入れる。凄い大声で「ええ!!」と声が響く。

 

「なんだ? 何番目か前の子みたいに小切手の方が良かったか?」

 

 そう問いかけると、さっきまで騒がしかった教室内が一気に静かになる。ど、どうした? 何かやらかしたか?

 

 次の瞬間、黄色い歓声があがる。

 

「男の人!! しかも、見たことないくらいのイケメン!!」

 

「艦長が男の人を助けたって言うの本当だったんだ!!」

 

 他にも何か言っているが、残念ながら声が被って何を言っているのかわからない。思わず苦笑いがもれるが、それすらも彼女らの琴線に触れたのか、再び上がる黄色い歓声。気分は観客から注目されてるアイドルの気分。前の世界では軍人兼アイドルだったから今更引きはしないが……。俺のポジションはラクスなんだな。ザラ派とか言う宗教団体みたいなのが俺のあずかり知らぬところで発足していたが、この世界でも同じことにならないだろうな?

 

 そんなことを考えていたら、右手を誰かに握られる感覚に現実に戻される。

 

 目の前には、先程小切手を出していた少女がうっすらと頬を染めながら、俺の右手を両手で優しく包み込むような形で握られていた。いつの間に…、優しく包み込まれている手からは女性特有の柔らかさを感じるが、少し硬く、何かしらの得物を使った武芸の心得があることがうかがえた。

 

「私は万里小路 楓と申します。よろしければ、楓と呼んでくださると嬉しいですわ」

 

 ラクスと同じような、どこか世間離れした所もうかがえる。

 

「ああ、俺はアスラン。アスラン・ザラだ。短い間だろうがよろしく頼む」

 

 そう答えると、少し驚いた顔をしていたが、直ぐに柔和な表情に戻る。

 

「では、アスラン様、と」

 

 そこまで言ったところで女子たちから声が上がる。

 

「まりこうじさん(まりこー)が抜け駆けしてる!!」

 

 これだけ大勢の乗組員が一つになった瞬間だった。

 

 万里小路は頬に片手を添えながら、「あら? 私そんなつもりは」と言うものの、もう片方の手はしっかりと俺の手を握っている。

 

 そのあと、晴風乗組員32名と自己紹介と握手会をした。

 

 どうでもいいけど、艦長である岬は自己紹介してるよな? 何で改めて? そして、みなみさんと言うちみっこ。俺が寝ている間に手を握ったり胸板ペタペタ触っていたのを俺は知っている。(ジャスティスが教えてくれた)

 

「それで、買い物はいいのか?」

 

 俺の一言に少女たちは「ああ!」と声を上げる。元気なようで結構。

 

「あの、これ本当に使っていいんですか?」

 

 そう言って艦長が黒いカードをおずおずと出してくる。

 

「ああ、好きなものを買ってくるといい」

 

 流石に家とかは困るが…。そう言う。元々ジャスティスが銀行やら政府やらからかっぱらってきた物なので、別に惜しいという気持ちもない。

 

 これ以上、此処に居てもガールズトークに付いていける気がしないので、立ち上がろうとしたところでふらつく。それを万里小路が支えてくれる。

 

「ああ、すまない。壁まで頼めるか? 後は一人で大丈夫だ」

 

「いいえ、困っている男性を助けないなど、万里小路家の名が泣きますわ。医務室まででよろしいでしょうか?」

 

「……、いや、艦橋でたn「医務室だ」…」

 

 俺の言葉に被せるように、そして、俺の前まで歩いてきて腕組みしながら言うちみっこ。

 

 ……、

 

「艦橋でt「医務室だ」」

 

「艦橋d「医務室だ」」

 

「かn「医務室だ」」

 

 このやり取りで万里小路があわあわしている。

 

 はぁ、とため息をついた後、俺は思ったことを告げる。

 

「艦長が留守の間この艦はどうする」

 

「そのための副長だ」

 

 あくまでも、食い下がって譲ってくれないちみっこ。仕方があるまーに。

 

「はぁ、わかった。けど、艦橋にはミーナを置いておけ。彼女たちよりは一日の長がある」

 

 それが、俺が医務室に向かう絶対条件だ。そうつけ足しておく。肝心の人物はピンと来ていないようだが…。

 

「ミーナって…、もしかしてわしのことか!?」

 

 他に誰がいる、と言いかけて言葉を飲み込む。そういえば、501部隊の隊長であるミーナ・ディートリンデ・ヴィルケと同じ感覚で呼んでしまったが、嫌だっただろうか?

