エターナる短編集   作:ENE

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オリ主が関わりたくない詐欺をしながら血反吐吐いてトロフィー集めをする話。


1000回あそべるハイスクール(原作:ハイスクールD×D)

セーブデータを上書きしました。【ハイスクールD×D】を再開します……

 

 

 

 

「2年の兵藤が死んだらしいぜ」

 

え? なんだって?

 

朝の教室、始業前のほんのひと時。

とあるクラスメイトが声を潜めながら囁いた。

2年の兵藤。

その言葉から連想される相手は、この学び舎において一人だけ。

駒王学園の変態3人組。常の行状ゆえ女子生徒達からは蛇蝎の如く嫌われており、男子の側としても可能な限り他人扱いで距離を取りたい、嫌われ者の一人の名前。

 

ああそうだ。それは、――当代の赤龍帝の名ではなかっただろうか。

 

「え? なんだって?」

 

阿呆のように繰り返す。

己が今、何を口にしているのかも分からない。告げられた内容が咀嚼できない。

感想の一つも思い浮かばず、表情なんて作れない。限りなく弛緩しているだろう表情筋、間抜け面で力無く呟いた俺に向けて、目の前のクラスメイトは何故か得意げに語り出す。

 

――曰く、2年の兵藤一誠が交通事故で死亡したそうだ。

事故、と思わず繰り返す。それに対して然り然りとクラスメイトが頷いた。

刺されたんじゃないのか、なんて疑問が頭の中だけで消えていく。気の利いた相槌も出てこないまま、しかし告げた情報に驚く俺の姿に満足したのだろう、彼はもったいぶった口調で件の死亡事故に関する情報を垂れ流していく。

その口元には小さな笑みさえ浮かんでおり、あからさまに他人事だった。

気持ちは分かる。個人的な接点も持たない相手、加えて当学園における嫌われ者の訃報なのだ。情報の鮮度がある内に訳知り顔で吹聴し、聞かせた相手に感心されて良い気分に浸りたい、という安い自尊心を満たすための消耗品に過ぎず。彼にとってはよくある話題の種の一つが精々だろう。

俺だって、別の誰かの話だったら笑いはせずとも気軽に聞いてやった筈。問題は、死んだ相手が全然知らない相手、ではなかった事なのだ。

 

兵藤一誠。赤龍帝。ハイスクールD×D。主人公死亡。原作崩壊。

 

頭の中では関連する単語ばかりが幾つも幾つも飛び交って、なのに意味の有る思考には繋がらない。俺の脳内を特定の集団組織に属する誰かが覗き込めば、きっとこの驚きを共有できた事だろう。共有したところで、何の意味も無い後の祭りなのではあるが。

混乱する俺の事など一切気にせず、調子良く囀っているクラスメイト。既に彼の話など頭の中には入ってこない。

 

この日、俺は生まれて初めて学業をサボる事となった。

 

 

 

 

「兵藤先輩には日頃から御世話になっていました……」

 

という嘘を吐いて兵藤家にお邪魔する。

何らかの目的があってか、と言えばそんな事はない。俺は今ちょっと人生という道に迷っているだけなのだ。

迷った先におっぱいドラゴンの巣があったのでつい、という言い訳を誰にとも無く口に出す。

 

葬式自体は既に先日終えており、むしろ今まで知らなかった俺の方がおかしいような気さえする。白黒のリボンで飾った遺影を見上げれば、見た目だけなら好青年と言えるだろう兵藤一誠の笑顔があった。

直接の面識は、無い。一般人として生活する限りにおいて、兵藤一誠という人間は関わりたくない部類の変態だった。仮に己が女の身であったならば、学園に対する退学処分要求のための署名活動を積極的に行っていただろう傍迷惑な乳狂い。

 

