エターナる短編集   作:ENE

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FGOネタ。
脳味噌ふわっふわなマシュちゃん16歳がFGO第一部をエンディングまで超速で駆け抜ける話。

※Arcadia SS投稿掲示板とマルチ投稿。


ふぁて/ましゅまろ おーだー(原作:Fate/)

どうも皆さんこんにちは。マシュ・キリエライト、16歳です。

知り合いのドルオタ曰く人類の未来をどうこうするらしい謎組織フィニス・カルデアに囲われていた悲劇の乙女たる私だが、――今現在、燃え盛るレイシフトルームにて大っきな瓦礫に半身を押し潰されながら天へと還るその時を待っていた。

 

いたい(物理)。

 

視界は霞み、呼吸は詰まる。肉体の過半が血塗れで、なのに重傷もここまで来ると全く痛みを感じないらしい。

これは不味いですよフォウさん、と声を掛けるがMyソウルフレンドたる白畜生の姿は何処にも無かった。野郎テメエだけ逃げやがったな! と吐き捨てようとしたのだが、本日カルデアに来訪したばかりである普通人の肩の上で寛いでいた姿をふと思い出す。どうにも元より此処へ来てはいなかったらしい。

 

真面目に絶望的な状況下で一人きりという事実に対する悲しみと、種の垣根を越えたマブダチたるフォウさんの無事を喜ぶ二律背反。胸中の葛藤を持て余し、尖らせた唇から真っ赤な水鉄砲をぴゅーぴゅー吹いて指先の震えをどうにか誤魔化す。

最期の最後でボッチENDとは、前世で何か悪い事でもしたのかな、と苦笑を浮かべて瞼が落ちた。

 

だと言うのに、閉じた視界にマシュマシュ呼びかける男の声が。

 

ええい死人の前では静かにしなさい。それに何より――私の方がカルデアでは先達です。

【先輩】と呼びなさいと言ったでしょうが、藤丸立香ッ!!

 

 

 

 

燃え盛る一室から天上の楽土へレイシフト出来ると思っていたのに何故か燃え盛る街の一角で骸骨軍団と戯れる事になったデミ・サーヴァント、マシュ・キリエライトとは私の事だ。

遠い何処かで「助けてあげるからがんばれ♥がんばれ♥(意訳)」とか何とか言われた気もするが、短い我が16年の生涯においても未だかつて無いほど身体の調子が良いので総スルー。あんなの今わの際の幻聴ですよきっと。

 

くるりと回って周囲を確認。

この場に居るのは藤丸立香という名の後輩一号と、カルデア在住の不思議生物フォウさん、そして謎現象によってHPが全回復すると同時にヘソ出し黒鎧+大盾装備に換装した私である。あとなんか、骨。敵である。

全くもって状況が見えない。此処は何処なのか、私の着ているこの鎧は何故おへそが出ているセクシー謎デザインなのか。ちょっとフトモモ出過ぎだし、この格好ドルオタに見られたら怒られる気がするんですけどどうよ。

 

真名ぐらい言ってから消えろやオラァン! と気合一閃、盛大に振り回される大盾が敵残存兵力を全滅させた。

目に見える範囲に敵影無し。人心地ついた所でフォウさんがフォウフォウ鳴きながら飛びついてくる。コラコラお臍を弄っちゃいけません、訴えますよこの淫獣。

 

二度と会えない筈だった友獣との再会にニヤニヤしていると、酷く慌てた様子の藤丸が怪我は大丈夫なのかマシュ! 的な事を今更になって言い出した。

 

先輩と呼べっつったろーが藤丸ゥ!!

