僕はドムスカ   作:アイム鯖の者

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第2話

王都での生活にもやっと慣れて来たように思う。この街に着いてはや数年、激動の日々だった。

オークとの間に開かれた戦端は勢いを増してこの国を覆った。僕は鍛治師としてこの街に住むことが許され、そして一緒にヴェロニカと暮らすようになった。

一鍛治師と言っても、村で包丁や鍋程度しか作ってこなかった僕だ。名刀や革新的な装備など作れるはずもなく、いわゆる鉄ランクと呼ばれる武器を作ることが主である。ごく稀に、何かが組み合う感覚とともに銅ランクの武器を作ることができたから、王都で軍属の鍛治師で居られるのだ。今日も今日とて火を起こし、剣を打っていると、工房のドアが開く音と共に、見知った影が忍び込んできた。

 

「ドムスカ〜、いつまでここにこもってるの?もう夜になっちゃうわよ」

 

長い黒髪、整った顔立ち、10代前半になったヴェロニカが、呆れ顔でこちらににじり寄って来ていた。

 

「あぁごめんよヴェロニカ。これが終わったら夕飯にしよう。」

 

しぶしぶと言った様子で引き下がるヴェロニカ。しかし部屋から出ることなく、こちらを見ているのが分かる。

見ていて面白いものでもないだろうに、彼女は時々こうして鍛治の様子を眺めにくる。まぁ、今回はお腹が減りすぎて待ちかねているのかもしれない。そう思って手早く仕上げることを決めた。

 

二人の暮らしは、今は順調である。王都についた当初、たすけてくれた兵士の勧めで、ヴェロニカは孤児院に入れられるはずだった。しかし彼女は応じなかった。当時まだ幼い彼女は、言葉にして拒否を伝える事はしなかったが、僕にしがみ付いて離れなかったのだ。僕は僕で彼女を守ると誓っていたので、空き家を使い、二人での暮らしを始めた。

鍛治道具を揃え、収入が安定し、僕らの暮らしが落ち着いてきたのがやっと最近のことである。ヴェロニカも成長して、今では両親の後を追い魔術を学んでいる。

 

そんな中、戦火も落ち着きだしていた。オーク族を追い返すことに成功したのだ。ただ、侵略の跡は大きく、この国は疲弊していた。そして、刻み付けられた恐怖はこの国のさらなる軍備拡張を促していた。

 

「ドムスカ、また難しい顔してる。ご飯おいしくなくなっちゃうわよ。」

 

こちらを覗き込むようにヴェロニカが見つめて来る。すまないと苦笑いしながら伝え、食事に集中することにした。

 

「そう、聞いてよドムスカ!浮いて移動する魔道具を作ったの!」

 

それはすごい発明なのではないだろうか。

彼女は有り体に言って天才だった。両親に教示された基礎や、見て覚えた魔術の運用、僕が集められる数少ない文献だけで、物凄い成長を続ける。

 

「凄いじゃないか!ヴェロニカは名を残す魔術師になれるな。後で見せてくれよ。」

 

心からの賞賛を送ると、ヴェロニカは顔を綻ばせた。大人びている彼女が、年相応の表情を見せてくれると安心できる。僕は彼女の親代わりになれていると思えるのだ。

 

こうして優しい日々は続いていった。

年を経るごとにヴェロニカが家から出なくなり、研究に没頭する様子は多少の心配を覚えたが、それでも食事は一緒にとってくれるし、何より楽しげに成果を見せる彼女を見ると、何も言えなかった。ヴェロニカの笑顔に僕は弱いのだ。

僕の方も、多少の才能があったようで、鍛治の腕が上がっていった。銀ランクの武器が作れるようになったのだ。とは言っても、作った後は死ぬほど疲れるのだが...。

 

輝かしい日々だった。笑顔に満ちた日々だった。しかしもう戻ってこない。

燻っていた戦火が、再び燃え上がったのだ。

 


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