僕はドムスカ 作:アイム鯖の者
オーク族が侵略を再開したと聞いたのは、初めて作った金ランクの武器を軍に届け出た時だった。
衝撃的なニュースだった。色々と話していたが、耳と脳が言うことを聞かず、内容はほとんど認識出来なかった。ただ、命を削るように作った金ランクの武器を見る将軍の顔が印象的だったことだけを覚えている。
どうにか家に着き、迎えたヴェロニカをきつく抱きしめた。僕は彼女を守らなければならない。その思いだけが頭の中を占めていた。
「ど、どうしたのドムスカ。」
腕の中のヴェロニカが戸惑いながら聞いてくる。
「オークがせめてくるんだ。また戦争が始まる。」
彼女が息を飲むのがわかる。
「怖いんだ。大事なものがまた失われていくと思うと、怖いんだよ。」
声が震える。王都での生活で出来た繋がり、軍の友人たち、それが消えるのではないかと不安にかられる。
オークが迫る記憶が蘇る。奴らの血走った目が、血塗られた武器が、泣き叫ぶ人々が、フラッシュバックする。
「……大丈夫よ〜。ここは王都だもの、ここまでは攻めてこないわ。」
ヴェロニカの手が僕の背中をさする。優しい声で囁いてくれる。
「それに、もし来たとしても今度は私が貴方を守るから。ね?」
安心する。心がやっと落ち着きを取り戻して来た。
「何言ってるんだ。君を守るのは僕の役目だぞ。」
腕を話し、彼女の目を見て伝える。
「有難うヴェロニカ。落ち着いたよ。」
「よかったわ〜。でも、ドムスカが眠るまで抱きしめててあげようかしら?」
「もう大丈夫だ。本当にありがとう。」
軽口を叩けるくらいに、冷静になった。
僕は僕にできることしか出来ないのだ。剣を打とう、盾を作ろう。守れるだけの準備をしよう。
オークとの戦線が再びひらかれてから、しばらくが経った。僕は軍の上役たちに呼び出され、軍部の兵舎へ来ていた。
「ドムスカ君、君の評判は聞いているよ。あぁ口上はいらない、早速本題に入ろう。
君が以前持ってきた金ランクの武器、あれは今回の戦争で役に立っている。非常に良い出来だ。あれをまた作ってくれ。
実を言うと、この戦は不利なものになっている。こちらの準備が整う前に奴らが襲ってきたのだよ。
そこで君の武器だ。奴らは粗暴な輩にお似合いの、粗雑な武器しか持っておらん。今戦線をひっくり返すには人員が足らない、いきなり兵の質が向上する訳でもない、質のいい武器が必要なのだ。
いいかね、週に1つ金ランクの武器を作りたまえ。作り続ければ、銀ランクの武器も数が揃うだろう?出来なければ君は罪に問われる。この戦争でもし負けたなら、君のせいになる。君もそうはなりたくないだろう。」
暴論だと思った。それに不可能な話だ。あの時作れたのはまぐれみたいなもので、それにもし作れたとしても命が削られるほどの疲労が伴う。それを週に1つだなんて、出来るわけがない。
「不可能です。出来るわけがない。」
漏らすようにつぶやく。
「何か勘違いをしているようだが、これは正式な命令だ。君に拒否権はない。」
言いたいだけ言って、将軍は去っていった。
上役に正式な指示書を無理矢理握らされ、一人残された。
不可能だとしてもやるしかないのだと、絶望が僕を襲った。
急ぎ家に帰り、工房で火を起こした。逃げることも考えたが、守りたいものたちが頭に浮かび、結局やるしかないのだと今一度思わされる。やるしかないのだ。僕に選択肢はない。
ひたすらに剣を打った。金ランクが出来るまで休まず打ち続けた。ヴェロニカは指示書を読んだようで、怒りを露わにし、そして僕を心配したが、僕が止まることはなかった。彼女は何度も止めようとしたが、途中から僕を支えるように動いてくれた。食事を運び、水分を飲ませ、体を拭き、その度に僕はすまないとだけ伝えた。
1週目、なんとか金ランクの武器を作ることに成功した。5日目のことだった。それから二日間、僕は死んだように眠った。7日目に兵士が武器を取りに来て、オーク族の侵略が進んでいると聞いた。
ヴェロニカは僕の憔悴した様子を見て目に涙を溜めていた。こんな無理を続けたら死んでしまうと、必死に止められた。僕自身も、身体が万全でないことを感じた。それどころか、いつ倒れてもおかしくないほどに疲弊しきっていたが、それでも続けなければならないのだ。オークが迫ってきているのだから。
2週目、無理に身体を動かしたせいか、途中で何度も意識を飛ばした。それでも必死に金ランクの武器を作り上げた。7日目のことだった。武器を取りに来た兵士に待ってもらって、ようやく完成したのだった。兵士ですら僕の様子を心配していた。
ヴェロニカはより一層献身的になり、僕の世話をしてくれた。得意ではないだろうに、回復の魔術を何度も試してくれた。それでも体調が戻ることはなかった。僕は非才の身である。不相応な成果を出すには命を削るしかないのだと、どこかで感じた。
3週目、不可能だった。起き上がることもままならず、期限に間に合わせる事が出来なかった。兵士も仕方がないと言ってくれたが、嫌な予感がした。
ヴェロニカは寧ろ良かったと言ってくれた。本当に死ぬんじゃないかと心配したと怒られた。僕は心底彼女を愛おしく思った。万感の意を込めて、彼女にありがとうと伝えた。
4週目が始まったその日、将軍が僕の家に兵士を侍らせて入ってきた。指示に従わなかったために拘束すると、それだけ言って僕は拘束された。争う力は残っていなかった。
僕を救おうとしたヴェロニカだったが、なんとかして押しとどめた。
「ヴェロニカ、よく聞いて。僕は絶対帰ってくる。君を守ると誓ったんだ。約束だ、だから待っていておくれ。」
彼女は悲痛な顔をして、僕を掴む手を離した。俯くと、無理やり作った笑顔で、いってらっしゃいと言ってくれた。
「ヴェロニカ、愛しているよ。」
「ドムスカ、待ってるからね。」