関わる事など無いと思っていた。

英雄願望。神秘体験。非日常。そういったものに対する憧れが無いとは言わないが、現実として関わる事など無い、と己自身をこそ見限っていたのだ。

己は超人などではなくて、どこぞの英雄の魂を受け継いだと宣う誰か達とは似て非なる、単に人生二周目を生きているだけの凡俗である。

原作? 転生? オリ主? 俺TUEE? ――何故、わざわざ二度目の奇跡(いのち)を捨てに走らねばならないのか。

無限と言う未だ完全な定義付けの成されていない謎概念が生きた形をして存在するガバ世界、人外共の織り成す悲喜劇に関わりながら生きていける気が全くしない。

 

だから。

関わる事など、無いと思っていたのだ。本当に、嘘偽りなど無く。

 

「なんで死んだんだよ」

 

御都合主義でも読者側からの需要でも、理由自体は何でも良い、彼は世界を救ってくれる主人公だった。なのに、何故か分からないが死んでしまった。

責めるように呟けば、茶と茶菓子を持って来てくれた兵藤夫人が涙を零して手に持つそれらを床へと落とす。

くしゃくしゃに歪めた顔を震える両手で覆いながら、持て成しの品を落とした過ちゆえか或いは息子の事なのか、ごめんなさい、と謝る言葉を何度も何度も口にする。

俺は泣いているその人に手を伸ばしたが、何を言えば良いのか分からない。

 

だって本当は、兵藤一誠という名で生きていた人間の事なんて知りもしないのだ。

会話の一つもした事の無い、むしろ内心では嫌いつつ変態だの性犯罪者だのと見下してさえいた相手の事で、今この人は悲しんでいる。知り合いだと嘘を吐き、他人の家に上がりこんだ挙句故人の遺影を前に身勝手な罵りを口にした自分が、何を言って慰めるのだ。

伸ばした両手を間誤付かせ、奥さんの泣き声を聞き付けた兵藤家の旦那さんが駆けつけるまでの僅かな間、俺は身の置き所も無くただただ狼狽え続ける事しか出来なかった。

 

 

 

 

「大丈夫、ですか?」

 

掛けられた声に、一拍の間を置いて視線を向ける。

夕暮れ時、公園のベンチで項垂れていた俺。目の前には同じクラスの女子生徒。

 

塔城小猫が、そこに居た。

 

ああ、と譫言のように声を出す。ちゃんと返事が出来たのか、我が事ながら自信が無い。

赤みがかった夕日に照らされて、少女の銀髪が煌いていた。綺麗な色だなあ、と思いながら見るとは無しに呆と見上げる。と、相変わらずの変化に乏しい無表情が、ほんの少しだけ困ったように眉を顰めた。

 

それを見て、不意に「兵藤一誠が死んだ」と言ってしまいたくなった。

口にしたところで意味は無い。時期的に悪魔になってさえいない彼は未だ彼女の仲間ではなくて。つまり伝えたところで他人の死、それに何を思えと言うのか。お前の未来の旦那だぞ、と教えたところで変な人を見る目を向けられて終わりだろう。それに、もう、そんな未来は無くなった。

極々一部、とても近しい人だけが涙を流し、それ以外にとってはどうでも良い事。不謹慎だという一般的な良識さえ排除すれば、むしろ変態3人組に欠員が出た事実を喜ぶ人さえ居る気がしてきた。

 

兵藤一誠が死んで。

赤龍帝が一代欠けて。

主人公が消えてしまった。

 

世界が滅ぶかもしれないな、と他人事のように考える。

此処がそういう世界だと知ってはいるが、俺自身が物語の結末を知らないのだ。実際にどうなるのかは分からない。分からないのだが、仮に滅亡の危機が訪れるとしたら、果たして俺はどうするべきなのだろうか。

兵藤一誠が堕天使に殺される事を知っていた癖に、と己を罵る。まさかそのまま死ぬとは思わなかった、と他人事のように自己弁護。いや、もしかすると本当に交通事故で死んだ可能性もあるのだが、だからと言って今ある現実は変わらない。

 