 

 

 

 

出来の悪い後輩に軽く説教しつつ情報収集のための散策をしていると、我らカルデアの最高責任者たるオルガマリー所長殿が骸骨の集団と追っ駆けっこしてるのを発見した。

特に意味も無く「此処で会ったが百年目ェ――ッ!!」とかなんとか音調狂った奇声を上げながら大盾をぶん投げると、弧を描きながら空をかっ飛ぶ十字形のシルエットが所長を追い駆けている骸骨達を纏めて残らず粉砕した。木っ端微塵こ、流石の私である。

 

その後しれっと「御無事ですかっ、所長!」みたいな台詞を儚げな美少女面で口にしながらとてとて駆け寄ると、緊張の糸が切れたのだろうオルガマリー所長が盛大に泣き喚き始め、ガクガク震えながらその場を動かなくなった。

ごめんなさいごめんなさいと謝罪の言葉が聞こえてくるが、何を謝っているのだろうかこの人。

錯乱しているのかもしれない、多分さっきのシールドブーメランによる戦闘行動が所長視点では凄く怖かったのだろう。すぐ目の前だったもんね。以前ドルオタが所長の事をビビリだとか言っていたが、これはちょっとばかり派手にやり過ぎたらしい。マシュちゃん反省。

 

しかし困った。涙ながらの絶叫謝罪が延々周囲に響き渡って、このままこの人を放置していると私達の存在を察知した骸骨連中がやって来る。ような気がする。多分。多分ね。

仕方が無いので「先程の行動は全て後輩(マスター)の指示だったんです!」と大嘘ぶっこいて、後は勢いでこの場を誤魔化す。

謎の冤罪を被った藤丸後輩は必死に弁明を始めたが、私ではなく奴相手ならば強気に出られるらしいヘタレ所長が徐々に常の調子を取り戻し始めている事に気付くと、甘んじてそれを受け入れた。ハハハ気の利く奴め。

 

――という具合に和んでいたら、カルデアとの通信が復旧。Dr.ロマンことドルオタから爆破テロやらそれによる死傷者多数やら、割と悲惨な現状が知らされるのであった。

 

 

 

 

所長やドルオタ曰く、この焼け野原となった街では聖杯戦争が行われていたらしい。

死人を引っ張り出してまで殺し合い、勝ち残ったら願いが叶う。件の聖杯とやらは随分と性悪なドラゴンボールであると切に思う。

その結果として街一つが火の海なのだから堪らない。

 

現地での戦争関係者らしいキャスターの兄貴を仲魔にした後、焼けて黒ずんだ土を踏みしめ目的地たるお山を目指す。ちなみにお尻を触られそうになったが藤丸の*を身代わりにしたので今日も私は清い身体だ。

 

さて、お山に向かうその道中、可憐なるデミ・サーヴァントたる なすびちゃん、つまりこの私が話題の中心となっていた。

 

デミ・サーヴァントとは、要するに昔の凄い人の幽霊を憑依合体させた人間の事である。

私ことマシュ・キリエライトちゃん16歳の肉体に降臨した幽霊さんはこの魅惑のマシュマロボディを欲しい儘にする事無く、「がんばれ♥がんばれ♥(意訳)」とか中々にフォウさん的な事をのたまいつつも綺麗さっぱり消滅した。

しかし幽霊の持っていた超すごいパワーだけは私の中に居残っており、そのお陰で先程の骸骨達をサーチ&デストロイ出来たのだ!

 

――というふわっふわな説明に対し、なるほどなー、と馬鹿丸出しで相槌を打つ後輩。本当に分かってるのか不安になる顔してんなコイツ……。

 

あと、話の流れでなんか宝具も使えるようになった。

仮想宝具【疑似展開/人理の礎(ロード・カルデアス)】。名前は所長が付けてくれた。

 

フォウさんを高い高いしながら格好良い名称に大袈裟な仕草で喜びを表す。未だ気持ち的に本調子ではないらしい所長のための御機嫌取りだ。出来れば必殺技はビーム系が良かったなー! かーっ! という心の本音はそっと胸の奥に仕舞っておこう。マシュちゃんは気遣いの出来るデミ・サーヴァントなので。

 

 

 

 

ざんねん! しょちょうの ぼうけんは ここでおわってしまった!

