side主人公
待望の新たな第二の人生を歩むことになり一週間が経過していた。
カーテンの隙間から指す光に刺激され六時を告げるアラームより先に目を覚ます。外からは小鳥たちの楽しそうな囀りと、鴉の縄張りを主張する威嚇の鳴き声が聞こえている。
全くの別世界に来たと言うのにやはりごく有り触れた日常は変わらない。
そして、眠い目を擦り枕元の台に置いてあるヘッドホンを取り耳に当て、コードの先にある機械を手に取り操作を行う。流すのは朝を清々しくしてくれるBGM。題名はまったくもって不明だが転生特典の一つなのか、大体念じればそれにあった物が流れてくれる。
今は山を流れる川の音に清々しい風が草木を揺らす優雅な音。聞いてるだけで耳が幸せな音に耳を傾けている。
それと同時に身体の内側から空腹を促す音が自己主張を初め大きな音を出す。「やれやれ仕方が無いな」とベットから立ち上がり適当に転がっている服を拾い上げ、寝巻きから着替える。
部屋をくぎる木製のドアを欠伸をしながら押し開けて出て直ぐに下へと下る階段へ足を向ける。階段を下りながら考えるのはもちろん朝ごはんについてだ。
「目玉焼きに・・・・・・ウィンナーがあったか?となるとパン焼くか」
大体の献立を決め目的地をキッチンへと足を急ぐ。
階段を下りすぐ目の前の扉を開いて中へ入り、テレビやソファーが並べられているシンプルなリビングを尻目に、隣接してある程度の仕切りのあるキッチンへと向かう。
入ってすぐは洗面台にて手を洗い、そこで軽く顔を洗ってから冷蔵庫の中の素材を探す。
卵にウィンナー、キャベツ。調味料としてバターを一切れ取り出し、冷蔵庫の隣にある足場を蹴り飛ばしてガスコンロの前に設置し乗る。
転生を見事果たした俺だったが身長は残念な事にかなり縮み、小学六年生相当の一五〇cmである。そのため、少しばかりガスコンロが遠いので足場に乗っての調理となってしまう。
慣れてしまえばどうと言うことは──
ぐちゃぁ。
「またか・・・だぁくそ!この身体不便すぎるだろ!」
卵を割ろうと人差し指と親指に力を入れた瞬間、中の黄身や白身をぶちまけてしまう。殻を二本の指だけで粉砕してしまったのだ。
卵は基本的に握り潰すことはできない。その理由として割れにくい形状など色々あるが結局のところ与える力が足りないのだ。プロレスラーやボクサーなど日々身体を鍛えてる彼らならば意図も容易く砕くことは出来るだろう。
されど、俺は見た目もそのままの小学六年生である。当然だがこんな芸当出来るやつはまず居ない。いたとしたら飛んだ化け物だ。
これは別に自虐趣味とかではなく、神の与えたこの身体の元となった人物が異常なのであって、俺の力では無いのだ。
「スクランブルエッグに変更だな。チッ、せっかく慣れてきたと思ったんだけどな。未だに六回に一回は割るな・・・はぁ、食べ物は無駄には出来ないな」
当初の予定を変更し目玉焼きからスクランブルエッグにする。既に混ざっている状態なので混ぜる過程を飛ばし、熱したフライパンにバターを投入。溶けるまで待ち、溶けたらすぐさま卵とウィンナーを投入。
そのタイミングで、袋に閉じられた食パン二枚をホットサンドメーカーに差し込む。機械が起動をしているの確認し、卵をかき混ぜる菜箸を手に取りぐちゃぐちゃに混ぜる。無論塩コショウは忘れない。
この世にはケチャップやマヨネーズがいるらしいが俺は断固として認めるつもりはない。塩コショウこそ卵に最も合うシンプルで最強な組み合わせだと信じている。
一分も経たずに火が通りすぐさま火を止め、食器台から平たい白皿を二枚抜き取りそこにスクランブルエッグとウィンナーを乗せる。
パンが焼き上がるのに後数分あるので、先に完成品をキッチンからリビングにあるテーブルへと移し、牛乳のパックと適当に林檎を丸々一つ置く。そこでようやくパンも焼き上がりもう一つの白皿に乗せてやっと全てが終わった。
「ふぅ」ため息一つ吐き、柔らかいソファーへ腰を沈めヘッドホンを首にかけて、テレビの電源をオン。
好みのチャンネルも無いので特にチャンネルは変えずにそのまま垂れ流しにしながら、食事に手をつけていく。
「ん、料理技術は独身生活であるんだけどな・・・なんて言ってもこの身体が辛いな」
例えるならば免許取り立てのペーパードライバーが、いきなりF1などでよく見るスポーツカーに乗り全速力で運転しているようなもの。完全には慣れず時々失敗してしまうが、それでも随分とまともになった方だ。
悪態を付きながらも料理を美味い美味いと朝の占いが終わる前に平らげる。
現在俺の立場はかなり不安定である。戸籍では親戚親族共におらず、親の保険金で多額の富を得たことになっている。
そのため、現住居は一人暮らしには広すぎて未だに数部屋余ってしまっている。その上小学校への編入も決まっていて、どうにかゴネて一週間休んでいたがいい加減それも終わる。
そろそろ本格的に小学校にもう一度通わなければいけないらしい。まぁ【三ノ輪銀】を助けるために近づく事なので辞める訳にも行かない。
と、考えた後にすぐさま小学校へ向かう準備を始める。俺の通っていた小学校では服装は自由だったが、これから通う学校は残念ながら制服が定められている。
「さていくか」
大きく首を回し欠伸をしながら歩道へと飛び出す。
side三ノ輪銀
その日はいつもと変わりのない平凡な朝だった。そういつもと変わらない──
「うぁぁ!!遅刻する!なんでいつも寝坊するかなぁ、私は!!」
白く色々な装飾を施されたランドセルを背負う一人の少女【三ノ輪銀】は慌てて走っている。一昔前の少女漫画のように口には食パンを咥えながら。
私は勇者だ。いや、妄想乙とかではなくて本当に勇者だ。神樹様に選べら三人の内の一人の勇者。
敵はこの世界を破壊する化け物【バーテックス】達がいずれ襲来し倒さねばならない。分かりやすく言えば戦って勝てばいいってことだ。シンプルに勝てばいい、そう考えれば楽なんだけど・・・その勇者が遅刻なんてまずすぎる。まずすぎるよ!