 

『すまない。嫌だったか?』

 

 ドイツ語で言葉を返す。なぜ、ドイツ語なのかは俺なりに誠意をもっていることの証と、やはり、母国語が話せる人と言うのがいるのは嬉しいことだろうと思ってのこと。

 

「そそそ、そんなことは無い! むしろそのままが良いというか、何と言うか」

 

 顔を真っ赤にしてもじもじしながら返事を返してくる。どうでもいいけど、日本語うまいな。わざわざドイツ語で謝罪した必要はあったのだろうか?

 

 そう思いながら歩きだす。

 なぜか支えてくれている万里小路とその後ろをついてくるちみっこが不機嫌になっている気がする。こう、笑顔なのに目が笑ってないところとか。

 

 

 

 医務室に付き、礼を言うと万里小路は戻っていった。他にも生徒たちがぞろぞろとついてきていたが、ちみっこが医務室に鍵をかけてしまい、入ってこれない。

 横になったまま何となく雰囲気が変わったのを感じ、再び起き上がろうとすると「寝たままでいい」と手で制される。

 

「単刀直入に言う。お前は何者だ? 何を隠している」

 

 隠していることはたくさん有りすぎて何を話せばいいかわからない。言ったところで信じてくれるほど、目の前の人物は頭の中がお花畑では無い筈だ。前の世界と言い、この世界と言い、天才はどうしてこうも鋭いかね? まぁ、それ故の天才なのだろうが……。

 

「なんでそう思うんだ?」

 

「否定はしないんだな。お前の着ている服は、正規のホワイトドルフィンの物ではない。錨に桜の紋章…、それは旧日本海軍の徽章だ」

 

「コスプレ……、と言う線は無いのか?」

 

「それも考えなかった訳ではないが、これは指揮刀だ。普通の店やオークションで手に入るものじゃない。それにこのご時世だ、そんな物が出回ればニュースにもなる」

 

 へぇー、あれって指揮刀って言うんだ…、今初めて知った。式典やなんかに出るときに章香につけられてたから、何かしらの意味があると思っていたがまさかそんなものだったとは。おじさんびっくりだ。

 

「さて、ね。記憶に混乱がある。俺も良くわからないんだ」

 

「脳波は正常だった。それに艦長たちにあれだけのことを言っておいてか?」

 

 そうはいってもね、俺もハイスクール・フリートの世界のことはもう殆ど覚えていないのだ。辛うじて岬明乃を中心とする物語だったのと、ウイルス兵器とでも呼ぶべきものがどうたらこうたらで、その名前がラッテン…、ドイツ語でネズミを意味する名前に近かったような……、そして、それは電子機器を妨害すること、猫には感染しないこと、初期感染者は海水が有効なことくらいしか覚えて…、あれ? 結構重要な部分は覚えてるな。

 

「俺が覚えてるのは、俺が船乗りだったこと、救助をしている途中に大きな爆発に巻き込まれたこと。今話せるのはこの位だ」

 

 実際、この世界に来て、救助活動中に爆発に巻き込まれたのは本当だ。そして岬の話だと9年の時が過ぎているらしい。俺にもさっぱりだ。ジャスティスもこの件に関してはわからないって言ってるし。

 船乗りに関しては扶桑海軍のザラ艦隊所属だったんで嘘は言っていない。

 

「……、わかった。今はそれでいい」

 

「助かる」

 

 それしか言えない自分を恨めしく思う。

 

「ああ、採血道具一式の用意を頼む」

 

「それは必要だと思えない」

 

 だよねー。でも用意してもらわないと困るんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「困ったことがあったら何でもわしに頼ってくれ」

 

 

 胸を張ってそう宣言するアドミラル・グラフ・シュペーの副長。

 

 顔は少し赤みが差し、少し興奮しているのがうかがえる。

 

 まぁ、気持ちはわからないでもない。男の人に出会えたのだけでも奇跡なのに、その男の人に頼られたのだから。しかも、愛称で呼ばれて。正直羨ましい。

 