 

 

キャスターが「俺に任せて先に行け!」的な事をキメ顔で言うので、術×弓の一騎討ちを尻目にカルデア三人組でお山の奥へせっせと進んだ終着点、おどろおどろしい気配のど真ん中には真っ黒な女騎士が佇んでいた。

 

それに関してはなんやかんやして勝ったから別にどうでも良いのだが、その後に現れたカルデアの偉い人その2であるレフ・ライノール教授の手によって所長が死んだ。

実はこの町で再会した時点で既に死んでいたらしいのだが、私には急展開過ぎて何が何だか分からなかった。その場に現れたカルデアスに触れると分子レベルで分解されるとか、本気で意味が分からない。わかりたくない。

 

木っ端微塵こ……。と帰還した先、カルデアの自室で一人呟く。

冗談っぽく言ってはみたが、私の口角は微塵も上へと向かってくれない。初レイシフトの際の爆発事故で死に掛けた時にはそれでもしっかり笑えていたのに、今は明かりの点いていない部屋の片隅でしょんぼりするのみ。

 

爆発事故、もといレフ教授による爆破テロによってカルデアに所属している職員の大半は天へと還り、人類の未来をどうこうするための最重要人員たるマスター達も藤丸立香ただ一人を除いて全員が死亡、或いは生命維持のための凍結保存中ときた。

そこに加えてカルデアの外は既に全てが滅んだ後だ、とは教授殿の言である。

 

人類滅亡。

 

文字にしてしまえば在り来たりだが、それを実現する阿呆が実在するとはこのマシュ・キリエライトのそこそこ優秀な頭脳をもってしても想像の埒外の事だった。

何時も通りの寒々しい白天井をそっと見上げて溜息一つ。震えの止まらない己が両肩を抱き締めて、カルデアへの帰還以降未だ眠ったままの後輩を想う。

 

私達の未来はほぼ完全に閉ざされて、唯一の、しかし儚い希望は既にマスター適正を失っている私ではなく、能力の優劣以前に魔術師でさえない一般参加の少年だ。彼が立ち上がらないのなら世界は滅ぶ。しかし現実に抗ったところで本当に未来へと繋げられるかも全く不明。先の特異点で再会したレフ教授の物言いからすれば既に全てが終わっている、らしい。

となると、ああ――。

 

あの後輩は、一体どうするつもりだろうか。

 

 

 

 

とかなんとか考えていたら、当の本人は人類の未来のためにも頑張りマシュ、と普通に言った。

 

噛んだなコイツ。

しかし、やるのか。マジか。ナイーブなマシュちゃんは色々シリアスに悩んだり凹んだりしていたというのに、これが下界産の人間力というものか。後輩の分際で生意気である。でかした。

 

フォウさんを抱えてわしゃわしゃしつつ、ドルオタと後輩、二人のやり取りをじっと眺める。

どうやら人類の希望は未だ潰えていないらしい。やりましたね所長、と相手も居ないのに胸中で小さく呼びかけた。

これから残存するカルデア局員みんなで頑張って、人理とやらを修復し、世界を救うのだ。

 

うん。

 

正直やりたくない。

 

だってそんなの怖いじゃないか。骸骨の集団もそうだがサーヴァントの相手とかもう二度と御免です。だってビーム撃つんだよアイツら。むしろ私が撃ちたい。ビーム。ビームをね。

でもなー、あー、……しょうがないにゃあ。

せっかく出来た後輩が、こうも真っ直ぐに頭を下げて頼んでくるんだもんなー。これは、先輩として絆されてあげないといけない気がする。

 

頑張る。けれど一人じゃ不安だから――、とかたどたどしく言われたら。うん、仕方ない。

このマシュ・キリエライト、自己への信頼にはしっかり応えてみせますとも。なんたって、ほら、私ってば先輩ですから?

