エターナる短編集   作:ENE

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オーフィスに「力が欲しいか…?」されて小ヴリトラになったオリ主の第二話。
起承転結における承の部分です。


出世魚D×D(原作:ハイスクールD×D) 第二話

――ふわふわしている。

とても暖かくて、ひどく眠い。そして何より己のナニカが空っぽだ。

 

傍らに在る、すごく大きな力の源に全身を絡ませ くるくる鳴いた。

そうすると、そっと頭を撫でられる。撫でられた箇所から流れ込む何かが己の身体をより強く、より大きくしてくれるのを感じたが、今の自分にとって気にするべき事はそれではない。

 

暗い、深淵を覗き込むかのように黒い瞳がこちらを見ている。

くるりと鳴いて、己の頬を摺り寄せた。

黒い何かは互いの頬を合わせるように、その整った顔を寄せてくれ、それが酷く嬉しかった。これが話に聞く『親』というものなのだろう。そう考えて、首を捻った。

 

はて、親とは何だ。話とは、一体誰から聞いたのだろうか。

きゅるきゅると繰り返し鳴きながら頭を悩ませるが、分からない。分からない事が不快だった。

苦しむこちらの頭を撫でて、黒く大きな誰かが言った。

 

「大丈夫」

 

その、たった一言を告げられるだけで、先程まで考えていたあらゆる全てがどうでも良くなる。

悩みの消えた穏やかな心地で、ぐるりと巻き付いて目蓋を下ろした。小さな頭で ものを考えたせいで疲れてしまった。眠ろう。眠って、また目が覚めたら美味しい餌を貰うのだ。傍らに在る大きな大きな――おれの親から。

 

「大丈夫。――我、ちゃんと育てる」

 

抑揚も無く無機質に響いたその声に、わけもなく強く安堵しながら眠りに落ちる。

何も思い出せない自分自身に、違和感の一つも覚えぬままで。

 

 

 

 

「アルビオン」

『む。……オーフィスか、久しいな』

 

とても大きな己の親と、それなりに大きな誰かの、会話する声が耳に届いた。

互いの力の差は歴然で、どこからどう見ても己の親の方が勝って見えた。それが嬉しくてくるくると鳴く。身内が優れているのは嬉しい事だ。何時だって傍に居て温かく、何処だろうと己の腹が空けば手ずから餌を与えてくれる。ずっと自分を見ていてくれる、大切なひと。

 

「アルビオン、彼女は」

『ああ。無限を司るドラゴン。最強の片割れ。無限の龍神オーフィスだ』

「なるほど、君が――」

 

銀色の頭をした誰かが二つの声を発して話す。腹話術だ、と頭の何処かに言葉が浮かぶが、特に興味を惹くようなものではない。何時も通りに親の首元へ巻き付いて、柔らかな肌に身体を摺り寄せ暖を取る。

 

ふと、銀色の誰かがこちらを見ている事に気が付いた。

己の親と比べて然して大きくもないくせに、無遠慮な視線が向けられている。透き通った蒼の瞳が己の有する円らな赤とぶつかった。やんのか、おらー。

 

「首のソレは?」

「ペット」

『ペッ、ト……? オーフィス、それはまさかヴリトラ、ではないな。似てはいるが小さ過ぎる』

「ペット」

 

二人で行う、三色の声での会話を聞き取る。

ヴリトラではない、という言葉に首を捻って。ペット、という単語にくるくる鳴いた。

どうやら己はヴリトラではないらしい。それなりに大きな誰かが言うのだ、嘘ではなかろう。それに親が言うのなら間違いない、己はペット、ペットなのだ。……は、ペット?

己は親の子供であるのに、愛玩動物扱いは納得いかない。くるくるきゅるきゅると盛んに鳴いて、精一杯の異議を申し立てる。

 

首を傾げて己を見下ろす親に対して何度も鳴いて、しかしその手で頭を撫でられただけでどうでも良くなる。いけないと思うが、仕方が無い。頭を撫でられるのは嬉しくて、親の事だって好きなのだ。何時も何時だって己の傍に居てくれる、おれはこの親が大好きだった。

くてっ、と全身から力が抜けた。もうどうでも良いや、と喉を鳴らして頭で擦り寄る。

 

『仮にもドラゴンをペット扱いとはな……。いや、双方ドラゴンの上、力の差を鑑みればおかしくもないが。幼かろうともドラゴンとしての誇りがあるだろう、お前はそれで良いのか小僧?』

 

くるくると鳴いて親の耳元に囁いた。おなかが空いた、の合図だ。

 

大きく頷く親と一緒に、その場を離れて食堂へ向かう。後ろで誰かが五月蝿く言い募っている気もしたが、己はきっと成長期、餌の時間は逃せないのだ。

親と触れ合う箇所から注ぎ込まれる何かを余さず受け取りながら、次は何を食べさせてくれるのかと酷く楽しみな気分で鳴いていた。

 

 

 

 

もむもむと蛇を食みながら、聞くとはなしに話を聞いた。

 

「全部、グレートレッドを倒すため」

「そうだともオーフィス。そのためにこそ貴女の『蛇』が必要なのだ!」

「分かった」

 

銀色頭の誰かよりもずっと小さな力の持ち主が、挙って親から蛇を受け取る。

それを見て、何故だか酷く腹が立った。

 

