起承転結の結に当たります。
※性転換の描写有り、TS要素に御注意下さい。
「ぎゅーっ」
背後から、俺より幾らか背の高い少女が抱きついてくる。
伝わってくる体温は相も変わらず温かく、自分にとって最も落ち着くものがコレなのだ、と思考するまでもなく理解が出来た。
だがやめろ。
離せ! マ、いやいやオーフィスっ!
「……わかった」
言えば、しょんぼりしながら彼女が離れる。
動き自体は素直だが、従う事には不服があるのだろう、眉尻を下げて実に実に悲しそうだ。
こちらを見る目も潤んでいる、ような気がする。そんな筈は無いのだが、俺にははっきりそう見えるのだ。
やめろォ! そんな目で俺を見るなー! 胸がっ、胸が痛ぃい!!
あ゛ーっ! あ゛ーっ! 畜生ー!
俺が悪かったですぅー! ママ、じゃなくてオーフィスの好きにすれば良いじゃないかよー!
「わかった」
こちらが折れれば、待ってましたとばかりに抱きつき直すオーフィス。
そんな俺達二人の様子を、部屋の隅から兵藤夫妻が微笑ましげに見守っていた。
けどっ、その視線が嫌なんだよ俺は! やめてくれよ! 俺は見た目通りの子供じゃないし、オーフィスの子供では……あるけど、別にそういうあれじゃ無いんだからなー!
言い訳を重ねれば重ねるほど夫妻の「あらあらうふふ」な温かい視線がより強く注がれる。ああ、はずかしい。恥ずかし過ぎて居た堪れない。所謂もみじのような手で真っ赤に染まった顔を覆うと、うーうー唸って縮こまる。
そんな俺を何時かのように己の膝の上へ乗せ、よしよしと
見た目子供と更に下、幼い親子が二人仲良くじゃれ合っている、という風に見えているのだろう、きっと。見た目からすると本来ならば姉妹呼ばわりが妥当であるが、事情を知る者ほどああいう生温かい視線を送ってくるのだ。
――おかしい。こんな筈では。
抱き締められながら今ある現実を疑った。俺はゲロとなって訓練場の露と消えた美味しい御飯達の仇を討つ為、延いては己の尊厳を守る為に、打倒筋肉を掲げて己を鍛える決意した筈。なのに何故、こんな事になっているのだろうか。
いや違う、記憶自体は全てあるのだ。小さな蛇になって甘えに甘えた、羞恥の記憶が一つ残らず。魂を存在の基礎として再誕する際、そこに収められた記憶も全てが復元された。
勝手に暴走して変な生き物に喰われた挙句、何かすごく凄いものを目覚めさせてしまった所まで。全部。俺は確かに憶えているのだ、が。
そこから先は、分からない。
気が付いたら出産していた。されていた。俺達は、晴れて実の親子となったのだ。なんでや。
俺氏、何故か女の子になってたんだけど。今、お揃いのドロワーズ履かされてるんですけど。
おかしい、こんな筈では……ッ!!
小さな御手々を擦り合わせ、一人シリアスに呟いた。すると背後から伸びた俺より大きな少女の両手が、俺のそれを優しく包んで温める。わーい、ままー。
――って、グワーッ!! ママって呼んじゃったァー!! あ゛ー!!!
幼少期の刷り込みとは恐ろしいものだと切に思う。物理的に吹っ飛んで極小化した脳味噌ふわふわ状態の俺にとって、蛇であった時期の印象は強烈過ぎた。御陰で気を抜いた途端にオーフィスの事を母親呼ばわりする始末。俺ってば、もうそんな年じゃないってばよ!
「違う、まだゼロ歳。一番 目を離せない時期」
人間の場合だろソレ!! 俺ドラゴンだよ! 気が付いたら人間じゃなくなってたよ!
今ならあの褐色筋肉をワンパンどころか視線一つで蒸発させられる確信があった。それだけのものを、生まれ直す際に母体であるオーフィスから与えられたのだ。
だがそれは、余りにもやり過ぎだった。俺のせいで、今後ろからぴったり抱き付いている彼女の力がドラゴンとして最弱と呼べるほどまでに弱体化している事を、俺はしっかりと理解している。
喉奥から、きゅるきゅるおかしな音が鳴る。人とは根本的な部分で異なる身体が、己の心を代弁していた。
そこに篭められたものは、悲しみだ。
なのに。
「――大丈夫」
たった一言。それだけで、俺の全身から緊張が抜けてしまった。
ああ、なんて卑怯なドラゴンだろうか。こんなにしっかり躾けられては、もはや何を言う事も出来ないじゃないか。反論に至る情の全てが、彼女の言葉一つで霧散する。
ひどい。本当にひどい母親だ。思わず彼女の胸元に頭を擦り付け、くるくる鳴いてしまうほど。
温かなものに包まれて、おれは何時ものように目蓋を下ろす。
欠けたものなど何もない、無上の幸福を噛み締めながら。
■
「おねーちゃん。りぴーと・あふた・みー」
「や、呼ばねーし。むしろ おばさんだろーが、てめー」
酷く似通った少女が二人、舌足らずなまま言葉を交わす。
その片割れ、オーフィスとほぼ同一の姿で、黒髪をポニーテールに括った少女の名はリリス。
対するのは黒髪の幼児。リリスやオーフィスを五歳児ほどまで小さくすれば出来上がるだろう、未だ名も無き無限の娘。
彼女等二人にオーフィスを加えて、三人揃えば見てくれだけなら仲良し姉妹。文字通りの意味で血の繋がった、オーフィス一家の完成である。