 

 

 

 

そうだ。

そうとも。

きっと、応えてみせよう。

それがどんなに恐ろしくとも、――自分を真っ直ぐに信じてくれる誰かのためならば。

 

 

『第三宝具、――展開』

 

 

魔神王による真名の開放と共に、眩い輝きが視界の全てを染め上げた。

文明を焼き尽くす滅びの火。人類が打倒すべき悪性の一つが、たった二つのちっぽけな命を殺すためだけに己が力の一端を解放する。

それを、マシュ・キリエライトは乗り越えねばならない。

何故ならば、それが信頼に応えるという事だからだ。

 

一緒に戦って欲しい、と言われた。

 

己を信じ、頼ってくれた。

今此処に至るまでに、積み重ねてきたものがある。

貰ったものを、同じだけの想いでもって相手に返す。ならばそれこそ、全力で。

 

「顕現せよ――」

 

人理修復なんてやりたくなかった。

戦いなんて真っ平御免だ。痛いのは怖いし、怖いのは大嫌い。今だって指先どころか譲り受けた霊基以外の全身残らず震えが走り、大盾を真っ直ぐ構えただけでも泣きそうなくらいの心的負担を感じている。

今すぐ逃げ出したい。

でも。

 

旅は、楽しかった。

人理焼却。人類滅亡。惑星丸ごと、完全終了の一歩手前。不安なのも、怖いのも、みんな一緒だ。

こんな欠けてばかりの末世の中で、それでも前を向こうとしている誰かが居て、そんな人達と一緒に笑って、一緒に落ち込んで、一緒になって頑張ってきた。

敢えて言おう、とても、とっても、楽しかった。

人類滅亡直前の状況を考えれば不謹慎極まりなく、誰にも聞かせられない酷い感想なのではあるが、それでも、これがマシュ・キリエライトの本音なのだ。

 

あとは、あれだ。

私はいわゆる先輩なのだし、後輩の助けになってやりたいではないか。短い生涯、一度くらいは格好付けて、先輩風、吹かせてみたいじゃないか。

 

そう。

だから。

戦うと決めた。

それが私の誓いである。

 

 

「――【いまは遙か理想の城(ロード・キャメロット)】!!」

 

 

あつい(物理)。

 

これ無理ぃ。

無理です無理です。ほんと熱い。お城でしっかり防いでいるのに全然熱い。敵の宝具の、たった一発が滅茶苦茶重い。どこぞの聖槍とか比較にならないレベルだコレ。

無理無理倒れる砕ける壊れちゃうから。死ぬ、死ぬっ、死ぬぅん!

何が全ての疵、全ての怨恨を癒す、だ! 今まさに私が死にそうだろぉーーがっ!!! 嘘か!

 

正面から受け止めた敵宝具の重みで私の両膝がぶるぶる震えて、盾を支える両腕も物理的な意味で砕け散る寸前。今にも五体四散して流星一条しちゃいそうだ(比喩表現)。

 

ああ、でも、後ろからはマシュマシュ五月蝿い何時かの呼び声が聞こえてくるではないか。

 

――ここで私が折れたら、たった一人の後輩が死んでしまう。

 

ちくしょう。逃げたい、逃げたい、逃げ出したい。でも仕方ない。仕方ないから、がんばる。

気合を入れろ。気分はネットアイドルに恥ずかしげも無く声援を送るDr.ロマンのあの熱意、あの叫び。

気持ちさえあれば、あとはマシュちゃん愛用の対ピクニック宝具がきっと何とかしてくれる。信じているぞギャラなんとか!

 

う。

うおおおお!

カルデアばんざーーい!!!!

 

 

 

 

 

その名を、誰もが耳にした。

 

人理修復の最終局面。カルデア内部へと侵入し今も迫り来る魔神柱達の存在を関知しつつも各々の職務から逃げ出す事無く、最終特異点より遠く離れた此処カルデアの、己の戦場で戦い続ける局員達――地上最後の人類全てが確かに聞いた。

 

魔神王ゲーティアの放つ第三宝具を受け止めたマシュ・キリエライト。彼女の声を。

 

 

「ろぉ、ど」

 

 

か細い声。

震えるそれを、彼女の後ろで護られるしか手の無いマスター藤丸立香も、また聞いた。届く筈の無い声が、彼の鼓膜にそっと触れてくるのを確かに感じた。

 