ある事ない事考えて、そろそろ物を考えるのが面倒臭くなってきた。

益体の無い考えに数十秒ほどを費やしたが、目の前には未だこちらを見下ろす美少女が。

 

「塔城さん」

 

ぱちり、と瞬き。苗字で呼び掛ければ、金色の瞳が目蓋に閉ざされすぐさま開く。

目の前の彼女からの返答は無く、続く言葉を待っている。

 

そこに、いたずらな風が一陣吹いた。

 

捲くれ上がる布。晒される布。向かう視線。

僅かに覗く少女の臍と下腹部とそれ以外とを記憶に刻み込みながら思わず呟く。

 

「縞模様、か」

 

ぱちん、と軽い音が鳴り響いた。

 

 

 

 

見慣れた筈の星空を見上げながら、我が家に向かってのんびり歩く。

今日はどうにも調子が良くない。

朝の教室で原作主人公の訃報を耳にし、授業をサボって兵藤家宅にお邪魔して、混乱覚めやらぬまま公園で黄昏た挙句クラスメイトにセクハラ発言をして仕置きを受ける。

最後のセクハラに関しては、断じて俺の責任ではなく、単に口が滑っただけなのだ。あえて責任を問うなら先の助平な風が悪い。高校生で縞パンというのが果たして年齢相応なのか少しばかり疑問ではあるが、流石にそこまで言えはしない。

 

しまぱん……、しまぱん……、と当人の耳に入れば拳が飛ぶだろう言葉を、胸中にて飲み下す。

軽く、叩かれた頬を指先でもって擽るが、痛みも何もありはしない。

ぱちん、と実に良い音を鳴らしながら己の顔を挟む形で伸ばされた少女の繊手を思い出す。

 

「元気無いみたいだから、か」

 

――元気、無いみたいですから。今日のところはこれで許してあげます。

 

音は鳴ったが、痛くは無かった。続いて耳に届いたのは、そんな少女の気遣いだ。

常の己らしからぬ発言だったからだろう、多分。そんなキャラではなかった、筈。肉体年齢相応のむっつり助平ではあるが、異性に面と向かって言う度胸など欠片も無い。

つまり、心配されてしまったのだ。

普段隣の席で授業受けてるクラスメイトが学校サボった挙句夕暮れ時にベンチで項垂れていれば、然もありなん。

 

反省反省、と虚ろに呟き足を動かす。

 

兵藤一誠の死亡、という驚愕の事実を聞かされて常の調子を崩してしまったのが良くなかったのだ。ただ知っているだけの自分が気を揉んだところで何が出来る。何かをしなければならない、なんて誰かに命じられたわけでも無いのに、一人で勝手に走り回って、赤の他人の家に上がりこむほど動揺していた。

考え過ぎの、気にし過ぎだ。

彼の死によってこれから先、問題は多々起こるだろう。だけど、それは断じて俺の責任ではない。そうだ、自惚れるな。俺はただの――。

 

「……悲鳴?」

 

何処からか聞こえた、女性のものらしき、声。

ふらりと両足がそちらへ向かう。

多分、未だに朝の混乱が醒めていないのだ。だから普段なら聞き流して他人面を出来るだろう揉め事の気配に対し、自分から近付いて行くなんて馬鹿な真似が出来た。

 

自分で自分を凡俗であると見切っていた癖に。

この世界にはもはやヒーローなんて居ないのに。

己の向かう先が泥沼である事さえ分からずに。

 

惨殺死体の前で縺れ合う神父とシスターの二人組を視界に映して、俺は身の程知らずにも足を踏み出し声を上げてしまった。

 

 

 

 

「いやん、馬鹿ん、えっちぃ! 他人様の濡れ場に突入する(チミ)みたいな覗き魔クソ野郎君は両眼抉って御仕置きザマスよんッ!?」

 

利き腕が僅かに震える以上の反射行動を何一つ行えないまま、両の太腿に光の銃弾が潜り込む。

その、激痛と恐怖に声を上げた。

 

