「……どうしてこんなに種類があるの?」
「私が知るわけないだろう」
クレープという食べ物はまさに未知の食べ物だった。
まさか種類だけでも軽く二十種類を超えるだなんて、誰が想像できただろうか。
「ええと……このイチゴの方が良いのかしら? あぁでもバナナの方も……」
「お前がいくら悩もうが構わないが、背後を見るといい。お前のせいで待たされている人間が何人かいるぞ」
「え、あ、ご、ごめんなさい! すぐに決めますから……!」
結局慌てた末に選んだのは、イチゴのクレープだ。
夫もクレープを一つだけ買ったらしいが、何の種類を選んだのかは教えてくれない。
二人で近場の空いているベンチを探す。
流石に立ちながら食べるのは慣れてないない。
それにいくら調子が良いとはいえ、そろそろ身体の方が悲鳴を上げ始めてきたので、何処かで座って休まないといけなかった。
「ふぅ……」
丁度よく二人ほど座れるベンチがあったので、そこにゆっくりと腰を下ろす。
そして溜め込んでいた疲れを、呼吸と共に外に吐き出した。
「疲れたか?」
「少しだけ、でもまだ大丈夫そうよ」
「お前の言う大丈夫という言葉は、既に口癖だという事に気が付いているか?」
「そ、そんな事ないわよ」
うん、多分そうだ。
夫からの視線を避けるように、早速買ったばかりのクレープを口に運んでみる。
「……思ってたほど甘くはないのね。けど美味しいわ」
「そうか、それは良かったな」
この公園でしか売っていないのが惜しいところだ。
せめて家の近くだったのなら、毎日買いに行ったというのに……
「ねぇ綺礼さん、最近噂の電動車椅子っていうの……何処で買えるのかしら?」
「なんだ、そんなものが欲しいのか?」
以前テレビで見かけた事があるのだが、何でも電気で動く車椅子が世の中にはあるらしい。
あれさえあれば、私の活動範囲は大幅に広がる事間違いなしだ。
「探せばすぐ見つかるだろう……しかし、そうか」
「? どうしたの?」
夫はフッと笑って、意地悪そうな顔をして言ってきた。
「私は存外気に入っていたのだがな。クラウディア、お前の乗る車椅子を押しながら二人で出歩くのを」
「え」
思わずそんな声が出た。
「つまり、お前はもう私の手助けは不要ということか。ならば仕方あるまい、少し心残りもあるがすぐに手配しよう」
「え、あ、ちょっと、まって!」
そんなつもりで言ったわけではない。
「なんだ?」
「あぅ……えっと、やっぱりその、これからもいつも通りで良いかなって……」
「何故だ? 欲しかったのではないのか?」
「いや、だからその…………」
「ん? 小さくて聞こえんな。もう少し大きな声を出してくれ」
うぐぐ……本当は分かってるくせに、分かってるくせにやっぱりうちの夫は意地悪な人だ。
「わ、私も! あなたと出掛けるのが楽しいの! だからいつも通りでいいの!」
思っていたよりも声が出た。
恥ずかしい気持ちをできるだけ紛らわそうとしたのか、夫の態度に怒りを覚えたのか、その両方か。
どれにせよ、夫の思惑通りに私は動いてしまったわけだ。
「そうか、ならばいつも通りにしよう」
ほら、予め用意していた台詞をさらりと言う夫は意地悪だ。
まんまと罠にハマってしまった恥ずかしさを忘れるため、残っていたクレープを口の中に押し込んだ。
「どうした、リスの真似事か?」
「うるひゃい! ひれいひゃんのいひわる!」
あーもう……本当に恥ずかしい。
「そういえば綺礼さんは何味買ったの?」
「超激辛ベリーベリーソースクレープだ、食うか?」
「……いらないわ」
……辛いものは苦手だ、うん。