「かる、で、あ、す……!」

 

それは、何の価値も無い言霊だった。

 

魔神王の撃ち放った圧倒的な熱量を受け止め続ける白亜の城。その壁の表層に、十字を戴く巨大な守護障壁が展開されて、瞬きほどの時間で砕けて消える。

間違いなく、何の足しにもならない一瞬だった。塵芥ほどの減衰も叶わず消えた輝き。だから断言出来る。ソレは、無意味だ。

 

だが。

大盾を構え続けるデミ・サーヴァントの小さな唇が僅かに震えて、また一瞬だけ、障壁が生まれて光帯の熱に溶かされた。

 

――ソレの名前を、藤丸立香は憶えている。

カルデア内にて避難もせぬまま事態を見守るロマニ・アーキマンや、その他全てのカルデア局員達だって一人残らず知っていた。

 

事故同然に辿り着いた最初のレイシフト、特異点Fにおいて今は亡きカルデア所長オルガマリー・アニムスフィアが命名したそれ。宝具の真名を知らないデミ・サーヴァントの力を僅かでも発揮させるために間に合わせ程度で付けられた、本当の真名を知る今では完全に無用と化していた旧い名だ。

 

仮想宝具【疑似展開/人理の礎】。

 

その真名を謳うため、疲弊が極まり、音を零す事すら適わなくなった少女の唇が三度震える。そして四度、五度と更に続いた。

その度に一瞬だけ ちゃちな障壁が生まれて砕け、なのに彼女はまた呟く。音も無く。意味も無く。効果なんて微塵にも満たず。それでも繰り返されては消えていく、薄っぺらなソレが目に映る。

 

何度も。

何度も。

何度でも。

 

絶対に諦めないと、マシュ・キリエライトは言葉に出来ずとも叫んでいた。

 

 

「マシュ――!」

 

暴力的な光の中で、城壁と盾の少女に護られ続ける少年が叫ぶ。

声は届かない。一歩踏み越えれば塵も残さず消滅する今のこの状況下では、戦う彼女の背を支えるために傍へ駆け寄る事さえ叶わなかった。

 

憶えて、いる。

貰った名前を大袈裟なくらいに喜ぶマシュと、そんな彼女のはしゃぎ様に戸惑いながらもついつい口角を上げて頬を緩ませてしまう意地っ張りなオルガマリーの姿を、一年経った今でも藤丸立香は鮮明なままに思い起こせた。

 

この、大事な局面で。

絶望的な状況下で。

他の誰にも代わりの出来ない、盾の宝具の特性上心が折れれば死ぬしかない、頼れる誰もが手を出せない、一人孤独な戦場で。

最期の最後、齢僅か17の未熟な少女が縋ったものは、そんな拙い贈り物だった。

 

激動の一年間の中で何時しか誰もが記憶の中から薄れて忘れかけていた、最初の冒険における些細な一幕。自らの属する集団の名を冠した、小さな思い出の一欠片。

 

呼ばれ、輝き、また砕けた。

彼女が目にした旅路の中で、あらゆる時代、あらゆる人々がそうであったように。そうあろうとしたように。

 

絶望に向き合いながらも未来を目指す、それは正しく人理の礎。冠する真名に恥じぬ、雪花の護り。幾度砕かれようとも決して道を譲らぬ、英霊ギャラハッドではない、人間マシュ・キリエライトの生涯の具現、生命の証だ。

 

宝具――【真名登録/人理の礎(ロード・カルデアス)】。

 

逃れ得ぬ終わりを前にした少女がそれでも信じる、最強の幻想。彼女の旅の終着点。

故にその盾は必ずや未来(マスター)を護るだろう。

 

 

中央管制室にて呆然と立ち尽くすロマニの奥歯が音を立てて欠片を零した。

必死になって己の持ち場にしがみ付くカルデアの局員達が下唇を噛み締めて、その目尻から溢れ出した熱を拭う事も出来ぬまま職務の遂行を優先する。

戦場で戦い続ける数多の英霊、その誰もが彼女の想いを確かに聞いていた。聞きながらも、戦いの激しさばかりが更に更にと増していくのみ。

 