傷跡を押さえるように伸ばされた手は仮に触れた際の痛みを想像し、怯え、結局何も出来ないまま宙をさ迷う。下手人である白髪の神父、フリード・セルゼンが笑いながら何かを喋っているようだが、耳には届いても聞いて理解するだけの余裕がない。

そして、立ち続ける事さえ出来ずに膝を折る。負傷自体は小さいが、両脚から来る痛みで力が入らなかった。加えて言えば、銃撃なんて一般的日本人にとっては慣れようもない未知の苦痛だ。躊躇いも無く流血沙汰を引き起こした男に対する恐怖もある。

場に乱入してほんの十秒余りで己の行動を悔いてしまった。傷みと恐怖、軽はずみな行動を取った自分自身への怒りと後悔に、視界が狭まり何も考えられなくなっていく。

 

そこに、柔らかな明かりが灯された。

 

金色の髪、悲しそうな眼差し、引き裂かれて乱れたシスター服。

神器《聖母の微笑》を用いて癒しの光を注ぎ込む元聖女。

 

アーシア・アルジェントが、血で汚れた床に跪き俺の傷を癒そうと気を張っている。

 

『ハァ~ん゛? 悪魔臭い異端者の次はそっちの餓鬼の御相手ですかあ? アーシアちゃんってばマジビッチー! ……正直ヒくわ』

 

阿呆みたいにズレた音調。フリードの言葉が耳に届くが、日本語ではなかったので何を言っているのか理解出来ない。が、恐らく内容自体に大した意味は無いのだろう。

神器の光に照らされて足の痛みが遠のいていく。未だ僅かな痺れはあるが、真っ当に物を考えるだけの余裕が戻った。

 

傍らの、アーシア・アルジェントを見る。

涙に濡れた碧の瞳。整った顔立ち。つい先程、この場で、衣服を引き裂かれて白髪の神父に押し倒される寸前だった美しい少女。

外から覗きこんだ際に見えた刺激的過ぎる光景に、思わず声を上げて割って入った、――が。

 

実は俺は、何も考えていなかった。

 

助けようとか、中に押し入って神父を排除しようとか、そういう理性的且つ義侠心的なものは一切俺の頭の中には無い。無かった。だから困っている。場に乱入してすぐ足を撃たれて蹲り、今は彼女の力で助けられているが、それでも。

今この瞬間でさえ、俺は自分が何をしたいのか分からない。

フリードの凶行を止めるための俺の行いは多分に衝動的なものであり、生きて此処を脱出する算段など何も無かった。このまま状況が進めば、きっと、間違いなく、死んでしまう。彼の手によって殺害される。

 

内心の不安を押し殺し切れず、かと言って治療してくれる彼女を押しのけるでもなく、何も出来ずに座り込む。身体は震えて、何を見れば良いのかも分からない。顔を伏せるのが精一杯だった。

そんな俺を見て、傍らの聖女が微笑んだ。

 

『大丈夫です。これくらいの傷なら、すぐに治しちゃいますから』

 

俺の知らない言語で話す彼女は、果たして何を言ったのだろうか。

何も言い返せない俺に対してもう一度だけ微笑むと、足の怪我に向け治療を続ける。

 

『――』

『――』

 

そこに掛かる声。答える少女。

二人が何かを話しているが、やはり分からない。日本語の話せない筈のアーシアに合わせて発言するフリードは、先程確かに日本語で俺を罵倒した。ひょっとすると相手を煽るためだけにこの国の言葉を学んだのだろうか。

思い至って、ついつい小さく吹き出した。なんだそれは、勤勉過ぎる。

 

「――何か面白い事でもあったんですかな、変態くん? くぅん?」

 