慌てていたせいか曲がり角を確認する作業を怠っていた。そのせいで曲がり角を曲がった直後誰か激突し尻もちをつく。
「いてて、大丈夫か?ごめん、私が前を見てなかった」
「・・・・・・」
「どうかしたのか?」
「あぁいやなんでもねぇ、気にすんな。そんな事よりほら、急いでんだろ行かなくていいのか?」
ぶつかった相手は同い年ぐらいの少年なのだが、何かこちらの顔を見て惚けていた。
その少年なのだが、まるで人形のように顔が整っていてファッション雑誌などでモデルをやっていてもおかしくない。さらに、髪は日本人離れした金髪でかなり似合っている。
服装は小学生だろうに何故か学ランを着ているが様になっているので特に目立った様子はない。
──と、少し見つめあってから気づく。今は学校に遅刻しそうで急いでいたのだと。
少年は無邪気な笑みを見せながら手を差し出してくれるのでありがたく握り、立ち起こしてもらう。年下の弟達の面倒を見てるのでいつもはしている方なので、立ち起こして貰うなど人生において初の経験だった。
いや、落ち着け私。そんな一目惚れとかありえないからな。確かに美形だけども。
弟以外の男の手を握るのもかなり珍しく、意外とゴツゴツしている手に握られているのでドキッとしている。
「あっ、ありがと」
「おう。それと女ならもう少し色気のあるパンツ履いた方がいいと思うぞ。さすがにくまさんパンツはな」
「くまさんじゃないわ!普通に白だからな!・・・・・・あっ」
「なるほどなるほど白か」
前言撤回だ。こんな変態に一目惚れなんてありえない。開口すぐにパンツの話なんてただの変態だ。
握られている手を直ぐに投げ捨て身体を後退させる。
「変態か変態なんだな」
「おいおい、あってばかりのやつに変態って聞くなんてお前かなりやばいぞ」
「はぁ?パンツの話をしてきたのはお前だろ!どう考えても変態じゃんか」
「はぁ・・・やれやれ分かってないな。スカートに隠れたパンツ。絶対に見えないからこそどんな宝が隠せれているのか、想像し妄想をするんだ。
それが蓋を開けたら色気も何も無い白パンツ。それもボクサーパンツタイプ・・・ないわーマジないわー」
男は力説してきた。いかにパンツが素晴らしくスカートが素晴らしいのかと。
変態の話など一分一秒でも聞きたく無かったのだが、今の話の一部分に異様に引っかかってしまう。
「なぁなんで私のパンツの形知ってるんだ?」
「そりゃもちろん見えたからに──」
「この変態がァァァァ!!」
正義の拳は悪を砕いた。
パンツを偶然ながら見てしまったのだから本当に悪かどうかは不明ではあるが、パンツの色を言わせた上デザインの指摘などしてきたのだから悪に違いない。いやもはやあいつが【バーテックス】かもしれない。
まだまだ小学六年生にはトラウマコースまっしぐらな出来事ではあるが、類まれなる鋼の心を持つ銀は顔を恥ずかしさから赤面させるだけに留まっている。
男は顔面に拳をくらい後方へ吹き飛び電柱へと頭をぶつけ目を回している。
ぶつかったのはこちらであり、パンツが見えたのもこちらのせいなので通報だけはしないでおく。それにこれ以上変態に構う時間は残されてはいないのだから。
急いで異様に軽いランドセルを背負い駆け出す。この時にランドセルの中身が入ってないと知れたらどれだけ良かったことか。
「良かった・・・生きてて」
男の横を通り過ぎた時そんな声が聞こえた気がしたが、意味がわからず気の所為だろうと無視して走る。