会話の内容は分からない。グレートレッドも、レーティングゲームとやらにしても、己にとっては知りもしない名前であった。だから、腹が立っているのだとしたらそれは、嗤いながら蛇を受け取る奴等のせいだ。

きゅるきゅると鳴いて火が滾る。よく分からないが、こいつ等は嫌いだ。何時か何処かで見たような、おれが嫌いな誰かのようで。

 

だから、噛み付いてやる。己の呪いを撒き散らし、汚い顔を焼いてやろう。

 

そう考えた俺の首根っこを、親が掴んで何時もの首元へと巻き付けた。

きゅる、と抗議の声を上げる。しかし軽く見上げた己の親は、嗤う男達の事などもはや一瞥さえしなかった。アレはどうでも良い相手なのだ、と。明確に意思を示すまでも無く見て取れた。

 

くるる、と笑う。

小さな相手を気にする必要など無い。教えられるまでも無く、そう学んだ。

未だ口の中に居残っていた蛇の尻尾を呑み込んで、何時も通りに親の素肌に身を寄せる。全身で大好きな相手の体温を感じれば、ただそれだけで汚い全てがどうでも良くなった。

 

「待っていろサーゼクス、これで、貴様を……!」

「逸るなクルゼレイ。気持ちは分かるが、機を逃すわけにはいかない」

 

雑音が己の耳に届いたが、もはや気にするだけの価値は無い。

目指す先も無くふらふらと歩き出した己の親の首元で、綺麗な黒髪に包まれてまどろみながら、腹の内に収まった蛇の力を溶かし尽くして味わっていた。

 

 

 

 

無限の龍神が一人腰掛け、その傍らでは観てさえいない旧型のテレビが音を鳴らしている。

彼女の膝の上にはとぐろを巻いた黒い蛇。蒸発した肉体の欠損を神器に封じられたヴリトラの欠片で補った名称不明な元人間、未だ小さなドラゴンの幼体。

 

すぴすぴと鼻を鳴らして幼龍が眠る。

その周りにはオーフィスの与えた『蛇』の食べ残し。実によく食べ、よく眠る。御陰で生まれ直した直後よりも彼の身体は大きく育っていた。

 

細い指の腹で頭を撫でれば、寝言のようにくるくると鳴く。まるで癖になってしまったかのように、オーフィスは事あるごとに彼の頭を撫でていた。

触れるそこから加護を与え、力を注ぎ、彼女の全てが彼を育てる。

最初に目にした時よりも、鱗の黒が深くなったような気がする。今は閉じている目蓋の奥の、龍の瞳もまた同じ。徐々に徐々に、生まれたばかりの黒龍の雛は、無限の龍神の影響を受けて在るべき形を変え始めていた。

 

結果出来上がるものが何なのか、オーフィスにさえ分からない。

だってこれは、未知の体験。子を為す必要の無い龍神にとって、これほど間近でドラゴンの幼体を目にするなど初めての事で。何かを育てる、という事さえ本当の意味では理解していない。誰かが傍から見ていてくれれば、きっと、子供のままごと遊びと変わらない、と言って彼女を叱ってくれただろう。

彼女なりには丁寧に。しかし実態としては余りに雑で。力ばかりが膨れていった。

それでも確かに成長するのはドラゴンの持つ生来の頑強さと、特殊過ぎる経緯で龍として生まれ直した彼が故。このまま何事も無く時が過ぎれば、やがては成体として完成しよう。

 

幼龍はオーフィスを親と呼ぶ。

思い返すオーフィスは一人、親とは何か、と首を傾げた。問い掛ける相手も、今は眠りの底に居る。起きていたとしても、複雑な思考の出来ぬ今の彼では正しく答える事も出来ないが。

 

幼い彼が頻りに望み、今は付けっ放しのテレビ画面。其処に映るものへと視線を移した。

大きなニシキヘビを首に巻き付けた人間の姿。何時か観た事のあるものだ、とオーフィスは己の記憶に問い正す。

大切な家族(ペット)なんですよーっ、などと笑って首を絞められている芸人枠の何処かの誰か。

――そうだ。だからオーフィスもそう言った。

 

「ペット」

 

ペット。それは首に巻き付く蛇の事。己よりも下にあるものの事。ただそれだけの言葉。特別な意味など何も無い。ペットと親子の違いなど、心幼く無知に等しい龍神にとっては区別の出来ないものだった。

 

ペット、と短く囁いて、膝の上で眠る龍の額をそっと撫でた。

続いて彼が何度も口にした、己に対する呼称を呟く。

 

「親」

 

大きなもの達と、小さなもの。そういった集まり、同族の繋がり。

それは、無限の龍神が持たないものだ。『無』より生じた唯一の存在。並び得るものは夢幻のみ。ゆえに彼女は親など知らず、滅びぬからこそ子など要らない。己が存在する理由さえ分からぬまま、欲と呼べるだけのものは次元の狭間への帰還のみ。

彼女は世の一切を知る事も無く、けれど最強ゆえに何を得ずとも生きてこられた。

手の内にある小さな命も、その気になれば身じろぎ一つで滅ぼせる。

 

「子供」

 

それでも彼女は、ただ意味も無く幼い子龍の身体に触れる。

無垢な瞳に、未だ感情とさえ呼べない小さな揺らぎを宿したままで。ずっとずっと、幼い彼の頭を撫で続けていた。

 

この関係を本当は何と称するべきなのか、無限の少女はまだ知らない。

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