僕はドムスカ 作:アイム鯖の者
監獄に入れられ、その中でひたすらに武器を作り続け、どれ程の時間が経ったのだろう。時を忘れるほどに剣を打ち続けた。出来がどうかなんてわからなかった。ただ、意識を落とすたびに水を浴びせかけられ、期限がどうだと言われる。それだけの日々だ。
ヴェロニカはどうしているだろうか、彼女は無事に生活できているだろうか。ご飯は僕の係だった。ちゃんと食べているだろうか。研究ばかりして寝てないのではないだろうか。
頭に浮かぶのは、彼女のことだけだ。
いつか彼女が成人して、好きな誰かを見つけて、結婚して子供を産んで、僕がおじいちゃんと呼ばれる、そんな幸せな日々を願う。もう無理だと知っていても、願わずにはいられなかった。
思えば彼女に救われてばかりの日々だった。初めてあった時、恐怖と不安で押しつぶされそうな僕を、彼女は笑顔で救ってくれた。純粋な声で、大丈夫大丈夫と元気助けてくれた。それで僕はなんとか自分を取り戻した。
二人で暮らすようになっても、彼女がいたから僕は頑張れた。ヴェロニカは僕の生きる意味だった。
どうか神さま、イアルの神さま、彼女に祝福を、良き出会いと良き日々を、どうか、どうか。
家で待つヴェロニカは、ドムスカの無事を祈っていた。ヴェロニカはドムスカが大好きであった。ぎこちない彼の笑みが、彼の作ってくれる料理が、彼の鍛治をする時の瞳が、彼女は大好きであった。彼女が初めて作った魔道具、浮遊して移動するそれに、密かにドムスカと名付けるほどに、彼を思っていた。
コンコンと、ドアがノックされる。ヴェロニカは飛ぶようにドアへ向かい、急いで戸を開けた。そこには一振りの剣を携えた、身に覚えのある兵士が立っていた。
「ヴェロニカさん、ですよね。報告があって参りました。
軍部鍛治師ドムスカ氏が、お亡くなりになられました。」
振り絞るように、兵士は言った。ヴェロニカは呆然とし、その言葉を理解できていないようだった。
「監獄にて鍛治を続け、計8振りの傑作を生み出し、亡くなられました。彼の成果を称え、聖鍛治の称号が与えられます。遺体はこれから兵士たちの墓場に埋葬される予定です。」
未だ呆然とするヴェロニカを置いて、説明は続けられる。
「それと、この剣ですが、彼の最後の一振りです。どうかお納め下さい。」
そういうと、兵士は漆黒の剣をヴェロニカに差し出した。反射的に、彼女はその剣を受け取る。その動作は、鍛治が終わったばかりのドムスカを手伝う動作であったのだ。
失礼しますと兵士は告げ、家を後にした。
ヴェロニカか受け取ったその剣は、紛れもなく彼の作品であるとわかった。そこで漸く、ヴェロニカは彼が死んだのだと理解した。
ヴェロニカは蹲り、悲痛な声で、彼を求め続けるのだった。
戦争が終わった。
今回もオークの侵略を食い止めることが出来たヒューマン領では、喜びの声が上がっていた。数個の村がオーク領になってしまったが、そのことは大事ではないようであった。
戦中、終わりがけに兵士の墓場が荒らされる事件が起こっていたが、それほど話題に上がることもなく、終戦の喜びに紛れていった。
今回の戦では、名剣と呼ばれる、計9振りの武器が大きな力になり、それを準備した将軍は優れた将軍であると賞賛され、褒賞が取らされた。
王都には、平和が戻ったのだった。
侵略された旧ヒューマン領、現オーク領に、1つの不思議な人影がいた。
彼女はヴェロニカ。死人を復活させる術を求める魔術師である。
彼女は浮遊しながら移動する不思議な魔道具に乗り、漆黒の名剣を携え、目的地へと向かっていた。オーク領にいると言われるネクロマンサーを探しているのだ。
「ねぇドムスカ、居心地はどうかしら?」
浮遊する魔道具に向かって、彼女は声をかけた。
「腐らない魔術は、魔道具のドムスカにかけたから、その中では腐らないはずよ〜。ちょっと狭いかもだけど、生き返るまでは我慢してね。」
もちろん返事はない。そこには、魔道具の中には死体しか入っていないのだから。
「貴方が死んじゃって、本当に居なくなって、私は貴方への気持ちに気付いたの。
貴方が大好きよ、愛してるわ。絶対に生き返らせるからね。」
彼女は微笑みながら声をかけ続ける。返事がないのを気にもせず、いやもしかすると彼女には聞こえているのかもしれない。
「それにね〜。私と同じように苦しむ人を救ってあげたいの。大切な人を失って、取り戻したいと願う人を、救ってあげたいのよ。」
彼女の目には、薄暗い決意が浮かんでいた。
「成功したら、褒めてよねドムスカ。」
「ドムスカ、愛してるわよ。」
これにて完結です。