そして静寂が全てを包む。

 

最終戦場、時間神殿。その中心に残されたのは神殿の主たる魔神王ゲーティア。護られ続けた最後のマスター、藤丸立香。最後に、一つ。――担い手を失った大きな十字の盾だけが、微塵の穢れ無く地に突き立ったまま輝いていた。

 

おぼろげに居残っていた障壁の光が主を追うように掻き消えると、もはや其処には盾だけが在る。

音は無い。何も無い。求める人影なんて何処にも見えない。

 

両の目を見開いて、身動ぎ一つせず、藤丸立香は担い手を亡くした大盾の裏地を眺めるだけ。

その大き過ぎる隙を、人類悪は、理解した上で見過ごした。

 

 

『おはようございます地上人。私はマシュ・キリエライト、貴方の先輩です』

 

 

声が聞こえた。

其処に、何時だって立香の隣に居てくれた筈の彼女の、声が。

 

 

『此処にドラゴンスレイヤー佐々木小次郎記念碑を建てましょう、ドクター』

『ふむふむ。この味わい、実にローマです』

『海っ! 海ですよフォウさん! おぉ……、これは実に良い塩水ですね!』

『惑わされないで下さいモードレッド卿っ、大っきい騎士王なんて偽者に決まっています!』

『エジソ、ン……?』

『またアーサー王……。一体何度我々の前に立ち塞がるというのですか……!』

『むーちょ! むーちょ!』

『コラ、ちゃんと先輩と呼びなさい』

『後輩。起きてください、後輩』

 

 

 

『――後輩(マスター)?』

 

 

 

何処かで見た情景。切り替わり続ける視界。

思考が赤熱し、燃え上がるような叫びが奔った。

藤丸立香はその内側を埋め尽くす激情のままに駆け出して、そして――。

 

 

 

 

 

ドルオタの霊圧が……消えた……?

 

何やらふわふわした気分で天へと昇っていく最中、慣れ親しんだゆるふわな気配が潰えたような気がした。遠目に時間神殿を見下ろすと、髪の毛生やしたゲーティアと藤丸後輩が殴り合っているではないか。

何やってんだアイツ。

 

あれ、フォウさんが居る。まさかフォウさんも死んでしまったのか。何、違う? 生き返れる? マジで!? じゃあ――。

 

 

 

 

 

走る。

崩壊を続ける時間神殿、魔術王の残骸が砕け散る最中を必死に駆ける。

 

マシュが死んだ。ロマニが死んだ。全ての元凶たるゲーティアもまた、つい先ほど終わりを迎えた。

だから、生き残った自分はその先に進まなければならない。

進みたい、と魂が言う。生きたい、とずっとそう叫び続けてきたのだ。失くしたもの達の重さは前に進む熱へと変わり、既にして限界を超えた身体をそれでも動かす。

 

なのに、後もう少しが足りなかった。

 

必死に両脚を振り回しても、カルデアに続く道の先には届かない。

届かない、と頭が理解しても心だけはまだ諦められないままで。この意地汚さだけはきっと生来の強さだった。

だから藤丸立香は、無駄だと分かっていてもその手を――。

 

「まだ――、手を、伸ばし――!」

 

声が聞こえた。

居る筈の無い人の声が。ほんの僅か前に消えてしまった、大事な人の、声が!

 

――、ああ……!

 

「藤丸君、手を伸ばして――!」

 

そう、そこには彼にとっての大事な人。

最終宝具を使用して消滅した筈のロマニ・アーキマンの姿が!

 

……。

……。

 

 

!?

 

 

 

 

 

――じゃあ、ドルオタを生き返らせてくれないかなー、って。

 

ついさっき霊圧消えた気がしたからね。生きてるなら別に良いけど。

あっ、ちゃんと死んでる? じゃあお願いしまーす。

私は良いよ、要らないよ。もう人生RTA完走した感あるし。

まあ、ほら、ドルオタには結構お世話になったし。なんだかんだ言って、父性的なアレがね? 違うよ? 単なる役割上の話だよ? いやいや照れてませんし? マシュちゃんはカルデア1のクール・ビューティーですし?

