side三ノ輪銀
朝の出会い頭の変態との遭遇。
鉄拳制裁で事なきを得たが、今日のこの先が心配にほかならない。朝でアレなのだから昼や夜には世界が滅びてしまうのではなかろうか。
と、余計な事を考えながらも身体に染み付いた行動は、ミス一つなく遂行できた。階段を急いで駆け上がり、教室のドアを弾き飛ばす。
「セーフ!」
「アウトですよ三ノ輪さん。もう少し余裕を持って来てください」
「いったぁ!先生いったぁ!」
『アハハハハハ』
先生はもっていた名簿帳で頭を軽く叩く。その事に抗議を試みるも先生にサラッと流されてしまい抗議なりえなかった。
そんないつも通りのやり取りに教室のみんなは爆笑している。別にわざと遅刻した訳じゃないんだけどな。
皆の笑い声を掻き分け進み自分の席へと腰を下ろす。
「おはよう銀ちゃん。なんで今日は遅れたの?」
隣の席の田中さんは小さな声で挨拶をして疑問を投げかけてくる。
「今日は・・・変態にあった」
「え!大丈夫だったの?」
「オーバー過ぎだよ。ちゃんと殴り飛ばしてきたからな」
「えぇぇそれ別の意味で大丈夫なの?」
「問題ない問題ない」
朝起きた事を全て言ってもいいが田中さんには刺激が強すぎると思うので詳しくは語らないが、変態が出たのだと注意はしておく。
そう言えば変態はあのまま放置だったけど大丈夫なのだろうか?別に安否を気にしてるんじゃなくて、ちゃんと捕まってくれたのかどうかについてた。気が動転してて逃げる事しか出来なかった・・・ミスったな。
普通その選択が正解なのだが彼女は自分のミスだと自分を責める。もし、あの変態が捕まらずのうのうとしているとしたら、友達にまで被害が及ぶかもしれない。
今日の帰りちょっくら探してみるかな。と、捜索をしようと決めランドセルを机に置いて何も無い空間に手を突っ込む。
「なぁっ教科書忘れた・・・ほんと今日ツイてないな」
一人肩をガクッと落とし今日一日学校も大変になってきたなと先を思いやる。
「今日日直の人」
「はい」
先生の質問に答えたのは二席隣の須美だ。
成績優秀、品行方正、八方美人。意味はイマイチ分からないけど周りからはよくそう呼ばれている。
それこそ白馬に乗った王子様が助けに行く囚われのお姫様みたいだ。ガサツな私とは正反対だから。昔は憧れた白馬の王子様もこの年になれば諦めもつく。けど、一度ぐらいは助けられたいな。
椅子を少しさげ一人須美は立ち上がる。長くまとめられた髪は立ち上がった衝撃に揺れ、一切の妥協なく整えられているのが分かる。
私は面倒くさくて適当に短くしてゴムでまとめているが、やっぱり女の子と言えば須美みたいなやつの事を言うんだろうな。
そんなことを惚けながら考えていると須美の「起立」の掛け声が入り一人だけ取り残されてしまう。慌てて椅子を弾いて立ち上がる。
「礼」
クラス全員で朝の挨拶を先生に行う。腰から頭まで全てを九五度曲げ、二秒ほどしてからゆっくりと三秒かけて元の体勢に戻す。
そして、身体を一八〇度回転させて神樹様のいるとされる方向に身体を向ける。
「神樹様のおかげで今日も私たちがあります」
クラス全員で神樹様に感謝の言葉を送る。世界消滅の危機を救ってくれたのは神樹様にほかならないのだから。その事を知らない人間などこの世にはいない。
「神棚に礼・・・着席」
教室の隅で。太陽の光の降り注ぐ窓側のてっぺんに付いている神棚に頭を下げてから、席に着く──はずだった。
されど、周りの誰しもが着席しない。いや正確には出来ないといった方がいい。まるで時間が停止したように、座る途中の者、直立したままの者。瞬き一つ息遣い一つない静寂。
この現象もし一般人が巻き込まれたら驚き腰を抜かしてしまうだろう。しかし、動ける者を見ればこの現象の理由が分かる。
驚いてはいるが平然としている須美。
首を傾げているが何が起きたのか理解している園子。
「私達のお役目の時が来たんだ・・・」
須美の呟いた言葉に私達三人は気持ちを切り替え、神樹様のためのお役目を失敗しないようにと覚悟を決める。
side主人公
バーテックス襲来。
勇者の三人が気づく少し前、廊下を呑気に歩く一人の少年は溜息を零していた。
「たく話が長いな。学校の校長はなんでこうも、話が長いのかね。もっと簡潔に纏めるべきだろそこは」
頭の後ろに両手を回しどうどうと転校生が社長出勤している。これを怒るなと言う方がおかしいのだが、俺はそんな事を考える事はしない。どうせ授業に出る気なんてないからだ。
小学校の授業内容なんて腐るほどやった。前世の知識を総動員すれば、満点なんて余裕だ。それなのにわざわざ授業を受けるなんて時間の無駄でしかない。
とは言えだ。鷲尾須美、乃木園子、三ノ輪銀の三人とは今後深く関わる事になる。ならば、無下に扱う訳にもいかずこうやって挨拶に出向こうとしているわけだ。
その後はすぐにでもサボるがな。
「良いよな鳥は空を自由に飛べて・・・・・・ん?鳥が止まってる?」
気晴らしに空を見上げた時、丁度視界に飛び込んだのは空中に停止している鳥だった。
鳥はホバリングと言う能力はあるがそれは羽を使って行う技であって、羽がピクリとも動いていない今の光景は異様に他ならない。
「あぁ今日だったのか・・・しまったな。こりゃ、後手に回ったか・・・・・・まぁいいか、乱入して合流も悪くはねぇだろ」
この現象について俺は事前知識がある。
神樹様が勇者達が戦うフィールドを展開する前の予兆である。こことは別のもう一つの世界へと戦いに行く。
待ちに待った。
神から貰ったこの力、正義でもなく悪でもなく俺の欲望のため使う力。やっとその序章が始まった。
「いいぜ、神樹様よ!さっさと俺を戦わせろや!!」
空に吠える。それが神樹様に向けた言葉ではないのは分かっている。
これから向かうのは命のやり取りをする場所。平和な日本では味わうことの無い死の蔓延した戦場である。
震える身体を鼓舞するために吠えた。イメージ通りに行くのか、想像を超えてくるのか分からない。戦場なんて所に行ったこともないし行く気もない。
けど、銀を救うには行くしかない。地を這ってでも、俺が死んだとしても銀は絶対に救うんだ。
口を歪ませ笑った直後世界は光に包まれた。