 女と接しても嫌な顔一つ、雰囲気にも出さず、握手に応じた。それどころか、こちらを気遣うそぶりまで見せた。そんな女性の理想が具現化したような、物語の王子様が、間違えてこの世界に迷い込んだような存在が直々に頼んだのだ。女性冥利に尽きるだろう。

 

 それに、あれだけの怪我を負いながらも艦橋に立とうとするその姿勢は私の理想とする艦長像に重なった。そして、甘酸っぱい初恋の相手と瓜二つなのが自身の情けなさへと直結する。

 もし、私が艦長だったら多分彼、アスランさんと同じ判断を下すだろう。彼女は私達よりも一つ年上で、アドミラル・グラフ・シュペーの副長。同じ副長でも座学はどうだかわからないが、経験と判断力を考えれば彼女に軍配があがる。

 しかし、頭で理解していても、理屈ではないのだ。遠回しに戦力外通達されたも同然。そんな自分が情けなくて、それと同時にこの艦の副長は私なのにと言う子供っぽさが心の中で渦巻いている。

 

 何度目かわからないため息をはく。

 

 もしも、もしも私が艦長だったら、私が答えを書く欄を一つずれて回答していなければ、彼は私に頼ってくれただろうか? 思い出の中の彼のように優しく私に微笑んでくれただろうか?

 

 そんなどうしようもないこと(if)ばかり浮かんでは消えていく。

 ふと、視界に入ったのは艦長が置いて行った艦長帽子。気が付いたら手が伸びてそれを掴んでいた。

 慌てて周りを見渡すが誰も気が付いた様子がない。私は「ちょっとトイレに行ってくる」と嘘をついて艦橋を離れた。

 

 

 誰も周りにいないことを何度も確認してから艦長帽子を被り、指示出しの真似事をしてみる。

 

 すると、甲板と艦橋を繋ぐ扉が開く。しまった。完全に不意打ちだった。帽子を取ろうとするがもう遅い。出てきたのは機関化の黒木さんだった。言い訳をしようとしたら、両手を掴まれる。

 

「うん、宗谷さん凄く似合ってる。宗谷さんが艦長じゃないのは何かの間違いだよ!」

 

 そう言って励ましてくれた。見つかったのが黒木さんだったのは不幸中の幸いだったかもしれない。

 

 そのまま二、三言話した後、私は艦橋に戻った。

 

 

 

 

 

「艦長さんたち、遅いですね……」

 

 納沙さんがぽつりと声を漏らす。

 

「も、もしかして見つかって捕まっちゃったりなんかしてないよね?」

 

「不吉なことを言うな!」

 

 知床さんが弱々しく言葉を呟き、私は反射的にきつい言葉を口走ってしまう。が、合流時間をとっくに過ぎ、日が傾き、暗くなりつつある。

 

 段々とピリピリしていく艦橋に更に追い打ちをかける事態が見張り員の野間さんから告げられる。ブルーマーメイドが晴風を包囲するように展開しているとのこと。

 どうするかとパニック状態になる中、通信が入る。

 

「副長、安心してくれ。彼女たちは敵じゃない」

 

 それは医務室で眠っている筈のアスランさんからの通信だった。その言葉一つで不思議と安心感を覚えた。

 

 そうするといきなり甲板が騒がしくなる。

 

 急いで甲板に出てみると、立石さんが紅く光る鎖に拘束されていた。

 

「ぶっ殺してやる!!」

 

 普段無口で大人しい性格からは想像もできない声をあげ、暴れようとしているのを紅く光る鎖が押さえ込んでいる。

 

「やっぱり、こうなっか」

 

 声のする方を見てみると松葉杖でこちらに向かってくるアスランさん。その後ろにみなみさん。何やらみなみさんは何かを持っているようだが……。

 

 ブルーマーメイドの隊員と艦長たちが晴風に降りてきて状況がわからない中、

 

「ミーナ、君たちの艦の乗組員はこんな感じになっていなかったか?」

 

 アドミラル・グラフ・シュペーの副長にそう問いかける。

 

「あ、ああ、こんな感じだった」

 

 それを聞いたアスランさんはみなみさんに指示を出し、それを実行している。

 

「先に謝罪しておく、すまない立石」

 

 そう言うと立石さんの腕を掴み、海へと投げ入れた。




晴風クラスは30人+みなみさん+ミーちゃんで32人。
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