 

うん。

ええ、はい。

じゃあ、お願いしますね、フォウさん。

 

いやー、納得してくれて良かった。無茶苦茶ゴネてたな、あの友獣。ちょっと嬉しいけど。

まあいいや。これでおしまい、全部終わり。

さて。

 

死んだんだから所長の居る所に行けるかな。何処まで昇れば良いんだろ。

盾投げた事、ちゃんと謝らないと。実はこっそり気にしてたんですよ、ホント本当。

 

あっちは多分もう大丈夫でしょ。後輩とかカルデアの人達とか、サーヴァントの人達とかみんな居るし、大丈夫大丈夫。心残りなんてあんまり無い。

ああ、でも、やっぱりちょっとだけ寂し――。

 

 

 

 

 

つるりとした肌の歪な人形同士がぶつかり合い、やがて自分の傍らに立つソレだけがくずおれた。

曳かれるように己の身体も倒れ伏せば、晴れて周囲に転がる土色達の仲間入りだ。

 

男女入り混じるどれもこれもが月海原学園の制服姿。

全身全てを痛みが満たし、このまま揃って無意味に消える。

ああ、それはなんて恐ろしい。

 

恐ろしい、事だ。

だからこそ。まだ、自分は――!

 

閉じかけた瞼を力尽くで抉じ開ければ、ガラスの砕ける音が聞こえた。

 

 

「はじめまして地上人。いえ、月面人? ……うぅむ、まあいいでしょう」

 

 

そして、酷くとぼけた台詞が聞こえた。

 

可憐な声音が、耳朶を擽る。

激痛を供に首を巡らせれば、そこには重厚な色合いの鎧を身に纏う美しい人形、のような――大盾を携える一人の少女が立っていた。

誰だ、と問いかけるだけの力も無い。ただただ続く言葉を耳に入れるだけで精一杯だ。

 

「チワワ並にぷるぷる震える、勇気あるアナタの元に参上しました」

 

違和感ばかりの世界の中で、何もかも分からないまま、それでも自分は戦うと決めた。

 

「サーヴァント:シールダーです。よろしくお願いします、マスター」

 

にこりともせずに力一杯のVサイン。告げられる言葉の意味は分からずとも。

自分の――岸波白野の聖杯戦争は、間違いなく此処から始まったのだ。

 

 

 

 

 

宝具:カルデア万歳(ロード・カルデアス)

ランク:E+

種別:対心宝具

 

聖杯探索(Grand Order)によって磨き抜かれた事で宝具へと昇華されたとある少女の一生、命の証明。

我ら栄えあるフィニス・カルデアの名を謳う限り、彼女の心は決して挫ける事が無い。

 

マシュ・キリエライト決死の痩せ我慢。スキル:信仰の加護とか戦闘続行の類似品。

ギャラなんとかの盾との併用時に限りDランク相当の守護障壁を魔力消費0で無限回張る事が出来るが、盾が無いとド根性で踏ん張るだけの糞宝具と化す。




FGOものを書きたくなったけど七章分の長大なストーリーとか細部端折っても書き切るの無理そうなので大幅ショートカットの術。

最終章でマシュがこちらに手を伸ばしてくれるとても素敵なあのシーン、当作においてはロマンVerに差し替えられております(ゲス顔)。
この後、藤丸くんはアガルタでリヨ化して男の娘スキーになり(マシュ死亡のトラウマ)、ロマンは人として生きる先で何時か生まれる子供にマシュと名付けるかもしれない(トラウマ)。
――なお死んだ当人は善意でやった模様。

この後のEXTRA編を書こうとしたけれど「どうも皆さんこんにちは。マシュ・キリエライト、17歳です(享年)。」という一行目のブラックジョーク以降を書けなかったのでエターです。
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