場違いな笑いが癪に障ったのか、真顔で光剣を持ち上げたフリードに、変態はお前の方だ、と胸中だけで呟いた。直接言う度胸は、無い。

立ち上がったアーシアが俺を庇う形でフリードに対して向き合うが、その献身、恐らくこの神父に対しては逆効果にしかならないだろう。いよいよもって死が近い。

だったら、やれる事はやらなければ。俺は、このまま殺されたくなんてないのだから。――そう呟くと、必死になって開き直った振りをする。

 

足の痛みは、もう消えていた。

緊張で乱れる呼吸を整えながら、広げた掌の中に神器を呼び出す。

それは青く輝く魔法陣、のようなもの。神器の発動を表す輝き。円を描くソレの中心から光が伸びると、聖なるモノ達が物質化して一振りの剣を構築する。

 

その、あからさまな変化。即座に気付いたフリードが、変顔で笑いながら俺を見た。

心臓が、いよいよもって奔り出す。すぐにでも襲い掛かるだろう痛みが怖い。死にたくない。死にたくない。死にたくない。自分を庇ってくれている少女の身の安全よりも、自分自身こそが心配だった。

それでも、魔法陣から引きずり出した剣を握って、危地からの脱出のために身を起こす。

 

しかし。

フリードの背後に真っ赤な魔法陣が現れて、金髪碧眼の少年が姿を現した。

 

「! これはっ、どうい――、う」

 

転移用の魔法陣から姿を現した木場祐斗が、俺の手の中に創造された聖剣(・・)を目にして言葉を止める。どろり、と青く透き通った彼の瞳が音さえ立てて濁り始めた、ような気がした。

それを見て、ひぃ、と喉奥から引き絞るような悲鳴が小さく漏れた。

 

 

 

 

手を引きながら、足を動かす。

少女の華奢な手を握り、夜の街中を必死に走った。

走る、けれど何処に逃げれば安全なのか。悪魔も堕天使も人間も、頼れる相手など何処にも居ない。自分は後ろ盾も何も持たない只の人間で、繋いだ手の先には狙われる理由に事欠かない元聖女様がいらっしゃる。

 

「く、そ……っ!」

 

状況に流されるばかりで何も出来ない。

頭のおかしな悪魔祓いと、聖剣嫌いの転生悪魔。突然の闖入者にフリードの意識が逸れた瞬間、己を睨み付ける木場祐斗への恐怖心に突き動かされるまま新たな聖剣を創り出して壁を破壊し、人と悪魔と惨殺死体の詰まった先の住宅から逃げ出した。

 

咄嗟に傍らのアーシアを引っ張り出したのは、英断と言うより愚行だろう。

守る力もコネも無い。どうして連れて来たのかも分からない。

今更、原作ヒロインとの接点を持っても自殺行為でしかないというのに!

兵藤一誠だ。兵藤一誠が悪いのだ。そう胸中で繰り返して足を動かす。

 

『きゃっ!』

 

短い悲鳴。

咄嗟に足を止めて振り返る。手を引かれるままに走らされていたアーシア・アルジェントが、躓いた勢いを抑え切れずにこちらの胸元へと倒れこんできた。

僅かだけ、少女の香りが鼻腔に届く。状況が違えばきっと胸もときめいただろう。だが今の俺にそんな余裕は全く無いのだ。湧き上がる下心など皆無に等しい。彼女を連れていても不幸の種にしかならない、と弱気な本性が声を上げるが、今頃言われても遅過ぎた。

 

月と星と街灯の明かりが、肌蹴られた彼女の柔肌を照らし出す。

それで彼女の服が破れていた事を思い出し、制服の上着をアーシアの肩に羽織らせた。

 

『ぁ、――ありがとうございますっ』

 

ふわりと笑う少女は、可憐だった。

何を言っているかはやはり分からない。恐らく礼を言っているのだろう、と一方的に知っていた彼女の性格と状況から察して、愛想笑いで返事を返す。気の利いた事なんて言えやしないし伝わらない。俺の心臓は、現状と未来に対する恐怖で激しく踊り続けていた。

 

彼女は笑っている、そして俺も笑っている。けれど。

良い事なんて、あるわけない。

 