「おねーちゃん」
「よばないぞ」
少女二人の、実に他愛のない言葉の応酬。自分の方が年上だからお姉ちゃんと呼ぶべきだ、などと特に意味も無く偉ぶってみせるリリスと、中身の魂はもっと年を取っている上にオーフィスの妹的存在ならば血縁としての叔母に当たる筈、と言い返す末っ子。
――生まれの経緯を考えるのならば、実はリリスにとって小さな彼女もまた実親に当たるのであるが、それを正確に知る者も今は亡きリゼヴィムくらいしか居なかった。
オーフィス譲りの黒い瞳が陽光の下で時折赤く輝いて見える事を、彼女自身さえ知らないままだ。
生まれた順番が前後逆転している小さな親子は、やがて余計な好奇心に駆られたアザゼルの手によって真実が明かされるその瞬間まで、ずっと姉だ叔母だと言い争い続ける事となる。実は明かされた後にもしつこく続くが、それは完全に余談であった。
「むむむ」
「なにがむむむだ」
痺れを切らして手を出すリリスと抗う末っ子。やがて絡み合ったまま ころころ転がり、二人仲良く無駄に高そうな絨毯の上でまどろみ始めるチビ二人。実に平和な光景だった。
寝息を立て始めた子等を見て取り、ずっと見守っていたオーフィスが彼女等の身体に毛布を掛けた。そのまま傍に寝転がって寝顔を見つめて小さく笑う。
神でなくなった小さな少女が、本当に幸せそうに家族を見ていた。
無限の全てを娘に与え、今の彼女はアーシア・アルジェントの使い魔である蒼雷龍を相手にしてさえ、あと二、三年も経てば勝てなくなってしまうだろう。格を論ずるのならば下も下、余程の子供でなければ同族相手に戦えるだけの力は無い。残って、いない。
既に成長の余地は無く、今の弱さこそが最盛期。そこからずっと、変わらない。
けれどオーフィス自身に悔いは無かった。
己の傍から消えてしまうと感じたあの時、彼女は生まれて初めて恐怖を感じた。己の死などどうでも良い、他者の喪失こそが真に恐ろしいものなのだと思い知った。だからこそ、胎内に取り込んだ死に掛けの彼に、龍神の血肉と力の全てを譲り渡したのだ。
もはや無限の龍神を名乗る事は適わない。その名と力は、既に幼い娘のものだ。
力こそ有れど他の何ものも持っていなかったオーフィスが、だからこそ惜しむ事無く無際限に、有りっ丈のものを与え尽くした。そうするに至った判断基準など、己の感情一つだけ。その愛ある愚行が未来で何を生み出すのかを、きっと彼女は想像だにすらしていない。
娘が生まれて、事は成った。だからオーフィスは満足している。
これでもう、きっと、誰も、自分の大切なこの子を傷付ける事は叶わないのだ、と。
舞台裏で必死になって奔走してくれている元堕天使総督の苦労なんて、ただ弱いだけの母ドラゴンが気にするわけもない。他にも彼女等を守るために動いてくれる誰かは居たが、それら全てを知らないままだ。
今己の目の前で安らかに眠っている我が子と、自分達の血を分けた子供。彼女達が平穏という名の静寂に浸っていられるのならば、それで良い。最弱の立場に堕ちた自身の身に迫るかもしれない未知の危険とて、興味を惹くほどの価値は無かった。
眠る二人の傍らで、オーフィスもまた、目蓋を閉じる。
「大丈夫。――我、ちゃんと育てる」
何時かと同じ、けれどかつて以上の心を篭めて、世界最弱のドラゴンが囁く。
傍らにある二つの寝顔が、本当に幸せそうに緩んで笑う。
この温かな情景が遠く果てまで続くようにと、夢に落ちながら祈りを捧げた。
それを聞き届ける神が居たか否かは、きっと未来で知るだろう。
オリ主が世界最強に至ったので完結です。
御閲覧ありがとうございました。
以下設定。
オリ主
無限を司る、実相世界最強の存在。グレートレッドとサマエル以外には絶対負けない主人公。
人間>小ヴリトラ>無限の龍神(二代目)とクラスチェンジを繰り返したシンデレラ・ボ、もといガール。
襤褸雑巾以下の瀕死状態でオーフィスの中に取り込まれ、龍神としての力と加護の全てを譲り受けたので凄く強い。無限に力が高まり続けている状態なので、早く成長して制御しないとやがて宇宙がパンクする。
気を抜くとオーフィスの事を「まま」と平仮名で呼んでしまう。マザコン。
オーフィス
虚無を司る、ドラゴン界最弱の存在。成体の龍には絶対勝てない。
前話においてサマエルの処理能力を飽和させる無限出力で召喚陣ごと消し飛ばし、余波で絶霧も破壊、しかる後にオリ主を原作主人公の復活劇風の経緯で受胎&出産する。
家族以外では兵藤夫人と最も仲が良い。魂のママ友。
最近の愛読書は各種育児本。親バカの兆しがある。
リリス
混沌を司る、よく分からないけど凄く強いドラゴン。二天龍を同時に相手取っても勝てる。
小ヴリトラの9割と、オーフィスの無限出力攻撃からの吸収分で出来ている。二人の子供(意味浅)。
無限龍を期待していたリゼヴィムからは「こいつ思ったより弱えーな」などと思われており、母親であるリリスの名前を付けて損をした、という事からこっそり嫌われていた。
当人は使った事も無いが、呪いの黒炎が一番得意。家族大好き。