「――フリードが勝手に連れ出したと聞いたけど。どういう事かしらね、これは?」

 

黒い羽根が舞い落ちた。

自分の顔が強張ったのが、分かる。

嫌な予感、というものを遥かに通り越して、嫌な現実が直ぐ傍に在る。

 

視線を向ければ、艶やかなまでに黒く輝く堕天使の羽翼を翻す、ボンデージ姿の一人の女。その傍らには似たような翼を生やした女が二人。

バストサイズは99だったか、と要らぬ知識が脳裏を過ぎる。

 

「アーシア」

 

堕天使の3人組、そのリーダー格である女が、俺の腕の中に居る少女の名を呼んだ。

びくりと跳ねるようにその身を震わせた彼女は、果たしてこの時何を思ったのだろうか。

俺は今、何を思っているのだろうか。

 

「あら? ……結構、珍しい神器だったわよね、ソレ」

 

黒髪の女、堕天使レイナーレの視線がこちらへ向いた。

 

「でも、どういうつもりかしら。――人間風情が」

 

俺の手の内から生じた量産型の聖剣が、月よりも星よりも輝いている。

 

女堕天使の両目が歪なまでにつり上がり、威嚇するように翼を広げた。

それを見て、恐怖心と共に喉奥からせり上がってくるものがある。剣を取り出したのは咄嗟の、反射的な行動だった。戦っても勝てる保証が無いのだから、俺の側に敵対の意思は無い。だが、だからと言って腕の中の少女を堕天使に渡せるのか、と問われれば答えが出ない。

 

だって、差し出せば死ぬのだ。

 

もはや古い記憶となりつつあった原作の展開。

アーシア・アルジェントは身の内に宿る神器を摘出されて死に至る。そしてこの世界に、助けてくれる主人公はもう居ない。それ以外の誰かだって、彼女を助ける理由が無い。

ならば自分が、なんて口に出せない癖に。

俺は、剣を構えて堕天使を見上げる。手に握った聖剣が頼りなさげに震えていた。

 

「おれ、は――」

 

腕の中から少女の影がすり抜ける。

そのまま、数歩前に進んで振り返り、こちらに向かって微笑んだ。

 

『――』

 

何を言ったのかは分からない。

ただ、庇われたのだろうという事だけは理解して。

 

ぐげ、と腹の底から苦鳴を吐いた。

 

視界が落ちる。

全身から力が抜けて、取り落とした聖剣が甲高い音を立てるのを聞いた。

何か悲鳴のようなものを聞く。だけど自分がどうなっているのかが分からない。視界の端で、身の内から生えるようにして輝く光の槍を見た気がした。

 

「ちょっとミッテルト、殺してはいないでしょうね」

「えー、大丈夫っすよぅ。レイナーレお姉様ったら心配性~」

「お前がいい加減過ぎるんだろう、ミッテルト」

「……まあ、本命は確保出来たのだから良いけれど」

 

誰かが何かを話している。傍らで、誰かが必死に呼びかけてくる。

覚えのある柔らかな光が身体を包んで、しかしきっと大した意味は無いのだろう、とそう思った。

 

暗い、暗い視界が続いていく。

冷たい石の感触と、暖かな肌の温もり。

ざらざらと鳴る鎖の音と、狂的なほどの熱を持つ多数の息遣い達。

 

「ぐ、ぶっ、ギ、ぃぃいいいいいいいいイイ゛イ゛イ゛――っ!!!!!」

 

胸の中心から何か大切なモノを引きずり出された。

開いた穴から熱という熱、力という力の全てが流れ出す。命の零れる音を確かに聞いた。隣り合う何処かから、少女が叫ぶ声を耳にする。

 

それら全てに、もはや何一つとして意味が無い。

 

ああ。

結局、己は何がしたかったのか。

本当に薄っぺらな人生だった。

どうせ死ぬなら俺は、もっと――。

 

 

 

 

――以下の実績が解除されました

 

○種族【人間】 New !!

◎神器《聖剣創造》を取得(初回限定・単発無料ガチャ) New !!

☆メインキャラクター【兵藤一誠】が死亡 New !!

◎イベントスチル『兵藤一誠の遺影』を取得 New !!

◎イベントスチル『アーシアのおっぱい』を取得 New !!

○イベントスチル『小猫の縞パン(桃)』を取得 New !!

●死因リスト『神器を摘出されて死亡』 New !!

 

 

――以上の成果に伴い、キャラクターの成長が可能です

 

神器のレベルが上昇しました

神器のレベルが上昇しました

ポイントが不足しています

 

 

――好感度処理の引継ぎが行われます

 

△兵藤夫妻の好感度が上昇しました

△塔城小猫の好感度が上昇しました

△アーシア・アルジェントの好感度が上昇しました

△レイナーレの好感度が上昇しました

▼木場祐斗の好感度が低下しました

=フリード・セルゼンの好感度は変動しません

 

セーブポイントへ帰還します……

 

 

 

 

「2年の兵藤が死んだらしいぜ」

 

朝の教室、始業前のほんのひと時。

とあるクラスメイトが声を潜めながら囁いた。

 

「――え?」

 

五月蝿い、という程でもない朝の喧騒。もはや聞き慣れた教室の空気。

俺の驚く声に気を良くしたらしい前の座席のクラスメイトが、交通事故がどうのと何処かで聞いたような話を口にする。

そこそこ見慣れた、男子生徒の顔と声。駒王学園2年の兵藤一誠が死んだらしい事を得意気に語る、その姿。既視感のある情景。既に過ぎ去った筈の、時間だった。

 

何が何だか分からない。

助けを求めるように周囲を見渡せば隣の座席、こちらを見つめる塔城小猫と視線が合った。

縞パン、という雑念が脳裏を過ぎり、口に出す事もなく消えていく。

目を合わせたまま、全身を包む違和感に思考を向ける。が、やはり分からない。

 

アーシアが。神父が。木場祐斗が。堕天使が。順繰りに記憶を辿って、けれど答えなんて何処にも無かった。光の槍が胴を撃ち貫き、己の肺腑を食い潰す。血の色が視界を染め上げた。が、無論それは幻覚だ。己を縛り上げる鎖も、吊るされたように固定する十字架も、身の内から引きずり出された何かも知らない。此処は駒王学園、朝の教室。当然ながら、光も流血も錯覚だ。だけど心臓が強く激しく脈打って、吐き気がこみ上げ呼吸が荒れる。

死んだ。殺された。生きている。だが。

少女の悲鳴が、耳から消えない。

俺は。俺は。俺は――。

 

「う、」

 

絶叫した。




続きは書けなかったので続きません。
以下、設定

 主人公は自分を転生オリ主だと思い込んでいるプレイヤーキャラクター。
二周目発言&原作知識は操作している"誰か"のもの。成長処理も誰かが勝手にやっている(種族:人間なのでクソステを見限って神器特化ビルド)。
後にアーシアとの間に【恋慕】実績を解除。ループを繰り返し過ぎて好感度が上がりまくっていた某クラスメイトが猫の嗅覚で二人の関係(同衾済み)を察知、――生々し過ぎる失恋のせいで病んでしまった塔城さんがなまら凄い事をする話。木場は死ぬ。
 「兵藤が死んだらしい」の台詞以前でSレア実績に沸いた誰かがセーブしたので以後、ストーリーライン上に兵藤一誠は居ない。

☆金トロフィー 3ポイント Super Rare !!
◎銀トロフィー 2ポイント Rare !!
○銅トロフィー 1ポイント Normal
●死因リスト  1ポイント (死因のレア度に関わらず一律1ポイント)

成長処理は5ポイント=1レベルアップ。
 → 神器はレベル10で禁手化予定。通常禁手/攻撃特化/防御特化/特殊型に派生。
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